DeNA転職ガイド:有価証券報告書から読み解く会社の実態

DeNA転職ガイド:有価証券報告書から読み解く会社の実態

1999年創業のDeNAは、ポケモンカードゲームアプリの大ヒットでゲーム事業が急伸する一方、ライブ配信・スポーツ・医療DXへ多角化を推進。平均年収882.9万円、育休取得率64.5%と待遇は良好だが、ヒット依存のボラティリティや女性管理職比率12.6%など課題も。挑戦文化と権限委譲が魅力の、創業者主導型成長企業です。


※本記事は2025年6月20日提出の有価証券報告書(2025年3月期・第27期)に基づき作成しています。数値は特記なき限り連結ベース(IFRS)。

1. DeNAってどんな会社?

(1) 会社概要

株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)は、1999年に南場智子氏によって設立されたインターネット企業です。本店所在地は東京都渋谷区で、東京証券取引所プライム市場に上場しています。

発行済株式数は1億2,215万株(単元100株)。大株主は創業者の南場智子氏が17.8%、戦略パートナーである任天堂株式会社が13.5%を保有。また、発行済総数の8.8%に当たる1,075万株の自己株式を保有しています(ESOP信託分含む)。

ポイント

創業者の影響力と戦略パートナー(任天堂)の存在が同社の中長期方針と新規事業開発に大きく影響する構造です。

(2) 沿革

創業者の南場智子氏は、マッキンゼーのパートナーを経て、1999年に同社を設立しました。

事業展開における主な転換点は、2015年の任天堂との業務・資本提携、2016年の横浜スタジアム株式取得、2017年のライブコミュニケーション「Pococha」開始、2018年の川崎ブレイブサンダース運営承継、2024年10月の『Pokémon Trading Card Game Pocket』提供開始など。ゲームにとどまらない多角化とIP連携が特徴です。

(3) 経営陣

取締役会は男性7名・女性3名(女性比率30.0%)で構成。代表取締役会長の南場智子氏は創業者として現在も経営の中枢に関わっています。2024年6月からは南場氏が取締役会議長を務めており、取締役会の審議・決議事項及び業務執行報告等のアジェンダの採否・設定を司っています。

監査役会は4名全員が社外監査役で構成。任意の指名委員会・報酬委員会を設置し、両委員会ともに委員の過半数が独立社外取締役、委員長も独立社外取締役という高い独立性を確保しています。

2. 事業内容

(1) ゲーム事業

DeNAの圧倒的な収益の柱で、2024年10月にリリースした『Pokémon Trading Card Game Pocket』が大きく牽引しています。

  • 主要サービス:ゲームアプリの配信、「Mobage(モバゲー)」等
  • 主要な事業主体:DeNA本体、株式会社DeNA Games Tokyo、株式会社集英社DeNAプロジェクツ、WAPTX LTD.、DeNA Seoul Co., Ltd.
  • 主要な持分法会社:Cygames(議決権20%)、ニンテンドーシステムズ(議決権20%)

近年ゲーム開発費が上昇傾向にあり、外部有力パートナーとの提携関係に基づくタイトル開発・運営が中心です。任天堂やポケモンとの関係性が、事業の安定性に大きく影響します。

(2) ライブストリーミング事業

スマートフォン向けのライブ配信プラットフォームを提供し、ユーザに対しアプリ内で使用するアイテムを有料で提供しています。

  • 主要サービス:「Pococha(ポコチャ)」「IRIAM(イリアム)」
  • 主要な事業主体:DeNA本体、株式会社IRIAM
  • 主要な持分法会社:SHOWROOM株式会社(議決権40.9%)

国内「Pococha」は収益性確保に注力、「IRIAM」は引き続き成長中です。

(3) スポーツ事業

プロ野球球団、プロバスケットボールクラブ、プロサッカークラブの運営をはじめとする事業を行っています。

  • 主要サービス:「横浜DeNAベイスターズ」「横浜スタジアム」の運営、「川崎ブレイブサンダース」「SC相模原」等
  • 主要な事業主体:DeNA本体、株式会社横浜DeNAベイスターズ、株式会社横浜スタジアム他

横浜DeNAベイスターズは連結売上収益比率10%超の重要子会社で、2024年は「SMBC日本シリーズ2024」優勝など興行面でも業績面でも好調です。

(4) ヘルスケア・メディカル事業

ヘルスビッグデータおよび医療DXの領域において、質の高いサービスを構築・浸透を図っています。

  • 主要サービス:ヘルスビッグデータ関連サービス、医療DX「Join(ジョイン)」等
  • 主要な事業主体:DeNA本体、DeSCヘルスケア株式会社、日本テクトシステムズ株式会社、株式会社データホライゾン、株式会社アルム

セグメント赤字が継続中。医療DX「Join」の施設導入は拡大していますが、当面は投資先行の局面です。

(5) 新規事業・その他

中長期での事業ポートフォリオ強化を目指した各種取り組みを含みます。

  • 主要サービス:EC事業、その他の新規事業等
  • 主要な事業主体:DeNA本体、株式会社モバオク(注)
  • 主要な持分法会社:GO株式会社(モビリティ関連、議決権25.8%)

ポイント

新規事業・その他について、2025年5月30日付でオークションサイト「モバオク」を運営する株式会社モバオクの全株式を富士ソフト株式会社に譲渡し、連結子会社から除外しました。また同日、カーシェアサービス「Anyca」を手がけていたDeNA SOMPO Mobilityを清算結了しています。

3. 業績・収益性

(1) 直近5期間の連結業績傾向

DeNAの直近5年間の業績は、2024年3月期に大幅な営業損失を計上した後、2025年3月期は『Pokémon Trading Card Game Pocket』の成功により大幅改善しました。

2025年3月期は売上収益が前期比で273億円増加し、営業損益も同572億円改善。減損損失の大幅縮小(前期287億円→当期44億円)も寄与しました。

(2) 直近通期のセグメント業績構造

ゲーム事業が営業利益のほとんどを占め、ライブストリーミング、ヘルスケア・メディカル、新規事業は赤字です。
セグメント 売上収益 前期比 営業損益 営業利益率
ゲーム事業 781億円 +44.6% 386億円 49.4%
ライブストリーミング事業 406億円 ▲4.7% ▲2.0億円 ▲0.5%
スポーツ事業 313億円 +14.8% 28.4億円 9.1%
ヘルスケア・メディカル事業 107.7億円 +8.1% ▲36.2億円 ▲33.6%
新規事業・その他 36.2億円 +18.4% ▲11.2億円 ▲31.0%

※単位:億円。マイナス(▲)は損失を示します。

なお、連結従業員数は2,572名(臨時531名)。内訳は、ゲーム事業 684名、ライブストリーミング事業 294名、スポーツ事業 343名、ヘルスケア・メディカル事業 674名、新規事業・その他 115名、全社共通462名。

ヘルスケア・メディカル事業は、ゲーム事業に次いで多くの従業員が携わっています。ゲーム事業の従業員数が前期比で大幅減となった主因は、中国拠点の大幅縮小等です。

(3) キャッシュフローの状況

2025年3月期のキャッシュフロー(CF)は、営業CFが大幅改善した一方、投資CF・財務CFは例年通りの支出水準でした。
項目 2024/3期 2025/3期 前期比
営業CF 108億円 390億円 +282億円
投資CF ▲126億円 ▲123億円 +3億円
財務CF ▲41億円 ▲54億円 ▲13億円
現金残高(期末) 714億円 928億円 +214億円

※単位:億円。マイナス(▲)は支出・減少を示します。スマートフォンではデバイス幅いっぱいに収まります。

営業CFの大幅増加(+282億円)は、税引前当期利益の増加(318億円)が主因です。投資CFは無形資産取得(62億円)が中心で、安定的な設備投資を継続。財務CFは配当金支払(22億円)とリース負債返済(17億円)が主な支出です。現金残高は期末で928億円と潤沢で、財務健全性は高水準を維持しています。

4. 経営方針・戦略

DeNAは「一人ひとりに 想像を超える Delight を」という企業ミッションを掲げ、エンターテインメント領域と社会課題解決領域の両面から企業価値の持続的向上を目指しています。

2025年度からの3か年を「多軸収益構造の確立期」と位置づけ、各事業が有意な利益貢献を果たすことを目標とし、重点課題として以下の5本柱を掲げています。

  1. 構造的・継続的に成長する事業群の形成
  2. 強い事業ポートフォリオ実現への挑戦(AI活用による生産性向上・既存事業の競争力強化・AI新事業創出)
  3. 組織・人材の進化
  4. コーポレート・ガバナンスの強化
  5. コンプライアンス・リスクマネジメント

5. リスクと対応

DeNAは有価証券報告書で「事業環境」「各事業」「業務提携・M&A」「システム」「気候変動」「経営体制」「コンプライアンス」「知的財産権」という8つの分類でリスクを整理していますが、このうち転職検討者にとって特に重要な3つについて説明します。

(1) 各事業に関するリスク

ゲーム事業はユーザ嗜好の急変と開発費上昇が課題。近年ゲーム開発費が高騰しており、投資回収の不確実性が増しています。また、IP提供者(任天堂・ポケモン等)との契約変更や終了により、主要コンテンツの提供ができなくなるリスクがあります。

ライブストリーミング事業では、配信者・視聴者間のトラブルや不適切な配信内容によるサービス停止リスクが存在します。

スポーツ事業は、チーム成績・自然災害・施設利用契約に依存。横浜スタジアムは横浜市との契約に基づく利用のため、契約更新や利用条件変更のリスクがあります。

ヘルスケア・メディカル事業は、機微性の高い医療情報を扱うため、情報漏洩時の損害賠償や行政処分リスクが大きく、法規制変更による事業制約の可能性もあります。

(2) 事業環境に関するリスク

OS提供事業者(Apple・Google)への依存が最大のリスク。App StoreやGoogle Playの審査基準変更、手数料改定、配信停止措置により、サービス提供が困難になる可能性があります。

AI技術については、技術革新への対応遅れによる競争力低下リスクと、AI活用における倫理的問題(プライバシー、公平性等)への対応が求められています。 競合激化により、類似サービスを提供する企業や新規参入者との競争が激化し、ユーザ獲得コストの上昇や収益性の低下につながる可能性があります。

(3) 業務提携・M&A等に関するリスク

大口顧客依存が顕著で、2025年3月期はポケモン関連が売上の21.6%を占めています。任天堂との資本業務提携(2015年~)も、同社の戦略変更が当社事業に影響します。任天堂株式の保有(8,797,000株)により、株価変動が財政状態に直接影響します。

M&Aリスクとして、のれん30,361百万円を計上。買収企業の業績悪化や統合の遅れにより、減損処理が必要になる可能性があります。

6. 働く環境と人的資本

(1) 組織文化と人材育成

DeNAの育成方針は創業以来一貫しており、「実務を通じて挑戦し成長する」文化を重視しています。

  1. 挑戦人材の採用
  2. 権限委譲と高目標設定(成功確率五分五分の高難度目標)
  3. 成果への明確な報い

の三本柱で、独立・起業・スピンアウトも奨励しています。

実務の機会に十分に高い目標に向かって裁量をもって奮励する時こそ人材が最も成長すると考え、その挑戦の場の提供と社員が積極的に挑める制度や風土づくりに取り組んでいます。

(2) 給与水準と報酬設計

DeNA(単体)の従業員数は1,448名(うち臨時従業員107名)。平均年齢37.9歳、平均勤続年数6年4ヶ月、平均年間給与は882.9万円(賞与・基準外賃金を含む)で、業界内でも上位水準の待遇です。

報酬設計は「大きな成果を挙げた人材に、報酬と機会で大きく報いる」という明確な方針を掲げており、成果主義・実力主義を徹底しています。取締役の報酬は固定部分と業績連動部分で構成され、業績連動部分は前事業年度の業績に応じて変動する仕組みです。

(3) 多様性と公平性

管理職に占める女性の割合は12.6%、男性労働者の育休取得率は64.5%。一方、男女の賃金差は全労働者で68.3%(男性100に対する女性の賃金割合)、正規雇用労働者で75.0%と差があります。

全社員アンケート(2025年2月実施)では、女性の13.0%、外国籍の27.0%、中途採用の10.2%が「活躍しづらい」と感じると回答。特に外国籍社員の数値が前回(16.1%)から上昇しており、異文化コミュニケーションや制度対応の改善が課題として浮上しています。 会社側はアンコンシャス・バイアス研修やハラスメント防止研修を継続実施し、改善を図っています。

この記事の執筆者

外資系IT企業、コンサルティングファーム、システムインテグレーターの各業界の現場の最前線で活躍してきたヘッドハンター集団。サーチ型エージェントとして活動しています。
直接キャリア面談の実施から入社、その後一生涯のキャリア形成までを丁寧にサポートします。

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