【財務分析】働き方改革で増収増益のチームスピリット、契約ライセンス数100万目指す

【財務分析】働き方改革で増収増益のチームスピリット、契約ライセンス数100万目指す

チームスピリットは「すべての人を、創造する人に。」というミッションのもと、顧客企業の「働き方改革」を支援するSaaSサービスを事業として展開しています。生産性向上への関心の高まりを追い風に、2019年8月期は増収増益となりました。財務分析をベースにその理由を深堀りしていきます。


株価の推移:ストップ安から回復

チームスピリットが提供する主軸商品は、勤怠管理、工数管理、経費精算、電子稟議といった日々の業務に必要な機能を備え、さらにダッシュボードやタイムレポートによって見える化を実現する働き方改革プラットフォーム「TeamSpirit」のクラウドサービスです。

出典:2019年8月期 決算説明資料

チームスピリッツは2018年8月22日、東京証券取引所マザーズ市場へ新規上場。株価は、2019年7月12日にストップ安を記録しました。

前日の取引終了後に発表された2019年8月期第3四半期決算は前期比大幅増だったものの、通期予想に対する営業利益の進捗率が59%と低かったことから計画の未達懸念があったと見られます。

最終的に2019年8月期決算は、売上高が計画比97.4%、営業利益が同97.0%に終わったものの、営業利益は前期比3.5倍超まで伸長しました。2019年10月11日の通期決算発表を受けて株価は再び下落したものの、現在はストップ安前の水準にまで回復しています。

損益計算書(PL):営業利益は前期比3.5倍に

チームスピリットの2019年8月期決算は、売上高が18億2000万円で前期比47.7%増。前期、前々期はそれぞれ59.4%増、43.1%増であり、順調に増収を続けています。

営業利益は2億4300万円、前期比249.1%増で約3.5倍。営業利益率は13.4%で同7.7pt増でした。ただし前述したように期首計画をわずかに下回っています。

営業利益がこれほどまでに急増した理由は、チームスピリットが手掛けるビジネスの収益構造によるものといえるでしょう。具体的には「限界利益率の高さ」が寄与していますが、これについては後述します。

2020年8月期の計画は、売上高が26億円(前期比42.8%増)、営業利益が2億5000万円(同2.7%増)の増収増益となっています。ただし当期純利益は、将来の成長に向けた積極投資を行うため、同48.9%減の1億1500万円としています。

出典:2019年8月期 決算説明資料

セグメント分析:継続収益型の売上が約85%

チームスピリットの事業は、SaaS事業の単一事業です。SaaSとは「Software as a Service」の略で、提供者側にて稼働しているソフトウェアを、利用者がインターネット経由でサービスとして利用するソフトウェアの提供形態を言います。

契約ライセンス数ごとに、次のようなセグメントに分けて事業を管理しています。

  • GB/EBU:契約ライセンスが500名以上の企業
  • MM:同100~499名の企業
  • SMB:同99名以下の企業

セグメント別の割合は「MM」が最も高く44.8%、次いで「GB/EBU」が37.4%で、この2つを合わせると82.2%に達します。2019年8月期は最もユーザー数の多い「GB/EBU」の伸びが大きくなっています。

出典:2019年8月期 決算説明資料

またチームスピリットは、ソフトウェアの使用に伴う「ライセンス売上」と、コンサルタントによるサポートを行う「プロフェッショナルサービス売上」という売上区分を設けています。

2019年8月期では、ライセンス売上が13.9億円、プロフェッショナルサービス売上が4.3億円と、その大半(76.6%)をライセンス売上が占めています。

また、継続収益型のリカーリングレベニュー(ライセンス売上+プロフェッショナルサービス売上のうちプレミアサポート)は15.4億円で売上高の84.6%を占めており、継続的・安定的な収益を得られる基盤ができていることが分かります。

出典:2019年8月期 決算説明資料

貸借対照表(BS):総資産の約9割が流動資産

総資産は23.4億円で前期比31.9%増。流動資産は20.8億円、固定資産は2.6億円です。

総資産の89.0%を流動資産が占めており、増収に伴い現預金が増加した影響で、流動資産は20.8億円で前期比24.5%増となりました。

負債に関しては、固定負債は長期借入金のみで変動はなく、流動負債は11.1億円で前期比33.9%増。これは増収に伴う繰延収益の増加が主な要因となっています。

なおチームスピリットは、売上高の76.6%を占めるライセンス売上につき年間の契約金額を一括前払いで回収しているため、12ヶ月分の売上高のうち翌年度にかかる分が「繰延収益」として負債に計上されることとなります。

なお、この一括前払いによる現金回収スキームは、キャッシュ・フローに関するリスク低減にもつながっています。

安全性の指標となる流動比率は188.0%。一般に200%以上あれば安定水準といわれていますが、これは棚卸資産の現金化に要する期間を考慮して流動負債の倍が望ましいとされているためです。

しかしチームスピリットにおいては流動資産は現預金が9割を占めており、棚卸資産は保有していません。そのため、流動比率よりも当座資産(流動資産のうち換金性の高い資産)を用いた当座比率を用いて安全性を見たほうがよいでしょう。

当座比率は171.8%。一般に100%以上あれば安定水準といわれており、チームスピリットは安全性が良好といえます。

キャッシュフロー計算書(CF):営業CFは前期比38.4%増

2019年8月期の営業CFは4.0億円で、前期比38.4%の増加となりました。

投資CFは人員増に伴う増床の影響により0.6億円で前期比70.3%の増加。財務CFは新株予約権行使による株式発行収入の影響により0.6億円で前期比86.9%の減少となりました。財務CFの大幅減少は、2018年8月期にIPOを行った影響で財務CFが突出したことが主な原因です。

企業の営業活動による資金獲得の力を示す営業キャッシュ・フローマージンは22.2%。前期比1.5pt減となっているものの、一般的に15%あれば良いとされているので、依然として高い現金獲得能力を有しているといえるでしょう。

投資分析:ROE(自己資本利益率)は22.9%

2019年8月期の親会社株主に帰属する当期純利益は2億2400万円で、前期比146.2%増と大幅に伸長しました。

一方、上場後の新株予約権の行使や株式分割(普通株式1株につき2株の割合)などにより、2019年8月期末の発行済株式総数は前期比で2.13倍に増えています

これに伴い、BPS(1株当たり純資産)は71円と前期比37.1%減と悪化しましたが、EPS(1株当たり利益)は14.3円で同8.9%増となっています。

2020年1月7日の株価2574円をBPS71円で割ると、36.3倍。みんなの株式のランキングの同日時点でのPBR(株価純資産倍率)は36.16倍で東証マザーズ8位となっています。

ROE(自己資本利益率)は22.9%で5.4pt増。一般に8%以上で優等生とされ、サービス業の平均は10.7%なので、かなり高い水準といってよいでしょう。

ROA(総資産利益率)は10.9%で4.2pt増。こちらも業界平均の9.5%を上回っています。

Q.なぜ営業利益の伸び率が非常に高いのか

ここでは、財務分析を通して生じた疑問について深堀りしていきます。

チームスピリットの事業は、SaaS事業の単一事業であり、世界のSaaS事業の標準となりつつある「サブスクリプション型リカーリングレベニューモデル」をとっています。

これのモデルは、使用した期間に応じたサービス料をユーザー人数分のサブスクリプション(定期購読)として課金する継続収益型のビジネスであり、新規の契約数を解約数が上回らない限りは、前年度の収益を確保することができるため、安定性と成長性が同時に見込めるものとなっています。

出典:2019年8月期 決算説明資料

それでは「なぜ売上高の伸び率に比べ営業利益の伸び率が非常に高いのか」。理由は、売上高の74%を占める「ライセンス売上の限界利益率の高さ」によるものです。

管理会計において、売上高から変動費を引いた金額を「限界利益」、限界利益と固定費の金額が一致し損益がゼロになる時点の売上高を「損益分岐点売上高」といいます。

売上高に占める限界利益の割合を「限界利益率」といい、これが高いほど、損益分岐点を超えた後の営業利益の伸び率が高くなりますが、チームスピリットはこの限界利益率が非常に高くなっています。

出典:限界利益とは?関係性が深い損益分岐点と併せて解説(ビジドラ)

チームスピリットの主力商品であるTeamSpiritは、米Salesforce.com, inc.のプラットフォーム上に構築されており、顧客へのライセンス販売数に応じた仕入として、Salesforce.com, inc.に対してプラットフォーム使用料を支払うというスキームとなっています。

決算説明資料によると、チームスピリットにおける変動費はプラットフォーム仕入のみとのことなので、これを変動費として、ライセンス売上に係る限界利益率を見てみます。

出典:2019年8月期 決算説明資料

2019年8月期の有価証券報告書によると、ライセンス売上は、2018年8月期が9.4億円、2019年9月期が13.9億円です。そして売上原価の内訳に占めるプラットフォーム仕入れは、2018年8月期が2.4億円、2019年9月期が3.6億円となっています。

ここから限界利益率を算定すると、2018年8月期が74.2%、2019年9月期が73.9%と、前期に比べ0.3ポイントの減少はあるものの、業界平均の62.6%(TKC調査の「インターネット利用サポート業」を参照)を超える限界利益率が続いています。

また、この高水準の限界利益率に加えて、Salesforce.com, inc.のプラットフォームを用いることによって設備投資や運用投資といった固定費を小さく抑えていることも、営業利益を引き上げる要因となっています。

まとめ:契約ライセンス数100万目指す

前述のように、SaaSビジネスは、新規契約数を解約数が上回らない限りは毎年同等以上の収益を上げ続けることができ、安定性と成長性を確保しています。

その前提で、将来の収益獲得を見込んだ採用や広告宣伝活動を行い、新規契約の確保と解約率低減を図っています。しかし、何らかの理由で解約率が契約数を上回ってしまうと、売上高や利益に影響を与える可能性があります。

出典:2019年8月期 決算説明資料

そのため、チームスピリットにおいては定期的なバージョンアップを行うことで継続率の維持の実現を目指しています。また、既存顧客に対する活用促進として、ファミリー製品の追加購入してもらうなどのクロスセルを行うことで、年間の解約を上回るリカーリングレベニューの実現を図っています。

このように、いかにして「既存顧客の維持」と「新規顧客の獲得」の両輪を行うかが継続的成長の鍵となってきます。

出典:2019年8月期 決算説明資料

決算説明資料によると、2019年8月期末の契約ライセンス数20.8万を2023年8月期末までに約5倍の100万、売上高26億円を約4倍の100億円に伸ばすとしています。

これを実現するために、今後は大手顧客のニーズに応える「次世代プロダクト」を打ち出すこと、チームスピリットの「海外展開」を図ることを掲げています。これがいつ、どのような形で実現するかによって、高い目標が実現するかどうかが決まってくるものとみられます。

この記事の執筆者

SaaS系企業情報を発信していきます。会計・財務分野、IT分野に強み。