味の素 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

味の素 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場。調味料・食品、冷凍食品、ヘルスケア等を展開し、「味の素®」等のブランドを持つ。当連結会計年度は、売上高は前期比増収、事業利益も増益となったが、親会社の所有者に帰属する当期利益は減益となった。


※本記事は、味の素株式会社 の有価証券報告書(第147期、自 2024年4月1日 至 2025年3月1日、2025年6月18日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. 味の素ってどんな会社?

調味料・食品からヘルスケア、電子材料まで幅広い事業を展開。「アミノサイエンス®」を核に、食と健康の課題解決に取り組むグローバル企業です。

(1) 会社概要

1909年にうま味調味料「味の素®」の一般販売を開始し、1925年に株式会社鈴木商店(現 味の素)を設立しました。1949年に株式を上場し、1956年にはアミノ酸事業に着手しました。その後、海外展開を加速させ、近年では2016年にアフリカのプロマシドール社に出資するなど、グローバル食品企業としての地位を確立しています。

連結従業員数は34,860名、単体では3,627名です。大株主は、資産管理業務を行う信託銀行のほか、日本生命保険相互会社などの金融機関が上位を占めています。特定の親会社は存在せず、独立した経営体制をとっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 17.34%
株式会社日本カストディ銀行(信託口) 6.85%
日本生命保険相互会社 5.17%

(2) 経営陣

同社の役員は男性25名、女性8名(監査委員等の社内役員、執行役を含む)の計33名で構成され、女性役員比率は24.2%です。代表執行役社長 最高経営責任者は中村茂雄氏です。社外取締役比率は54.5%(取締役11名中6名)です。

氏名 役職 主な経歴
中村 茂雄 代表執行役社長最高経営責任者 取締役 1992年同社入社。味の素ファインテクノ社長、アミノサイエンス事業本部化成品部長、ブラジル味の素社社長等を歴任。2025年2月より現職。
白神 浩 取締役 代表執行役副社長Chief Innovation Officer 1986年同社入社。アミノサイエンス事業本部バイオ・ファイン研究所長、執行役専務等を歴任。2022年4月より現職。
佐々木 達哉 取締役 執行役専務コーポレート本部長 1986年同社入社。ブラジル味の素社社長、グローバルコーポレート本部長等を歴任。2023年4月より現職。
斉藤 剛 取締役 執行役常務Chief Transformation Officer 産業再生機構、経営共創基盤取締役等を経て2021年同社入社。2023年4月より現職。IMECS代表取締役を兼任。
松澤 巧 取締役 1987年同社入社。グローバル人事部長、人事部長、監査部長等を歴任。2023年6月より現職。


社外取締役は、岩田喜美枝(元資生堂代表取締役副社長)、中山讓治(元第一三共代表取締役会長)、引頭麻実(元大和総研専務理事)、八田陽子(元KPMGパートナー)、デイヴィス・スコット(立教大学教授)、我妻由佳子(弁護士)です。

2. 事業内容

同社グループは、「調味料・食品」「冷凍食品」「ヘルスケア等」の3つの報告セグメントおよび「その他」事業を展開しています。

(1) 調味料・食品

うま味調味料「味の素®」、「ほんだし®」、「Cook Do®」などの調味料や、「クノール®」、「ブレンディ®」などの栄養・加工食品を国内外で提供しています。一般消費者だけでなく、外食・食品加工業向けにも製品を展開しています。

収益は主に製品の販売代金から得ています。運営は、同社(味の素)のほか、味の素食品株式会社、味の素AGF株式会社、およびタイ味の素社やインドネシア味の素社などの海外現地法人が行っています。

(2) 冷凍食品

「ギョーザ」、「ザ★®チャーハン」、「やわらか若鶏から揚げ」などの家庭用冷凍食品や、業務用冷凍食品を製造・販売しています。餃子や米飯、麺類、スイーツなど幅広いラインナップを展開しています。

収益は製品の販売代金から得ています。運営は主に味の素冷凍食品株式会社が行っており、北米では味の素フーズ・ノースアメリカ社、欧州ではフランス味の素冷凍食品社などが担当しています。

(3) ヘルスケア等

医薬用・食品用アミノ酸、バイオファーマサービス(CDMO)、ファンクショナルマテリアルズ(電子材料等)を展開しています。医薬品中間体・原薬の開発受託や、半導体パッケージ用層間絶縁材料などの先端素材を提供しています。

収益は製品の販売代金や受託製造・開発サービスの対価から得ています。運営は、同社のほか、味の素ヘルシーサプライ株式会社、味の素ファインテクノ株式会社、味の素オムニケム社などが行っています。

(4) その他

飼料用アミノ酸、スポーツニュートリション(「アミノバイタル®」等)、パーソナルケア素材、メディカルフードなどを提供しています。アミノ酸技術を活かした多様な製品・サービスを展開しています。

収益は製品の販売代金から得ています。運営は、同社および味の素ダイレクト株式会社などのグループ会社が行っています。

3. 業績・財務状況

同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移

直近5期間の業績を見ると、売上収益は右肩上がりに増加しており、事業規模の拡大が続いています。利益面では、事業利益は増加傾向にありますが、当期利益は変動が見られます。特に直近の当期利益は減益となりました。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上収益(または売上高) 10,715億円 11,494億円 13,591億円 14,392億円 15,306億円
事業利益 1,131億円 1,209億円 1,353億円 1,477億円 1,593億円
利益率(%) 10.6% 10.5% 10.0% 10.3% 10.4%
当期利益(親会社所有者帰属) 594億円 757億円 941億円 871億円 703億円

(2) 損益計算書

売上高は増加しましたが、営業利益および営業利益率は低下しました。売上原価や販管費の増加に加え、その他の営業費用の増加が利益を圧迫しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 14,392億円 15,306億円
売上総利益 5,114億円 5,508億円
売上総利益率(%) 35.5% 36.0%
営業利益 1,467億円 1,140億円
営業利益率(%) 10.2% 7.4%


販売費及び一般管理費のうち、物流費が112億円(構成比3%)、広告費が183億円(同5%)、従業員給付費用が1,350億円(同37%)を占めています。また、研究開発費は209億円(同6%)です。

(3) セグメント収益

全セグメントで増収となりました。特にヘルスケア等セグメントは増収に加え、大幅な増益を達成しています。一方、冷凍食品セグメントは増収ながら減益となりました。調味料・食品セグメントは安定的に推移しています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
調味料・食品 8,470億円 8,960億円 1,116億円 1,140億円 12.7%
冷凍食品 2,819億円 2,894億円 96億円 80億円 2.8%
ヘルスケア等 2,946億円 3,284億円 244億円 318億円 9.7%
その他 158億円 168億円 22億円 55億円 32.6%
調整額 -405億円 -536億円 -億円 -億円 -%
連結(合計) 14,392億円 15,306億円 1,477億円 1,593億円 10.4%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

営業CFはプラス、投資CFはマイナス、財務CFはマイナスであり、本業で稼いだ資金で投資を行い、借入返済や株主還元も進めている「健全型」と言えます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 1,681億円 2,099億円
投資CF -1,324億円 -774億円
財務CF -68億円 -1,377億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.0%で市場平均(9.4%)を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は32.4%で市場平均(46.8%)を下回っています。

4. 経営方針・戦略

同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念

同社グループは、「アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」ことを志(パーパス)として掲げています。この志の実現に向けて、事業活動を通じて社会価値と経済価値を共創するASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)経営を推進しています。

(2) 企業文化

同社グループは、世界中の従業員が共有する価値観・行動指針として「味の素グループWay(AGW)」を定めています。これは、「新しい価値の創造」「開拓者精神」「社会への貢献」「人を大切にする」という4つの要素から構成されており、ASV経営の実践における基盤となっています。

(3) 経営計画・目標

2030年のありたい姿からのバックキャストに基づき、「中期ASV経営 2030ロードマップ」を策定しています。2030年までに「環境負荷を50%削減」と「10億人の健康寿命を延伸」という2つのアウトカムの実現を目指し、以下のASV指標を掲げています。
- ROIC(投下資本利益率)
- 親会社所有者帰属当期利益(EPS)成長率
- 従業員エンゲージメントスコア

(4) 成長戦略と重点施策

「アミノサイエンス®」の強みを活かし、事業モデル変革による新事業創出と既存事業のオーガニック成長を推進します。特に、「ヘルスケア」「フード&ウェルネス」「ICT」「グリーン」の4つの成長領域に注力し、無形資産(人財・技術・顧客・組織)の強化を図ります。
- 2030年度目標:温室効果ガス排出量50.4%削減(Scope1+2)
- 2030年度目標:10億人の健康寿命延伸

5. 働く環境

同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針

「志」「挑戦」「多様性」「Well-being」の4つの軸で、会社と人財を「つなげる」戦略を推進しています。ASVの自分ごと化を促進し、失敗を恐れずに挑戦する文化を醸成するとともに、グローバルな多様性を活かしたイノベーション創出を目指しています。また、従業員の心身の健康と経済的な豊かさの向上を支援しています。

(2) 給与水準・報酬設計

同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 44.3歳 19.4年 10,367,410円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示

同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 14.4%
男性育児休業取得率 89.6%
男女賃金差異(全労働者) 70.1%
男女賃金差異(正規雇用) 72.5%
男女賃金差異(非正規雇用) 65.8%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員エンゲージメントスコア(76%)、持続可能なエンゲージメントスコア(88%)などです。

6. 事業等のリスク

事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) アミノサイエンス®に関するリスク

アミノサイエンス®の進化や拡大が停滞し、エコシステムや共創への活用が十分に進まない場合、事業の競争優位性や成長が鈍化する可能性があります。同社はグループの強みであるアミノサイエンス®を活かし、食品事業とバイオ&ファインケミカル事業の成長機会につなげることを目指しています。

(2) 気候変動・自然資本・生物多様性・資源枯渇

気候変動や自然資本の毀損、水不足等が顕在化し、原材料調達や食の提供が困難になるリスクがあります。また、環境関連の法規制強化による対応コストの増加も懸念されます。同社は温室効果ガス排出削減や持続可能な調達などの取組みを進め、環境負荷の低いアグリフードシステムの構築を目指しています。

(3) 経済安全保障に関するリスク

国際情勢の変化により、グローバリゼーションの弱体化や経済的な分断が進行するリスクがあります。特定の国や地域での事業活動が制限されたり、サプライチェーンが分断されたりする可能性があります。同社は代替原材料の検討や調達先の分散などを通じて、経済安全保障リスクへの対応を図っています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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