※本記事は、株式会社イノベーション の有価証券報告書(第25期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. イノベーションってどんな会社?
同社は「法人営業の新しいスタイルを創造する」ことを目指し、IT製品の比較サイト運営やマーケティング支援ツールなどを提供する企業です。
■(1) 会社概要
2000年に法人営業の効率化を目的に設立され、2007年に主力となるIT製品比較サイト「ITトレンド」を開始しました。2010年にはマーケティングオートメーションツール「List Finder」の提供を始め、事業基盤を確立。2016年に東証マザーズ(現グロース)へ上場を果たしました。2025年1月には株式会社シャノンを株式公開買付け(TOB)により連結子会社化し、ITソリューション領域の強化を進めています。
現在のグループ体制は、連結従業員数394名、単体56名です。筆頭株主は創業者で代表取締役社長CEOの富田直人氏であり、第2位は資産管理会社と思われる株式会社NTI、第3位は情報サービス企業の株式会社日経ビーピーとなっており、創業者と事業パートナーが主要株主として名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 富田 直人 | 31.56% |
| NTI | 7.33% |
| 日経ビーピー | 5.13% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性5名、女性0名の計5名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長CEOは富田直人氏が務めています。社外取締役比率は60.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 富田 直人 | 代表取締役社長CEO | 1987年リクルート(現リクルートホールディングス)入社。2000年12月同社設立し代表取締役社長CEO就任。Innovation IFA Consulting等のグループ会社役員も兼務し、2000年より現職。 |
| 山﨑 浩史 | 取締役会長 | クラレ、トランス・コスモスを経て、ザッパラス取締役、バロックジャパンリミテッド専務取締役等を歴任。2018年6月同社取締役就任。2023年10月より現職。 |
社外取締役は、長谷川正和(税理士・元ハピネス・アンド・ディ取締役)、倉田宏昌(EVERRISE代表取締役)、後藤和寛(ディ・ポップスグループ代表取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「オンラインメディア事業」、「ITソリューション事業」、「金融プラットフォーム事業」、「VCファンド事業」を展開しています。
■オンラインメディア事業
法人向けIT製品の比較・資料請求サイト「ITトレンド」や、動画プラットフォーム「bizplay」、オンライン展示会「ITトレンドEXPO」などを運営しています。IT製品の導入を検討する企業(ユーザー)と、製品を提供する掲載企業をマッチングさせ、認知拡大や見込み顧客情報の獲得を支援しています。
掲載企業からの成果報酬型の手数料(資料請求1件ごとの課金など)や、展示会出展料などが主な収益源です。運営は主に子会社の株式会社Innovation & Co.が行っています。
■ITソリューション事業
法人営業に特化したマーケティングオートメーション(MA)ツール「List Finder」や、統合型マーケティング支援ツール「SHANON MARKETING PLATFORM」等を提供しています。Webサイト訪問者の可視化やリード育成、イベント管理など、マーケティングから営業活動までを一貫して支援する機能を有しています。
顧客企業からのシステム利用料(サブスクリプション収入)や、導入支援・コンサルティング等の役務提供対価が収益源です。運営は主に株式会社Innovation X Solutionsおよび、2025年に子会社化した株式会社シャノンとそのグループ会社が行っています。
■金融プラットフォーム事業
金融商品仲介業(IFA)およびM&A仲介業務を行っています。資産運用を検討する個人投資家に対して金融商品のアドバイスや売買の仲介を行うほか、事業承継や成長戦略としてのM&Aを支援しています。
提携する証券会社からの金融商品仲介手数料や、M&A成立時の仲介手数料などが収益源となります。運営は株式会社Innovation IFA Consultingおよび株式会社Innovation M&A Partnersが行っています。
■VCファンド事業
ベンチャー企業等への投資を行い、キャピタルゲインの獲得および事業シナジーの創出を目指しています。
投資先企業の株式売却による売却益や、投資事業組合の運用益が収益源となります。運営はINNOVATION HAYATE V Capital投資事業有限責任組合を通じて行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は過去5期間で一貫して増加傾向にあり、事業規模の拡大が続いています。一方、利益面では投資や特別損失の影響などにより変動が見られ、2023年3月期には一時的な利益率の低下がありましたが、その後回復基調にあります。直近の2025年3月期は、売上高は増加したものの、投資有価証券評価損等の計上により当期利益は減少しました。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 31億円 | 44億円 | 46億円 | 48億円 | 53億円 |
| 経常利益 | 5億円 | 8億円 | 3億円 | 4億円 | 3億円 |
| 利益率(%) | 17.0% | 17.9% | 7.6% | 8.4% | 6.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 3億円 | 4億円 | 0.6億円 | 2億円 | 0.7億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は増加し、売上総利益も拡大していますが、販管費の増加により営業利益は減少しました。積極的な事業拡大に伴うコスト増が利益を圧迫している構図です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 48億円 | 53億円 |
| 売上総利益 | 21億円 | 23億円 |
| 売上総利益率(%) | 43.1% | 43.3% |
| 営業利益 | 4億円 | 4億円 |
| 営業利益率(%) | 8.3% | 6.6% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当が5.2億円(構成比26%)、業務委託費が2.9億円(同15%)を占めています。
■(3) セグメント収益
オンラインメディア事業は「ITトレンドEXPO」の開催数増加などにより増収増益となりました。ITソリューション事業は顧客数減少により減収となりましたが、利益は微増しました。金融プラットフォーム事業は市場環境の影響等で減収となり、セグメント損失を計上しました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| オンラインメディア事業 | 34億円 | 40億円 | 12億円 | 15億円 | 38.4% |
| ITソリューション事業 | 4億円 | 4億円 | 1億円 | 1億円 | 34.7% |
| 金融プラットフォーム事業 | 10億円 | 10億円 | 0.1億円 | -2億円 | -19.0% |
| VCファンド事業 | - | - | -1億円 | -0.6億円 | - |
| その他 | 2億円 | 2億円 | - | - | - |
| 調整額 | 0億円 | 0億円 | -8億円 | -11億円 | - |
| 連結(合計) | 48億円 | 53億円 | 4億円 | 4億円 | 6.6% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFでプラスを維持しつつ、借入や株式発行などの財務CFで資金を調達し、M&Aを含む投資活動に大きく資金を投じている「積極型」のキャッシュ・フロー状態です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 3億円 | 0.7億円 |
| 投資CF | 2億円 | -17億円 |
| 財務CF | 4億円 | 19億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は2.0%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は40.7%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「『働く』を変える」をミッションに掲げています。法人営業領域での支援を通じて、より多くのビジネスパーソンが成長できる機会を創出することを目指しており、顧客およびそのサービス利用者の活動の一助となる存在であり続けることを基本方針としています。
■(2) 企業文化
ミッションの実現に向け、グループバリューとして「Innovation(革新)」「Leadership(主体性)」「Growth Commitment(成長へのコミットメント)」を掲げています。起業家精神を持った社員一人ひとりが主体者として高い目標に挑戦し、会社と共に成長していく文化を重視しており、年に2回全社員が集まるイベント「INNOVATION’s Day」を開催するなどして浸透を図っています。
■(3) 経営計画・目標
同社グループは、短期的な利益のみならず中長期的な企業価値の向上を目指しており、その達成状況を判断するための客観的な重要指標として以下を位置づけています。
* 売上高
* EBITDA
* 営業利益率
■(4) 成長戦略と重点施策
「法人営業の新しいスタイルを創造する」というコンセプトのもと、既存事業の拡大に加え、顧客資産とノウハウを活用した事業の多様化を推進します。特に、子会社化した株式会社シャノンとの連携によるITソリューション領域でのシナジー創出や、金融プラットフォーム事業におけるITプラットフォーム化を見据えた展開に注力します。また、オンラインメディア事業ではAI等の新技術対応による集客最適化を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
起業家精神を持った優秀な人材の確保を重視し、新卒・中途ともにミッションや価値観への共感を基準とした採用を行っています。育成面では、事業成長に伴うポジション増や抜擢人事により挑戦の機会を創出し、成果・行動・スタンスを評価する人事制度を通じて自律的な成長を支援しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 33.5歳 | 4.1年 | 7,147,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 30.0% |
| 男性育児休業取得率 | - |
| 男女賃金差異(全労働者) | - |
| 男女賃金差異(正規雇用) | - |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | - |
※同社および連結子会社は公表義務の対象ではないため、有報には育児休業取得率や男女賃金差異の記載がありません。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇取得率(68.4%)、平均月間法定外労働時間(19時間53分)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) インターネット業界の変化
インターネット広告市場や検索エンジンの動向に業績が左右される可能性があります。特にオンラインメディア事業は検索エンジンからの集客に依存しており、アルゴリズムの変更や生成AIなどの新技術の台頭による検索体験の変化が、サイトへの来訪者数や収益に影響を及ぼすリスクがあります。また、競合他社との競争激化や代替サービスの登場もリスク要因です。
■(2) 特定サービスへの依存
現在のグループ収益の柱はオンラインメディア事業、特に「ITトレンド」等の特定サービスに依存しています。競合媒体との競争激化や市場環境の変化により、当該事業の売上が大幅に減少した場合、グループ全体の業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。事業多角化を進めていますが、依存度の高さはリスクとして認識されています。
■(3) システムトラブル
サービス提供はインターネット通信ネットワークに依存しており、アクセス集中や電力供給停止、サイバー攻撃、ウイルス侵入等によるシステム障害が発生した場合、サービス停止やデータ消失のリスクがあります。これにより社会的信用の失墜や損害賠償請求が発生し、業績に悪影響を与える可能性があります。
■(4) 法的規制等への対応
事業運営において、独占禁止法、個人情報保護法、金融商品取引法、保険業法など多岐にわたる法令規制を受けています。特に金融プラットフォーム事業では登録制の業務を行っており、法令違反による業務停止や登録取消のリスクがあります。また、導入企業による法令違反が同社のブランド毀損につながる可能性もあります。



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