エス・エム・エス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

エス・エム・エス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

エス・エム・エスは東京証券取引所プライム市場に上場し、医療・介護・ヘルスケア分野における人材紹介や経営支援プラットフォームなど高齢社会に適した情報インフラを構築しています。直近の業績は、キャリア関連や介護経営支援事業が成長し増収となりましたが、海外事業での減損損失計上により最終赤字となっています。


※本記事は、エス・エム・エスの有価証券報告書(第23期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. エス・エム・エスってどんな会社?


医療・介護分野を中心に、従事者と事業者をつなぐ情報インフラを提供する企業です。

(1) 会社概要


2003年4月に設立され、同年5月に人材紹介サービスを開始しました。2006年に介護事業者向け経営支援ソフトを開始し、2008年3月に東証マザーズへ上場、2011年に東証一部(現プライム市場)へ移行しました。2015年にMIMSグループを子会社化し海外展開を加速し、近年も新規事業を拡大しています。

従業員数は連結で4,660名、単体で3,214名です。大株主については、筆頭株主はMORO合同会社で、第2位は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)です。

氏名 持株比率
MORO合同会社 18.72%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 11.19%
MISAKI ENGAGEMENT MASTER FUND 3.44%

(2) 経営陣


同社の役員は男性4名、女性2名の計6名で構成され、女性役員比率は33.3%です。代表取締役社長は髙畑正樹氏が務めています。社外取締役は5名選任されています。

氏名 役職 主な経歴
髙畑正樹 代表取締役社長経営管理本部長指名・報酬諮問委員 2007年あずさ監査法人入所、2011年フロンティア・マネジメント入社。2013年同社入社後、海外子会社CEO等を経て、2026年1月より現職。


社外取締役は、安田誠(元ブレインパッド代表取締役)、河﨑武士(ライフネット生命保険副社長CFO)、髙木暢子(公認会計士事務所代表・監査等委員長)、原田哲郎(元ドリームインキュベータ社長)、大田愛子(のぞみ総合法律事務所パートナー)です。

2. 事業内容


同社グループは、「キャリア分野」「介護・障害福祉事業者分野」「事業開発分野」「海外分野」の4分野で事業を展開しています。

キャリア分野


主に医療・介護・障害福祉の従事者を求める事業所に対し、求職者を紹介する人材紹介サービスや求人情報サービス、資格取得スクールなどを提供しています。

求職者が事業所に入職した時点で紹介手数料等を受け取るモデルです。運営は主にエス・エム・エスが行っています。

介護・障害福祉事業者分野


主に介護・障害福祉事業者に対し、保険請求の機能をはじめとした各種経営支援プラットフォーム「カイポケ」をクラウドを通じて提供しています。

申込に基づき会員となった事業者に向けてプラットフォームの利用環境を提供し、契約期間にわたって利用料を受け取るサブスクリプション型の収益モデルです。運営は同社が行っています。

海外分野


主にAPAC地域の医療やヘルスケアの事業者向けにマーケティング支援サービスや、医療機関向けに処方箋エラーチェック用のデータベースを提供しています。

イベント開催等のマーケティング支援や、データベースの契約期間にわたる利用料が収益源となります。運営はMIMS PTE. LTD.をはじめとする海外子会社各社が行っています。

事業開発分野


健康保険組合向けに遠隔での特定保健指導サービス、企業向けにリモート産業保健サービス、エンドユーザ向けに特定テーマの事業者を紹介するサービスなどを提供しています。

サービスの提供や、プラットフォームを通じて提携事業者とエンドユーザが契約した時点での仲介手数料が収益源です。運営は同社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高は一貫して増加傾向にあり、順調な事業成長が伺えます。経常利益は安定して推移していますが、利益率は低下傾向にあります。直近の期では海外事業における減損損失の計上により、親会社株主に帰属する当期純損失となっています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 389億円 457億円 540億円 610億円 647億円
経常利益 77億円 88億円 99億円 84億円 87億円
利益率(%) 19.9% 19.2% 18.3% 13.7% 13.5%
当期利益(親会社所有者帰属) 54億円 64億円 72億円 61億円 -143億円

(2) 損益計算書


売上高、売上総利益ともに前期から増加しており、高い売上総利益率を維持しています。営業利益率も約10%で安定して推移しており、本業における収益性は堅調です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 610億円 647億円
売上総利益 539億円 571億円
売上総利益率(%) 88.4% 88.2%
営業利益 63億円 68億円
営業利益率(%) 10.3% 10.5%


販売費及び一般管理費のうち、給料手当が178億円(構成比35%)、広告宣伝費が140億円(同28%)を占めています。

(3) セグメント収益


各事業部門の売上高を見ると、キャリア分野や介護・障害福祉事業者分野が順調に成長し増収を牽引しています。一方、海外分野は一部顧客のマーケティング予算縮小等の影響により、前期比で減収となりました。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
キャリア分野 362億円 383億円
介護・障害福祉事業者分野 120億円 137億円
海外分野 94億円 89億円
事業開発分野 34億円 39億円
合計 610億円 647億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFがプラス、投資CFと財務CFがマイナスの「健全型」です。営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業の状態を示しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 58億円 88億円
投資CF -41億円 -41億円
財務CF -41億円 -73億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-38.9%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は50.2%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「高齢社会に適した情報インフラを構築することで人々の生活の質を向上し、社会に貢献し続ける」ことをグループミッションに掲げています。「医療」「介護・障害福祉」「ヘルスケア」「シニアライフ」を事業領域とし、生活の質の向上への貢献を目指しています。

(2) 企業文化


企業文化の根幹には、「組織と個人の相互発展」と「経営プロセスの縦横リンク」という経営原則があります。組織の成長によって生まれる機会を個人に提供して成長を促し、全員が主体者として経営プロセスを回すことで、組織一丸となって社会への貢献を増やす価値観を重視しています。

(3) 経営計画・目標


同社グループは、限られた経営資源を効率的に活用し、株主資本コストを超える高いROEを実現しながら、売上高およびEBITDAを継続的に成長させていくことを目指しています。

* 2031年3月期目標 売上高:1,220億円以上
* 2031年3月期目標 EBITDA:280億円以上
* 2031年3月期目標 ROE:30%以上

(4) 成長戦略と重点施策


「企業価値最大化に向けたロードマップ」を策定し、労働集約型モデルからAIやデータを徹底活用した資本集約型モデルへの進化を図ります。事業の選択と集中を通じた共創型ポートフォリオ経営を実践し、キャリア事業や介護経営支援事業で独自のSaaS拡張等を推進し、圧倒的な事業成長を目指します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


最大の経営資源を「人材」と位置づけ、ミッション実現のために自律的に成長し価値を創出する次世代・デジタル人材の確保と育成に注力しています。個人の能力を引き出す労働環境の整備やウェルビーイングの推進、多様な個性を持つ人材が活躍できる組織作りを人的資本戦略の基本方針としています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 32.8歳 4.3年 5,179,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 19.6%
男性育児休業取得率 93.0%
男女賃金差異(全労働者) 74.0%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 74.0%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 112.5%


また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、ワーク・エンゲージメント(3.3)、離職率(11.3%)、健康診断受診率(100.0%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 医療・介護分野等の市場環境の変化


医療法や介護保険法、職業安定法等の改正や規制の強化・緩和により、事業者の採用需要が低下したり、手数料に影響が及んだりするリスクがあります。同社は法制度等の動向を注視し、経営・事業戦略に適時適切に反映する体制を整えています。

(2) 高齢社会領域における競争激化


医療、介護・障害福祉、ヘルスケア等の市場拡大に伴い新規参入が増加し、競争環境が激化するリスクがあります。同社はキャリアパートナーの積極的な採用やAIを活用した生産性向上、ダイレクトリクルーティングへの投資などで独自のポジションを確立します。

(3) 海外展開に伴うカントリーリスク


APAC地域などを中心とする海外事業展開において、各国の政治、経済、法規制、税制、文化の違いなど予期せぬ事象が発生するリスクがあります。同社はシンガポールの統括拠点と日本本社の連携を通じ、現地の情報収集と適切な対応を図っています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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