【本決算】株価急落のザインエレクトロニクス 新戦略目標は達成できるのか

【本決算】株価急落のザインエレクトロニクス 新戦略目標は達成できるのか

工場を持たない「ファブレス半導体メーカー」のザインエレクトロニクス。アナログ・デジタル混在のミックスドシグナルLSIを自社ブランドで展開し業績を伸ばしています。2019年12月期はM&Aのシナジーを発揮しましたが、2020年12月期は減収減益予想を受けて株価が急落。財務諸表などを基に会社の現状と課題を整理します。


損益計算書(PL):大幅増益もコスト増で低利益。20年12月期予想は減収減益

ザインエレクトロニクスの2019年12月期決算は、売上高が前期比52.2%増の48億8200万円、営業利益は前期の6倍以上の1億9400万円になりました。

しかし、売上原価が前期比75.5%増の22億6900万円に膨らみ、粗利率が同6.2ptの53.5%に悪化。販管費も同28.5%増の24億1900万円とコストの増加率も高くなっており、営業利益率は同3.0pt増の4.0%にとどまっています。

親会社株主に帰属する当期純利益は1億8500万円で、前期比72.9%増えています。

ザインエレクトロニクスは2016~2017年12月期に、当時粗利益の3分の2を占めて主力だったアミューズメント機器向けの半導体がパチンコ・パチスロ業界の新規制導入の影響を受けるなどして、赤字に転落。現在は黒字転換したものの利益率は低いままです。

なお、2020年12月期の業績は、売上高が前期比9.5%減の44億2200万円、営業利益が同96.3%減の700万円、親会社株主に帰属する当期純利益は同87.3%減の2300万円と予想されています。

セグメント分析:M&Aで「AIOT事業」を強化

ザインエレクトロニクスのセグメントは2017年12月期まではLSI事業のみでしたが、2018年12月にIoT/M2M機器やモバイル通信機器を手掛けるキャセイ・トライテックを連結子会社化したことによりAIOT事業セグメントが追加され、今期から売上高と営業利益を開示しています。

  • LSI事業:独自のアナログ設計技術および論理設計技術をもとに、ASSP(特定用途向け標準品)として各種用途向けミックスドシグナルLSIを開発し自社ブランドで販売。また、製品として開発したIP(回路設計資産)をグラフィックスメーカー等にライセンス販売している
  • AIOT事業:キャセイ社とともにAI/IoT/M2M機器やモバイル通信機器のハードウェア・ソフトウェアの開発・製造・販売を行う


2019年12月期の全体売上を押し上げたのは、M&Aにより強化されたAIOT事業です。とはいえ現時点の主力はLSI事業で、売上高の70.0%を占める3416億円(前期比6.5%増)。AIOT事業は残り30.0%の1466億円です。地域別では日本国内の伸びが大きいです。

出典:2019年12月期決算説明資料

LSI事業では、OA機器向け製品の出荷が国内および北米市場向けで減少したものの、認証用や医療用などカメラ・センシング需要での引合いが増加し、アミューズメント機器向け製品の出荷が前期比で大幅に増加しました。

AIOT事業では、通信モジュール製品(LTE/3G)の出荷が前期比で50%増加。GPS見守り端末、AED機器(自動体外式除細動器)、エレベーター監視装置、自販機監視機器、車載端末等への出荷が増加しました。また、パーキングシェアリングサービス(スマートパーキング)のカメラセンサシステム向けの通信ボードも当初計画を上回る出荷となりました。

出典:2019年12月期決算説明資料

貸借対照表(BS):株主資本比率は驚異の9割超。無借金経営

2019年12月期末の資産合計は98億4100万円で前期比7.9%増でした。流動資産は65億2400万円で同2.2%増。これは売掛金の増加によるものです。固定資産は33億1600万円で同21.0%増。主に、キャセイ・トライテックの子会社化に伴うのれんの増加によるものです。

流動負債は6億2000万円で前期比6.5%増。主に、買掛金の増加によるものです。短期の支払能力を測る流動比率は1052.3%で前期比44.4pt増。一般に120%以上であれば安全とされる流動比率ですが、非常に高い水準となっています。これは積極的な研究開発投資やM&Aの機会に備えて内部留保の充実を重視しているためです。

固定負債は1億4200万円で前期比11.8%増。長期の支払能力を測る固定比率は36.6%で前期比4.0pt増。固定比率は低いほどよく、悪化はしていますが安全性に問題のない水準です。

有利子負債残高はゼロで、無借金経営を貫いています。

純資産合計は90億7900万円で前期比7.9%増。主に、その他有価証券評価差額金の増加によるものです。長期的視点での財務安全性を測る株主資本比率は92.1%で前期比0.1pt増。優良企業とされる50%を大きく超えて高い安全性を確保しています。

キャッシュフロー計算書(CF):子会社株式の取得でフリーCFがマイナスに

2019年12月期の営業CFは前期比104.7%増の1億3100万円。主な要因は「税金等調整前当期純利益と売上債権が増加したこと」などです。これに伴い、現金を稼ぐ力を示す営業CFマージンは前期比0.7pt増の2.7%となっています。

投資CFはマイナス1億9000万円で、プラスからマイナスに転じています。主な要因は「キャセイ・トライテック株式会社(現連結子会社)株式の追加取得による支出が増加したこと」などです。

自由に使える手元の現金であるフリーCF(=営業CF+投資CF)はマイナス5900万円。投資CFのマイナス額が増えたことによりプラスからマイナスに大幅減少しています。

財務CFはマイナス9700万円で、マイナス額は前期比1.0%増。配当金の支払い額がやや増えています。

投資分析:ROE・ROA改善も低水準

2019年12月期の親会社株主に帰属する当期純利益は1億8500万円で、前期比72.9%増でした。

これに伴い、ROE(自己資本利益率)は2.1%で同0.9pt増と改善したものの、精密機器の業界平均6.6%を大きく下回っています。ROA(総資産利益率)も2.0%で同0.8pt増と改善したものの、業界平均の5.5%を下回っています。

EPS(1株当たり利益)は17.10円で前期比70.0%増。BPS(1株当たり純資産)は827.31円で、純資産の増加に伴い同7.1%増えています。

配当性向は52.6%。前期比36.9pt減と大きく減少しましたが、上場企業平均の約30%は上回っています。今期の配当金は9.0円で前期から変化なし。2020年12月期も変わらない予定です。

まとめ:新しい戦略目標は達成できるのか?

2019年8月の終わりには株価が749円まで下がりましたが、そこから徐々に上がり、2020年1月には1194円まで上がりました。しかし、2月5日の通期決算発表で2020年の通期予想が大幅減益になると発表されたことを受けて株価が急落しました。

ザインエレクトロニクスは、2020年度から2022年度までの新中期経営戦略「5G&Beyond」を発表。5GおよびBeyond5Gを視野においた戦略5ゴールを設定し、2020年には成長ユースケースでの粗利倍増を目指すとしています。

  1. Beyond5G/8K:Beyond5G技術(300GHz電波活用技術)や8K画像伝送技術等の市場適用による新規の成長ユースケースへの貢献
  2. 5G/AI・IoT Solution:5G無線ブロードバンドルーター、AI&IoTデバイス提供などを通じた、IoTなどのスマート基盤となるデバイス提供による貢献
  3. Mobility:車載カメラ高解像度化など車載ユースケースへの貢献
  4. Hyper Automation:先進的な産業用IoTシステムにおけるコネクティビティ・スマート化への貢献
  5. Medical:医療用カメラの革新への貢献

この戦略では高い目標を掲げていますが、2020年12月期の業績予想は減収減益。営業利益は前期比で96.4%減ると予想しています。特に目標値の「粗利益」は、製品の付加価値が直接問われる部分。当面は積極的な開発投資が欠かせず、営業利益および当期純利益確保の優先順位は下がる可能性があります。

出典:2019年12月期決算説明資料

この記事の執筆者

自動車・IT系が得意。分かりやすい記事を発信できるよう努めます。