※本記事は、チエル株式会社 の有価証券報告書(第28期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月30日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. チエルってどんな会社?
学校教育現場に向けた授業支援システムやデジタル教材の開発・販売を行う教育ICT専業の企業です。
■(1) 会社概要
同社は1997年、旺文社の全額出資子会社として設立されました。2006年にアルプスシステムインテグレーションの教育事業部門を統合し、現在の商号へ変更しています。2016年にJASDAQ市場へ上場し、2024年にはトラストコミュニケーションおよびオキジムを相次いで子会社化するなど、M&Aによる事業拡大を推進しています。
同グループの従業員数は連結311名、単体52名です。筆頭株主は代表取締役の川居睦氏で、第2位は教育ソリューション事業を展開するアルプスシステムインテグレーション、第3位は設立母体である出版社の旺文社となっており、創業や事業統合に関わる企業が主要株主として名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 川居 睦 | 27.34% |
| アルプスシステムインテグレーション株式会社 | 9.65% |
| 株式会社旺文社 | 9.65% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性0名の計8名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長執行役員は川居睦氏が務めています。社外取締役比率は25.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 川居 睦 | 代表取締役社長執行役員 | 1993年アルプスシステムインテグレーション入社。2006年10月より同社代表取締役。沖縄チエル代表取締役などを経て現職。 |
| 片岡 久議 | 取締役常務執行役員 | 日本銀行、リーマン・ブラザーズ証券などを経て、2008年東亜代表取締役に就任。2024年6月より同社取締役。 |
| 若松 洋雄 | 取締役執行役員 | 1999年ヨックモック入社。2008年同社入社。マネジメントサービス部長などを経て、2017年6月より現職。 |
| 前田 喜和 | 取締役執行役 | 2008年アルプスシステムインテグレーションから転籍。製品開発部長などを経て、2016年6月より現職。 |
| 粟田 輝 | 取締役執行役 | 2008年日本総合研究所入社。2019年同社入社。製品開発部長、代表取締役などを経て現職。 |
| 片岡 伸介 | 取締役(監査等委員) | 税理士法人を経て、2020年片岡伸介税理士事務所設立。同年8月同社内部監査担当となり、2023年6月より現職。 |
社外取締役は、呉明植(弁護士・伊藤塾講師)、本田真吾(弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「小学校・中学校部門」「高等学校・大学部門」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 小学校・中学校部門
小学校・中学校向けに、授業・講義支援システムやデジタル教材の企画・開発・製造・販売を行っています。また、情報セキュリティ対策ソフトウエアや運用管理ソリューションの提供も手掛けています。GIGAスクール構想による端末整備に対応した製品群を展開しています。
収益は、主に教育委員会や学校からの製品販売代金やライセンス料、保守運用サービスの対価として得ています。運営は主にチエルや、地域販売拠点である沖縄チエル、四国チエルクリエイトなどが担っています。
■(2) 高等学校・大学部門
高等学校・大学向けに授業支援システムやデジタル教材、セキュリティ製品などを提供しています。さらに、高等学校に対しては大学・専門学校等の進学相談会の企画・実施や進学情報誌の制作・配布を行い、進路選択に役立つ情報サービスも展開しています。
収益は、学校からのシステム導入費や教材販売代金、および進学相談会への参加校からの出展料や広告掲載料などから得ています。運営はチエルに加え、進路事業を担うチエルコミュニケーションブリッジなどが主に行っています。
■(3) その他
文教市場以外の一般企業や官公庁に対し、情報セキュリティ対策ソフトウエアや運用管理ソリューションの企画・開発・販売を行っています。また、新たに子会社化した企業の事業として、OA機器や事務用品の販売なども含まれます。
収益は、企業や官公庁からの製品購入代金やソリューション提供の対価、事務機器等の販売代金から得ています。運営はチエル、および新たにグループ入りしたトラストコミュニケーションやオキジムなどが担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は40億円前後で推移した後、2025年3月期に約69億円へと急拡大しました。これはM&Aによる連結範囲の拡大が主な要因です。一方、経常利益は6億円台で安定的に推移していますが、売上規模の拡大に伴い利益率は低下傾向にあります。当期純利益は増減を繰り返しつつ推移しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 41億円 | 41億円 | 39億円 | 46億円 | 69億円 |
| 経常利益 | 5億円 | 6億円 | 6億円 | 7億円 | 7億円 |
| 利益率(%) | 12.0% | 15.8% | 16.1% | 14.3% | 9.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 3億円 | 3億円 | 3億円 | 2億円 | 4億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上高は約1.5倍に増加しましたが、売上原価の増加率が高く、売上総利益率は低下しています。また、販売費及び一般管理費も増加していますが、営業利益自体は増加を確保しています。M&Aに伴う事業規模の拡大が、収益構造に変化をもたらしていることが分かります。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 46億円 | 69億円 |
| 売上総利益 | 27億円 | 32億円 |
| 売上総利益率(%) | 57.8% | 46.7% |
| 営業利益 | 6億円 | 7億円 |
| 営業利益率(%) | 12.8% | 9.8% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が8.1億円(構成比31.6%)、支払手数料が2.3億円(同8.9%)を占めています。
■(3) セグメント収益
全てのセグメントで増収を達成しました。「その他」部門はM&Aによる新規連結効果で売上が急増し、利益も大きく伸びました。「小学校・中学校部門」も増収増益と堅調です。「高等学校・大学部門」は増収を確保しましたが、進路事業の広告収入減少等の影響で減益となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 小学校・中学校部門 | 17億円 | 20億円 | 3億円 | 3億円 | 15.7% |
| 高等学校・大学部門 | 24億円 | 25億円 | 3億円 | 2億円 | 9.6% |
| その他 | 5億円 | 24億円 | 0.2億円 | 1億円 | 5.1% |
| 連結(合計) | 46億円 | 69億円 | 6億円 | 7億円 | 9.8% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のCF状態は「勝負型(マイナス・マイナス・プラス)」です。本業の営業CFがマイナスとなる一方で、借入による資金調達を行い、M&Aや投資に資金を投じています。将来の成長に向けた積極的なフェーズにあると言えます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -0.3億円 | -2億円 |
| 投資CF | -4億円 | -9億円 |
| 財務CF | -2億円 | 10億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は14.7%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は29.1%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「私たちチエルは、子供たちの未来のために世界中の先生の授業をICTで支えます」という経営理念を掲げています。学校現場で教える先生方の立場に寄り添い、ICTならではの学びの促進を実現する教材やシステムを提供することを使命としています。
■(2) 企業文化
教育現場のニーズを先取りし、変化に対応することを重視しています。「創造」「変化」「挑戦」「協働」をキーワードに、先生に寄り添った製品開発や、新技術への挑戦、パートナーとの連携を推進する姿勢を持っています。また、子どもたちの未来を見据え、ICTで授業を支えるという使命感を共有しています。
■(3) 経営計画・目標
具体的な数値目標としての経営計画は記載がありませんが、政策動向や現場ニーズを捉えた製品・サービスの提供により、更なる成長と企業価値の向上を目指す方針です。
■(4) 成長戦略と重点施策
GIGAスクール構想第2期やオンライン授業の定着を背景に、クラウド環境に適したデータ利活用製品やBYOD対応製品の拡販を進めます。また、進路事業のICT化や、セキュリティ製品・ID管理ツールの提案を強化します。さらに、M&Aを通じた事業拡大や海外市場への展開、販売パートナーとの関係強化にも注力していく方針です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
事業拡大と成長継続のため、専門性やスキルを有する優秀な人材の確保と育成を最重要課題としています。各階層での研修やOJT、目標管理制度を通じて能力を最大化させるとともに、フレックスタイム制やリモートワーク制の導入により、柔軟で働きやすい職場環境の整備を推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 39.6歳 | 6.9年 | 6,123,000円 |
※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 13.0% |
| 男性育児休業取得率 | -% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 69.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 80.4% |
| 男女賃金差異(非正規) | 213.8% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 国や地方自治体の施策による影響
教育ICT市場は国の施策に強く依存しており、GIGAスクール構想などの予算規模や執行状況によって売上が左右される可能性があります。政策変更により市場成長が鈍化した場合、業績に影響を及ぼすリスクがあります。
■(2) 業績の季節的変動
学校の長期休暇や年度末に導入案件が集中するため、第2四半期と第4四半期に売上・利益が偏重する傾向があります。計画通りに受注や検収が進まない場合、通期業績に大きな影響を与える可能性があります。
■(3) ICT分野における新技術への対応
技術革新が激しい分野であり、新技術やクラウドサービスへの対応が遅れた場合、製品競争力が低下する恐れがあります。研究開発の遅延や技術者不足により適時適切な製品提供ができない場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。



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