エス・エム・エス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

エス・エム・エス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場の同社は、医療・介護・ヘルスケア・シニアライフ領域で情報インフラを構築する事業を展開しています。キャリア分野や介護事業者向け経営支援プラットフォーム「カイポケ」が拡大し、売上高は前期比で増収となりましたが、人材採用や広告宣伝投資の増加により営業利益以下は減益となりました。


※本記事は、株式会社エス・エム・エスの有価証券報告書(第22期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月20日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. エス・エム・エスってどんな会社?

医療・介護・ヘルスケア・シニアライフ領域で、従事者や事業者をつなぐ情報インフラサービスを提供する企業です。

(1) 会社概要

2003年に設立され、ケアマネジャー向け人材紹介「ケア人材バンク」を開始しました。2008年に東証マザーズへ上場し、2011年に東証一部へ市場変更しました。2014年には介護事業者向け経営支援サービスを「カイポケ」としてリニューアルし、2015年にはAPACで医薬情報サービスを展開するMIMSグループを子会社化しています。

連結従業員数は4,528名、単体では3,049名です。筆頭株主は「МОRО合同会社」で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行です。同社は創業以来、高齢社会における社会課題解決を掲げ、情報の非対称性を解消するプラットフォーム事業を国内外で展開しています。

氏名 持株比率
МОRО合同会社 18.09%
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 12.69%
STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 7.36%

(2) 経営陣

同社の役員は男性5名、女性1名の計6名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表取締役社長は後藤 夏樹氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
後藤 夏樹 代表取締役社長指名・報酬諮問委員 アイ・ビー・エム ビジネスコンサルティング サービス等を経て、2007年同社入社。経営企画室長、管理本部長、海外事業本部長等を歴任。2014年4月より現職。
杉崎 政人 取締役経営管理本部長 三井リース事業等を経て、2009年同社入社。総務部長、経営管理部長を歴任し、2015年4月より経営管理本部長。2016年6月より現職。
髙畑 正樹 取締役MIMSグループCEO あずさ監査法人等を経て、2013年同社入社。MIMSグループCFOを経て、2021年3月よりMIMSグループCEO。2025年6月より現職。


社外取締役は、松林 智紀(元田辺総合法律事務所パートナー)、鈴村 豊太郎(元IBM Tokyo Research Laboratory主任研究員)、髙木 暢子(元監査法人トーマツ入所)です。

2. 事業内容

同社グループは、「キャリア分野」「介護・障害福祉事業者分野」「海外分野」「事業開発分野」事業を展開しています。

(1) キャリア分野

医療・介護・障害福祉従事者向けの人材紹介、求人情報、資格取得スクールなどを提供しています。看護師、介護職、保育士などの従事者と、人材を求める事業者のマッチングを行っています。

人材紹介等の成功報酬や求人広告掲載料等を事業者から受け取る収益モデルです。運営は主に同社および関連会社のエムスリーキャリアが行っています。

(2) 介護・障害福祉事業者分野

介護および障害福祉事業者に対し、経営支援プラットフォーム「カイポケ」を提供しています。保険請求機能に加え、業務効率化、採用、購買、金融支援などのサービスをワンストップで提供しています。

サービスの利用に伴う月額利用料やオプション料金等を事業者から受け取るサブスクリプションモデルが中心です。運営は同社が行っています。

(3) 海外分野

APAC地域を中心に、医療従事者や製薬会社等をつなぐメディカルプラットフォーム事業と、医療従事者のクロスボーダー就業を支援するグローバルキャリア事業を展開しています。

製薬会社等からのマーケティング支援料や、医療機関からの紹介手数料等が収益源です。運営は子会社のMIMSグループ等が各国の拠点で展開しています。

(4) 事業開発分野

健康保険組合向けの特定保健指導や企業向けのリモート産業保健サービスなどのヘルスケア領域、および高齢者の生活の困りごとを解決するシニアライフ領域のサービスを提供しています。

健康保険組合や企業からのサービス利用料、またはリフォーム事業者や葬儀社など提携事業者からの紹介手数料等が収益源です。運営は同社等が行っています。

3. 業績・財務状況

同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移

売上高は5期間を通じて継続的に増加しており、順調な事業拡大が続いています。一方、利益面では、直近において成長投資を積極的に行った影響などから、経常利益および当期純利益が減少に転じており、利益率は低下傾向にあります。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 360億円 389億円 457億円 540億円 610億円
経常利益 67億円 77億円 88億円 99億円 84億円
利益率(%) 18.5% 19.9% 19.2% 18.3% 13.7%
当期利益(親会社所有者帰属) 48億円 54億円 64億円 72億円 61億円

(2) 損益計算書

売上高は増加しましたが、積極的な投資により販売費及び一般管理費が増加したため、営業利益は減少しました。売上総利益率は高い水準を維持していますが、営業利益率は低下しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 540億円 610億円
売上総利益 475億円 539億円
売上総利益率(%) 88.1% 88.4%
営業利益 83億円 63億円
営業利益率(%) 15.3% 10.4%


販売費及び一般管理費のうち、給料手当が174億円(構成比37%)、広告宣伝費が125億円(同26%)を占めています。

(3) セグメント収益

全事業部門で増収となりました。特に介護・障害福祉事業者分野は会員増と有料オプション利用拡大により2割超の増収となり、事業開発分野も新規事業の進展により大きく伸長しました。キャリア分野も増収ですが、求職者の動向変化等により成長は限定的でした。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期)
キャリア分野 324億円 362億円
介護・障害福祉事業者分野 98億円 120億円
海外分野 90億円 94億円
事業開発分野 28億円 34億円
連結(合計) 540億円 610億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標

本業で得た資金を借入返済や投資に充てている健全型(営業CF+、投資CF-、財務CF-)です。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 98億円 58億円
投資CF -37億円 -41億円
財務CF -50億円 -41億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.3%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は61.5%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略

同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念

「高齢社会に適した情報インフラを構築することで人々の生活の質を向上し、社会に貢献し続ける」をグループミッションに掲げています。「医療」「介護/障害福祉」「ヘルスケア」「シニアライフ」を事業領域とし、従事者・事業者・エンドユーザをつなぐプラットフォームを情報インフラと定義しています。

(2) 企業文化

永続する企業グループとして成長し続けるため、「組織と個人の相互発展」と「経営プロセスの縦横リンク」を経営原則として掲げています。全ての従業員が自立的に経営プロセス(戦略・人材・オペレーション)を回す主体者となることを求め、個人の成長と組織の成長のサイクルを回し続けることを重視しています。

(3) 経営計画・目標

企業価値と関連する総合的な業績指標として、1株当たり当期純利益の継続的な成長を経営上の目標として重視しています。限られた経営資源を効率的に活用し、株主資本コストを超える高いROEを実現しながら成長を目指す方針です。

(4) 成長戦略と重点施策

キャリア分野では、人材紹介等に続く新たな成長事業を育成し、人手不足と偏在の解消を目指します。介護・障害福祉事業者分野では、「カイポケ」のサービス機能拡張や利用事業者数拡大により、経営支援プラットフォームとしての価値最大化を図ります。海外ではMIMSの基盤活用、事業開発分野では新規事業の開発・育成を推進します。

5. 働く環境

同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針

多様なバックグラウンドを持つ人材を採用し、「組織と個人の相互発展」を目指しています。19時30分の完全退館時刻設定やアニバーサリー休暇、育児・介護支援制度など、働きやすく働きがいのある環境整備に注力しています。また、1on1ミーティングや書籍購入制度等を通じ、従業員の自律的な成長を支援しています。

(2) 給与水準・報酬設計

同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 32.5歳 3.9年 5,129,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示

同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 19.1%
男性育児休業取得率 64.0%
男女賃金差異(全労働者) 74.5%
男女賃金差異(正規雇用) 75.0%
男女賃金差異(非正規雇用) 106.5%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、育休取得者の復職率(97.9%)、介護離職者数(3名)などです。

6. 事業等のリスク

事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 市場環境の変化

医療・介護・ヘルスケア等の領域は制度変更の影響を受けやすく、介護保険法や医療法、職業安定法等の改正により、有資格者の配置基準緩和や紹介手数料規制などが導入された場合、事業者の採用需要低下や手数料減少など、業績に悪影響を与える可能性があります。

(2) 競合環境の激化

高齢社会市場の拡大に伴い新規参入が増加し、競争が激化する可能性があります。特にキャリア分野では求職者獲得競争により広告宣伝投資が増加傾向にあり、十分な競争優位を維持できない場合、事業活動に悪影響が生じる可能性があります。

(3) カントリーリスク

APAC等の海外で事業を展開しており、各国固有の政治、経済、法規制、文化等の変化や予期せぬ事象が発生するリスクがあります。これらに適時適切に対応できない場合、海外事業の成長が阻害され、業績に影響を与える可能性があります。

(4) 人材の確保と育成

事業拡大には優秀な人材の確保が不可欠ですが、労働人口減少や人材獲得競争の激化により、必要な人材を十分に採用・育成・定着できない可能性があります。特にキャリアパートナー等の不足は、主力事業の遂行に支障をきたす恐れがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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