#記事タイトル:クシム転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態
※本記事は、株式会社クシム の有価証券報告書(第30期、自 2024年11月1日 至 2025年10月31日、2026年1月30日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. クシムってどんな会社?
同社グループは、ブロックチェーン技術の社会実装を推進する企業です。現在は開発・コンサルティング事業を再開し、組織再構築を進めています。
■(1) 会社概要
1997年に株式会社アイキャンとして設立され、1999年にiLearning事業を開始しました。2002年に東京証券取引所マザーズへ上場し、2019年にはCAICA(現CAICA DIGITAL)の連結子会社となりました。2020年に現社名へ変更し、その後ブロックチェーン領域へ注力しましたが、2025年の経営交代により子会社群を譲渡し、現在は事業再構築中です。
連結および単体の従業員数は7名です。筆頭株主は大阪在住の個人投資家である山中夕典氏で、第2位は2025年に実施された第三者割当増資の引受先であるa'gilです。第3位も個人株主となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 山中 夕典 | 4.77% |
| a'gil | 4.63% |
| 坂元政弘 | 3.87% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性0名の計9名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役は田原弘貴氏です。社外取締役比率は約44.4%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 田 原 弘 貴 | 代表取締役 | 2018年中小企業診断士資格取得。2019年チューリンガム設立・取締役。2023年同社代表取締役CTO。2023年同社取締役を経て2025年4月より現職。 |
| 田中 遼 | 取締役 | 2011年東京都庁入庁。Aerial Partners、LINE(LVC出向)を経て2022年チューリンガム入社。2024年同社代表取締役。2025年4月より現職。 |
| 大島 卓也 | 取締役 | 2011年大和総研ビジネス・イノベーション入社。Fintertech、チューリンガム取締役を経て2023年Zaif代表取締役就任。2025年10月より現職。 |
| 伊藤 光佑 | 取締役 | 2018年Aerial Partners入社。2019年チューリンガム共同創業。2025年10月より現職。 |
| 竹中 大介 | 取締役 | 2004年信永中和会計士事務所入所。2008年イオンクレジットサービス入社、海外現地法人出向等を歴任。2024年DigitalCredenceTechnologies入社。2025年11月より現職。 |
| 石濱 嵩博 | 取締役 | 2013年ナナメウエ創業、代表取締役(現任)。 |
社外取締役は、荒木久雄(元かんぽ生命保険)、渡辺治(現新樹法律事務所弁護士)、佐藤憲介(現佐藤憲介公認会計士事務所代表)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ブロックチェーンサービス事業」を展開しています。
■(1) ブロックチェーンサービス事業
当事業では、ブロックチェーン技術を活用したシステム開発やコンサルティングサービスを提供しています。主な顧客は、Web3領域への参入を目指す企業や、ブロックチェーン技術の導入を検討している事業者です。経営体制の変更に伴い、暗号資産交換業やシステムエンジニアリング事業などを行っていた子会社群が連結から除外され、事業規模は縮小しています。
収益は、顧客企業からの開発支援費やコンサルティングフィーとして受け取ります。以前は子会社を通じて暗号資産交換所の運営なども行っていましたが、現在は主に同社単体での事業運営となっています。2025年6月より「ブロックチェーン開発・コンサルティング事業」を再開し、収益基盤の構築に取り組んでいます。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は2021年10月期の約16億円から増減を繰り返し、2025年10月期には子会社譲渡の影響で約0.3億円まで急減しました。利益面では、2022年10月期に黒字化を達成したものの、それ以外の期では損失を計上しており、特に直近3期間は大幅な赤字が続いています。当期は親会社株主に帰属する当期純損失が約18億円となりました。
| 項目 | 2021年10月期 | 2022年10月期 | 2023年10月期 | 2024年10月期 | 2025年10月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 16億円 | 16億円 | 10億円 | 16億円 | 0.3億円 |
| 経常利益 | -1.1億円 | 1.8億円 | -14.0億円 | -11.5億円 | -4.5億円 |
| 利益率(%) | -7.1% | 11.2% | -145.6% | -71.4% | -1709.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -3.8億円 | 2.1億円 | -10.0億円 | -29.0億円 | -18.1億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期の約16億円から当期は約0.3億円へと著しく減少しました。売上総利益率は向上していますが、売上規模が極端に縮小したため、営業損失は約4.9億円を計上しています。販売費及び一般管理費も前期から大幅に圧縮されていますが、売上の減少幅が大きく、営業赤字が継続する構造となっています。
| 項目 | 2024年10月期 | 2025年10月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 16.1億円 | 0.3億円 |
| 売上総利益 | 6.4億円 | 0.2億円 |
| 売上総利益率(%) | 39.6% | 93.0% |
| 営業利益 | -11.3億円 | -4.9億円 |
| 営業利益率(%) | -70.3% | -1844.3% |
販売費及び一般管理費のうち、支払報酬が1.8億円(構成比34%)、その他が1.2億円(同23%)、支払手数料が0.9億円(同17%)を占めています。
■(3) セグメント収益
前期はブロックチェーンサービス、システムエンジニアリング、インキュベーションの3事業で構成されていましたが、当期は子会社譲渡等の影響により、ブロックチェーンサービス事業のみが継続しています。同事業の売上高は前期の約7億円から約0.3億円へと大幅に減少しました。システムエンジニアリング事業およびインキュベーション事業は連結除外により売上が消滅しています。
| 区分 | 売上(2024年10月期) | 売上(2025年10月期) |
|---|---|---|
| ブロックチェーンサービス事業 | 7.3億円 | 0.3億円 |
| システムエンジニアリング事業 | 4.9億円 | - |
| インキュベーション事業 | 3.9億円 | - |
| 連結(合計) | 16.1億円 | 0.3億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業は赤字ですが、将来成長のため借入で投資を継続している「勝負型」です。ただし、同社は事業再構築のフェーズにあり、財務CFのプラスは第三者割当増資等によるものです。
| 項目 | 2024年10月期 | 2025年10月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -6.3億円 | -6.5億円 |
| 投資CF | -3.0億円 | -2.5億円 |
| 財務CF | 9.4億円 | 2.0億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-150.4%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は78.7%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「ブロックチェーン技術の社会実装を推進し、その普及に貢献する」という企業理念を掲げています。また、イーサリアム及びその関連技術を中核とする技術・サービス提供及びデジタル資産戦略を推進し、持続的な企業価値及び株主価値の向上を図ることを経営の基本方針としています。
■(2) 企業文化
同社は、旧経営陣による子会社および資産の流出事案を踏まえ、企業風土およびコーポレート・ガバナンスの見直しを含む再発防止策を推進しています。意思決定および管理体制の実効性を高めるとともに、適時適切な情報開示および説明責任の徹底に取り組み、信頼回復を重視する姿勢を打ち出しています。
■(3) 経営計画・目標
数値目標および年間計画については、暗号資産トレジャリー事業の推進に係る資金調達の進捗および市場環境等により変動し得ることから、現時点では策定中としています。内容が具体化し開示が必要となる場合には、適時適切に公表する方針です。
■(4) 成長戦略と重点施策
財務基盤と事業基盤の毀損からの回復を目指し、段階的な再成長戦略を掲げています。まず、イーサリアム関連技術を基盤とした開発支援・コンサルティングにより収益基盤を構築します。次に、イーサリアムを中核とするデジタルアセットトレジャリー(DAT)事業を推進し、財務基盤の強化を図ります。さらに、流出した事業・資産の回復に向けた法的対応やグループ再編を進めます。
* 2025年12月より、DAT事業の一環としてイーサリアムの購入・試験運用を開始しています。
* プライバシー保護技術「INTMAX」との提携により技術力を強化しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「人と組織」の成長を支援するソリューション提供のために、人材の多様性確保と育成を重視しています。性別や国籍等を問わず多様な人材が活躍できる職場環境の醸成に取り組んでいます。また、個人の意思を尊重した適材適所の配属や、テレワーク等の柔軟な働き方の推進、健康管理の強化に努めています。現在は組織再構築に伴い、人員採用を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年10月期 | 34.0歳 | 1.0年 | 6,000,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社および連結子会社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 継続企業の前提に関する重要事象
2025年度の臨時的な経営交代に伴い、主要な子会社や資産が旧経営陣側に譲渡され、事業や人材を喪失しました。これにより売上が著しく減少し、重要な損失を計上しています。同社は資産の取り戻しや組織の再整備、資金調達を進めていますが、現時点では継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められます。
■(2) 多額な訴訟費用等の発生
旧経営陣による資産流出に関連して、子会社の取り戻しや資産回復のための法的対応を進めています。また、フィスコやHigh Voltage Capitalから損害賠償訴訟を提起されており、これらに対応するための訴訟費用が増加し、業績に悪影響を与える可能性があります。
■(3) 財務基盤の安定化
事業基盤の再構築には運転資金や事業開発資金の確保が必要ですが、財務基盤が毀損しているため、必要な資金を適時に確保できないおそれがあります。資金調達の成否は市場環境等に左右され、株式発行を伴う場合は既存株主の持分比率に影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 旧経営陣によるガバナンス不全の影響
過去の不適切な会計処理や取締役会の形骸化など、旧経営体制下でのガバナンス上の問題が明らかになっています。新体制下で再発防止策を進めていますが、過去の経緯が同社の信用や事業運営に影響を及ぼし続ける可能性があります。



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