※本記事は、株式会社一蔵 の有価証券報告書(第35期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 一蔵ってどんな会社?
和装事業とウエディング事業を2本柱とし、日本文化と「おもてなし」を軸に事業を展開する企業です。
■(1) 会社概要
1991年に設立され、きもの事業を開始しました。1995年にオンディーヌを買収しレンタル事業へ進出、2000年にはウエディング事業を開始しました。2015年に東京証券取引所市場第二部へ上場し、翌2016年に同市場第一部へ指定されました。その後も着方教室の買収や上海での結婚式場オープンなど事業を拡大しています。
連結従業員数は653名、単体では610名です。筆頭株主は創業者で代表取締役社長の河端義彦氏、第2位は一蔵従業員持株会、第3位は専務取締役の白石隆治氏であり、経営陣と従業員が主要株主となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 河端義彦 | 49.07% |
| 一蔵従業員持株会 | 4.24% |
| 白石隆治 | 3.76% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性1名の計8名で構成され、女性役員比率は12.5%です。代表取締役社長は河端 義彦氏です。社外取締役比率は25.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 河端 義彦 | 代表取締役社長ウエディング事業本部長(管理本部、人事本部IT推進本部管掌) | いちこし取締役を経て1991年同社設立、代表取締役社長に就任し現職。 |
| 白石 隆治 | 専務取締役JTS事業本部長(オンディーヌ事業本部管掌) | 大建管理サービスを経て同社入社。札幌支店長、常務取締役きもの事業部長等を経て2019年より現職。 |
| 数見 康浩 | 取締役財務経理本部長 | UBS証券、ウニクレディト銀行東京支店等を経て同社入社。経理部長、財務経理部長等を経て2018年より現職。 |
社外取締役は、小島 浩介(元三越執行役員)、加來 英彦(元日商岩井米国法人シニアバイスプレジデント)です。
2. 事業内容
同社グループは、「和装事業」「ウエディング事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 和装事業
呉服や振袖を中心とした販売・レンタル、成人式の前撮り写真撮影、着方教室の運営などを行っています。SPA(製造小売)化を推進し、振袖の企画から製造、販売までを一貫して手がけるほか、フォトスタジオでの撮影や成人式当日の着付け等をワンストップで提供しています。
収益は、顧客からの商品販売代金、レンタル料、着方教室の受講料などから得ています。運営は主に同社が行っているほか、子会社の京都きもの学院も着付教室の運営や和装小物の販売を行っています。
■(2) ウエディング事業
「キャメロットヒルズ」「グラストニア」などの直営結婚式場において、挙式・披露宴の企画・運営、ドレスレンタル等を行っています。本物志向の施設と、料理・美容・写真等のサービス内製化によるトータルプロデュースを特徴としています。
収益は、挙式・披露宴を挙げる顧客からの施行代金や衣装レンタル料などから得ています。運営は同社が行うほか、中国・上海においては現地子会社の璨臻(上海)婚慶礼儀服務有限公司が結婚式場を運営しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の推移を見ると、売上高は200億円前後で推移していますが、当期は前期比で減少しました。利益面では、第31期に大幅な赤字を記録した後、黒字回復していましたが、当期は経常利益が大きく減少し、当期利益も低水準となりました。利益率は低下傾向にあります。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 142億円 | 186億円 | 197億円 | 204億円 | 199億円 |
| 経常利益 | -15.3億円 | 6.3億円 | 5.7億円 | 3.3億円 | 1.1億円 |
| 利益率(%) | -10.8% | 3.4% | 2.9% | 1.6% | 0.5% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -24.4億円 | 6.3億円 | 6.7億円 | 6.5億円 | 0.2億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は減少しましたが、売上総利益は微増となり、売上総利益率は改善しました。一方で営業利益および営業利益率は低下しており、販売費及び一般管理費の負担増などが利益を圧迫している様子がうかがえます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 204億円 | 199億円 |
| 売上総利益 | 126億円 | 126億円 |
| 売上総利益率(%) | 61.5% | 63.3% |
| 営業利益 | 2.7億円 | 1.2億円 |
| 営業利益率(%) | 1.3% | 0.6% |
販売費及び一般管理費のうち、給与手当が32億円(構成比25.3%)、広告宣伝費が27億円(同21.6%)、地代家賃が16億円(同12.8%)を占めています。
■(3) セグメント収益
和装事業は売上高が増加し、利益も大幅に伸長しました。一方、ウエディング事業は売上高が減少し、損失を計上しました。和装事業が全社の利益を牽引する構造となっています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 和装事業 | 151億円 | 153億円 | 6.6億円 | 10億円 | 6.6% |
| ウエディング事業 | 54億円 | 47億円 | 3.5億円 | -1.2億円 | -2.7% |
| 連結(合計) | 204億円 | 199億円 | 2.7億円 | 1.2億円 | 0.6% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFはプラス、財務CFもプラスですが、投資CFがマイナスとなっており、営業で得た資金と調達した資金を投資に回している「積極型」のキャッシュ・フロー状態です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 7.0億円 | 5.5億円 |
| 投資CF | -6.9億円 | -10.9億円 |
| 財務CF | 0.5億円 | 0.9億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-2.2%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は21.9%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「日本文化をもっと身近にする」「私たちのおもてなしを世界に広げる」「世の中を楽しく変えていく」を経営理念に掲げています。また、お客様一人一人のニーズに応えることや地域No.1店を目指すことなどを経営の基本方針としています。
■(2) 企業文化
「おもてなし」の心を重視し、特別な日を過ごすに相応しい世界観を作ることを大切にしています。ウエディング事業では「本物志向のファシリティ」と「ソフトの内製化」を重視し、歴史的な背景を大切にした施設設計や、社員によるトータルプロデュースを行う文化があります。
■(3) 経営計画・目標
売上総利益率、営業利益率の維持・向上を図ると共に、店舗ごとのコストパフォーマンスを重視した経営により、収益体質の強化に努めることを目標としています。
■(4) 成長戦略と重点施策
和装事業では、SPA(製造小売)の強化による価格競争力のある商品提供や、ワンストップサービスの推進による差別化を図ります。また、着方教室を通じたファン拡大やO2O戦略も推進します。ウエディング事業では、内製化によるプロデュース体制の強化や中国での事業定着、トレンドに合わせたプラン開発などに注力します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
競争力の源泉は「人材」であると考え、採用と育成を重視しています。求めるスキルや専門知識の習得を目的とした各種研修を実施し、成果に応じた処遇を行う人事制度を構築しています。また、多様で柔軟な働き方を推進し、女性管理職比率の向上や育児休業取得の促進など、職場環境の整備に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 37.0歳 | 6.7年 | 4,043,000円 |
※平均年間給与は、基準外賃金を含んでおります。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 55.3% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 50.3% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 68.7% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 112.0% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、中途採用(正社員)に対する女性比率(82.0%)、有給取得率(51.8%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 少子化問題と成人式開催
和装事業の主要顧客は成人式前の女性であり、少子化による対象人口の減少が経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、成人年齢引き下げ等の法改正により成人式の開催時期やあり方が変化した場合も、事業に影響を与える可能性があります。
■(2) 個人情報の管理
事業を通じて多くの顧客個人情報を保有しており、個人情報の厳格な管理に努めています。しかし、不正アクセスや管理体制の瑕疵により情報が流出した場合、損害賠償請求や社会的信用の失墜により、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 特定人物への依存
創業者の河端義彦氏は経営方針や事業戦略の決定において重要な役割を果たしています。権限委譲や組織的な経営体制の構築を進めていますが、同氏の業務遂行が困難になった場合、経営成績等に影響を与える可能性があります。



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