2016年2月の「マイナス金利」開始から3年半。デフレ脱却を目指して導入された異例の政策の影響で、各金融機関の収益性が低下している。
減益をカバーするために、銀行では「投資信託」や「外貨建て保険」を高齢者の個人客に、言葉巧みに売り込むケースが増えているようだ。しかしこれらの金融商品は元本割れのリスクもあり、トラブルとなる場合もある。
理不尽なノルマとプレッシャーに戸惑う20代
入社前は「企業の融資に携わって地元に貢献できる」と夢を膨らませていたが、実際には「個人向け」の投資信託や保険の販売が中心だった――。そんな嘆きが、企業口コミサイト「キャリコネ」には散見される。投稿者の多くは20代だ。
中部地方の地銀に入社した20代男性は、入社後のギャップとして業務内容が予想外だったと不満を漏らしつつ、次のような違和感を述べている。
到底達成できないノルマが課され、毎日上司、先輩から詰められる。最終的には、個人顧客に頼み込むというお願い営業になる。地元に貢献する顧客本位の仕事といわれているが、疑問に思っている。
ノルマとプレッシャーのきつさには、東北地方の地銀に入社した20代女性も苦しんでいる。
とにかくノルマが多い。定期、投資信託、保険、クレジットカード等ノルマがある。個人目標があり、獲得ができないと詰められる。
徹底した年功序列の組織の中で、上司や先輩社員が若手社員に無理な営業活動を強いているようだ。北関東の地銀に入社した男性は、20代前半で退職を決意した。
金融機関の情勢から利益が厳しくなってきており、お願いセールスが増えてきた。投資信託や個人のフリーローンまでも。顧客本位をうたいがなら、実際は銀行の利益を最優先した営業形態に違和感を覚えて退職を決意しました。
ボーナスのために「回転売買」をやめられない
共通するのは「お客様第一」を掲げながら、それとは異なる業務に従事させられる苦痛だ。上記であげた人たちは、入社数年以内でせっかく入った銀行を辞めている。
スローガンと実態のギャップに苦しみ、顧客を犠牲にすると知りつつも、支店の業績や自らの収入を優先する営業をやめない人もいた。特にノルマ達成のプレッシャーがきつくなるのは期末のようだ。大手信託銀行の20代女性は、ホンネをこう漏らす。
支店総出で顧客にリスク商品の回転売買をさせてしまうことがある。結果的にそれで数字を稼ぎ、ボーナス(支給)につながるのだが…。売買のルールなども存在するが、顧客によっては銀行員に任せきりという人も多く、自分の良心は封じ込めなくてはいけない場面が多かった。
書き込みにある「回転売買」とは、顧客にある金融商品を売った後、数ヶ月で解約させ、別の新しい金融商品を売ることを指す。販売するごとに手数料を得るための手段で、顧客のメリットを無視した営業手法である。
ある都市銀行の20代女性は「上司にも仕事にも会社にも今後の展望が持てず」、メンタルを病んで退職したと書き残している。彼女が携わっていた営業の実態は次の通りだ。
手数料重視の販売推進に疑問を持った。表面上ではコンサルティング営業といって研修もするが、本部が進めるのは手数料の高い保険商品や運用商品。高齢者ぐらいしか日中会えないが、(知識の乏しい)高齢者に運用推進するのがいたたまれなくなった。
身内や友人への売り込みのほか「自爆営業」も
大手地銀で20代後半まで働いてきた男性も、「意味のない投資信託の乗換え販売や、お願いして必要のない融資をしたりと、自分の仕事に意味を見いだせなくなった」として退職したという。
理不尽なほど高いノルマと強いプレッシャーは、自腹による商品購入、いわゆる「自爆営業」を強制する。九州地方の地銀に勤めていた20代男性は、「ノルマがきつくなり自爆営業させられるようにもなった」として、職場に見切りをつけた。
毎日なにかしら獲得しなければ、本部から連絡があり、わざわざ本部に呼び出されて説教をされる。今後の将来性や社会への貢献度もあまり感じられなくなったので、退職しました。
身内や友人に頼み込んでノルマを達成している人もいる。これも会社の上司からのパワハラめいたプレッシャーのせいだろう。しかし、その裏には銀行に高収益事業へのシフトを求める金融庁の方針がある。さらに冒頭あげたマイナス金利の影響も大きい。
「オーバーバンキング」(金融機関の過剰)を解消し、業界再編を促すために、行政がプレッシャーをかけている形だが、その歪みは高齢者の個人顧客と若手銀行員を押しつぶしている。この状況を、業界はどう考えるのだろうか。