仮想通貨交換業者のコイン流出騒動などで、金融とITを組み合わせたフィンテックの分野に冷水が浴びせかけられている。これまで緩かった規制の強化も進みそうだ。
ベンチャー企業のずさんな管理体制が露わになった形だが、その一方で、ブロックチェーン技術をはじめとする新しいテクノロジーには依然として期待が大きい。既存のビジネスを根本から変えてしまう分野も出てくることも予想される。
SIer「新しいこと生み出すワクワク感ゼロ」
若手の金融マンおよびIT技術者にとって、フィンテックは将来の成長が期待される分野だ。しかし、まだ怪しげな分野に大手企業がそう簡単に手を出すわけにはいかない。
SIer最大手のNTTデータに勤める20代後半男性は「仕事の面白みはほとんどない」と漏らす。一次請けとして高収益を上げる同社の仕事は、あまりに保守的というのだ。
「クライアントから、古くなったハードの更改やセキュリティレベルの向上のための対応の見積もり依頼が来て、それに対して提案するという流れとなり、新しいことを生み出したり、世の中の仕組みを変えて行くようなワクワク感はゼロです」
クライアントからの引き合いに備え、「フィンテックなどの流行り」に乗ろうともしているが、「結局やっていることはマネジメントだけ」なので限界があると嘆く。
「基本的に受託型ビジネス。勢いのあるベンチャー企業とは何もかも違います」
同社はNTTグループとして、盤石の安定性を誇る。社会インフラを担う会社として、ときには地味な仕事にも取り組まざるをえないだろう。
しかし、それでは物足りない人もいる。同社の40代男性正社員は、出世における年功序列要素は「他のグループ会社と比較して少ない」が、それでも「ミドル層も優秀な人材は転職が目立って」いるというから意外だ。
銀行の「義理・人情・プレゼント」いつまで
保守的な仕事に飽き足らず、新しい分野を求めて若くして転職する人は金融側にもいる。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の営業職として働いていた20代前半の男性は、「会社の風潮として、できる人から辞めていく傾向がある」と明かしている。
「フィンテックや資産運用のロボットアドバイザー、ネット証券などが出てきているこの時代にもかかわらず、新規開拓の方法が昔と変わらず飛び込みやリストを上から下までかけていくやり方が主流のこの会社が、20、30年後に発展しているとは思われない」
従来からの営業手法に対する疑問は、地方銀行や信用金庫で働く若手社員も抱いている。
城南信用金庫で働く30代社員は、これまでは「昭和さながらのGNP(義理・人情・プレゼント)」で優良顧客基盤を維持してきたものの、将来性に期待はできないという。
「フィンテックへの対応や様々なサービスに取り組んでいる、他の金融機関に遅れをとっていくものと思われる。経営陣は具体的な経営戦略を持っていないため、今後は収益力の改善が見られるとは思えない」
地銀行員「ビジネスモデル再構築が必要」
札幌市に本店を置く第二銀行の北洋銀行で、法人営業として働く40代男性は、自行について「地域の企業や個人の金融機関として存在意義はある」と言い切りつつ、従来の地銀のビジネスモデルでは「将来行き詰まる可能性が高くなる」と予想している。
「(投信・保険販売や法人向け手数料などの)役務収益で利益を確保することも難しくなり、フィンテック等の時代の流れを柔軟に取り入れ、地方の金融機関のビジネスモデルを再構築することが急がれる」
しかし、ここまで徹底的な横並びのビジネスをしてきた銀行が、果たして他社を出し抜くような新しいモデルを打ち出し、競争に打ち勝っていくことができるのだろうか。
三井住友銀行に勤める20代後半の男性は「フィンテックやIT化については出遅れている印象あり」としながら、
「よき伝統もあれば悪しき慣習もたくさんあるので、不要なものは一つずつ減らしていくべき」
とする。イノベーションを起こしたければ、まずは学歴主義や年次主義、新卒生え抜き主義のような官僚的な風土を変えていくことが大事になりそうだ。
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