アイ・ピー・エス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

アイ・ピー・エス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所(プライム市場)に上場。フィリピンでの国際通信事業を中核に、国内通信事業、メディカル&ヘルスケア事業を展開しています。2025年3月期の連結業績は、売上高が前期比8.1%増の153億円と伸長した一方、為替差損の計上等により経常利益は同8.0%減の41億円となりました。


※本記事は、株式会社アイ・ピー・エスの有価証券報告書(第34期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月20日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. アイ・ピー・エスってどんな会社?


フィリピンにおける通信回線提供や医療・美容事業を軸に、国内外でインフラ・サービスを展開する企業です。

(1) 会社概要


1991年に人材関連事業で設立され、2002年に通信事業へ参入しました。フィリピンでの事業基盤を築き、2016年に関連会社InfiniVANの通信事業法案が可決。2018年にマザーズへ上場し、2020年に東証一部へ市場変更しました。2023年にはフィリピン国内海底ケーブルネットワーク(PDSCN)が完成しています。

連結従業員数は822名、単体では31名です。筆頭株主は創業者の宮下幸治氏で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行です。また、フィリピンの通信事業者や医療法人との合弁事業を展開するなど、現地の有力パートナーと強固な関係を築いています。

氏名 持株比率
宮下 幸治 41.31%
日本カストディ銀行(信託口) 7.83%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 4.99%

(2) 経営陣


同社の役員は男性6名、女性3名の計9名で構成され、女性役員比率は33.3%です。代表取締役は宮下幸治氏が務めています。社外取締役比率は33.3%です。

氏名 役職 主な経歴
宮下幸治 代表取締役 1985年リクルート入社。1991年同社設立・代表取締役。フィリピン子会社等の要職を歴任し、現在はInfiniVAN, Inc.会長等を兼務。
上森雅子 専務取締役メディカル&ヘルスケア事業本部長 1994年同社入社。営業推進部長等を経て2018年専務取締役。フィリピンのメディカル&ヘルスケア事業子会社の社長等を兼務し、2022年より現職。
川渕正光 常務取締役経営企画本部長 監査法人、三菱商事、モルガン・スタンレー証券等を経て、コニカミノルタでM&A等を担当。2022年同社入社、経営企画本部長等を歴任し、2025年より現職。
中原茂樹 取締役通信事業本部長 三井物産出身。2020年同社入社。管理本部長等を経て、現在は通信事業本部長およびInfiniVAN, Inc.社長等を兼務。


社外取締役は、村口和孝(日本テクノロジーベンチャーパートナーズ代表)、雪丸暁子(弁護士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「国際通信事業」、「国内通信事業」、「メディカル&ヘルスケア事業」を展開しています。

(1) 国際通信事業


フィリピンと北米・香港・シンガポール等を結ぶ国際通信回線をCATV事業者や通信事業者に提供するほか、フィリピン国内で法人向けインターネット接続サービスや通信回線の提供を行っています。

収益は、通信事業者等からの回線利用料や通信機器の販売代金から構成されます。運営は主にKEYSQUARE, INC.、InfiniVAN, Inc.、ISMO Pte. Ltd.等の海外連結子会社が行っています。

(2) 国内通信事業


通信事業者間の相互接続による音声通信サービスや、コールセンター向けシステム「AmeyoJ」の販売、データセンターサービス等を提供しています。

収益は、通信通話料やシステムライセンス料、データセンターのコロケーション利用料等から得ています。運営は主に株式会社アイ・ピー・エス・プロが行っています。

(3) メディカル&ヘルスケア事業


フィリピンのマニラ首都圏において、レーシック手術等の眼科診療や美容皮膚科診療を行うクリニック、および人間ドック・健診センターを運営しています。

収益は、患者からの診療報酬や健診利用料等から構成されます。運営はShinagawa Lasik & Aesthetics Center CorporationおよびShinagawa Healthcare Solutions Corporationが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高は一貫して増加傾向にあり、事業規模の拡大が続いています。利益面では、経常利益率は高い水準を維持しているものの、当期は減益となりました。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 95億円 107億円 123億円 141億円 153億円
経常利益 22億円 29億円 35億円 44億円 41億円
利益率(%) 23.0% 27.0% 28.1% 31.4% 26.7%
当期利益(親会社所有者帰属) 9億円 10億円 9億円 15億円 4億円

(2) 損益計算書


売上高は増加しましたが、販管費の増加や為替差損の計上等により、経常利益ベースでは減益となりました。一方、営業利益ベースでは増益を確保しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 141億円 153億円
売上総利益 71億円 83億円
売上総利益率(%) 50.1% 54.2%
営業利益 39億円 44億円
営業利益率(%) 27.6% 28.9%


販売費及び一般管理費のうち、給与手当が11億円(構成比29%)、貸倒引当金繰入額が5億円(同13%)を占めています。

(3) セグメント収益


国際通信事業が増収増益を牽引し、利益の大部分を稼ぎ出しています。一方、国内通信事業とメディカル&ヘルスケア事業は競争激化や先行投資の影響で赤字となりました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
国際通信事業 84億円 112億円 29億円 45億円 40.1%
国内通信事業 41億円 25億円 9億円 -0.1億円 -0.4%
メディカル&ヘルスケア事業 16億円 16億円 1億円 -0.8億円 -5.4%
連結(合計) 141億円 153億円 39億円 44億円 28.9%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

アイ・ピー・エスは、通信回線網強化のための投資資金を営業キャッシュ・フローと銀行からの長期借入金で調達する方針です。

営業活動では、主に通信事業の利益により資金を獲得しました。投資活動では、通信回線網強化のための設備投資に資金を使用しました。財務活動では、借入金の返済や株主からの払込みにより資金を獲得しました。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF -6億円 7億円
投資CF -47億円 -25億円
財務CF 23億円 14億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「Open Door」という企業理念を掲げています。これは、いまだ誰も突破できていない障壁のある生活に密着した分野で、誰よりも先んじて事業機会を創造し、事業を展開し、産業構造を変え、あるべき社会を実現することを目指すものです。

(2) 企業文化


同社は、誰も突破できていない障壁のある分野で事業機会を創造し、産業構造を変革しようとする挑戦的な文化を持っています。フィリピンという成長市場において、通信インフラの整備や医療サービスの提供など、現地社会の課題解決に貢献する事業を展開しており、社会的意義を重視する姿勢が見られます。

(3) 経営計画・目標


具体的な数値目標は記載されていませんが、国際通信事業においては、法人向けインターネット接続サービスの課金済み顧客件数や契約容量、サービス利用可能建物の件数などを事業成長判断の重要な指標として管理しています。

(4) 成長戦略と重点施策


国際通信事業では、フィリピン国内海底ケーブルネットワーク(PDSCN)を活用し、サービス提供エリアをフィリピン全土へ拡大することを目指しています。また、メディカル&ヘルスケア事業では、若年層へのレーシック適応拡大や、予防医療分野での健診センター(SDPCC)の早期収益化を図る方針です。国内では、電話網IP化に対応した新サービスの提供を進めます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社グループは、属性に関係なく中核人材を積極的に採用し、多様性を確保する方針です。女性、外国人、中途採用者の管理職登用を進めるとともに、社員一人一人の成長を実感できる取り組みや、海外子会社への社員派遣などを通じて、多様な人材の育成に注力しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 42.3歳 5.6年 9,000,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社および連結子会社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 海外事業に関わるリスク


日本国内のほかフィリピン、シンガポール、米国に事業拠点を有しており、各国の経済・社会環境の変化や景気動向の影響を受ける可能性があります。特にフィリピンにおいては、賃金上昇による人材確保難、自然災害によるインフラ障害、治安悪化などが事業活動や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

(2) 国際通信事業に関わるリスク


フィリピンでの通信事業には外資規制や事業認可が必要であり、関連法令の変更や認可の更新不可等の事象が発生した場合、事業展開に支障が生じる可能性があります。また、大手通信事業者との競合激化や、海底ケーブルの切断事故、技術革新による通信価格の下落などが業績に影響を与える可能性があります。

(3) 国内通信事業に関わるリスク


電気通信事業法等の関連法令による規制を受けており、法令違反等による処分や取引停止のリスクがあります。また、音声通信需要の減少や技術革新への対応遅れ、他社回線設備への依存、システムトラブルによるサービス中断などが、財政状態や経営成績に影響を与える可能性があります。

(4) メディカル&ヘルスケア事業に関わるリスク


フィリピンにおける医療・美容事業は現地法令や許認可の規制を受けており、法令改正等が事業展開に影響を及ぼす可能性があります。また、競合の増加、合弁先との関係変化、医療事故の発生やレーシックへの安全性懸念などが、業績や信用に影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。