※本記事は、株式会社翻訳センター の有価証券報告書(第39期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 翻訳センターってどんな会社?
産業翻訳の最大手として、特許や医薬など専門性の高い分野で強みを持つ企業です。
■(1) 会社概要
1986年に医薬分野専門の翻訳サービス会社として設立されました。1997年に関西翻訳センターを吸収合併し現商号へ変更、2006年にはヘラクレス(現スタンダード市場)へ上場しました。その後、2012年にアイ・エス・エスを子会社化し通訳・派遣事業を強化、2024年には福山産業翻訳センターを子会社化するなど、M&Aを通じて事業基盤を拡大しています。
2025年3月31日時点で、従業員数は連結545名、単体381名です。筆頭株主は医療従事者向けプラットフォームを提供するエムスリーです。第2位は投資事業組合のUH Partners 2、第3位は通信サービスや電力小売り等を行う光通信です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| エムスリー | 19.78% |
| UH Partners 2 | 7.48% |
| 光通信 | 7.43% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性1名の計7名で構成され、女性役員比率は14.2%です。代表取締役社長は二宮俊一郎氏が務めています。社外取締役比率は42.9%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 二宮 俊一郎 | 代表取締役社長 | 1997年同社入社。経営企画室長、アイ・エス・エス社長等を経て、2018年より現職。 |
| 武山 佳憲 | 取締役営業統括(兼)医薬本部長医薬本部制作部長マーケティング部長 | 2000年同社入社。医薬営業部長、パナシア社長等を歴任し、2025年4月より現職。 |
| 魚谷 昌司 | 取締役管理統括(兼)経理部長 | 2002年同社入社。2014年経理部長を経て、2018年より現職。 |
| 西野 奈々 | 取締役業務統括 | 2002年同社入社。品質管理推進部長を経て、2025年4月より現職。 |
社外取締役は、大西耕太郎(公認会計士大西耕太郎事務所代表)、山本淳(弁護士法人堂島法律事務所弁護士)、村田淳一(元パナソニックITソリューションズ社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「翻訳事業」「派遣事業」「通訳事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 翻訳事業
特許、医薬、工業・ローカライゼーション、金融・法務の4分野を中心に、専門的な産業翻訳サービスを提供しています。特許出願明細書、新薬開発関連資料、技術仕様書、決算短信や株主総会招集通知など、高い専門性が求められる文書を扱います。
収益は、顧客企業から翻訳料として受け取ります。運営は同社に加え、メディア総合研究所、パナシア、福山産業翻訳センターが行っています。
■(2) 派遣事業
顧客企業に対し、機密保持等の理由で社外に持ち出せない文書の翻訳を行う翻訳者や、通訳業務に従事する通訳者の人材派遣を行っています。
収益は、顧客企業から派遣料金として受け取ります。運営はアイ・エス・エスが行っています。
■(3) 通訳事業
企業内で行われる会議や、中小規模の国際会議における通訳サービスを提供しています。オンサイト(対面)での通訳に加え、オンライン会議での通訳需要にも対応しています。
収益は、顧客企業から通訳料として受け取ります。運営はアイ・エス・エスが行っています。
■(4) その他
通訳者・翻訳者を養成する語学教育(アイ・エス・エス・インスティテュート)、外国出願用の特許明細書作成支援、音声・画像データの収集・分析支援などを行っています。なお、コンベンション事業は規模縮小に伴い、報告セグメントから除外され本区分に含まれています。
収益は、受講料や業務委託料として受け取ります。運営は同社、アイ・エス・エス、FIPASが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は100億円から110億円台で推移し、安定した収益基盤を維持しています。経常利益は9億円前後で推移しており、利益率は8%台を保っています。2025年3月期は微減収となったものの、当期純利益は増加しており、底堅い業績となっています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 99億円 | 103億円 | 109億円 | 113億円 | 112億円 |
| 経常利益 | 5億円 | 8億円 | 10億円 | 9億円 | 9億円 |
| 利益率(%) | 4.7% | 8.1% | 8.8% | 8.3% | 8.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 3億円 | 5億円 | 7億円 | 6億円 | 7億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上高は微減となりましたが、売上総利益は同水準を維持しています。営業利益率は約8%で安定しており、コストコントロールが適切に行われていることが分かります。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 113億円 | 112億円 |
| 売上総利益 | 53億円 | 53億円 |
| 売上総利益率(%) | 47.0% | 47.4% |
| 営業利益 | 9億円 | 9億円 |
| 営業利益率(%) | 8.0% | 7.9% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給与及び手当が20億円(構成比45%)、賞与引当金繰入額が3億円(同6%)を占めています。売上原価については、人件費や外注費が主な構成要素となっています。
■(3) セグメント収益
翻訳事業は特許分野の一部減少があったものの、医薬・金融分野が伸長し売上は横ばいでした。通訳事業はオンサイト需要の回復等により増収となりました。その他事業はコンベンション事業縮小により大幅な減収となりましたが、全体としては主力事業が堅調に推移しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 翻訳事業 | 85億円 | 85億円 | 9億円 | 8億円 | 9.1% |
| 派遣事業 | 12億円 | 12億円 | 0.4億円 | 0.3億円 | 2.6% |
| 通訳事業 | 11億円 | 12億円 | 1億円 | 1億円 | 7.5% |
| その他 | 6億円 | 3億円 | -2億円 | -0.1億円 | -3.0% |
| 調整額 | -0.4億円 | -0.3億円 | 0.0億円 | 0.0億円 | - |
| 連結(合計) | 113億円 | 112億円 | 9億円 | 9億円 | 7.9% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業で稼いだ資金(営業CFプラス)の一部を投資に回し(投資CFマイナス)、配当支払い等で財務CFもマイナスとなっている「健全型」のキャッシュ・フローです。安定した営業キャッシュ・フローを生み出しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 8億円 | 5億円 |
| 投資CF | -0.6億円 | -2億円 |
| 財務CF | -2億円 | -2億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は11.1%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は76.5%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「産業技術翻訳を通して、国内・外資企業の国際活動をサポートし、国際的な経済・文化交流に貢献する企業を目指す」ことを企業理念としています。高い専門性と顧客満足度を追求したランゲージサービスの提供により、顧客の企業価値向上に貢献することを目指しています。
■(2) 企業文化
「コンプライアンス重視」を基本的な経営方針の一つとして位置付け、グループ全体でリスク管理体制の整備に努めています。また、専門特化型の翻訳サービスを中核としつつ、通訳や派遣なども含めた総合的な言語サービス企業として、高い専門性と技術・ノウハウの蓄積を重視する風土があります。
■(3) 経営計画・目標
2026年3月期を初年度とする3ヵ年の中期経営計画を策定し、収益性と資本効率の向上に取り組んでいます。
* 営業利益:12億円
* 自己資本利益率(ROE):10%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
コアビジネスである翻訳事業の持続的成長に向け、AIやデータを活用した事業競争力の強化を掲げています。機械翻訳(MT)や大規模言語モデル(LLM)の活用、データドリブンな営業活動を推進します。また、プロジェクトマネージャの業務効率化による利益率向上や、資本効率を重視した事業ポートフォリオの最適化にも取り組む方針です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
専門性の高いサービスを提供するため、階層別研修やリーダー育成プログラムなどを通じ、従業員のスキル向上を推進しています。また、外部人材の積極採用により新たな知見を取り入れています。2024年度からは人事制度を刷新し、パフォーマンスに応じた処遇やエンゲージメント向上を図るとともに、デジタル人材の確保やIT投資も強化しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均(約598万円)をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 41.7歳 | 9.1年 | 5,479,413円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 48.8% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 76.2% |
| 男女賃金差異(正規) | 82.3% |
| 男女賃金差異(非正規) | 65.7% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性労働者比率(約70%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 需要変動リスク
主要顧客である特許事務所、製薬会社、製造業、金融機関等の業界動向や景気変動、または顧客の方針変更(内製化や委託先絞り込み)により、サービス需要が変動し、業績に影響を与える可能性があります。
■(2) ICTを活用した技術開発
AIを含むICT技術の進展により、機械翻訳などの新サービスが相次いで導入されています。同社グループにおいてこれらの技術開発への対応が遅れた場合、競争力が低下する可能性があります。また、新技術開発のための投資負担が業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 人材の確保・育成
翻訳・通訳・派遣事業はフリーランスの登録スタッフに業務を委託しているため、優秀な登録スタッフの確保が不可欠です。質的・量的に十分なスタッフを確保できない場合や、社内従業員の確保・育成が計画通り進まない場合、サービス品質や業績に影響を与える可能性があります。
■(4) コンプライアンス・情報管理
顧客の機密情報や個人情報を多数扱っているため、情報漏洩や不正アクセス等の防止が重要課題です。万が一情報漏洩が発生した場合、損害賠償や信用低下により業績に影響を与える可能性があります。また、著作権侵害等のトラブルが発生するリスクも存在します。



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