ネットのQ&Aサイトに、こんな質問が載っていました。質問者さんは、就職活動で一番必要といわれる「コミュ力」について尋ねています。
コミュニケーション能力を向上させるのは至難の業。なのに学校には、その取り方を事細かに教えてくれる人はいない。生まれ育った環境にも依存する「コミュ力」を、卒業後の就活でここまで重視するのはおかしい――。そう疑問に思っているのだそうです。
経営者「何を重視して人を選ぼうが勝手です」
確かに、学生時代は何かと成績で序列化され、「大学は学問をするところで就職予備校ではない」とことさらに強調されます。その一方で、多くの企業は採用に当たって大学の成績をまったくと言っていいほど評価しません。
逆に、遊び慣れしたノリのよさみたいな力を重視するとは、何のための4年間だったのか。質問者さんの疑問も理解できますが、意外にも回答者から反対意見の集中砲火を浴びています。
「質問者にコミュ力が欠けていることがわかる良い質問だと思います。生まれ育った環境でコミュ力の高さが変わり、自分にそれが備わっていないなら諦めればいいよ」
「全然面識のない人でも自分から話しかけて、当たって砕けていればそのうち社交的になるんじゃないですか?そんな努力をあなたがしていないから、何時まで経っても今の自分を変えられないんだと思いますよ」
「まあ、アナタが『おかしいと思いま~す』と思うなら、それはそれで良いんじゃない?ただ、社会がコミュニケーション能力を重視するってのは事実。事実ってのは、認めるものであって、疑う意味はないし、疑ったところで、どうにもなんないよ」
会社で人を雇う立場にあるという回答者さんは、自分を含む経営者たちが「何を重要視して人を選ぼうが勝手です」と言い切ります。
「あなた方は能力を提供する方。私たちは提供された能力に対して金を出す方。欲しい能力を持った人間を採用して、その人に金を出すのは当然だと思わないですか?あなたの考えの方がおかしいと思います」
批判者の「理解の浅さ」を指摘する声も
仕事でコミュ力が求められているのだから、それを磨くのは自己責任。環境のせいにするのはおかしいという指摘ですね。他にも批判めいた回答は数多くありますが、本来のコミュ力がないのは回答者側のように見えます。
コミュニケーションの基本は、相手の言うことを正しく理解し、相手が理解しやすいように自分の言いたいことを伝えること。自分が理解したいように曲解し、持論を展開することではありません。
しかしコメント欄は、まるで学校の成績がよかった子を、成績の悪かった子たちが揶揄するような勢いです。別の回答者さんは、批判者たちの理解の浅さを指摘します。
「なんで、みんな質問者を全否定しつつ、本質を答えないんだろう。別に勉強できるできないを一番重要視しろ、って言ってるわけじゃないんですよ。社会でコミュニケーション能力を重要視するなら、なんで学校教育で重要視しないのか、という問題です」
そのうえで、教育の「理想論」について、こう述べています。
「現状で行われているのは、他者を蹴落とすしか能のない人が大量生産されていく教育。本来は、お互いに高め合うべきでしょ。他の生物に比べて知能が高いんだから」
昨今のネット上のふくろだたき現象を見るにつけ、いまの教育が「他者を蹴落とす」人たちを生みだしているという指摘は、説得力があります。
「人間関係が9割」のサラリーマンの未来は
ただ、企業の採用に「コミュ力」が求められる比重は、以前よりもだいぶ減っているのではないでしょうか。その理由は、IT技術の発達によって「文系ホワイトカラー」の仕事が圧縮され、存在感が薄れてきたからです。
インターネットやパソコンが登場する以前は、情報の伝達は対面で行われ、社内外の人間関係を調整する仕事が多くを占めていました。その中で「サラリーマン」の典型的存在であるホワイトカラーが大量採用され、高給を得ていたわけです。
しかし、AIの普及を待つまでもなく、今後はテクノロジーを活用して「創造的なしくみ」を作る仕事の比重が増え、価値が高まるでしょう。米グーグルで会長兼CEOを務めたエリック・シュミット氏は、かつて会社で「感じのいい“潤滑油”のような人材」を採用し続けて失敗したと明かしています。
「彼らは職務と職務の間に入り、物事を潤滑に進める役割は果たすが、彼ら自身は大した価値を生み出さない」
必要なのは、しくみを構想したり、それを組み込める技術を使える人材です。そのとき、「仕事は人間関係が9割」といわれる従来の日本のサラリーマンの、ハイコンテクストなコミュ力は、依然として重視されるのでしょうか?
必要なコミュ力が時代によって移り変わるものである限り、他の科目と同じように教えることは難しいのかもしれません。社会が競争の場であることも事実です。
ただ、最後の回答者さんが指摘するような「お互いに高め合う」ためのコミュ力は、「創造的なしくみ」を生み出すために、今後さらに大事になる気もします。
ネットのお悩み相談をウォッチするコラムニスト。