※本記事は、さくらインターネット株式会社 の有価証券報告書(第26期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月16日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. さくらインターネットってどんな会社?
1996年の創業以来、データセンター運営とホスティングサービスを主力とする独立系インターネットインフラ企業です。
■(1) 会社概要
同社は1996年の創業後、1999年に設立されレンタルサーバサービスの提供を開始しました。2005年に東京証券取引所マザーズへ上場し、2011年には北海道石狩市に大規模データセンターを開所しました。2015年に東京証券取引所市場第一部へ市場変更し、2016年にはセキュリティ事業を行うゲヒルンを子会社化しました。
2025年3月31日現在、同社グループの従業員数は連結997名(単体817名)です。筆頭株主は総合商社の双日で、業務提携契約を締結しています。第2位株主は創業社長の田中邦裕氏、第3位は資産管理業務を行う信託銀行となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 双日 | 26.28% |
| 田中 邦裕 | 12.82% |
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 6.83% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性3名の計12名で構成され、女性役員比率は25.0%です。代表取締役社長最高経営責任者は田中邦裕氏です。取締役8名のうち4名が社外取締役であり、社外取締役比率は50.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 田 中 邦 裕 | 代表取締役社長最高経営責任者 | 1996年さくらインターネット創業。1999年同社設立に伴い代表取締役社長就任。2007年より代表取締役社長兼最高経営責任者。2021年日本データセンター協会理事長などを兼任。 |
| 川 田 正 貴 | 取締役最高財務責任者 | 1995年第一勧業銀行入行。2005年同社入社。2008年取締役就任。経理財務部長、管理本部長、ES本部長などを歴任し、2015年7月より最高財務責任者を兼務。 |
| 伊 勢 幸 一 | 取締役 | 1986年日立設備エンジニアリング入社。スクウェア、ライブドア(現NHNテコラス)執行役員などを経て、2016年同社取締役就任。2020年ES本部本部長を務める。 |
| 前 田 章 博 | 取締役 | ビットスター代表取締役。2017年同社執行役員就任。社長室室長などを経て、2020年6月より取締役。 |
社外取締役は、畑下裕雄(株式会社プロキューブジャパン代表取締役社長)、猪木俊宏(弁護士)、大坂祐希枝(マーケティングコンサルタント)、荒川朋美(双日取締役専務執行役員)です。
2. 事業内容
同社グループは、「クラウド・インターネットインフラ事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) クラウドサービス
インターネット上でITインフラ構成を実現できるパブリッククラウドサービス「さくらのクラウド」や、サーバーを複数人で共同利用する共有ホスティングサービス「さくらのレンタルサーバ」などを提供しています。個人から法人、文教・公共分野まで幅広い顧客のニーズに対応しています。
収益は、顧客からのサービス利用料によって構成されています。運営は主にさくらインターネットが行っています。
■(2) GPUクラウドサービス
生成AI開発や機械学習などの高負荷計算処理向けのクラウド型GPUサービスです。物理サーバー専有型の「高火力PHY」、コンテナ型サービス「高火力DOK」、仮想マシン型「高火力VRT」などを提供しています。
収益は、顧客からのサービス利用料によって構成されています。運営は主にさくらインターネットが行っています。
■(3) 物理基盤サービス
同社グループが運営するデータセンター内において、顧客所有の機器設置スペースや回線・電源を貸与するハウジングサービス、および物理サーバーを専用で利用できる「さくらの専用サーバ」などを提供しています。
収益は、顧客からのサービス利用料(ラック利用料、回線使用料、サーバー利用料など)によって構成されています。運営は主にさくらインターネットが行っており、子会社のアイティーエムもハウジング事業等を展開しています。
■(4) その他
上記主力事業に付帯するドメイン取得サービスや運用保守サービス、顧客からの委託による開発業務などを提供しています。また、グループ会社によるシステムインテグレーションやセキュリティサービスなども含みます。
収益は、サービスの提供や開発業務の対価として顧客から受領する料金です。運営はさくらインターネットのほか、ゲヒルン、ビットスター、プラナスソリューションズなどの連結子会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、2024年3月期までは売上高200億円前後で推移していましたが、2025年3月期に売上高が300億円台へと急拡大しました。利益面でも、2025年3月期は経常利益が前期比約5.3倍となり、利益率も大きく向上しています。生成AI需要を取り込んだGPUクラウドサービスの成長が業績を牽引しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 222億円 | 200億円 | 206億円 | 218億円 | 314億円 |
| 経常利益 | 11億円 | 6億円 | 10億円 | 8億円 | 41億円 |
| 利益率(%) | 5.0% | 3.2% | 4.7% | 3.5% | 12.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 5億円 | 0.3億円 | 5億円 | 6億円 | 24億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上高の大幅な増加に伴い、売上総利益率が約10ポイント改善しています。営業利益率は4.1%から13.2%へと大きく上昇しており、収益性が飛躍的に高まりました。事業拡大に伴うコスト増を吸収し、利益を創出する構造となっています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 218億円 | 314億円 |
| 売上総利益 | 57億円 | 112億円 |
| 売上総利益率(%) | 26.3% | 35.8% |
| 営業利益 | 9億円 | 41億円 |
| 営業利益率(%) | 4.1% | 13.2% |
■(3) セグメント収益
サービス区分別の売上高を見ると、従来の主力であるクラウドサービスが堅調に推移する中、新たに立ち上がったGPUクラウドサービスが前期比30倍以上と爆発的に成長し、全体の増収に大きく貢献しました。その他サービスもグループ会社の案件獲得等により伸長しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) |
|---|---|---|
| クラウドサービス | 140億円 | 140億円 |
| GPUクラウドサービス | 2億円 | 63億円 |
| 物理基盤サービス | 37億円 | 37億円 |
| その他サービス | 53億円 | 73億円 |
| 連結(合計) | 218億円 | 314億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 29億円 | 58億円 |
| 投資CF | -20億円 | -83億円 |
| 財務CF | -4億円 | 268億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は15.0%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は36.9%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「私たちは“インターネット”で熱量を持って挑戦する全ての人の「やりたいこと」を「できる」に変える」を理念として掲げています。DX時代において、顧客の成功(カスタマーサクセス)を支援するクラウドサービスの提供を通じて顧客満足度を向上させ、全てのステークホルダーとともに成長することを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、ES(エンプロイーサクセス)とCS(カスタマーサクセス)の実現を重視しています。学生起業した創業者の挑戦マインドを受け継ぎ、社員がリーダーシップを発揮して新規事業や価値創造に挑む文化を育んでいます。多様な人材が互いに学び合い、コラボレーションすることでイノベーションを生み出す風土づくりに取り組んでいます。
■(3) 経営計画・目標
同社グループは、持続的な成長と安定した収益体質の実現を経営目標としています。中長期的には以下の指標の継続的な達成を目指しています。
* 前期対比売上高成長率:10%以上
* 売上総利益率:30%以上
* 売上高対経常利益率:10%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は「デジタルインフラトップ企業」を目指し、生成AI市場での存在感確立とクラウドサービスの販路拡大に注力しています。具体的には、生成AI向けGPU基盤への積極投資やコンテナ型データセンターの構築を進めるほか、ガバメントクラウドの正式認定取得に向けた開発を加速させています。
* 生成AIサービスラインナップの拡充と他社との共創推進
* エンジニア等の中核人材とマネジメント人材の獲得
* パートナー制度とクラウド検定のエコシステム整備
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「ES(エンプロイーサクセス)」を掲げ、社員一人ひとりの成長と成功が顧客への価値提供の源泉であると考えています。「人材育成と学び合う文化づくり」「こころと身体の健康」「多様な人材の活躍促進」「チャレンジとリーダーシップ」「フレキシブルな働き方」の5つを柱とし、成長を支える人材の採用と育成、活躍できる環境整備を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 39.6歳 | 7.1年 | 7,008,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 管理職に占める女性労働者の割合 | 14.0% |
| 男性労働者の育児休業取得率 | 50.0% |
| 労働者の男女の賃金の差異(全労働者) | 81.2% |
| 労働者の男女の賃金の差異(正規雇用) | 83.1% |
| 労働者の男女の賃金の差異(パート・有期) | 59.7% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 他社との競合状態について
同社はガバメントクラウド認定取得やGPU基盤への投資など成長戦略を推進していますが、同業他社の中には同社グループより大きな資本力や販売力、知名度を持つ企業も存在します。競争環境の変化により、同社グループの競争力が相対的に低下し、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) エネルギー・設備関連コストおよび調達リスクについて
データセンター運営には大量の電力を消費するため、電力価格の高騰は業績に影響を与える可能性があります。また、サービスの提供にはサーバーやネットワーク機器等の調達が不可欠ですが、世界的な需要急増やサプライチェーンの混乱により、これら機器の調達困難や納期遅延が発生した場合、サービス提供体制に支障をきたす恐れがあります。
■(3) 技術の進歩と人材確保について
クラウドソリューションの提供において、新技術への迅速な対応が競争力を左右します。事業拡大や新規サービス開発のためには優秀なエンジニアや営業・マーケティング人材の確保が不可欠ですが、人材獲得・育成が計画通りに進まない場合や、重要な人材が流出した場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。



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