アルピコホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

アルピコホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所スタンダード市場に上場するアルピコホールディングスは、長野県を中心に食品スーパーなどを展開する流通事業や、バス・鉄道等の運輸事業、ホテル等の観光事業を展開しています。直近の業績は、売上高が前期比増収、営業利益も増益と堅調に推移しています。


※本記事は、アルピコホールディングス株式会社の有価証券報告書(第18期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. アルピコホールディングスってどんな会社?


長野県を基盤に、流通事業や運輸事業、観光事業などの多角的なサービスを展開する企業です。

(1) 会社概要


同社グループの起源は、1920年に設立された筑摩鉄道(後の松本電気鉄道)に遡ります。その後、1968年に松電商事(現デリシア)を設立してスーパーマーケット事業へ参入し、事業領域を拡大しました。2008年には株式移転により持株会社として同社が設立され、2024年に東京証券取引所スタンダード市場へ上場を果たしました。

現在は連結で1,989名、単体で45名の従業員を擁し、長野県内で確固たる地位を築いています。筆頭株主は事業会社のサンリンで、第2位は高沢産業、第3位はキッセイ薬品工業です。

氏名 持株比率
サンリン 9.23%
高沢産業 7.38%
キッセイ薬品工業 5.80%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性2名の計13名で構成され、女性役員比率は15.4%です。代表取締役社長は佐藤裕一氏が務めています。取締役9名のうち、2名が社外取締役です。

氏名 役職 主な経歴
佐藤裕一 代表取締役社長(担当)経営全般監査部 八十二銀行入行後、同行常務取締役などを経て、2022年より代表取締役社長。アルピコ交通やアルピコホテルズ等の取締役を兼任し現在に至る。
伊藤篤 常務取締役(担当)シェアード財務経理部、総務人事部、ガバナンス推進室 八十二銀行入行後、各支店長を歴任。アルピコタクシー代表取締役社長等を経て、2023年同社入社。2025年より常務取締役。
今村正平 取締役(担当)経営企画部、ICT推進室、インバウンド&マーケティング推進室 松本電気鉄道入社後、アルピコ交通人事部長や取締役関連事業本部長等を歴任。2024年より同社取締役。アルピコホテルズ等の取締役も兼任。
萩原清 取締役 丹平中田等を経て、2007年にマツヤ(現デリシア)入社。同社代表取締役社長を経て、2018年より同社取締役。アルコアセットデザイン取締役も兼任。
小林史成 取締役 松本電気鉄道入社後、同社経営企画部長やアルピコ交通代表取締役社長を歴任。2015年より同社取締役。松電事業協同組合代表理事も兼任。
三輪裕彦 取締役 日本アジア投資等を経て、2012年同社入社。経営企画部長やアルピコリゾート&ライフ代表取締役社長を歴任。2022年より同社取締役。
野村幸一郎 取締役 安田火災海上保険入社後、各支店長や部長を歴任。2019年にアルピコ保険リースへ出向し、2020年より同社代表取締役社長。2024年より同社取締役。


社外取締役は、赤廣三郎(元松本商工会議所専務理事)、堀越倫世(アスター税理士法人代表社員税理士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「流通事業」「運輸事業」「観光事業」「不動産事業」「その他のサービス事業」を展開しています。

流通事業


長野県内で食品スーパー「デリシア」や「業務スーパー及びユーパレット」など計61店舗を展開しています。鮮度や品質を重視する上質なスーパーと、価格重視の異なる店舗フォーマットを展開するほか、移動スーパーやネットスーパー、無人決済店舗なども展開し、多様な顧客ニーズに対応しています。

収益源はスーパーマーケットなどでの商品販売代金です。運営は主にデリシアが行っており、医薬品販売事業はマックドラッグが担当しています。

運輸事業


長野県内外を結ぶ高速バス、上高地などの観光路線バス、一般路線バス、貸切バスのほか、鉄道やタクシーの運行、自動車整備を行っています。観光客や地域住民が主な顧客であり、特に観光路線バスは同事業の重要な収入源となっています。

収益源はバス、鉄道、タクシーなどの旅客運賃や車両整備費用です。運営は主にアルピコ交通やアルピコタクシーが担っています。

観光事業


長野県内を中心にホテルや旅館、高速道路のサービスエリア、ゴルフ場などを運営し、旅行商品の企画販売も行っています。国内外の観光客やビジネス客を対象に、広範なインバウンド需要も取り込みながらサービスを提供しています。

収益源はホテルや旅館の宿泊料、サービスエリアでの商品販売、旅行商品の販売代金などです。運営はアルピコホテルズ、アルピコ交通、アルピコ長野トラベル、アルピコリゾート&ライフなどが行っています。

不動産事業


松本市や長野市などの長野県内で自社保有の土地や建物を法人に対して賃貸するほか、蓼科高原などで別荘地の管理や建築、リフォーム、温泉供給などを行っています。リモートワークや二地域居住の普及を背景に展開しています。

収益源は不動産の賃貸料や別荘地の販売、管理費などです。運営はアルピコ交通、アルピコリゾート&ライフ、アルピコ蓼科高原リゾートが行っています。

その他のサービス事業


長野県内において、同社グループ従業員や地域のお客様に対して幅広い種類の保険の販売を中心にサービスを提供しています。

収益源は保険の販売に伴う手数料などです。運営は主にアルピコ保険リースや松電事業協同組合が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、営業収益は順調に拡大を続けています。経常利益と当期利益についても、初年度の損失から翌期には黒字へ転換し、その後も右肩上がりで成長しており、着実な収益性の改善と業績拡大が続いています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
営業収益 878億円 926億円 996億円 1038億円 1074億円
経常利益 -6億円 5億円 21億円 31億円 36億円
利益率(%) -0.7% 0.6% 2.1% 2.9% 3.3%
当期利益(親会社所有者帰属) -6億円 1億円 9億円 23億円 20億円

(2) 損益計算書


営業収益と各種利益はともに増加しており、安定した成長を維持しています。増収効果に加えて利益率も改善しており、本業における効率的な運営が進んでいることがうかがえます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業収益 1038億円 1074億円
売上総利益 314億円 330億円
売上総利益率(%) 30.3% 30.7%
営業利益 34億円 39億円
営業利益率(%) 3.3% 3.6%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給料手当が146億円(構成比50.2%)、減価償却費が32億円(同11.0%)を占めています。

(3) セグメント収益


主力となる流通事業では、新規店舗のオープンや商品価格の見直しにより増収増益となっています。運輸事業と観光事業も観光客の増加や価格改定等の効果が寄与し、大幅な増益を達成しました。一方で、不動産事業やその他のサービス事業ではコスト増等の影響で減益となりました。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
流通事業 767億円 787億円 16億円 17億円 2.2%
運輸事業 133億円 142億円 16億円 21億円 14.8%
観光事業 121億円 127億円 5億円 6億円 4.7%
不動産事業 14億円 14億円 2億円 1億円 7.1%
その他のサービス事業 6億円 6億円 0.7億円 0.5億円 8.3%
調整額 -3億円 -3億円 -5億円 -7億円 -
連結(合計) 1038億円 1074億円 34億円 39億円 3.6%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスであり、営業活動で得た資金をもとに投資を行い、有利子負債の返済も進めている「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.3%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は26.0%で市場平均を下回っています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 25億円 63億円
投資CF -20億円 -54億円
財務CF 2億円 -17億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


経営理念として「アルピコグループは、信州に暮らす人々とその素晴らしい自然環境を愛し『安全・安心』『便利』『快適』『楽しさ・ときめき』『知識』の提供を通じて豊かな地域社会の実現に貢献します」と掲げています。地域に密着し、持続的な発展を目指す姿勢が示されています。

(2) 企業文化


行動指針において「アルピコグループの宝は地域のお客様からの信頼です。私たちはお客様の満足でNo.1を目指し、誠実に行動します」と定めています。顧客満足度を第一に考え、誠実な行動を通じて地域社会からの信頼を獲得し続けることを重視しています。

(3) 経営計画・目標


長期経営方針として「ALPICO VISION 2035」を策定し、2035年には「『楽しさ・ときめき』を創出し、付加価値を高めることで、持続的な地域の発展に貢献している企業グループ」となることを目指しています。その実現に向け、「中期経営計画 2024-2026」を通じて事業の成長と改革を推進しています。

(4) 成長戦略と重点施策


「中期経営計画 2024-2026」において、以下の4つの事業戦略を掲げています。M&Aの推進や事業エリアの深耕・拡大による成長の加速、柔軟で適応力のある組織づくり、人材への投資強化、そして地域に根差す企業グループとして持続可能な社会実現への貢献です。各事業において生産性向上や高付加価値化を進めています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「企業価値創造の源泉は人材にある」との認識のもと、グループ人事基本理念を掲げています。多角的な事業基盤を活かした専門性の育成や次世代リーダーの選抜を行い、ダイバーシティの推進や働きがいの向上を通じて、全従業員が最大限の能力を発揮できる環境整備に取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 47.1歳 11.0年 5,526,926円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 4.3%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 57.3%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 79.5%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 108.4%

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 災害・感染症等の発生リスク


豪雨や地震などの自然災害、あるいは重篤な感染症が発生した場合、事業所や設備の被災による事業停止や、旅行客の著しい減少などが懸念されます。同社は長野県内に拠点が集中しているため、大規模災害時には事業継続が困難となり、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 燃料費や原材料費の高騰


世界的な原油価格や原材料の高騰、為替相場の変動などが生じた場合、運輸事業における燃料費の増大や、流通・観光事業における仕入価格および電気・ガス料金の上昇に直結します。これらのコスト増加が適切に価格転嫁できない場合、同社グループの収益性が低下するリスクがあります。

(3) 人的資源の確保と競合激化


各事業の成長には優秀な人材の確保と育成が不可欠ですが、労働力不足によって人件費が急増したり事業展開に支障をきたしたりするリスクがあります。また、流通事業での積極的な新規出店やネットスーパーの台頭、観光事業での県外資本ホテルの進出など、競合環境の変化も業績に影響を及ぼす要因となります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。