※本記事は、アステリア株式会社 の有価証券報告書(第27期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月20日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. アステリアってどんな会社?
企業内のシステム連携やモバイル活用を支援する「つなぐ」ソフトウェア製品の開発・販売と、海外企業への投資事業を展開するIT企業です。
■(1) 会社概要
1998年9月に平野洋一郎氏と北原淑行氏により設立され、2007年6月に東証マザーズへ上場しました。2018年3月に東証一部へ市場変更し、同年10月に現商号へ変更しています。2019年10月には米国に投資専門子会社を設立し、投資事業を本格化させました。2022年4月の市場区分見直しに伴い、現在は東証プライム市場に上場しています。
2025年3月31日現在、連結従業員数は139名、単体従業員数は112名です。筆頭株主は創業者の平野洋一郎氏で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位は創業者の北原淑行氏です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 平野 洋一郎 | 11.07% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 10.39% |
| 北原 淑行 | 5.28% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性3名の計9名で構成され、女性役員比率は33.3%です。代表取締役社長は平野洋一郎氏が務めています。社外取締役比率は44.4%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 平野 洋一郎 | 代表取締役社長 | 熊本大学工学部中退後、キャリーラボ設立参画。ロータス(現日本IBM)を経て1998年9月に同社設立、代表取締役社長就任。2023年より京都大学経営管理大学院特命教授を兼務し現職。 |
| 北原 淑行 | 取締役副社長 | 日本デジタルイクイップメント、キヤノン、ロータスを経て1998年9月に同社設立、常務取締役就任。2015年執行役員副社長、2016年最高技術責任者を経て2019年より現職。 |
社外取締役は、五味廣文(元金融庁長官)、Anis Uzzaman(Pegasus Tech Ventures CEO)、時岡真理子(East Meet East CEO)、正宗エリザベス(元オーストラリア政府外交官)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ソフトウェア事業」および「投資事業」を展開しています。
■(1) ソフトウェア事業
企業内外のシステム連携を実現する「ASTERIA Warp」、モバイルアプリ作成ツール「Platio」、AI搭載IoT統合エッジウェア「Gravio」などの開発・販売を行っています。受託開発ではなく、不特定多数の企業に向けたパッケージソフトウェアやクラウドサービスの提供を主力としています。
収益は、ソフトウェアの利用対価としてのライセンス料、継続的なサブスクリプション利用料、および製品のサポート料から構成されています。運営は主にアステリアが行っています。
■(2) 投資事業
米国子会社が管理するファンドを通じ、ソフトウェア事業の研究開発領域である「4D」(Data, Device, Decentralized, Design)に関連する企業への投資を行っています。単なるリターンだけでなく、中長期的なシナジー創出も目指しています。
収益は、投資先企業の公正価値評価による評価益や、株式売却による売却益などから構成されます。運営はAsteria Vision Fund Inc.が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上収益は30億円前後で安定的に推移していますが、利益面では投資事業における保有有価証券の評価損益の影響を大きく受ける傾向があります。第25期、第26期は投資先の評価損等により大幅な赤字を計上しましたが、当期(第27期)は主力ソフトウェア製品の伸長と投資事業の評価益計上により、全ての利益段階で黒字転換を果たしました。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 27億円 | 30億円 | 28億円 | 29億円 | 32億円 |
| 税引前利益 | 10億円 | 40億円 | -18億円 | -32億円 | 8億円 |
| 利益率(%) | 38.2% | 134.3% | -63.0% | -111.4% | 24.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 8億円 | 25億円 | -17億円 | -18億円 | 6億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は前期比で増加し、利益面では営業損益が前期の大幅な赤字から黒字へと劇的に改善しました。これはソフトウェア事業のサブスクリプション売上が順調に拡大したことに加え、投資事業における評価損益が改善したことが主な要因です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 29億円 | 32億円 |
| 売上総利益 | 24億円 | 26億円 |
| 売上総利益率(%) | 81.3% | 82.2% |
| 営業利益 | -36億円 | 8億円 |
| 営業利益率(%) | -125.2% | 24.6% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が14億円(構成比66%)、減価償却費及び償却費が2.4億円(同11%)、研究開発費が2.4億円(同11%)を占めています。売上原価においては、従業員給付費用が構成比の多くを占める構造となっています。
■(3) セグメント収益
ソフトウェア事業は、「Warp」や「Platio」などのサブスクリプション製品が好調で増収となりました。報告セグメントとしては「投資事業」も存在しますが、外部売上収益は計上されていません(投資損益として計上)。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) |
|---|---|---|
| ソフトウェア事業 | 29億円 | 32億円 |
| 連結(合計) | 29億円 | 32億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
**パターン:改善型**
本業の営業活動でキャッシュを稼ぎ出し(プラス)、投資の回収等により投資CFもプラスとなりました。これらの資金を用いて借入金の返済(財務CFマイナス)を進めており、財務体質の改善が進んでいる局面といえます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 6.3億円 | 8.3億円 |
| 投資CF | -4.3億円 | 7.7億円 |
| 財務CF | -3.1億円 | -5.2億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は10.1%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は83.0%で市場平均を大きく上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「組織を超えた連携を実現するソフトウェアを開発し世界規模で提供する」ことをミッションとして掲げています。「ソフトウェアで世界をつなぐ」をコンセプトに、「つなぐ」エキスパートとして社会的な価値を生み出し、社会貢献を目指しています。また、売上収益は社会に生み出した価値、利益はその価値と消費した価値の差分であると定義しています。
■(2) 企業文化
社会や労働環境の変化に対応し、自律的な働き方を推奨する文化があります。2011年からテレワークを導入し、場所にとらわれない働き方を実践しているほか、性別や国籍等を問わないダイバーシティを推進しています。また、リスク管理やコンプライアンスを重視しつつ、新しい技術や市場へ積極的に挑戦する姿勢を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
2025年3月期から2029年3月期までの中期経営目標期間において、以下の数値目標を掲げています。
* 連結売上高:年平均8〜12%の成長率
* 調整後営業利益(EBITDA)率:25%(2029年3月期)
* 連結配当性向:30%(一過性損益を除く)
■(4) 成長戦略と重点施策
「Data(データ)」「Device(デバイス)」「Decentralized(分散化)」「Design(デザイン)」の4つの「D」領域への投資と製品開発を加速させています。具体的には、クラウド連携、AI連携、IoT/エッジコンピューティング連携、ロボティクス支援の4市場に注力し、各分野での地位確立を目指します。また、多言語対応製品を活用した海外市場への展開も強化方針です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「ウェルビーイング向上と生産性向上の両立」と「ダイバーシティの推進」を戦略の柱としています。全社的なテレワーク導入やジョブ型評価システムの採用により、多様な人材が柔軟に働ける環境を整備しています。また、開発・マーケティング・営業などあらゆる職能において優秀な人材を確保・育成し、マルチプロダクト化やグローバル化に対応できる組織基盤の強化を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 41.8歳 | 8.8年 | 8,334,084円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 23.9% |
| 男性育児休業取得率 | - |
| 男女賃金差異(全労働者) | - |
| 男女賃金差異(正規) | - |
| 男女賃金差異(非正規) | - |
※同社は公表義務の対象ではないため(男性育児休業取得率)、および常時雇用する労働者が101人以上300人以下の事業主のため(男女賃金差異)、有報には本項の記載がありません。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、非日本人比率(8%)、育児休業からの復帰率(100%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 海外事業の展開について
同社グループは積極的に海外展開を行っていますが、進出国における法令、政治、経済の変化、文化や宗教等のカントリーリスクが存在します。不測の事態による事業推進の障害や、為替相場の変動が業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 新製品・新サービスについて
技術革新のスピードが速いソフトウェア業界において、市場ニーズや技術変化を予測し、魅力的な新製品をタイムリーに開発する必要があります。予測の見込み違いや他社製品との競合により、計画通りの収益が確保できない場合、業績に影響を与える可能性があります。
■(3) 投資・M&Aについて
中長期的な成長のために戦略的投資を行っていますが、デューデリジェンスで想定されなかった事象の発生や、投資後の事業展開の遅れにより、期待した効果が得られない可能性があります。また、投資先企業の価値下落による減損処理が必要となる場合も考えられます。
■(4) 人材の確保について
良質な製品を提供し続けるためには、高い能力と志を持つ人材の確保が不可欠です。事業拡大に伴い優秀な人材の採用・育成に注力していますが、十分な人材を確保できない場合、事業展開や業績に影響を及ぼす可能性があります。



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