※本記事は、ジャパンエレベーターサービスホールディングス株式会社の有価証券報告書(第32期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ジャパンエレベーターサービスホールディングスってどんな会社?
同社は国内主要メーカー機種に対応する高い技術力を強みに、エレベーターのメンテナンス事業を展開しています。
■(1) 会社概要
同社は1994年にエレベーターのメンテナンス専門会社として設立されました。2015年に持株会社体制へ移行して現社名となり、2017年に東証マザーズへ上場、翌2018年には東証一部へ市場変更を果たしました。2024年には西日本エリアの物流拠点を開設するなど、積極的な事業拡大を続けています。
現在の従業員数はグループ全体で2,286名、単体で274名です。筆頭株主は創業者の資産管理会社であるKIで、第2位および第3位には信託業務や資産管理業務等を行う国内外の信託銀行などの金融機関が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| KI | 19.79% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 12.32% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 | 10.64% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性5名、女性3名の計8名で構成され、女性役員比率は37.5%です。代表取締役会長兼社長CEOは石田克史氏が務めており、取締役における社外取締役の比率は37.5%となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 石田克史 | 代表取締役会長兼社長CEO | 1994年同社を設立し代表取締役社長に就任。2015年に代表取締役会長兼社長となり、2022年より現職。 |
| 今村公彦 | 取締役副社長CFO経営管理本部長 | 監査法人等を経て2017年同社に入社。取締役専務執行役員CFO等を経て2024年より現職。 |
社外取締役は、渡邊仁(渡邊公認会計士事務所所長)、遠藤典子(早稲田大学研究院教授)、矢野美佳(合同会社日本MGMリゾーツ日本MGM法務部長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「メンテナンス事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 保守・保全業務
国内主要メーカー製のエレベーターやエスカレーターを対象に、法定検査や定期的な点検、清掃、消耗品の交換等を行う保守業務と、劣化した部品の取り替えや修理等を行う保全業務を提供しています。顧客ニーズに合わせたフルメンテナンス契約と点検契約の2種類を用意しています。
収益は、顧客であるビルオーナーや管理会社から受け取る継続的なメンテナンス契約料金や有償の修理・部品交換費用が主な柱です。運営は同社およびジャパンエレベーターサービス北海道などの各地域を管轄するグループ子会社が行っています。
■(2) リニューアル業務
設置から20年程度経過したエレベーターを主な対象とし、制御盤や巻上機などの主要部品を一式取り替えるリニューアル工事や、既設品の撤去・新設工事を行っています。信頼性や安全性の向上に加え、バリアフリー対応や快適性の向上なども実現します。
収益源は、建物のオーナーや管理会社から支払われるリニューアル工事の請負代金です。同社グループで受注や工事内容の決定を行い、実際の工事は主に外注を利用して進められます。運営は主にジャパンエレベーターパーツなどの子会社が担っています。
■(3) その他事業
エレベーターメンテナンス用のパーツ販売や、エレベーター内でのメディア業務を展開しています。メディア業務では、防犯カメラを備えた広告配信機器を設置し、広告配信サービスと防犯サービスを提供することで、エレベーター空間の利便性と安全性の向上を図っています。
収益源は、パーツの販売代金や、広告主から受け取るエレベーター内サイネージでの広告出稿料などです。パーツ販売事業はジャパンエレベーターパーツが、メディア業務はエレベーターメディアがそれぞれ運営を担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績は、売上高・経常利益ともに毎期順調に拡大を続けています。独立系メンテナンス会社としての競争力を活かし、保守契約台数が堅調に増加したことに加え、リニューアル工事の受注も好調に推移したことで、安定した高成長と高い利益水準を維持しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 298億円 | 349億円 | 422億円 | 494億円 | 576億円 |
| 経常利益 | 42億円 | 51億円 | 69億円 | 86億円 | 110億円 |
| 利益率(%) | 14.2% | 14.6% | 16.2% | 17.5% | 19.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 21億円 | 21億円 | 24億円 | 25億円 | 38億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の大幅な増加に伴い、売上総利益および営業利益も大きく伸長しています。利益率も改善傾向にあり、規模の拡大と高収益化が同時に進行していることが読み取れます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 494億円 | 576億円 |
| 売上総利益 | 188億円 | 223億円 |
| 売上総利益率(%) | 38.0% | 38.7% |
| 営業利益 | 86億円 | 110億円 |
| 営業利益率(%) | 17.5% | 19.1% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が34億円(構成比30%)、販売手数料が16億円(同14%)を占めています。一方、売上原価については、保守契約台数増加に伴う材料仕入や外注費、技術系人員の増加による人件費が主な構成要素となっています。
■(3) セグメント収益
基幹となる保守・保全業務は、新規契約の獲得と営業エリアの拡大により順調に売上を伸ばしています。また、リニューアル業務も営業体制の強化や部品供給停止物件への提案強化が奏功し、大幅な増収を達成しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 保守・保全業務 | 305億円 | 345億円 |
| リニューアル業務 | 173億円 | 218億円 |
| その他 | 15億円 | 13億円 |
| 連結(合計) | 494億円 | 576億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業活動で得たキャッシュを元手に、将来の成長に向けた設備投資を実施しつつ、借入金の返済や株主還元を積極的に行っている「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 56億円 | 88億円 |
| 投資CF | -15億円 | -22億円 |
| 財務CF | -40億円 | -48億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は32.9%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は61.3%となっており、いずれも市場平均を大きく上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
独立系メンテナンス企業として、「何よりも安全のために。」「見えないからこそ手を抜かない。」「信頼を礎に。」を企業理念に掲げています。メンテナンス品質の向上を図るとともに、メーカー主導の価格体系を見直すことで「適正価格の実現」を目指し、誰もが安心して利用できる社会インフラの安定稼働に貢献しています。
■(2) 企業文化
利用者の安全を最優先とする価値観が根底にあり、日常の保守・点検業務において妥協を許さない姿勢が徹底されています。独立検査課による品質監査や、独自の点検チェックシート、経験事例の共有など、現場における着実な作業と技術力の向上を尊ぶ文化が形成されており、専門知識を持った人材の育成を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、成長性と収益性を高め、安定的な事業成長によって企業価値を継続的に向上させることを株主重視の経営目標として位置付けています。成長性の指標としては「売上高成長率」を、収益性の指標としては「売上高営業利益率」を重要な経営指標に設定し、持続的な成長と高収益体質の維持を目指しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
中長期的な成長に向けて、地域ごとの事業子会社制やM&Aを活用した事業エリアの拡大による「保守・保全事業の推進」と、営業体制の拡充や自社製品の開発を通じた「リニューアル事業の強化」を推進しています。また、海外市場への展開や、研究開発施設(JIC・JIL)での技術開発、専門人材の育成にも注力しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、事業競争力の根幹を「安全運行に必要な高品質なメンテナンスサービスを提供できる人材」と位置付けています。事業計画に基づき新卒・中途採用を積極的に進めるとともに、独自の研修プログラムや社内認定制度(STEP24など)を通じた技術水準の高度化を図り、多様な人材が安心して長期就業できる環境整備を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.2歳 | 8.1年 | 7,090,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.7% |
| 男性育児休業取得率 | 28.6% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 67.8% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 74.5% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 48.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、技術職(1,452名)、G3 昇降機保守担当資格者(586名)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 特定の仕入先への依存
エレベーター等のメンテナンスに必要なパーツの中には、品質維持の目的から特定のメーカーや系列会社のみから購買しているものがあります。在庫保有や代替調達の検討などで対策を講じていますが、適時適量に確保できない場合や価格高騰分をサービス価格に転嫁できない場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) メンテナンス市場での競合激化
市場にはエレベーターメーカーやその系列会社、他の独立系メンテナンス会社など多数の競合が存在しています。他社との競争激化による新規契約獲得数の減少や契約切り替えの発生により同社グループのシェアが低下したり、サービス価格が下落したりした場合、単一事業を展開する同社の業績に影響を与える可能性があります。
■(3) メンテナンス用パーツの在庫リスク
保守・保全やリニューアル業務のために多種多様なエレベーターパーツを棚卸資産として保有しています。メンテナンス期間が長期にわたるため在庫が増加する傾向があり、基準在庫数による管理などを行っていますが、収益性の低下等に伴い棚卸資産の資産価値が低下した場合には、財務状態に影響を及ぼす可能性があります。



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