2000年9月に設立されたエムスリー株式会社(以下「エムスリー」)。社名は、Medicine(医療)、Media (メディア)、Metamorphosis(変革)という「3つのM」を意味しています。
2021年06月21日
口コミと公開データを元に転職者目線で企業研究。業績と待遇の2つの面で志望企業を掘り下げます。今回取り上げるのは医療ITのパイオニアと呼ぶにふさわしいエムスリーです。
2000年9月に設立されたエムスリー株式会社(以下「エムスリー」)。社名は、Medicine(医療)、Media (メディア)、Metamorphosis(変革)という「3つのM」を意味しています。
インターネットを活用し、健康で楽しく長生きする人を一人でも増やし、不必要な医療コストを徹底的に減らしていく
というミッションのもとに設立されました。
医療IT企業として名高いエムスリーは世界基準の評価も受けており、2017年には米Forbesの「世界で最も革新的な成長企業」で5位に選出されるまでに躍進。時価総額は一時1.6兆円を超えました(2018年9月時点)。革新的な成長をし続けるエムスリーについて、詳しく紹介していきましょう。
エムスリーの強みは圧倒的なメディアパワーにあります。また、積極的なM&A(合併・買収)により着実に規模を拡大してきました。
医療従事者専用サイト「m3.com」は、医療界で働いていれば知らない人はいないと言っても過言ではないプラットフォームです。医療関連の最新ニュースの閲覧や論文・データへのアクセス、会員同士の意見交換などが可能で、会員特典もあります。70万人以上の医療関係者が利用しており、国内医師の約8割を会員として抱えています。
この他社にはない医療界における大規模なネットワークをいかして、マーケティング支援や治験支援、調査サービス、人材紹介サービスなどのビジネスを次々と展開。メディカルプラットフォームサービスでは、利用企業あたりの売上は2019年4月時点で約5億円にのぼり、特にエムスリーの飛躍につながったのが「MR君」というサービスの成功です。MR君を利用することで、製薬会社のMRはインターネット上で医師と簡単にコミュニケーションをとることが可能に。従来の対面での情報提供・営業が当たり前だった医療業界に改革をもたらし、製薬会社の営業コスト削減にも大きく貢献しています。
次に、業績をみていきましょう。エムスリーでは、国際会計基準(IFRS)を適用しています。
下の図に示されているとおり、連結の売上高は2017年度が944億7100万円であったのに対し、2018年度は1130億5900万円。創業以来売上高を伸ばし続け、はじめて1000億円を突破しました。このうち、売上の3割超を「MR君」などのメディカルプラットフォーム事業が占めています。
エムスリー株式会社 「2018年度 連結業績」(『エムスリー株式会社会社説明資料 2019年4月』より)
営業利益(本業の儲け)に関しては、前年比+12%の308億円で着地しました。当初の計画より下回っており、収益力の高さを示す営業利益率は約27%で前年よりやや低下。AI事業への投資や営業チームの強化などによる販売管理費上昇などが影響しています。
次に事業別の業績を見ていきましょう。
コアとなるメディカルプラットフォーム事業では、サービスを多様化・拡大させたことで前年比20%増となりました。顧客は製薬企業だけにとどまらず、医療機器企業の売上も前年の約2倍になっています。
「治験君」などを中心に治験事業を展開するエビデンスソリューション分野では、2017年度に売上が落ちましたが、子会社ノイエスの業績回復などにより、2018年度は堅調に伸びています。
エムスリー株式会社 「エビデンスソリューション業績推移」(『エムスリー株式会社会社説明資料 2019年4月』より)
人材紹介などを行うキャリアソリューションは、売上は前期比26%増、利益は同比34%増と急成長。人材採用による人件費増加もありましたが、転職者数が順調に伸びています。エマージング事業に分類される新規の各ビジネスも成長期に入り、グループ会社の再編成等もあって売上は前期と比べて84%増、利益は同比46%増となっています。
エムスリー株式会社 「エマージング事業群業績推移」(『エムスリー株式会社会社説明資料 2019年4月』より)
では、今後はどのように事業を展開していくのでしょうか。
エムスリーの事業タイプ数は2010年から2018年までで4倍に増え、売上は7倍に拡大してきました。2022年に向けても、積極的なM&Aを展開して成長スピードを維持し続ける戦略です。
2019年度の大きなトピックとして挙げられるのは、LINE社と共同で立ち上げたジョイント・ベンチャー(JV)の本格始動でしょう。2019年1月にLINEヘルスケア(株)という新会社を設立しましたが、同年秋に遠隔健康医療相談サービスのβ版をリリース予定です。短期的には遠隔医療相談のプラットフォーム1位の座を確実なものとし、徐々に統合医療サービスへと拡大。そして将来的には、成長したプラットフォームを活かしてDTC広告(患者に直接訴求する医療用医薬品関連の広告)なども展開していく予定です。
採用面においては、メディカルプラットフォーム事業の拡大にあわせて、積極的な人材確保が行われていくでしょう。
キャリコネに寄せられた給与明細から算出した年代別年収レンジは、20歳代で580〜680万円、30歳代で710〜810万円、40歳代で820〜920万円となっています。中途採用の募集要項をみると、例えば戦略的新規事業のビジネスリーダー(ビジネスディベロップメント)の予定年収は800万~1300万円。高いスキルが求められるポジションはかなり高報酬に設定されています。
口コミでは、
入社時には基本的に前職の給与を引き継ぐ。入社後の大幅な昇給は見込めない。評価を5段階で行うが、この評価は必ずしも給与に反映されているわけではない。また、給与は年俸制で交通費の支給はない。
との声もみられたほか、手当や退職金制度がないことに言及する口コミも複数ありました。それらを考慮したうえで入社する際の年収交渉に入ったほうがよさそうです。なお、賃金形態は、職種によって年俸制のケースもあれば月給制のケースもあります。
また、キャリコネに寄せられた年収明細から、30歳前後の年収をいくつか比較してみました。
・コンサルタント/28歳男性/年収480万円
・クリエイティブ/30歳男性/年収552万円
・広告宣伝/30歳男性/年収780万円
同年代でも年収にはかなりのばらつきがあるようです。
年収口コミ
基本的には前職の年収が引き継がれるため、前職での年収が低い人にとっては…(続きを見る)
具体的な年収額をお知りになりたい場合は、キャリコネの給与明細投稿をご覧ください。
エムスリー社員の給与明細(キャリコネ)
同じ20代でも営業職のほうが年収が高め
20代営業(非管理職)の 給与明細
20代コンサルタント(非管理職)の 給与明細
同じ広告宣伝職でも年代が上がると100万円以上の差
20代広告宣伝(非管理職)の 給与明細
30代広告宣伝(非管理職)の 給与明細
エムスリーの年収について詳しく解説した記事も合わせてお読みください
エムスリーの口コミには働く環境について様々な意見が届いています。その中でも特徴的な点を3つ挙げます。
エムスリーは、会社の規模が大きくなってもなお、常に挑戦を続けています。その根底にあるのはベンチャー精神です。全社員に対して「社長意識」を持つことを求めており、そのような組織を維持するための社内制度も。
例えば、成果をあげた人・チームに対しては月に1回MVP賞の授与を行い、新しいチャレンジによって成果を出した場合には「イノベーション賞」が与えられます。社員のモチベーションを上げるととともに、ナレッジの共有につなげています。
また、新規ビジネスの提案を促進しており、「カンパニー」と呼ばれる社内ベンチャーのような独立組織もあります。それぞれにカンパニープレジデントと呼ばれる人がおり、公式サイトによると、
30代前半の社員がプレジデントを務め、エムスリーの役員と同等の意思決定を行っています。
とのこと。
このように若いうちから経営・組織運営に携われるチャンスがあるのは、大きな魅力でしょう。口コミでは、「仕事ができる人が管理職になる」「正しい意見が通る」といった声も複数みられ、実力があれば性別や年齢等に関係なく、どの社員にもチャンスはありそうです。
次に、福利厚生制度についてみていきましょう。
エムスリーには住宅手当はありませんが、借上社宅制度が設けられています。借上社宅制度とは、企業が不動産業者から賃貸物件を借り入れて社員に貸し出す制度のこと。給与から家賃が引かれるため、所得税が抑えられるというメリットがあります。契約の手続きや家賃の支払い処理の負担も軽減されるでしょう。
キャリコネの口コミでも、
給与から天引きされるため、所得税が抑えられる点がメリット。また、入居時に敷金・礼金が不要な点も好評。
という声がみられました。
その他の福利厚生としては、社員やその家族が病気の際に最適な医療機関を提案してもらえるサービス(M3 Patient Support Program™)や、持株会制度などがあります。
3つ目のポイントとして、教育制度をみていきましょう。エムスリーの中途採用の募集は多岐に渡っており、部署や募集職種に合わせて教育プログラムを用意しているようです。
例えば、データコンサルタントはOJT中心、Webデザイナーは技術に関する社内勉強会や研修、M&Aコンサルタントは会計・税務、医院経営などの教育プログラム、ビジネスプロデューサーは問題解決の手法やクリティカルシンキングなどを含んだカリキュラム……といった具合です。
また、新卒で入った社員より中途入社の社員のほうが圧倒的に多いエムスリーには、前職でさまざまな経験を積んだ優秀な人たちが集まっています。同僚たちからノウハウを学べるため、成長できるという口コミもみられました。
社風口コミ
周りには様々な業界から転職してきた優秀な人が多く…(続きを見る)
では、実際にエムスリーが中途採用で募集している職種についてみてみましょう。大きく「メディカルマーケティング支援事業」「エンジニア」「プラットフォームプロデューサー・ディレクター」の3領域に分けて募集されています。
まず「メディカルマーケティング支援」では、製薬会社等の顧客に対して自社ツールを活用した提案を行い、製品プロモーションのサポートをする「アカウントマネジメント」と「事業責任者候補」を募集。いずれも、高いコミュニケーション能力や営業力、精神的なタフさが求められます。
「エンジニア」は多数のポジションがあり、特にソフトウェアエンジニアで幅広く募集が行われています。いずれも一人ひとりに任される裁量の範囲が広く、プロフェッショナルとしてキャリアアップできる環境です。GitHubなどでソースコードを公開していると歓迎されることもある様子。希望するポジションの要件をあらかじめよくチェックするといいでしょう。
「プラットフォームプロデューサー・ディレクター」は、webサイトの売上、コンバージョン数などの目標をもって課題の分析や施策の立案、開発ディレクションなどを任されます。課題解決のためであれば、ときにはwebにとどまらず幅広い施策を講じていく点が特徴的です。
いずれのポジションも「ベンチャースピリット」が求められ、他のIT企業の同職種に比べて幅広い成長機会が与えられています。
次に、選考プロセスを見ていきましょう。
公式サイトによれば、エンジニア職では、以下のようにwebプログラミングテストを受検したあとに1次~3次面接を受ける流れとなります。
エムスリー株式会社 採用プロセス(「エンジニア採用 選考プロセス」より)
口コミをみると、職種に関わらずSPIテストの受検があるようです。また、面接では
・フェルミ推定(数値を論理的に推論・概算すること)
・ケースインタビュー(仮説を立てて論理的に回答を導き出すこと)
の手法がよくとられるとのこと。例えば、
目的のwebサイトで今より5倍売上を伸ばす方法は何ですか?5つ上げてください
(応募者の)趣味の道具の市場規模は?
という質問をされた人もいます。
それ以外に、
自分の短所を10以上あげてください
といった質問を投げかけられることも。いずれもスピード感よく回答することが求められるため、しっかり対策しておいたほうがいいでしょう。
ここまでさまざまな側面からエムスリーという企業をみてきましたが、エムスリーを転職先としておすすめしたい理由は以下の3点です。
・医師の約8割を会員として抱え、急成長を遂げている「医療界の怪物」
・これまでの常識を覆す、やりがいのある仕事
・実力があれば年齢・性別等に関係なくキャリアアップできるフラットな職場環境
米Forbesの「世界で最も革新的な成長企業」でも5位に選出されたグローバル企業で働けば、世の中への影響力を肌で感じながら存分に成長できるはず。「経営者目線を持ちながら働きたい」「医療業界に変革をもたらしたい」という人は、エムスリーを転職先候補として検討するといいでしょう。
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