※本記事は、株式会社クシムの有価証券報告書(第30期、自 2024年11月1日 至 2025年10月31日、2026年1月30日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は日本基準です。
1. クシムってどんな会社?
ブロックチェーン技術を活用した開発支援やコンサルティング事業を手掛ける企業です。
■(1) 会社概要
1997年6月に設立され、eラーニング事業などで事業を拡大し、2002年12月に上場しました。2020年5月に現在のクシムへ社名変更し、近年は買収を通じブロックチェーン事業を中核に据えていました。しかし、2025年2月の臨時的な経営交代により主要な事業子会社を譲渡し、現在は体制の再構築を図っています。
従業員数は連結7名、単体7名です。筆頭株主は山中夕典氏で、第2位はa'gil、第3位は坂元政弘氏となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 山中夕典 | 4.77% |
| a'gil | 4.63% |
| 坂元政弘 | 3.87% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性0名の計9名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役は田原弘貴氏で、社外取締役比率は44.4%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 田原弘貴 | 代表取締役 | 2018年東京大学工学部卒業。2019年チューリンガム設立および取締役就任。2023年クシム取締役を経て、2025年4月より現職。 |
| 田中遼 | 取締役 | 2011年東京都庁入庁。LINE等を経て2022年チューリンガム入社。2024年同社代表取締役を経て、2025年4月より現職。 |
| 大島卓也 | 取締役 | 2011年大和総研ビジネス・イノベーション入社。Fintertech等を経て、Zaif代表取締役を務め、2025年10月より現職。 |
| 伊藤光佑 | 取締役 | 2018年Aerial Partners入社。2019年チューリンガム共同創業。2023年東京大学工学部卒業。2025年10月より現職。 |
| 竹中大介 | 取締役 | 2004年信永中和会計士事務所入所。イオンフィナンシャルサービス等での出向を経て、2025年11月より現職。 |
社外取締役は、石濱嵩博(2013年ナナメウエ創業 代表取締役)、荒木久雄(2008年かんぽ生命保険入社等)、渡辺治(2020年新樹法律事務所入所)、佐藤憲介(2018年佐藤憲介公認会計士事務所開業)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ブロックチェーンサービス事業」を展開しています。
■ブロックチェーンサービス事業
イーサリアムなどブロックチェーン技術を活用した開発支援やコンサルティングサービスを提供しています。暗号資産およびWeb3領域で培った知見と技術力を基盤に、金融のオンチェーン化など社会的実装を推進し、顧客のビジネス課題解決に向けた提案を行っています。
顧客からの開発受託やコンサルティングにかかる料金を主な収益源としています。事業はクシム単体で推進しており、体制再編後の新規案件獲得を通じた収益基盤の早期再構築を目指しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は10億円から16億円規模で推移していましたが、直近の2025年10月期は子会社譲渡による事業縮小の影響で0.3億円へと大幅に減少しました。経常利益も過去数期にわたり赤字が継続しており、直近も5億円の損失を計上するなど、早急な立て直しが求められています。
| 項目 | 2021年10月期 | 2022年10月期 | 2023年10月期 | 2024年10月期 | 2025年10月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 16億円 | 16億円 | 10億円 | 16億円 | 0.3億円 |
| 経常利益 | -1億円 | 2億円 | -14億円 | -12億円 | -5億円 |
| 利益率(%) | -7.1% | 11.2% | -145.6% | -71.4% | -1709.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -4億円 | 2億円 | -10億円 | -20億円 | -14億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は子会社の連結除外により前年から大きく減少しました。売上総利益率は改善したものの、絶対的な売上規模の縮小が響き、営業損失が継続しています。
| 項目 | 2024年10月期 | 2025年10月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 16億円 | 0.3億円 |
| 売上総利益 | 6億円 | 0.2億円 |
| 売上総利益率(%) | 39.6% | 93.0% |
| 営業利益 | -11億円 | -5億円 |
| 営業利益率(%) | -70.3% | -1844.3% |
販売費及び一般管理費のうち、支払報酬が2億円(構成比34.3%)、支払手数料が1億円(同16.9%)を占めています。
■(3) セグメント収益
前年は複数のセグメントで事業を展開していましたが、当期は子会社の譲渡に伴い、ブロックチェーンサービス事業の単一セグメントとなりました。
| 区分 | 売上(2024年10月期) | 売上(2025年10月期) |
|---|---|---|
| ブロックチェーンサービス事業 | 7億円 | 0.3億円 |
| システムエンジニアリング事業 | 5億円 | - |
| インキュベーション事業 | 4億円 | - |
| 連結(合計) | 16億円 | 0.3億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業は赤字だが、将来成長のため資金調達を行う勝負型の状態です。
| 項目 | 2024年10月期 | 2025年10月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -6億円 | -6億円 |
| 投資CF | -3億円 | -3億円 |
| 財務CF | 9億円 | 2億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-150.4%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は78.7%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「ブロックチェーン技術の社会実装を推進し、その普及に貢献する」という企業理念を掲げています。技術が実金融領域へと応用範囲を拡大する中で、効率性向上と新たなユースケース創出に資するインフラとして実装を推進し、持続的な企業価値の向上を目指しています。
■(2) 企業文化
旧経営陣による事案を受け、企業風土とコーポレート・ガバナンスの抜本的な見直しを推進しています。意思決定プロセスの透明性確保と説明責任の徹底を図るとともに、独立性の高い監査等委員会や内部監査室を通じた相互牽制を働かせ、コンプライアンスを重視した組織文化の再構築に取り組んでいます。
■(3) 経営計画・目標
2030年までの長期構想として「ブロックチェーンサービスカンパニー構想」を掲げています。現時点での具体的な数値目標については、暗号資産トレジャリー事業の推進状況や資金調達の進捗、市場環境等の不確実要素を踏まえ策定中としており、内容が具体化し次第公表する方針です。
■(4) 成長戦略と重点施策
イーサリアムおよび関連技術を基盤とした開発支援・コンサルティングによる収益基盤の構築と、デジタルアセットトレジャリー事業による財務強化を重点施策としています。プライバシー技術である「INTMAX」との提携など技術力強化を図り、流出した事業・資産の回復を進めながら事業の再成長を目指します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
事業基盤の再構築に伴い、人と組織の成長を支援するため多様な人材が活躍できる職場環境づくりを進めています。柔軟な働き方を促進するためテレワークや時差出勤を導入し、ライフイベントと仕事の両立を支援する方針です。現在は人員採用と組織の再整備に注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年10月期 | 34.0歳 | 1.0年 | 6,000,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社および連結子会社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 継続企業の前提に関する重要事象
旧経営陣による臨時的な経営交代に伴い、主要な子会社や資産が譲渡等され、事業や人材を喪失したことで、売上高が激減し大幅な赤字を計上しています。収益基盤の早期確立と資金調達を急務としていますが、法的な資産回収対応の進捗によっては継続企業の前提に重要な不確実性が残るリスクがあります。
■(2) 多額の訴訟費用等の発生
不当に譲渡された子会社や流出資産を取り戻すため、旧経営陣や関係会社に対する法的対応を進めています。また、他社から損害賠償を求める訴訟も提起されており、これらの法的対応が長期化した場合、訴訟費用などの負担が増加し、業績にマイナスの影響を与える可能性があります。
■(3) 財務基盤の安定化に向けた課題
事業基盤の再構築に向け、運転資金や事業開発に必要な資金を安定的に確保する必要があります。しかし、資産流出により財務基盤が毀損している現状では、エクイティ・ファイナンスなどによる適時な資金調達が難航するリスクがあり、株式発行が既存株主の持分比率に影響を及ぼす可能性も考慮されています。



上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。