※本記事は、チエル株式会社の有価証券報告書(第29期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月30日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. チエルってどんな会社?
同社は教育ICT専業メーカーとして、学校現場や企業にシステムと教材を提供しています。
■(1) 会社概要
1997年に旺文社の子会社として設立され、2006年にアルプスシステムインテグレーションの教育事業部門を統合して現在のチエルとなりました。2016年に東証JASDAQへ上場し、2022年の市場再編を経て現在はスタンダード市場に上場しています。近年はM&Aによる事業領域の拡大や体制強化を進めています。
同社グループの従業員数は連結で329名、単体で59名です。筆頭株主は創業者で代表取締役社長執行役員の川居睦氏であり、第2位および第3位には資本業務提携の背景を持つ事業会社のアルプスシステムインテグレーションと旺文社がそれぞれ名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 川居睦 | 27.32% |
| アルプスシステムインテグレーション | 9.63% |
| 旺文社 | 9.63% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性0名の計8名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長執行役員を川居睦氏が務めています。社外取締役比率は25.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 川居睦 | 代表取締役社長執行役員 | アルプスシステムインテグレーション等を経て、2006年より現職。 |
| 片岡久議 | 取締役常務執行役員 | 日本銀行、リーマン・ブラザーズ証券、東亜等を経て、2024年より現職。 |
| 若松洋雄 | 取締役執行役員 | ヨックモックを経て、2008年に同社へ入社。2017年より現職。 |
| 前田喜和 | 取締役執行役員 | アルプスシステムインテグレーションから転籍後、製品開発部長等を経て、2016年より現職。 |
| 粟田輝 | 取締役執行役員 | 日本総合研究所を経て同社へ入社。社長室長、製品開発部長、代表取締役等を歴任し、現職。 |
| 片岡伸介 | 取締役(監査等委員) | 税理士法人等を経て、2020年に同社の内部監査担当に就任。2023年より現職。 |
社外取締役は、呉明植(伊藤・呉法律事務所入所)、本田真吾(本田法律事務所入所)です。
2. 事業内容
同社グループは、「小学校・中学校部門」「高等学校・大学部門」「企業・官公庁部門」の3事業を展開しています。
■(1) 小学校・中学校部門
小学校および中学校に向けて、授業・講義支援システムやデジタル教材の企画・開発・販売のほか、情報セキュリティ対策ソフトウエアや運用管理ソリューションを提供しています。
GIGAスクール構想に対応した製品群を展開し、教育委員会や学校からのシステム導入費および利用料が主な収益源です。事業の運営は同社や沖縄チエルなどが担っています。
■(2) 高等学校・大学部門
高等学校および大学向けに、授業支援システムや語学演習システム、統合ID管理システムなどの企画・開発・販売を提供し、先生の働き方改革に寄与しています。
学校からのシステム構築費や保守・運用費、ライセンス利用料などを収益としています。同社のほか、チエルコミュニケーションブリッジやコラボレーションシステムなどが事業を展開しています。
■(3) 企業・官公庁部門
文教市場以外の企業や官公庁、病院・介護施設に対し、情報セキュリティ対策のソフトウエアや運用管理ソリューション、従業員のリスキリング向け研修システムなどを提供しています。
企業や自治体からの製品販売代金やサービス手数料が主な収益源です。運営は同社のほか、トラストコミュニケーションやオキジムなどが担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は安定して拡大を続けており、特に直近では100億円を突破する大幅な増収を記録しています。経常利益も成長基調にあり、利益率は10〜16%程度の水準を維持して推移しています。
| 項目 | 第25期 | 第26期 | 第27期 | 第28期 | 第29期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 41億円 | 39億円 | 46億円 | 69億円 | 102億円 |
| 経常利益 | 6億円 | 6億円 | 7億円 | 7億円 | 11億円 |
| 利益率(%) | 15.8% | 16.1% | 14.3% | 9.6% | 10.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 3億円 | 3億円 | 2億円 | 4億円 | 4億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の拡大に伴い、売上総利益および営業利益ともに大きく増加しています。売上総利益率は40%台半ばで安定しており、営業利益率も約10%の水準を保っています。
| 項目 | 第28期 | 第29期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 69億円 | 102億円 |
| 売上総利益 | 32億円 | 45億円 |
| 売上総利益率(%) | 46.7% | 44.2% |
| 営業利益 | 7億円 | 11億円 |
| 営業利益率(%) | 9.8% | 10.5% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が12億円(構成比36%)、支払手数料が2億円(同6%)、賞与引当金繰入額が1億円(同4%)を占めています。
■(3) セグメント収益
各セグメントともに前期から大きく売上を伸ばしています。小学校・中学校部門ではGIGAスクール関連の整備需要を取り込み、企業・官公庁部門はM&A効果により大幅な増収となりました。
| 区分 | 売上(第28期) | 売上(第29期) |
|---|---|---|
| 小学校・中学校部門 | 20億円 | 32億円 |
| 高等学校・大学部門 | 25億円 | 31億円 |
| 企業・官公庁部門 | 24億円 | 39億円 |
| 連結(合計) | 69億円 | 102億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社の当期のキャッシュ・フローは営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う健全型の状態です。
| 項目 | 第28期 | 第29期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -2億円 | 23億円 |
| 投資CF | -9億円 | -5億円 |
| 財務CF | 10億円 | -15億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は20.3%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は27.6%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「私たちチエルは、子供たちの未来のために世界中の先生をICTで支えます」という経営理念を掲げています。学校現場で教える先生方の立場に寄り添い、ICTを活用した教材やシステムを開発・提供することで、ICTだからこそできる学びの促進を実現することを使命としています。
■(2) 企業文化
同社グループは「人間性尊重」「集団精鋭」「自己啓発」の3つの基本理念を軸とし、企業の成長と個人の成長を相互に機能させる文化を持っています。自律型人材の育成を支援し、潜在的な能力よりも実際に業務で発揮された成果を重視する環境を整備しています。
■(3) 経営計画・目標
第6次中期経営計画において、以下の数値目標を掲げています。
* 2026年3月期:売上高100億円、営業利益7.5億円
* 2027年3月期:売上高110億円、営業利益8.5億円
■(4) 成長戦略と重点施策
GIGAスクール構想を経た学校DXの加速や生成AIの普及に対応し、システムから保守・運用までをワンストップで提供するパートナーを目指しています。語学分野へのAI技術の組み込みや運用監視事業の拡大、および企業・官公庁市場への製品群の横展開を推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
多様な人材が働きがいを感じて能力を最大化できるよう、研修やOJTの実施、職種・職能に応じた目標管理制度を導入しています。また、良好なワークライフバランスを実現するため、フレックスタイム制やリモートワーク制を推奨し、柔軟な働き方を選択できる環境を整備しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 第29期 | 38.9歳 | 6.6年 | 6,228,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 13.0% |
| 男性育児休業取得率 | - |
| 男女賃金差異(全労働者) | 66.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 83.7% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 143.6% |
※男性育児休業取得率について、有報に実績(-%)の記載があります。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) ICT分野における新技術への対応
ICT分野では新技術や新サービスの変化が激しく、同社は積極的に研究開発を行っています。しかし、研究開発の遅延や優秀な開発人材の確保が順当に行えなかった場合、技術革新に適切に対応できず、製品開発能力の低下を招くリスクがあります。
■(2) 国や地方自治体の施策による影響
同社の主力市場である学校教育ICT市場は、国や地方自治体の施策によって大きく推進されています。そのため、国の施策の変更による市場成長の鈍化や、獲得された予算規模・予算執行状況に影響を受ける可能性があります。
■(3) 業績の季節的変動
同社の業績は、学校の長期休み時期である第2四半期や、年度予算が執行される第4四半期に売上および利益が偏重する傾向があります。何らかの事情で計画通りの受注が獲得できなかったり検収が遅れたりした場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。



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