オンコセラピー・サイエンス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

オンコセラピー・サイエンス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証グロース上場の創薬ベンチャー。がん治療薬の研究開発およびがんプレシジョン医療(精密医療)関連事業を展開しています。2025年3月期の売上高は7.5億円と増収でしたが、研究開発費の先行により経常損失8.2億円、当期純損失8.2億円と赤字が続いています。


※本記事は、オンコセラピー・サイエンス株式会社 の有価証券報告書(第24期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. オンコセラピー・サイエンスってどんな会社?


がん治療薬の研究開発と、がん患者個々の遺伝子情報に基づくプレシジョン医療(精密医療)を提供する創薬企業です。

(1) 会社概要


同社は、東京大学医科学研究所の中村祐輔教授の研究成果を事業化するため2001年に設立されました。2003年に東証マザーズへ上場し、がん関連遺伝子の網羅的解析を基盤とした創薬研究を開始しました。2017年には、がん遺伝子の大規模解析検査およびがん免疫療法の研究開発を行う子会社としてCancer Precision Medicineを設立し、事業領域を拡大しています。

現在の従業員数は連結47名、単体18名です。筆頭株主は創業者の科学者である中村祐輔氏で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位は個人株主となっています。

氏名 持株比率
中村 祐輔 4.61%
株式会社SMBC信託銀行 2.69%
中鶴 修一 2.15%

(2) 経営陣


同社の役員は男性6名、女性2名の計8名で構成され、女性役員比率は25.0%です。代表取締役社長は嶋田順一氏です。社外取締役比率は25.0%です。

氏名 役職 主な経歴
嶋田 順一 代表取締役社長 UBSJ(旧シマダ器械)代表取締役を経て2021年同社入社。Cancer Precision Medicine代表取締役等を兼務し2022年より現職。
加藤 肇夫 取締役会長 1966年福井銀行入行。1974年ウィルビー創業、同社代表取締役。2020年同社取締役会長より現職。
朴 在賢 取締役Chief Scientific Officer兼 管理本部統括取締役 理化学研究所、シカゴ大学医学部助教授を経て2017年同社入社。Cancer Precision Medicine取締役等を兼務し2023年より現職。


社外取締役は、三木義男(東京医科歯科大学名誉教授)、小峰雄一(税理士法人綜合税務会計代表社員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「「医薬品の研究及び開発」並びにこれらに関連する事業」および「がんプレシジョン医療関連事業」を展開しています。

「医薬品の研究及び開発」並びにこれらに関連する事業


がん特異的タンパク質を標的とした低分子医薬、がんペプチドワクチン、抗体医薬などの創薬研究および臨床開発を行っています。主なパイプラインには、がん幹細胞を標的とする「OTS167」などがあり、製薬企業へのライセンスアウトを目指しています。

収益は、提携先製薬企業等からの契約一時金、マイルストーン(開発進捗に応じた収入)、およびロイヤリティ(上市後の売上に応じた収入)から構成されます。運営は主にオンコセラピー・サイエンスが行っています。

がんプレシジョン医療関連事業


がん細胞の遺伝子を網羅的に解析し、患者一人ひとりに最適な治療法や薬剤選択を支援するサービスを提供しています。具体的には、全ゲノムシーケンス解析、リキッドバイオプシー(血液によるがん検査)、免疫反応解析などを実施しています。

収益は、医療機関、研究機関、製薬企業等から受託する解析サービス料や検査料です。運営は子会社のCancer Precision Medicineが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績トレンドを見ると、売上高は3億円から11億円の範囲で変動していますが、利益面では経常損失・当期純損失が続いています。これは創薬ベンチャー特有の構造で、研究開発への先行投資が収益を上回る状況が継続しているためです。直近の2025年3月期は前期比で増収となり、赤字幅も縮小傾向にあります。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 3.3億円 11.5億円 11.3億円 6.1億円 7.5億円
経常利益 -16.4億円 -20.7億円 -11.3億円 -11.4億円 -8.2億円
利益率(%) - - - - -
当期利益(親会社所有者帰属) -15.6億円 -25.7億円 -11.2億円 -12.9億円 -8.2億円

(2) 損益計算書


直近2期間の損益構成を見ると、売上高は6.1億円から7.5億円へ増加しました。費用面では、研究開発費等のコスト削減が進み、営業損失は11.2億円から8.0億円へと改善しています。依然として売上高を上回る事業費用が発生しており、営業段階での赤字が続いています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 6.1億円 7.5億円
売上総利益 -1.8億円 -0.1億円
売上総利益率(%) -29.1% -1.7%
営業利益 -11.2億円 -8.0億円
営業利益率(%) -183.7% -106.4%


販売費及び一般管理費のうち、支払手数料が1.1億円(構成比38%)、役員報酬が0.6億円(同20%)を占めています。売上原価については、研究開発費が4.9億円(売上原価ではなく別途計上)発生しており、事業費用の大きな割合を占めています。

(3) セグメント収益


「医薬品の研究及び開発」事業はライセンス収入等が限定的で赤字が続いていますが、赤字幅は縮小しました。「がんプレシジョン医療関連事業」は売上の大半を占め、増収基調にあります。解析サービスの需要増により売上が伸長し、損益も改善傾向にありますが、両セグメントともに営業損失の状態です。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
「医薬品の研究及び開発」並びにこれらに関連する事業 0.0億円 0.0億円 -6.7億円 -4.9億円 -16296.9%
がんプレシジョン医療関連事業 6.1億円 7.5億円 -2.4億円 -0.9億円 -12.1%
連結(合計) 6.1億円 7.5億円 -11.2億円 -8.0億円 -106.4%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は赤字のため算出できませんが、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は57.0%で市場平均(グロース市場製造業平均63.5%)をやや下回っています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF -12.3億円 -8.2億円
投資CF -0.3億円 -0.0億円
財務CF 6.7億円 11.2億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「有効性が高く、より副作用の少ないがん治療薬・治療法を一日も早くがんに苦しむ患者さんに届けること、がんとの闘いに勝つこと」を企業使命として掲げています。この使命の実現に向け、基礎研究から臨床開発、がんプレシジョン医療への取り組みを推進し、がん治療分野での社会貢献を目指しています。

(2) 企業文化


同社は、研究開発型企業として高い専門性を持つ人材を重視し、国籍や性別にとらわれない採用・登用を行う方針を持っています。また、高い社会的倫理観とコンプライアンスの徹底を掲げ、患者の生命に直結する事業を行う企業としての強い使命感を持って事業活動を展開することを重視しています。

(3) 経営計画・目標


同社は、具体的な数値目標(売上高や利益目標など)を掲げる代わりに、提携先製薬企業からのマイルストーン収入やロイヤリティ、受託検査収入の拡大を通じて収益基盤を安定させることを経営上の目標としています。医薬品開発の長期性や不確実性を考慮し、短期的な数値よりも研究開発の進展(パイプラインの拡充や上市)を重視しています。

(4) 成長戦略と重点施策


今後の成長に向け、「がんプレシジョン医療関連事業への経営資源の集約」と「医薬品研究開発における早期ライセンスアウト」を重点施策としています。特に、がんプレシジョン医療分野では、新規がん遺伝子パネル検査の開発や獣医療分野への展開を進め、黒字化を目指しています。また、資金調達による財務基盤の強化も継続して行います。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は研究開発型企業として、高い専門性を持つ人材の確保を重視しています。国籍・性別等の枠組みにとらわれず、事業運営に必要な人材を採用・登用し、研究開発の各段階に合わせた研修を通じて技術習得を支援する方針です。また、公平な評価と適正な処遇により、従業員の意欲向上を図っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均(629万円)をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 45.3歳 10.9年 5,528,000円


※平均年間給与は賞与および基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社および連結子会社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 設立経緯と特定人物への依存


同社は、中村祐輔教授の研究成果を事業化する目的で設立されました。現在も同氏の成果が研究開発の基盤となっており、今後も科学面での協力を得る予定ですが、何らかの理由により同氏の協力が得られなくなった場合、研究開発活動に影響を与える可能性があります。

(2) 継続企業の前提に関する事象


医薬品開発には多額の先行投資が必要であり、同社は継続的に営業損失およびマイナスの営業キャッシュ・フローを計上しています。これにより「継続企業の前提に関する重要な疑義」を生じさせる事象が存在しています。同社は、がんプレシジョン医療事業の黒字化や早期ライセンスアウト、資金調達により財務体質の強化を図っています。

(3) 研究開発および臨床開発の不確実性


医薬品開発は長期間を要し、成功確率は高くありません。臨床試験が計画通りに進まない、期待した成果が得られない、あるいは提携先との契約が解消される等の事態が発生した場合、研究開発費の回収が困難になり、業績に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。