デンソーは総合自動車部品メーカー。パワトレイン機器(各種センサ、ECU、燃料噴射装置、点火装置、噴射ポンプ、コモンレールシステム)をはじめ、メータや走行安全製品などを幅広く手がけています。特にカーエアコンのシェアはトップクラス。トヨタ自動車との関係が強く、トヨタの持分法適用会社となっています。
2019年11月7日現在の株価
損益計算書(PL):売上は伸びているがコストも上がり利益率減
デンソーの2019年3月期の売上高は5兆3627億円で、前期比5.0%増の増収となったものの営業利益は同23.4%減の3161億円と大きく減少しました。
売上原価は前期比6.5%増で、粗利率は同1.2ptの悪化。販管費は同16.7%増とコストも上がっています。
決算短信によると、欧州及び中国で市場の減速感があったが、グローバルな車両生産の増加や拡販、2017年11月のデンソーテン子会社化の影響などにより、売上は増加。
一方、営業利益は将来の成長領域への投資の加速や、2018年度に発生した一過性の収益がなくなったことによる影響、当第4四半期連結会計期間での品質費用の引き当てなどにより減益となりました。
前期比で965億円減という大きな減益幅については、一過性の収益261億円と一過性の減益397億円(品質引当330億円と韓国拠点の事業減損67億円)を除いた実力値で考えると307億円の減益幅になるとしています。
セグメント分析:予防安全製品を中心としたモビリティシステム製品が成長
デンソーは、自動車部品の大手サプライヤとして、先進的な自動車技術、システム・製品の開発と販売を手がけています。
財務諸表上では、日本、北米、欧州、アジアの地域別セグメントとなっており、決算報告資料では得意先別と製品別の売上高も公開しています。
得意先別の売上高について、トヨタグループの売上高はデンソーテンの影響や中国での車両生産の増加、日本での予防安全装備の装着率拡大で10.9%の増収となっています。
トヨタグループ以外の売上高は全体で3.8%の増収で、日本メーカー向けの売り上げは全体的に上がっており、ホンダは北米でのディスプレイ製品の拡販や日本での生産車両の増加により前期比7.9%増えています。
一方、海外メーカー向けの売り上げは、Fordが前期比10.8%減、VW・AUDIが同10.3%減と、ヨーロッパや中国での市場減速により減少しています。
製品別の売上高では、モビリティシステムが前期比26.9%増、非車載事業(FA・農業)が同23.0%増と大きく伸びています。(FA:ファクトリー・オートメーション、生産ラインの機械化による自動化)
モビリティシステム製品は、日本での予防安全製品の装着率拡大や、日本および北米でのディスプレイ製品の拡販により売り上げが増加。非車載事業はデンソーテンやTDモバイルの子会社化の影響により増収となりました。
デンソーは新たな研究開発拠点として2018年4月「Global R&D Tokyo」を東京品川に開設しました。さらに2020年6月には羽田空港跡地に自動運転技術の試作開発・実証を行う新拠点も開設し、技術開発を東京エリアで完結できる体制を構築。電動化、先進安全、自動運転およびコネクテッド分野における技術開発をさらに加速させていくとしています。
貸借対照表(BS):安全性の高い健全経営
2019年3月期の純資産は3兆7703億円で、前期比0.1%減となっています。
負債項目をみると、固定負債が7281億円(前期比4.0%増)、流動負債は1兆2939億円(同0.3%増)と借入が増えています。
会社の財務体質の長期的な安全性を測る株主資本比率は62.1%で、過去3年間を見ても常に60%前半を維持しているため、非常に健全な経営といえます。
短期的な支払い能力を測る流動比率は201.9%で、安全水域である200%を上回って高い安全性を確保しています。
キャッシュフロー計算書(CF):各CF指標は年度ごとに上下に変動
営業活動によるキャッシュ・フローは前期比4.4%減の5334億8700万円です。決算短信によると「税引前当期利益が減少したことによるもの」が主因です。営業CFマージンは9.9%で、前期比1.0pt減少しています。
投資活動によるキャッシュ・フローはマイナス5147億円で、同2.7%減っています。「資本性金融商品の取得により支出が減少した」ことによるものです。
財務活動によるキャッシュ・フローはマイナス922億4000万円と、同128.8%増でした。「借入金の返済により支出が増加したこと」が要因です。
技術開発体制の強化や電動化領域の生産体制強化のための積極投資が続いているため投資CFはマイナスになりやすい状況です。直近は営業CFが下がり気味ですが、財務CFはマイナスを続けているため優良企業型経営ができているといえます。
資本効率分析:ROEは業界平均以上をキープ
2019年3月期の親会社株主に帰属する当期純利益は2545億2400万円で、前期比20.6%減です。
当期純利益の減少もあって、株主のお金を使って利益を生み出す効率を測るROE(自己資本利益率)は7.1%で、前期比2.2pt減となりました。しかし、輸送用機器業平均の6.5%は上回っています。
すべての資産を使って利益を生み出す効率を測るROA(総資産利益率)は4.4%で、同1.5pt減。こちらは輸送用機器業平均の5.3%を下回っています。
まとめ:20年3月期1Qは先行投資響き減益
トヨタグループにおける電動化領域の競争力強化に関する取り組みの一環として、2020年4月にトヨタ⾃動⾞の電⼦部品事業をデンソーに集約することが正式に決定しました。
デンソーは電動化領域の開発、生産体制を強化するため、2018年度から2020年度末までの3か年で約1800億円を投資するとしており、この事業譲渡によってデンソーの事業規模が大きく拡大する可能性があります。
さらに、トヨタ系サプライヤの得意分野を生かして連動する動きもでています。
2019年4月には、デンソー、アイシン精機、ジェイテクト、アドヴィックスの4社で自動運転技術開発合弁会社「J-QuAD DYNAMICS(ジェイクワッド ダイナミクス)」を設立。同時にデンソーとアイシン精機の折半で電動車向け新会社「BluE Nexus(ブルーイー ネクサス)」も設立しました。
このように技術開発体制の強化に取り組むデンソーですが、2019年7月31日の第1四半期決算は営業利益が前年同期比24%減の691億円でした。
車両の生産量が増え日本や米国での販売は好調だったものの、自動運転や電動化に向けた先行投資が響き減益となっています。「CASE」領域での競争と先行投資費の増加はまだまだ続くことが予想され、今後は新会社、新拠点によってどれだけ早く競争力のある製品を作れるか注目です。
自動車・IT系が得意。分かりやすい記事を発信できるよう努めます。