阿波製紙 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

阿波製紙 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

阿波製紙はスタンダード市場に上場し、自動車用濾材や水処理用分離膜支持体などの機能紙・不織布の開発・製造・販売を展開しています。直近の業績では、水処理関連の需要増などにより増収を達成したものの、新工場稼働に伴う減価償却費の増加や原材料価格の上昇などの影響を受け、営業減益および経常損失となっています。


※本記事は、阿波製紙株式会社の有価証券報告書(第112期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 阿波製紙ってどんな会社?


自動車や水処理など各種産業に欠かせない機能紙・不織布の開発・製造・販売を行うメーカーです。

(1) 会社概要


1916年2月に設立し、和紙製造からスタートしました。1961年に自動車エンジン用濾紙の販売を開始し、機能紙・不織布メーカーへ転換しました。1983年に分離膜支持体用不織布、1984年にクラッチ板用摩擦材原紙の販売を開始。2012年に東証二部へ上場し、2025年には新小松島工場を稼働させています。

従業員数は連結691名、単体480名です。大株主については、筆頭株主は事業会社の徳応舎で、第2位は同じく事業会社の三木産業、第3位も事業会社の日伸となっています。

氏名 持株比率
徳応舎 20.20%
三木産業 9.96%
日伸 8.00%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性0名の計9名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役会長兼社長CEOは三木康弘氏です。社外取締役比率は44.4%です。

氏名 役職 主な経歴
三木康弘 代表取締役会長兼社長CEO 1987年第一勧業銀行入行。1992年同社入社、代表取締役社長就任。2020年CEO、2025年より現職。
三木悠太郎 代表取締役副社長COOCSOCDO 2013年みずほ銀行入行。2017年同社入社。常務執行役員などを経て、2025年より現職。
長尾浩志 取締役専務執行役員CTO 1980年同社入社。研究開発部長や生産管理部長を経て、2015年専務執行役員、2020年より現職。
岡澤智 取締役上席執行役員CFO 1986年同社入社。経営管理部長や経営企画室長を経て、2018年上席執行役員、2020年より現職。
日下善文 取締役常務執行役員生産本部長 1984年同社入社。大潟工場長や阿南事業所長などを経て、2025年常務執行役員、2026年より現職。


社外取締役は、岡本充智(教育総研代表取締役)、内田善久(阿波銀行出身)、工藤誠介(渦潮監査法人代表社員)、島内保彦(島内法律事務所代表弁護士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「機能紙・不織布の製造・販売事業」の単一セグメントで事業を展開していますが、品目別に以下の3分野に分かれています。

(1) 自動車関連資材


同事業では、自動車の動力部分に不可欠なエンジン用濾材、オートマチック車向けのクラッチ板用摩擦材原紙、鉛蓄電池用セパレータ原紙などを開発・製造しています。吸気や潤滑油などの不純物を除去し、燃費向上や排気ガスの浄化に貢献しています。

収益源は自動車部品メーカー等への製品販売代金です。エンジン用濾材は同社および連結子会社のThai United Awa Paper、持分法適用関連会社が手掛け、その他の摩擦材原紙などは主に同社と連結子会社が製造・販売を行っています。

(2) 水処理関連資材


同事業では、高度な水処理に欠かせない分離膜支持体用不織布の開発と製造・販売を行っています。主な用途は、海水淡水化や廃水処理などのインフラ用途をはじめ、工業用や家庭用の浄水器などに幅広く使用されています。

収益源は、世界の水処理用分離膜メーカーに対する不織布の販売代金です。同事業の製造・販売の運営は、主に同社が担っています。

(3) 一般産業用資材


同事業では、各種産業用途に向けた機能紙の製造・販売を展開しています。加工食品の鮮度を保つ脱酸素剤の包材、電子機器向けの断熱部材や放熱部材、耐熱プレス用の工程紙として使われる耐熱クッション材などを提供しています。

収益源は、食品メーカーや電子部品メーカー等の各種産業顧客からの製品販売代金です。同事業の製造および販売は、すべて同社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近2期間の業績推移を見ると、売上高は増加傾向にありますが、利益面では新工場稼働に伴う減価償却費の負担増や原材料価格の高騰などが影響し、経常利益ベースでは赤字に転落するなど、収益性の改善が課題となっています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 171.2億円 184.9億円
経常利益 2.8億円 -1.0億円
利益率(%) 1.6% -0.5%
当期利益(親会社所有者帰属) 0.4億円 7.5億円

(2) 損益計算書


直近の損益構成を比較すると、増収効果により売上高は伸びたものの、原価率の上昇により売上総利益は減少しています。また、販売費および一般管理費の増加も加わり、営業利益は大きく減少する結果となりました。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 171.2億円 184.9億円
売上総利益 27.4億円 25.2億円
売上総利益率(%) 16.0% 13.6%
営業利益 4.3億円 0.6億円
営業利益率(%) 2.5% 0.3%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が5.1億円(構成比21%)、運賃及び荷造費が5.0億円(同20%)を占めています。また、売上原価のうち、材料費が68.3億円(構成比54%)、経費が30.0億円(同24%)、労務費が21.0億円(同16%)を占めています。

(3) セグメント収益


各品目別の増減を見ると、自動車関連資材は在庫調整等の影響で減収となった一方、水処理関連資材は市場の成長と拡販活動が奏功し、大幅な増収を達成して全体の売上を牽引しました。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
自動車関連資材 87.4億円 81.9億円
水処理関連資材 71.1億円 88.0億円
一般産業用資材 12.8億円 15.1億円
連結(合計) 171.2億円 184.9億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがプラスとなっており、営業で生み出した資金と借入を組み合わせて、将来の成長に向けた積極的な投資を行っている状態です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 1.6億円 22.1億円
投資CF -51.8億円 -28.4億円
財務CF 48.2億円 13.8億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は12.9%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は21.9%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「紙の可能性を追求し、多様な機能材との新結合を図ると同時に、環境との調和を目指した商品・サービスの提供を通じて、人類・社会に貢献する」という経営理念を掲げています。独自技術を活かした価値提供を通じて顧客や社会の課題に応え、持続的な企業価値の向上を目指しています。

(2) 企業文化


社是に「道徳経済合一」主義を掲げ、自らを律して高い倫理観を持ち、公正で誠実な事業活動を推進することを重視しています。また、百年以上の歴史で培った「経験」「知識」「発想」を基盤に、ステークホルダーとの共創による新たな価値の創出や、「超品質」を全社共通の考え方として追求する文化を大切にしています。

(3) 経営計画・目標


第5次中期経営計画に基づき、「超品質の実現」を基本方針として、分離膜支持体を中核とした利益拡大と成長領域の創出を進め、収益基盤の確立に取り組んでいます。投資の成果を通じた収益性の向上と事業領域の拡大を経営目標とし、資産効率と収益性を反映する総資産経常利益率(ROA)を重要指標に設定しています。

(4) 成長戦略と重点施策


水処理用途や自動車・産業用途の重点領域に経営資源を集中します。分離膜支持体の生産能力・供給体制を強化し、グローバル市場でのシェア拡大を図ります。また、原価低減と販売価格の適正化を推進し、収益体質の強化を図るほか、人材基盤の強化とDX・AI活用による競争力向上や環境対応製品の開発を重点施策としています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


企業繁栄の根本は人材であるとの認識のもと、多様な人材の採用と育成に注力しています。従業員が自発的に学び成長できるキャリア開発を支援し、ダイバーシティ&インクルージョンの推進やワークライフバランスの向上、健康経営を実践することで、従業員がいきいきと働ける職場環境の実現を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 40.3歳 16.5年 5,226,285円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 7.4%
男性育児休業取得率 92.3%
男女賃金差異(全労働者) 84.0%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 83.8%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 65.1%


また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、年次有給休暇取得率(84.4%)、特定保健指導該当率(23.8%)、運動習慣者比率(31.1%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 事業環境変化に関するリスク


自動車関連や水処理関連の主力製品は、世界経済や地政学的動向の影響を受けやすい環境にあります。特に中東情勢を受けたエネルギー価格の変動や為替相場の急変、急速なEV化の後退などの市場環境の激変は、同社グループの売上や利益に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(2) サプライチェーンの調達に関するリスク


主要原材料のパルプ類を海外から調達し、エネルギー源を中東地域に依存しているため、調達先の生産不安定や地政学リスクによりサプライチェーンが寸断される恐れがあります。これが顕在化した場合、工場の稼働停止や製品の安定供給に支障をきたし、業績が悪化するリスクを抱えています。

(3) 人財確保・育成に関するリスク


持続的な成長には優秀な人材の確保が不可欠ですが、少子高齢化による労働人口の減少や人材の社外流出などにより、必要な人材が確保できなくなる懸念があります。高度な技術やノウハウの承継が困難になれば、製品開発力や生産体制に影響が及び、中長期的な競争力の低下につながるリスクがあります。

(4) 自然災害・パンデミックに関するリスク


国内の生産拠点がすべて徳島県内に集中しているため、大規模な地震や津波、大型台風、異常渇水などの自然災害が発生した場合、甚大な被害を受ける可能性が高いです。設備の復旧に多大な費用と時間を要し、操業停止による機会損失が業績に重大な悪影響を及ぼすリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。