アイ・ピー・エス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

アイ・ピー・エス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

アイ・ピー・エスは東京証券取引所プライム市場に上場し、フィリピンと北米やアジアを結ぶ国際通信事業を中核に、国内通信事業、フィリピンでのメディカル&ヘルスケア事業を展開しています。直近の業績は、国際通信網の拡充や法人向け接続サービスの好調により、売上高および経常利益ともに増収増益を達成しています。


※本記事は、株式会社アイ・ピー・エスの有価証券報告書(第35期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月12日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. アイ・ピー・エスってどんな会社?


フィリピンを中心に国際通信事業や予防医療などを展開する企業です。

(1) 会社概要


1991年に海外人材の紹介を目的に設立されました。1998年に通信事業者として登録し、2012年にフィリピンで国際通信回線の提供を開始しました。2018年に東京証券取引所マザーズに上場し、2020年に市場第一部へ変更しました。2023年にはフィリピン国内海底ケーブルネットワークを完成させています。

従業員数は連結で766名、単体で31名です。筆頭株主は創業者の宮下幸治氏で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行です。第3位も資産管理業務を行う信託銀行となっています。

氏名 持株比率
宮下 幸治 40.93%
日本カストディ銀行(信託口) 8.54%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 4.35%

(2) 経営陣


同社の役員は男性6名、女性3名の計9名で構成され、女性役員比率は33.3%です。代表取締役は宮下幸治氏です。社外取締役比率は33.3%です。

氏名 役職 主な経歴
宮下幸治 代表取締役 1985年リクルート入社。1991年同社代表取締役に就任し、現在に至る。フィリピンの関連会社等の役員も歴任。
上森雅子 専務取締役メディカル&ヘルスケア事業本部長 1994年同社入社。営業推進部長などを経て2018年より専務取締役。2022年よりメディカル&ヘルスケア事業本部長。
川渕正光 常務取締役経営企画本部長 太田昭和監査法人や三菱商事などを経て2022年同社経営企画本部長。2025年より常務取締役。
中原茂樹 取締役通信事業本部長 三井物産入社後、九州化学品統括などを歴任。2020年同社取締役、2022年より通信事業本部長。


社外取締役は、村口和孝(日本テクノロジーベンチャーパートナーズ代表取締役)、雪丸暁子(元裁判官・弁護士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「国際通信事業」「国内通信事業」「メディカル&ヘルスケア事業」の3つの報告セグメントで事業を展開しています。

国際通信事業


フィリピンと北米や香港、シンガポールなどを結ぶ国際通信回線を現地の通信事業者やケーブルテレビ事業者などに提供し、法人向けインターネット接続サービスも行っています。フィリピン国内での通信インフラ構築も推進しています。

収益は通信事業者らからの回線使用料や法人顧客からのインターネット接続料から得ています。運営は同社および現地のInfiniVANやISMOなどが担当しています。

国内通信事業


国内外の通信事業者と相互接続し、音声通話サービスを安価に提供するほか、着信者が通話料を負担する秒課金サービスや、コールセンター向けシステムの販売を行っています。また、東京都内でデータセンターを運営しています。

収益は顧客の通信事業者やコールセンター事業者からの通信利用料、システムライセンス販売、データセンターのコロケーション利用料などから得ています。運営は主にアイ・ピー・エス・プロが行っています。

メディカル&ヘルスケア事業


フィリピンにおいて、レーシックなどの近視矯正手術や美容皮膚科の診療を行うクリニックを運営するほか、日本基準の画像診断技術を活用した人間ドックや健康診断センターを運営しています。

収益は個人および法人顧客からの診療費や健診費用などから得ています。運営は現地のShinagawa Lasik & Aesthetics Center CorporationやShinagawa Healthcare Solutions Corporationが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高は一貫して増加傾向にあり、順調な事業拡大が伺えます。経常利益も成長を続けていますが、前期に一時的な減少を見せたのち、当期には再び大幅な増益を達成しました。利益率は20%台後半から30%台で高く推移しており、優れた収益力を維持しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 107億円 123億円 141億円 153億円 170億円
経常利益 29億円 35億円 44億円 41億円 58億円
利益率(%) 27.0% 28.1% 31.4% 26.7% 34.0%
当期利益(親会社所有者帰属) 10億円 9億円 15億円 4億円 24億円

(2) 損益計算書


売上高および売上総利益ともに前期から当期にかけて大きく増加しています。特に売上総利益率は上昇傾向にあり、高付加価値なサービスの提供が進んでいることがわかります。それに伴い営業利益と営業利益率も向上し、力強い収益基盤を示しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 153億円 170億円
売上総利益 83億円 99億円
売上総利益率(%) 54.2% 58.2%
営業利益 44億円 54億円
営業利益率(%) 28.8% 31.8%


販売費及び一般管理費のうち、給与手当が13億円(構成比29%)、貸倒引当金繰入額が5億円(同10%)を占めています。

(3) セグメント収益


主力の国際通信事業はフィリピンでの回線提供や法人向けインターネット接続サービスが好調で、大幅な増収を牽引しました。国内通信事業は接続料の見直しなどによりわずかに減収となりました。メディカル&ヘルスケア事業は健診センターの利用者が増加し増収となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
国際通信事業 112億円 129億円
国内通信事業 25億円 24億円
メディカル&ヘルスケア事業 16億円 17億円
連結(合計) 153億円 170億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社のキャッシュ・フローは、営業活動で利益を創出し、その資金と借入によって積極的な投資を行う「積極型」の傾向を示しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 7億円 46億円
投資CF -25億円 -71億円
財務CF 14億円 20億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は24.6%で、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は37.0%であり、いずれも市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは「Open Door」という企業理念を掲げています。いまだ誰も突破できていない障壁のある生活に密着した分野において、誰よりも先んじて事業機会を創造し、事業を展開することで産業構造を変え、あるべき社会を実現することを目指しています。

(2) 企業文化


同社のサステナビリティの取り組みでは、「人々の生活の質の向上」「健全な市場競争の推進」「人々の健康意識・予防意識向上」を重要な項目に定めています。フィリピンにおける通信環境の改善や、日本品質の医療サービスへのアクセス容易化などを通じて、社会課題の解決に寄与する文化が醸成されています。

(3) 経営計画・目標


同社グループは、事業拡大と企業価値の向上のため、売上高および営業利益を重要な指標として位置づけています。また、投資が先行する新規事業については独自の尺度で進捗を管理しており、国際通信事業における法人向けインターネット接続サービスでは、毎月の課金済み顧客件数や契約容量、サービスを利用できる建物の件数を事業成長判断の基準としています。

(4) 成長戦略と重点施策


主力の国際通信事業では、新たな国際海底ケーブル「Candle」の共同建設に参画し、フィリピン国内基幹網の整備とあわせて通信インフラ基盤の拡充を図ります。国内通信事業では、電話網のIP化を契機とした新サービスの自社提供や、AIを活用した包括的ソリューションを展開します。メディカル&ヘルスケア事業では、予防医療の啓発活動を強化し継続的な利用者の拡大を目指します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社グループは、グローバルな事業展開を支えるため「ダイバーシティ(多様性)」の確保を人材戦略の基本方針としています。女性役員の就任や、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用を積極的に進め、海外子会社との人事交流を通じて多様な人材の育成を図っています。また、透明性の高い「公正・公平な人事評価」を実施し、組織の持続的な成長を実現する方針です。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 42.4歳 6.2年 10,000,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社および連結子会社は小規模な組織であり法律の規定による公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 海外事業に関わるリスク


同社グループはフィリピン、シンガポール、米国など海外での事業展開に注力しています。各国の経済動向や法規制の変更、インフラの遅延に加え、フィリピンにおける台風や火山噴火などの自然災害、治安悪化といったカントリーリスクが、事業活動や業績に影響を与える可能性があります。

(2) 国際通信事業に関わるリスク


国際通信事業では、競合他社による寡占化や価格競争の激化、特定回線事業者への仕入依存、技術革新による通信価格の下落などが懸念されます。また、国際海底ケーブル「Candle」への巨額の設備投資計画における完成の遅れや、海底ケーブルの切断事故等によるサービス中断がリスクとして挙げられています。

(3) 国内通信事業に関わるリスク


電気通信事業法などの規制変更や、他の事業者が保有する通信設備への依存がリスクとなります。また、チャットなどの普及による音声通話需要の減退や、システムトラブル、不正利用による発信者電話番号偽装の発生などが、サービスの品質低下や信用失墜を招く可能性があります。

(4) メディカル&ヘルスケア事業に関わるリスク


フィリピンでのレーシックや予防医療事業では、競合他社との品質や価格面での競争激化が懸念されます。また、医療行為に伴う安全性への懸念や医療事故の発生、人材の確保難、合弁先との関係解消などが、クリニックの運営や業績に影響を及ぼすリスクとなります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。