【19年3月期】SGホールディングス 業績好調でも株価が下落する2つの理由

【19年3月期】SGホールディングス 業績好調でも株価が下落する2つの理由

国内の個人向け宅配事業ではヤマト運輸に次ぐシェアを誇るSGホールディングス。利益率が低くなりがちな運輸業界で、高水準の利益率を保っている一方、株価は低迷が続いています。業界を取り巻く環境を踏まえながら、財務諸表をもとに分析していきます。


損益計算書(PL):営業利益率6%超と高水準

SGホールディングスの2019年3月期決算の営業収益は、前期比7.0%増の1兆1180億円で過去最高額を記録。3期連続の増収を達成しました。

営業利益は前期比12.2%増の703億円と、営業収益の伸び率を上回る成長を見せました。それに伴い、営業利益率は同0.3pt増の6.3%となりました。

運輸業界の平均営業利益率は-0.2%(2016年)というデータもあるように、人件費や固定資産の減価償却費などが膨らみ、利益を出しにくい運輸業界です。そのなかで6.3%という営業利益率は非常に高い水準といえるでしょう。

なお、2020年3月期の第2四半期には通期業績予想を上方修正し、営業収益は前期比6.0%増の1兆1850億円、営業利益は同6.6%増の750億円と増収増益を予想しています。

セグメント分析:宅配事業で営業収益の8割超

SGホールディングスの事業は、以下の3つのセグメントとその他事業で構成されています。

  • デリバリー事業:宅配便事業を中心として当社グループの日本全国を網羅するネットワークを駆使した物品輸送サービスを法人顧客中心に提供


  • ロジスティクス事業:流通加工サービス、物流センター・倉庫運営サービス等の3PLや、通関業務受託・フォワーディングサービス等の国際輸送に加え、海外拠点において各地域内での物流業務を担う海外現地物流を提供


  • 不動産事業:物流ソリューション提供のための事業インフラである物流施設を中心に不動産の開発、賃貸、管理等を行う


  • その他:効率的な物流ソリューションを提供するために、輸送に関わる損害保険の代理店事業、トラック燃料の販売、輸送車両の整備・販売、物流システムの開発・運用、宅配便の代金引換サービスの提供、物流施設内の業務受託を中心とした人材の派遣及び業務請負等を各関係会社がグループ内外に提供


営業収益の構成比が最も高いのはデリバリー事業で、全体の80.8%を占めています。次いでロジティクスが11.8%、不動産業が1.5%、その他が5.9%となっています。

出典:SGホールディングス 2019年3月期決算説明会資料

デリバリー事業の成長率は、売上高が前期比13.5%増、セグメント営業利益も同16.6%増えており、主軸事業の成長が会社業績を牽引しています。

セグメント利益率が最も高いのは不動産事業の43.0%で、成長率も高いです。これはSGホールディングスが保有している不動産の継続的な売却を進めているためです。

貸借対照表(BS):短期的な安全性に不安

2019年3月期決算の資産合計は7628億円で、前期比7.3%増でした。流動資産は2982億円で3.9%減となりましたが、固定資産が4646億円と同16.0%増えています。

流動負債は2211億円で前期比13.3%増、固定負債は1523億円で同3.2%減でした。純資産合計は3894億円で同8.7%増えています。有利子負債残高は1314億円で同3.7%減りました。

短期の支払能力を測る流動比率は流動比率は134.9%で、前期比24.1pt減。一般に120%以上であれば安全、100%を下回ると財務安全性に不安があるとされ問題はありません。ただし運輸業界の平均(2017年)の192.5%と比べるとやや低い水準です。

長期の支払能力を測る固定比率は130.6%で、前期比9.1pt増。この指標は低いほどよく、100%を超えると借入によって固定資産を購入していることになります。ただしビジネスにおける固定資産の位置づけが重要な運輸業は業界平均は180%程度といわれており、問題のある水準ではありません。

長期的視点での財務安全性を測る株主資本比率は46.6%で、前期比0.3pt増。業種によっても異なりますが一般に30%で安全とされ、50%以上で優良企業とされますので安定度は高いといえるでしょう。

キャッシュフロー計算書(CF):優良企業型

2019年3月期決算におけるCFは、営業CFがプラス、財務・投資CFがマイナスの「優良企業型」となっています。

財務CF・投資CFは、企業の合併や債券の回収などの単年度的な要因で大きく上下するため、特に大企業において変動が大きいのは一般的といえます。

売上を通じて現金を稼ぐ力を測る営業CFマージンは7.8%で、業界平均並みです。

資本効率分析:1株当たり利益が増加

2019年3月期の親会社株主に帰属する当期純利益は435億円で、前期比20.7%増となりました。これに伴い、EPS(1株当たり利益)が136.9円と同18.5%増えています。

ROE(自己資本利益率)は前期比1.0pt増の12.7%、ROA(総資産利益率)は同0.6pt増の5.9%といずれもやや改善。どちらも高水準を維持しているといえます。

BPS(1株当たり純資産)は1120円で前期比7.9%増。純資産の積み上げが効いています。

配当性向は30.0%で前期比0.9pt増。配当性向は2018年3月期から大きく増えています。

まとめ:株価下落は宅配便の個数減少を懸念?

これまで分析した通り、SGホールディングスの業績は利益やキャッシュフローなどの視点で見ても比較的順調といえるでしょう。しかし、株価は決して好調とは言えず、2020年1月7日には2,363円と昨年初来安値を更新しています。

この背景には、2つの懸念が考えられます。1つが、宅配便扱い量の減少。2019年12月20日に報告された「2019年11月 デリバリー事業の取扱個数実績」によると、飛脚宅配便は対前年4.8%減、その他は同10.0%も減っています。

宅配便の取扱量は増税した10月以来、前年を下回る状況が続いており、これには景気の低迷も関係していると見られることが株価下落に影響していると考えられます。

出典:2019年11月 デリバリー事業の取扱個数実績

2つ目が、来年竣工を予定している江東区の大型物流施設の影響です。来年度決算以降、施設建造に伴う減価償却費の増加により純利益の減少が続くものと見られ、その予想を反映したものとも考えられます。取扱個数の減少が続くと、施設自体が重荷になりねません。

とはいえ、業績自体は好調であり、将来性がどこまで不安視されるかは見極めが必要でしょう。

この記事の執筆者

都内の国立大学に通う大学生です。来年四月の証券アナリスト一次試験合格を目指し、日々勉強しています。専門は企業財務・企業評価です。まだまだ分析不慣れですが、よろしくお願いします。

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