※本記事は、ENEOSホールディングス株式会社の有価証券報告書(第16期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. ENEOSホールディングスってどんな会社?
同社は石油製品の製造・販売をはじめ、エネルギー・素材事業をグローバルに展開する企業です。
■(1) 会社概要
同社は2010年に新日本石油と新日鉱ホールディングスの経営統合により設立されました。2017年に東燃ゼネラル石油を完全子会社化してJXTGホールディングスへ商号変更し、2020年にENEOSホールディングスへと社名を変更しました。2024年にグループ内の組織再編を実施し、2025年にはJX金属を持分法適用会社へ移行させています。
現在の従業員数は連結で34,099名、単体で1,207名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位も信託業務を行う日本カストディ銀行(信託口)、第3位は海外の信託銀行です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 15.36% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.24% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 | 2.68% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性4名の計10名で構成され、女性役員比率は40.0%です。代表取締役社長社長執行役員は宮田知秀氏です。社外取締役は7名で、比率は70.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 宮田知秀 | 代表取締役社長執行役員 | 1990年東燃入社。東燃ゼネラル石油専務取締役等を経て、2022年よりENEOS代表取締役副社長執行役員。2024年より現職。 |
| 田中聡一郎 | 代表取締役副社長執行役員CFO | 1987年日本石油入社。JXTGエネルギー執行役員等を経て、2020年ENEOS常務執行役員。2024年より現職。 |
| 塩田智夫 | 取締役常勤監査等委員 | 1988年日本石油入社。JXTGエネルギー執行役員、ENEOS社長付等を経て、2023年より現職。 |
社外取締役は、冨田哲郎(元東日本旅客鉄道社長)、岡俊子(元アビームM&Aコンサルティング社長)、川崎博子(元NTTドコモ執行役員)、真茅久則(元富士フイルムビジネスイノベーション社長)、栃木真由美(元S&Pグローバル・レーティング・ジャパン執行役員)、菅野博之(元最高裁判所判事)、豊田明子(元PwCアドバイザリーパートナー)です。
2. 事業内容
同社グループは、「石油製品ほか」「石油・天然ガス開発」「機能材」「電気」「再生可能エネルギー」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 石油製品ほか
同セグメントでは、ガソリンや灯油、潤滑油などの石油製品、石油化学製品、ガスなどの製造および販売を行っています。また、持続可能な航空燃料(SAF)や水素、合成燃料などの次世代エネルギー事業も推進しています。
収益は主に、これらの製品を国内外の顧客へ販売することによる対価として得ています。運営は主にENEOSが行っています。
■(2) 石油・天然ガス開発
同セグメントでは、石油や天然ガスなど鉱物・エネルギー資源の探鉱、開発、生産、販売を行っています。また、二酸化炭素の回収・輸送・貯留(CCS/CCUS)に関する環境対応型事業にも取り組んでいます。
収益は、原油や天然ガスなどの資源を顧客に販売することによる対価として得ています。運営は主にENEOS Xploraが行っています。
■(3) 機能材
同セグメントでは、タイヤ材料として使用される合成ゴムや特殊合成ゴム、二次電池材料、熱可塑性エラストマー、高機能ポリマーなどの機能性素材の製造および販売を行っています。
収益は、これらの機能性素材や化学品を自動車産業などの顧客へ販売することによる対価として得ています。運営は主にENEOSマテリアルが行っています。
■(4) 電気
同セグメントでは、火力発電などの発電事業、電力の調達・販売、都市ガス事業、海外再生可能エネルギー事業などを展開しています。
収益は、顧客との電力受給契約に基づく電力販売や、日本卸電力取引所を通じた電力の卸売による対価として得ています。運営は主にENEOS Powerが行っています。
■(5) 再生可能エネルギー
同セグメントでは、太陽光、陸上風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーを用いた発電所の開発や、発電した電力の販売事業を展開しています。
収益は、再生可能エネルギー発電所から供給される電力を顧客に販売することによる対価や、関連する補助金などとして得ています。運営は主にENEOSリニューアブル・エナジーが行っています。
■(6) その他
その他の事業として、アスファルト舗装や土木工事、建築工事などの建設事業、非鉄金属製品の製造・販売事業、不動産賃貸事業などを展開しています。
収益は、建設工事における工事請負契約に基づく進捗に応じた対価や、非鉄金属製品の販売、不動産の賃貸料などから得ています。運営はNIPPOなどが担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上収益は直近5期間で増減を繰り返しており、一時15兆円を超えましたが当期は減少に転じています。一方、税引前利益と当期利益は前期から大きく回復し、利益率は3パーセント台まで改善しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 10兆9,218億円 | 15兆167億円 | 12兆3,446億円 | 12兆3,225億円 | 11兆7,655億円 |
| 税引前利益 | 7,718億円 | 2,574億円 | 3,679億円 | 882億円 | 4,488億円 |
| 利益率(%) | 7.1% | 1.7% | 3.0% | 0.7% | 3.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 5,371億円 | 1,438億円 | 2,881億円 | 2,261億円 | 2,587億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の傾向として、売上高は減少したものの、売上原価の減少幅が大きく売上総利益は増加しています。さらに営業利益は大幅な増益となり、収益性が大きく改善しました。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 12兆3,225億円 | 11兆7,655億円 |
| 売上総利益 | 1兆1,038億円 | 1兆2,234億円 |
| 売上総利益率(%) | 9.0% | 10.4% |
| 営業利益 | 1,061億円 | 4,666億円 |
| 営業利益率(%) | 0.9% | 4.0% |
売上原価、販売費及び一般管理費の合計のうち、材料費及び商品等払出原価が8兆8,076億円(構成比77%)、燃料費が4,435億円(同4%)、減価償却費及び償却費が3,292億円(同3%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の石油製品ほかセグメントは減収となったものの、製油所稼働率の改善や輸出対応等により大幅な増益を達成しました。一方、石油・天然ガス開発セグメントや機能材セグメントは市況の下落等の影響で減益となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 石油製品ほか | 10兆9,023億円 | 10兆3,418億円 | -507億円 | 2,924億円 | 2.8% |
| 石油・天然ガス開発 | 2,428億円 | 2,167億円 | 874億円 | 508億円 | 23.4% |
| 機能材 | 3,443億円 | 3,365億円 | 177億円 | 111億円 | 3.3% |
| 電気 | 3,132億円 | 3,322億円 | 210億円 | 220億円 | 6.6% |
| 再生可能エネルギー | 433億円 | 469億円 | -169億円 | -9億円 | -1.9% |
| その他 | 4,765億円 | 4,914億円 | 504億円 | 928億円 | 18.9% |
| 調整額 | -億円 | -億円 | -28億円 | -15億円 | -% |
| 連結(合計) | 12兆3,225億円 | 11兆7,655億円 | 1,061億円 | 4,666億円 | 4.0% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスであることから、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う健全型のキャッシュ・フロー状況といえます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 5,768億円 | 6,200億円 |
| 投資CF | 1,308億円 | -2,520億円 |
| 財務CF | -6,304億円 | -3,610億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.0%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は57.5%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「ENEOSグループ理念」として、「地球の力を、社会の力に、そして人々の暮らしの力に。エネルギー・資源・素材における創造と革新を通じて、社会の発展と活力ある未来づくりに貢献します。」と掲げています。また、事業環境が転換期を迎える中、「『今日のあたり前』を支え、『明日のあたり前』をリードする。」という新たな決意を示しています。
■(2) 企業文化
ENEOSグループ理念において、「安全・環境・健康」を大切にしたい価値観として掲げています。また、「安心して誇りを持って働ける企業文化づくり」を推進し、健康経営、働きやすさ(心理的安全性の確保、多様性の受容)、働きがい(存在承認を前提とする組織づくり)の3つに焦点を当て、従業員がエンゲージメント高く働ける文化の定着を目指しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は第4次中期経営計画(2025-2027年度)を策定しており、各種施策を通じて企業価値の最大化を目指しています。2026年度の見通しとして、以下の数値目標を掲げています。
* 売上高:12兆8,500億円
* 営業利益:6,100億円
* 営業利益相当額(在庫影響除き):5,900億円
■(4) 成長戦略と重点施策
企業価値の向上に向け、第4次中期経営計画の柱である「筋肉質な経営体質への転換」と「ポートフォリオ再編」を推進しています。既存事業の徹底的な効率化を図るため、グループ会社の再編やAIの活用を推進し、組織のスリム化を目指しています。また、戦略的投資として、成長市場である東南アジアおよび豪州における石油精製・販売事業のM&Aを決定するなど、海外アセットの獲得による事業基盤の強化を図っています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は人的資本経営の考え方に立脚し、「適所適材を基本とする効果的な制度の具現・実行」と「安心して誇りを持って働ける企業文化づくり」の2本柱を推進しています。戦略的育成が必要なキーポジションにおいて要件を明確化し、適所適材の配置と将来に向けた経営人材層の拡充を図るとともに、心理的・身体的安全性の確保や多様な働き方を推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 43.8歳 | 17.4年 | 11,376,982円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 12.5% |
| 男性育児休業取得率 | - |
| 男女賃金差異(全労働者) | - |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | - |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | - |
※男性育児休業取得率および男女賃金差異について、同社は出向元の会社で算出しているため、有報には単体の数値の記載がありません。
また、同社は「人的資本経営」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、1人当たり教育投資額(8.2万円)、プレゼンティーイズム(20.4%)、働きがいスコア(64%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 市場リスクと商品価格変動
同社グループは、石油製品や石油化学製品、電力などの販売および原料となる原油などの購入を行っています。これらの価格は商品市場価格の変動に影響されるため、原油価格や石油製品市況、為替相場などの動向によってはマージンが大きく変動し、同社グループの財政状態や経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 環境規制に関するリスク
同社グループの事業は広範な環境規制の適用を受けています。環境汚染や規制に違反する事象が発生した場合には、罰金や賠償金の支払いを求められ、操業の継続が困難となる可能性があります。また、将来的に規制が強化された場合、対応するための義務や負担が増加し、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 国内石油製品の需要変動
同社グループが提供する製品やサービスの需要は、各国の経済状況や社会情勢の影響を強く受けます。特に国内の石油製品需要については、脱炭素社会の実現に向けた動きや低燃費車の普及、ガス・電気などへのエネルギー転換の進展により、構造的な減少が予想されており、急激な変動が業績に影響を及ぼす可能性があります。



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