※本記事は、株式会社インバウンドテック の有価証券報告書(第10期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月30日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. インバウンドテックってどんな会社?
マルチリンガルCRMとセールスアウトソーシングを軸に、企業の課題解決やグローバル対応を支援するビジネスソリューション企業です。
■(1) 会社概要
同社は2015年に設立され、多言語コンタクトセンターの運営を開始しました。その後、多言語対応言語の拡大やAI通訳サービスの提供などを進め、2020年に東京証券取引所マザーズ(現グロース)へ上場しました。2021年には株式会社シー・ワイ・サポートおよび株式会社OmniGridを子会社化し、事業領域を拡大しています。
現在、同社グループの従業員数は連結で94名、単体で91名です。筆頭株主は創業者の下大薗豊氏(現取締役会長)で、第2位は株式会社Shelter、第3位は法人向けソリューション事業等を行うグローバルキャストとなっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 下大薗 豊 | 12.24% |
| Shelter | 11.21% |
| グローバルキャスト | 10.99% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性1名の計11名で構成され、女性役員比率は9.1%です。代表取締役社長執行役員兼ソリューション事業本部長は東間大氏が務めています。取締役7名のうち4名が社外取締役であり、社外取締役比率は57.1%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 東間 大 | 代表取締役社長執行役員兼ソリューション事業本部長 | 2015年同社取締役、2017年同社代表取締役社長を経て、2019年4月より現職。パスファインダー代表取締役、OmniGrid取締役を兼任。 |
| 下大薗 豊 | 取締役会長 | 2011年ブリックス取締役会長、2015年同社代表取締役社長を経て、2017年9月より現職。OmniGrid代表取締役を兼任。 |
| 金子 将之 | 取締役CFO専務執行役員管理本部長 | 2010年ブリックス管理部長、リンクソシュール業務管理部長等を経て、2015年同社取締役管理本部長に就任。2022年6月より現職。 |
社外取締役は、藤咲雄司(元天馬代表取締役社長)、張佑騎(弁護士)、砂川伸幸(京都大学経営管理大学院教授)、箱守豪(NTTコミュニケーションズ担当部長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「マルチリンガルCRM事業」および「セールスアウトソーシング事業」を展開しています。
■(1) マルチリンガルCRM事業
24時間365日、12カ国語に対応する多言語コンタクトセンター運営や、通訳サービスを提供しています。主な顧客は、外国人対応が必要な企業や自治体です。電話だけでなく、映像通信、SNSなど多様なチャネルに対応し、クライアントのインバウンド対応や海外展開を支援しています。
収益は、主にコンタクトセンター運営の受託料や通訳サービスの利用料から得ています。また、小規模事業者向けにはクラウド型通訳サービス「エコノミー通訳」も提供しています。運営は主にインバウンドテックと子会社のOmniGridが行っています。
■(2) セールスアウトソーシング事業
クライアントに代わって見込み顧客に対し、商品紹介や販売勧誘、アンケート調査などの営業活動を行うサービスです。主な顧客は通信インフラや電力関連企業などです。成果報酬型だけでなく、稼働人数あたりの固定売上を組み合わせた契約形態を採用し、安定した収益確保を目指しています。
収益は、営業代行業務の委託料や成果報酬から得ています。コンプライアンス体制を重視し、過剰な勧誘を抑止する運用を行っています。運営はインバウンドテックと子会社のシー・ワイ・サポートが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近の業績を見ると、売上高は第9期まで増加傾向にありましたが、第10期は減収となりました。利益面では、第8期をピークに減少傾向にあり、第10期は営業損益段階で大幅な減益となり、当期純損益は赤字に転落しました。これは公共関連業務の受注減や子会社の減損損失計上などが影響しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 28億円 | 33億円 | 33億円 | 25億円 |
| 経常利益 | 2.9億円 | 3.9億円 | 3.2億円 | 0.2億円 |
| 利益率(%) | 10.4% | 11.8% | 9.8% | 0.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 1.8億円 | 2.2億円 | 2.1億円 | -4.1億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上高の減少に伴い売上総利益が縮小しています。販売費及び一般管理費は横ばいですが、売上総利益の減少を吸収できず、営業利益は大きく低下しました。また、当期は減損損失等の特別損失を計上したため、最終赤字となっています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 33億円 | 25億円 |
| 売上総利益 | 8.9億円 | 5.7億円 |
| 売上総利益率(%) | 26.9% | 22.5% |
| 営業利益 | 3.3億円 | 0.2億円 |
| 営業利益率(%) | 10.0% | 0.8% |
販売費及び一般管理費のうち、役員報酬が約1.2億円(構成比21%)、のれん償却額が約0.9億円(同16%)を占めています。売上原価においては、外注費などの変動費が含まれていると考えられます。
■(3) セグメント収益
マルチリンガルCRM事業は、公共関連業務の受注減などが響き、減収減益となりました。セールスアウトソーシング事業も、主要顧客の案件が計画を下回ったことなどから減収減益となっています。両セグメントともに厳しい事業環境となり、全体の利益を押し下げる結果となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| マルチリンガルCRM事業 | 22億円 | 18億円 | 5.2億円 | 3.0億円 | 17.0% |
| セールスアウトソーシング事業 | 11億円 | 8億円 | 2.4億円 | 1.2億円 | 16.1% |
| 連結(合計) | 33億円 | 25億円 | 3.3億円 | 0.2億円 | 0.8% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFはプラスを維持していますが、利益の減少に伴い縮小しています。投資CFはマイナスで、システム開発等の投資を行っています。財務CFは借入返済等によりマイナスです。営業活動で得た資金を投資や返済に充てる健全型のキャッシュ・フローですが、営業CFの水準低下には注意が必要です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1.9億円 | 0.8億円 |
| 投資CF | -2.1億円 | -1.5億円 |
| 財務CF | -3.2億円 | -2.2億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は当期赤字のため算出できませんが、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は57.5%で市場平均(グロース市場非製造業平均43.3%)を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「私たちが関わる全ての人に最上級の感動を提供し続けること」をミッションとしています。中長期的ビジョンとして「企業・エンドユーザーの枠を超えた全ての利用者が豊かになるサービスを提供する」ことを掲げ、時間や言語の枠にとらわれないグローバルなコンタクトセンターを中心に、持続的な成長を目指しています。
■(2) 企業文化
「常にお客様の要望に応えるため、一人一人がより良き選択肢を『思考』し『行動』すること」や、「お客様、仲間、全てのステークホルダーに貢献するため、常に良きサービスを探求し、提供し続けること」を経営理念(バリュー)として掲げています。変化し続ける社会の中で、顧客のニーズに応えるための主体的な行動と探求心を重視する文化です。
■(3) 経営計画・目標
同社グループは、持続的な成長と企業価値向上のため、収益力の強化と経営効率化を掲げています。特に「売上高営業利益率」を重要な経営指標と位置づけ、各経営課題に取り組む方針です。具体的な数値目標は記載されていませんが、利益率を重視した経営を目指しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
既存顧客との関係深耕に加え、在留外国人向けインフラサービスの多言語化ニーズを取り込み、新規獲得を推進します。また、サービス品質向上やコンシューマー向けサービスの開発、インフラ関連商材の拡大、海外展開などを重点施策として掲げています。
* コンサルティング営業の強化
* サービス品質の向上(専用センター開設、AI活用等)
* コンシューマー向けサービス展開(通訳端末、プラットフォーム等)
* ビッグデータの収集・分析による付加価値創造
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
持続的な成長のために、優秀な人材の確保と育成を最重要課題と認識しています。新卒採用を開始し、成長資質と企業風土に合致した人材を登用するとともに、人材育成体制を整備し、定着と組織力の底上げを図る方針です。また、多様性を確保し、フラットな組織作りにも注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 34.1歳 | 2.7年 | 5,297,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 30.0% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 63.3% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 75.9% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 68.3% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) インバウンド需要の変動リスク
同社は多言語CRM事業においてインバウンド需要の拡大を見込んでいますが、感染症の流行や国際情勢の変化等により訪日外国人数が伸び悩む場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。需要取り込みのための体制強化を進めていますが、外部環境への依存度は高いと言えます。
■(2) 特定取引先への依存リスク
セールスアウトソーシング事業を中心に、東京電力グループへの売上依存度が高くなっています(2025年3月期で連結売上の18.2%)。同グループとの取引関係を重視する一方で、取引方針の変更や取扱商材の入れ替え等が計画通り進まない場合、業績に影響を与える可能性があります。
■(3) 競合との競争激化リスク
BPO市場は参入障壁が低く、大手からベンチャーまで多数の企業が参入しており、競争が激化しています。同社は多言語対応や営業機能などの差別化を図っていますが、優位性を維持できず価格競争等に巻き込まれた場合、収益性が低下する恐れがあります。



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