【20年2月期】客離れに悩むしまむら 急がれる「自社ECサイトの開設」

【20年2月期】客離れに悩むしまむら 急がれる「自社ECサイトの開設」

ファストファッションのチェーンストアを全国展開するしまむら。多品種少量販売を強みに売上を伸ばしましたが、商品数を絞り込む戦略転換後の近年は客数が減少し続け、20年2月期は3期連続の減収減益となりました。自社ECサイトの開設も遅れ、新型コロナ禍の影響が不安視されます。財務諸表などを基に会社の現状と課題を整理します。


損益計算書(PL):3期連続の減収減益

しまむらの2020年2月期決算は、売上高は前期比4.4%減の5229億円、営業利益は同9.7%減の230億円で減収減益でした。

売上原価は前期比5.3%減の3523億円に抑えましたが、粗利率は同0.7pt減の32.6%。販管費も前期比1.1%減の1476億円まで減らし、営業利益率は同0.3pt減の4.4%にとどまっています。

しかし不採算店舗の減損損失を計上したことにより、親会社株主に帰属する当期純利益は前期比17.9%減の131億円となりました。

なお、2021年2月期の業績予想については、新型コロナウイルス感染症が事業活動及び経営成績に与える影響により、適正かつ合理的な算定が困難であるため決算短信では開示しないとのことです。

セグメント分析:主力の「婦人衣料」「肌着」が振るわず

しまむらは、「ファッションセンターしまむら」をはじめとした衣料品チェーンストアを展開しており、日本全都道府県に店舗を持っています。

かつては、各アパレルメーカーからの仕入れ販売による他品種・少量販売が主で、ユニクロのSPA(製造小売)とは対極のビジネスモデルでしたが、近年はプライベートブランド開発に力を入れて販売する商品数を絞り込む戦略に変更しています。

報告セグメントは「日本」「海外」の地域別セグメントですが、決算資料では店舗系列ごとに事業を説明しています。

  • しまむら事業:20代~50代の主婦とその家族をターゲットとした衣料品の販売
  • アベイル事業:10代~30代の男女をターゲットとした衣料品と靴の販売
  • バースデイ事業:ベビー・子供用品の販売
  • シャンブル事業:20代~40代の女性をターゲットとした雑貨・インテリア・衣料品・服飾雑貨などの販売
  • ディバロ事業: 20代~50代の女性及びその子供と男性をターゲットとした靴の販売
  • 思夢樂事業:台湾において、しまむら事業と同様の衣料品を販売
  • 飾夢楽事業:中国において、しまむら事業と同様の衣料品を販売

出典:第67期(2020年2月期)決算概要

2020年2月期の売上高構成比は、しまむら事業が76.9%の4015億円(前期比5.4%減)、アベイル事業が9.6%の500億円(同1.7%減)、バースデイ事業が10.4%の540億円(同0.1%増)、シャンブル事業が1.9%の98億円(同0.2%増)、ディバロ事業が0.1%の7億円(同5.5%増)、思夢樂事業が1.1%の56億円(同1.0%減)、飾夢楽事業が0.1%の3億円(同36.8%減)となっており、日本の売上が98.8%を占めています。

しまむら事業における製品区分別の売上高は、婦人衣料が32.3%の1299億円(前期比4.4%減)、肌着が24.3%の976億円(同4.9%減)、寝装具が9.7%の390億円(同7.8%減)、紳士衣料が9.3%の373億円(10.8%減)、ベビー・子供服が7.2%の287億円(同7.1%減)、洋品小物が6.9%の277億円(同4.7%減)、インテリアが5.9%の238億円(同2.3%増)、靴が4.4%の175億円(同6.1%減)となっています。

ここ数年の売上高の推移をみると、主力のしまむら事業の売上高は年々下がっており、2016年2月期の4412億円から9.0%減少しています。

製品区分別に見ると、婦人衣料が2016年2月期から8.2%減、肌着が10.3%減と、主力製品が大きく減少しています。特に、2018年2月期から2019年2月期にかけては、大量に売れるものを増やすために大幅に商品数を減らした影響や、暖冬、値引きセールなどにより、大きく落ち込んでいます。

セグメント利益は、日本が235億円(前期比10.2%減)、海外が5億円の赤字(前期は7億円の赤字)となっており、ここ数年は、海外では赤字続き、日本も減少傾向にあります。

出典:第67期(2020年2月期)決算概要

キャッシュフロー計算書(CF):投資支出減少でフリーCFがプラスに

2020年2月期の営業CFは前期比47.8%増の228億円でした。税金等調整前当期純利益は36億2700万円減少していますが、減損損失が増えたほか、仕入債務とその他の流動負債の増加、たな卸資産の減少、法人税等の支払額の減少などにより営業CFは増えています。

これに伴い、売上を通じて現金を稼ぐ力を測る営業CFマージンも同1.6pt増の4.4%に改善しています。

投資CFはプラス137億円で、前期のマイナス158億円からプラスに転じました。これは主に、有価証券の取得、有形固定資産の取得、差入保証金の差入などによる支出が減少したためです。

フリーCFは365億円で、前期のマイナス3億7300万円からプラスに。営業CFの増加と投資CFがプラスに転じたことにより増えており、資金に余裕がある状態となっています。

財務CFはマイナス66億円で、マイナス額は前期比27.4%減です。主に、配当金の支払額が減少したためです。

貸借対照表(BS):財務安定性は盤石

2020年2月期末の資産合計は前期比2.7%増の4080億円。流動資産は同6.8%増の2401億円、固定資産は同2.8%減の1679億円です。

流動資産の増加は、有価証券、現金及び預金、売掛金などの増加によるもの、固定資産の減少は、建物及び構築物などの有形固定資産や差入保証金などの減少によるものです。

流動負債は前期比10.1%増の372億円。主に、その他の流動負債や未払法人税等が増えたためです。固定負債は同7.0%増の49億円です。純資産合計は同1.9%増の3659億円でした。

短期の支払能力を測る流動比率は前期比19.8pt減の646.2%。一般に120%以上であれば安全とされ、悪化はしているものの非常に高い水準で安全性に問題はありません。

長期の支払能力を測る固定比率は前期比2.2pt減の45.9%。固定比率は低いほどよく、100%を下回っているため安全性に問題はありません。

長期的視点での財務安全性を測る株主資本比率は前期比0.7pt減の89.7%。株主資本比率は、業種によっても異なりますが一般に50%以上で優良企業とされ、非常に高い水準で財務安全性は盤石といえます。

投資分析:ROE・ROAは業界平均に満たず

2020年2月期の親会社株主に帰属する当期純利益は前期比17.9%減の131億円でした。これに伴い、ROE(自己資本利益率)は同0.9pt減の3.6%、ROA(総資産利益率)も同0.8pt減の3.3%に悪化。小売業の平均(ROE5.2%、ROA6.1%)を大きく下回っています。

同じアパレル業界をみると、ジーンズのライトオンやマックハウス、イオングループのコックスなど、最終赤字を出してROE・ROAが大幅マイナスの企業も少なくありません。

その一方で、ユニクロを展開するファーストリテイリング(ROE18.1%、ROA8.2%)やカジュアル婦人服のハニーズホールディングス(ROE10.1%、ROA8.2%)、グローバルワークやローリーズファームを展開するアダストリア(ROE7.5%、ROA4.3%)などは、しまむらを上回っています。

EPS(1株当たり利益)は前期比17.9%減の357.15円。BPS(1株当たり純資産)は純資産の増加により前期比1.9%増の9956.38円となっています。

配当性向は前期比1.0pt増の56.0%で、上場企業平均の約30%を上回っています。今期の配当金は、前期と同じ年200.0円(中間配当100.0円、期末配当100.0円)で、2021年2月期の配当額は未定となっています。

まとめ:20年秋に「自社ECサイトの開設」では遅かった?

しまむらの株価は、2019年12月の終わり頃、既存店売上高の減少や業績予想の下方修正により急落。その後は横ばいが続いた後、一時上昇し2020年2月6日に8400円をつけました。

2月後半からは、新型コロナウイルス肺炎による世界同時株安の影響で株価は下がり、3月13日には6280円の安値に。その後回復したものの、3月30日の決算を受けて再び急落。4月2日には5530円の安値をつけ年初来安値を更新しました。現在は6400円台まで反発しています。

しまむらは収益性を高めるために、数期前から商品数を絞り込み大量販売する戦略に切り替えています。しかし、これが功を奏していないようです。

客数は2018年2月期の1億6994万人をピークに、翌期は1億6631万人、2020年2月期には1億5669万人にまで減りました。客単価も2017年2月期の2687円から、2017年2月期には2563円に減少しています。

出典:第67期(2020年2月期)決算概要

これに新型コロナウイルス感染症の問題が追討ちをかけることは確実です。4月4日からは感染者が出たため千葉県内の店舗が休業。4月8日からの「緊急事態宣言」で、しまむら、アベイルなど首都圏・兵庫県15店が臨時休業しています。

客数減をカバーする頼みの綱はネット通販となりますが、しまむらは過去に「ZOZOTOWN」に出店しものの、出店コストの高さを理由に1年足らずで退店しています。

しかし、市場における販売チャネルの多様化に対応するため、2020年秋に「自社ECサイト」の開設を予定しているとのこと。商品を取り置きできるアプリ「しまコレ」が2019年1月にスタートしており、これらによってEC事業を強化する方針です。

外出自粛や在宅勤務などにより、アパレル企業のECは今後伸びる可能性が残されています。しかししまむらの場合は、この流れに大きく乗り遅れてしまったといえるかもしれません。

しまむらが20年秋に自社ECを本格スタート 歯止めのきかない客数減にくさびを打ち込めるか? | WWD JAPAN.comIcon outbound

https://www.wwdjapan.com/articles/1065340

しまむらは、2020年秋にEC事業を本格開始する。スマホアプリ「しまむらアプリ」にウェブ決済や自宅配送機能を追加する。これまで、商品取り寄せアプリの「しまコレ」で商品の店頭への取り寄せ、店頭支払いを行ってきたが、「『しまコレ』の延長ではなく、異なるシステムでECを本格化する。EC販売と同時に、ECをきっかけとした来店客数増も目指す」(鈴木誠社長)。

この記事の執筆者

自動車・IT系が得意。分かりやすい記事を発信できるよう努めます。

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