ADR120S 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

ADR120S 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

ADR120Sは東京証券取引所スタンダード市場に上場し、再生医療領域における細胞治療関連の医療機器事業を展開する企業です。直近の業績は、主力商品の国産化移行に伴い減収となり、営業赤字が継続していますが、債務免除益の計上により当期純損失は縮小しました。今後は細胞治療事業に経営資源を集中します。


※本記事は、株式会社ADR120Sの有価証券報告書(第22期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. ADR120Sってどんな会社?


再生医療における細胞治療を中心に、セルーション遠心分離器などの医療機器を販売するメディカル企業です。

(1) 会社概要


2004年にゼィープラスの株式移転により設立され、東京証券取引所市場第二部に上場しました。2021年にサイトリ・セラピューティクス(現ADRセラピューティクス)を完全子会社化してメディカル事業へ進出し、2025年にはリアルアセット事業から撤退してメディカル事業への一本化を図りました。同年、ADR120Sに商号を変更しています。

従業員数は連結で13名、単体で3名です。筆頭株主は同社代表取締役会長が代表を務めるHGキャピタルで、第2位は金融機関であるSBI証券、第3位は同社代表取締役会長の橋本征道氏となっています。

氏名 持株比率
HGキャピタル 12.92%
SBI証券 12.03%
橋本征道 11.85%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性0名の計8名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役会長は橋本征道氏、代表取締役社長は鈴木隆二氏が務めており、社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
橋本征道 取締役会長(代表取締役) 2017年HGホールディングス代表取締役、2018年HGキャピタル代表取締役等を経て、2026年より現職。
鈴木隆二 取締役社長(代表取締役) 2015年筑波胃腸病院外科主任、2020年同病院理事長等を経て、2026年より現職。
天笠勝 取締役 1999年メリルリンチ日本証券入社。2001年税理士登録。2007年ちよだコンサルティング代表取締役等を経て、2025年より現職。
林寿人 取締役 2006年日産化学工業入社。2025年ADRセラピューティクス代表取締役社長を経て、同年より現職。


社外取締役は、井上尚之(元東京トヨタ自動車社長)、小林弘樹(アキュレートアドバイザーズ代表取締役)、久岡英彦(順天堂大学特任教授)、小林弘明(弁護士)です。

2. 事業内容


同社グループは、メディカル事業の単一セグメントで事業を展開しています。

メディカル事業


再生医療における細胞治療を中心に事業を展開しています。成人患者自身の皮下脂肪組織から脂肪組織由来再生細胞を採取する特許技術を有し、医療機器として認可を受けたセルーション遠心分離器や、高度管理医療機器であるセルセラピーキットを国内の医療機関へ販売しています。男性腹圧性尿失禁治療の保険適用に向けた手続きも進めています。

主な収益源は、医療機関に対する医療機器や医療消耗品の販売収入、および保守サービス利用料です。製品の安定調達に向けた国産化への移行や、高濃度エクソソーム成分含有液に関する新規事業の立ち上げも進めています。事業の運営は主に連結子会社のADRセラピューティクスが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の売上高は、事業再編と保有不動産の売却により大きく減少しています。現在はメディカル事業への集中と主力製品の国産化移行を進めており、先行投資が続くため経常赤字が継続しています。当期は主力商品の移行期により減収となりましたが、債務免除益等の特別利益計上により当期純利益は黒字に転換しました。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 13億円 21億円 16億円 1億円 0.5億円
経常利益 -4億円 -9億円 -9億円 -9億円 -9億円
利益率(%) -31.3% -40.2% -58.1% -707.8% -1809.6%
当期利益(親会社所有者帰属) 3億円 -7億円 -38億円 -32億円 1億円

(2) 損益計算書


当期の売上高は、主力商品の国産品への移行期にあったことから前期から減少しました。一方で、売上原価の減少により売上総利益は黒字化し、売上総利益率は改善しています。しかし、研究開発費などの先行投資が継続しているため、営業赤字の幅は前期と比較して拡大しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 1億円 0.5億円
売上総利益 -0.1億円 0.1億円
売上総利益率(%) -4.9% 20.7%
営業利益 -8億円 -9億円
営業利益率(%) -660.3% -1777.2%


販売費及び一般管理費のうち、支払手数料が2億円(構成比26.4%)、試験研究費が2億円(同16.7%)、貸倒引当金繰入額が1億円(同14.6%)を占めています。

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業キャッシュ・フローがマイナス、投資キャッシュ・フローがプラス、財務キャッシュ・フローがマイナスとなっており、本業が低迷し、資産売却で得た資金等で借入金の返済を進める事業検討型の状態です。企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-180.0%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も6.0%で市場平均を大きく下回っています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF -10億円 -8億円
投資CF 0.2億円 30億円
財務CF 2億円 -23億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、より良い企業経営と企業価値の向上に向けたコーポレートガバナンスの強化に取り組むことを経営方針として掲げています。また、再生医療領域における細胞治療を中心に、差別化された競争力のあるサービスを展開することで、持続的な企業価値の向上を目指しています。

(2) 企業文化


同社は比較的少人数の組織体制で事業運営を行っています。そのため、業務プロセスの可視化や、共通データによる予実管理の徹底、案件リスク管理体制の構築などを重視しています。また、細胞治療における研究・開発の意思決定の迅速化を図り、全体最適化の中で選択と集中を進める組織文化を持っています。

(3) 経営計画・目標


同社は、グループ各社の安定的な収益力の確保と継続的な成長に注力することを目標としています。経営上の客観的な指標として、連結ベースにおける売上高、営業利益、およびROE(自己資本利益率)の向上を目指すとともに、営業キャッシュ・フローの改善を中長期的な課題として掲げています。

(4) 成長戦略と重点施策


同社はリアルアセット事業から撤退し、メディカル事業に経営資源を集中させることで、収益性の高い事業構造への転換を進めています。細胞治療事業や遠心分離器を中心とした医療機器事業を拡大するとともに、主力商品の安定調達やコスト低減を目指した国内製造体制への移行、新規事業の立ち上げを重点施策としています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は「人材が企業価値向上の源泉である」との認識のもと、多様な人材の活躍を促進し、持続的な成長を実現することを基本方針としています。社員一人ひとりの能力開発とエンゲージメント向上に努めるとともに、多様性の確保や女性管理職比率の向上、働き方改革の推進に向けた環境整備に注力しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 51.7歳 7.8年 5,906,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社および連結子会社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 研究開発に関するリスク


医薬品・医療機器の開発には多額の投資と長期の先行投資期間が必要です。臨床試験で有用な効果が得られず開発が延期・中止となる可能性や、薬事関連法等の厳格な審査により製造・販売の承認が得られないリスクがあります。承認や保険適用が遅延した場合、研究開発投資の回収ができず、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

(2) 専門人材の確保と育成リスク


高度な専門性を持つ人材の確保や育成が計画どおりに進まない場合、事業の拡大や競争力の維持に支障を来すリスクがあります。また、比較的少人数で事業活動を行っているため、事業の中核をなす従業員に不測の事態が生じた場合や既存人員の流出が生じた際には、組織運営や業績に影響を及ぼす可能性があります。

(3) システム・情報セキュリティに関するリスク


サイバー攻撃やシステム障害などが発生した場合、業務の停止や情報漏洩につながるリスクがあります。特にメディカル事業においては個人情報を厳重に管理していますが、万一情報が流出した場合には、社会的信用の失墜とともに損害賠償の責任を負うこととなり、経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。