エヌ・シー・エヌ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

エヌ・シー・エヌ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

エヌ・シー・エヌは東京証券取引所スタンダード市場に上場し、独自の建築システム「SE構法」を用いた木造耐震設計事業を主力とする企業です。省エネルギー計算などの環境設計やBIMを活用したデジタル化支援も展開しています。直近の業績は、売上高が増加した一方で、各利益段階においては減益となりました。


※本記事は、株式会社エヌ・シー・エヌの有価証券報告書(第31期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月16日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. エヌ・シー・エヌってどんな会社?


木造建築の耐震設計と独自の「SE構法」を提供し、日本の住宅の資産価値向上を目指す企業です。

(1) 会社概要


1996年、阪神淡路大震災の悲劇を繰り返さないためにエヌ・シー・エヌを設立しました。1997年にSE構法の販売を開始し、2019年に東京証券取引所JASDAQ(現スタンダード市場)へ上場しました。近年は非住宅木造建築にも注力し、2022年に翠豊を連結子会社化するなどで事業領域を拡大しています。

エヌ・シー・エヌの従業員数は連結で144名、単体で100名体制です。筆頭株主は田杉総行で、第2位は代表取締役社長執行役員の田鎖郁夫氏、第3位は杉山恒夫氏となっています。

氏名 持株比率
田杉総行 22.13%
田鎖郁夫 19.51%
杉山恒夫 7.27%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性0名の計9名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長執行役員は田鎖郁夫氏が務めており、取締役6名中2名が社外取締役です。

氏名 役職 主な経歴
田鎖郁夫 代表取締役社長執行役員 1989年日商岩井入社。1996年エヌ・シー・エヌ設立(出向)、1999年取締役、2000年代表取締役常務を経て、2006年より現職。
藤井義久 取締役専務執行役員 1992年藤木海運入社。1999年エヌ・シー・エヌ入社。2001年取締役、2006年常務、2009年専務を経て、2024年より現職。
福田浩史 取締役常務執行役員特建事業部長 1999年熊谷組入社。2002年エヌ・シー・エヌ入社。2013年執行役員、2020年取締役執行役員特建事業部長を経て、2024年より現職。
藤幸平 取締役執行役員管理本部長 2005年ソフトバンク・ブロードメディア入社。2020年エヌ・シー・エヌに入社し、取締役執行役員管理部門長を経て、2024年より現職。


社外取締役は、松井忠三(元良品計画社長)、内山博文(リノベーション協議会会長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「木造耐震設計事業」および「その他」事業を展開しています。

(1) 木造耐震設計事業(住宅分野)


工務店を中心とした登録施工店ネットワークや、パートナー企業(ハウスメーカー等)を通じて、独自の建築システム「SE構法」による木造建築の耐震設計と構造加工品を提供しています。高品質な集成材や独自開発の金物を活用し、高い耐震性と大空間を実現する安全性の高い住宅を普及させています。

登録施工店からは登録料や月会費を受領するほか、設計段階での構造計算書の出荷、建設段階での構造加工品等の販売による収益が主な柱です。運営は主にエヌ・シー・エヌが行っており、パートナー企業へのOEM提供も推進しています。

(2) 木造耐震設計事業(大規模木造建築分野)


延床面積500平方メートル以上または住宅以外の木造建築(店舗、施設など)を対象にSE構法を提供しています。脱炭素社会に向けた法改正を背景に、公共・民間双方での木造化ニーズが高まる中、住宅分野で培った高度な構造計算ノウハウを大規模建築へ転用し事業を拡大しています。

構造計算から集成材の加工、施工までをワンストップで提供することで収益を得ています。運営はエヌ・シー・エヌのほか、非住宅向けの構造設計を担う木構造デザインや、大断面集成材の特殊加工・施工に強みを持つ翠豊がグループ一体となって展開しています。

(3) その他(環境設計・BIM事業など)


住宅の資産価値向上を目指し、省エネルギー計算サービスや長期優良住宅認定の代行、非住宅向けのZEB認証取得サポート等を行っています。また、木造住宅の3次元CADデータ(BIMデータ)生成技術を活用し、設計から施工までのデータ一元化や高画質空間シミュレーションサービスも提供しています。

省エネルギー性能の説明・適合義務化を背景に、計算サービスの提供により手数料収入を得ています。BIM事業ではソリューションの開発・販売等で収益化を図っています。運営は環境設計をエヌ・シー・エヌが担い、BIM事業は連結子会社のKINO BIMが展開しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は80億円から90億円台で推移しています。経常利益は一時的に落ち込んだ後、回復傾向にありましたが、直近では減益となりました。利益率も数パーセント台で変動しており、安定した収益基盤の構築と事業成長に向けた投資のバランスが窺えます。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 86億円 92億円 80億円 81億円 84億円
経常利益 4億円 5億円 0.5億円 3億円 2億円
利益率(%) 4.9% 4.9% 0.6% 3.6% 2.2%
当期利益(親会社所有者帰属) 3億円 3億円 0.5億円 0.6億円 2億円

(2) 損益計算書


売上高は前期比で増加し、売上総利益も増加しましたが、販売費及び一般管理費の増加により営業利益は減少しました。売上総利益率は27%前後を維持しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 81億円 84億円
売上総利益 22億円 23億円
売上総利益率(%) 26.6% 27.1%
営業利益 1.8億円 1.5億円
営業利益率(%) 2.2% 1.8%


販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が5.2億円(構成比24.5%)、販売促進費及び広告宣伝費が3.2億円(同14.9%)を占めています。

(3) セグメント収益


分野別の売上を見ると、主力の住宅分野が堅調に推移するなか、脱炭素社会に向けた木造化ニーズを捉えた大規模木造建築分野が売上を伸ばしています。また、法改正による省エネ基準適合義務化を背景に、環境設計分野が大きく成長しています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
住宅分野 47億円 48億円
大規模木造建築(非住宅)分野 29億円 31億円
環境設計分野 2.9億円 4.0億円
DX・その他の分野 1.6億円 1.8億円
連結(合計) 81億円 84億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


改善型:営業利益と投資有価証券等の売却による収入で、借入金の返済や株主還元を進めている改善局面です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 6.9億円 3.8億円
投資CF -1.6億円 0.8億円
財務CF -1.6億円 -1.6億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.9%で市場平均をわずかに下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も35.0%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


「日本に安心・安全な木構造を普及させる。」「日本に資産価値のある住宅を提供する仕組みをつくる。」ことを目標(ミッション)として掲げています。住宅の安全性確保(大地震発生時の安全性)や耐久性の確保、間取りの可変性など5つのテーマに取り組み、全国の工務店とのネットワークを通じて社会の仕組みとして築き上げることを目指しています。

(2) 企業文化


法令遵守や日々の業務を適正かつ確実に遂行し、クリーンで誠実な姿勢を企業行動の基本としています。また、部門間の垣根を越えたコミュニケーションを活性化し、失敗を恐れず新しいことに挑戦できる心理的安全性のある職場風土を醸成しています。多様なバックグラウンドを持つ従業員が能力を最大限に発揮できる環境づくりを重視しています。

(3) 経営計画・目標


経営指標として、事業活動の成果を示す営業利益を注視し、収益性の指標に営業利益率を掲げています。また、資本および資産の効率性判断の指標としてROE(自己資本利益率)、財務の安定性判断の指標としてネットキャッシュおよび流動資産構成比率を掲げ、月次の取締役会等で定期的にモニタリングし達成状況を確認しています。

(4) 成長戦略と重点施策


既存の住宅分野での工務店ネットワーク拡大による収益基盤強化に加え、建築基準法改正や脱炭素社会の実現に向けたニーズ増大を捉え、非住宅の大規模木造建築分野や環境設計分野(省エネルギー計算など)での事業拡大を成長戦略に据えています。さらに、新たな構造評定を取得した「SE構法Ver.3」の販売や、生成AI等を活用した建築DXの推進にも注力しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


持続的な企業価値向上に向け、人的資本への投資を重要視しています。高度な専門知識を備え、社会課題の解決に向けて自律的に挑戦し続けるプロフェッショナル人材の育成を掲げており、一級建築士等の資格取得支援や階層別研修を整備しています。また、柔軟な働き方の実現と健康経営を推進し、多様な人材が長く活躍できる社内環境の整備に取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 40.5歳 8.8年 6,733,972円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 17.1%
男性育児休業取得率 50.0%
労働者の男女の賃金の差異 -


※労働者の男女の賃金の差異は公表義務の対象ではないため、有報には記載がありません。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 国や地方自治体の施策による影響


住宅の耐震化推進や公共・民間建築物における木材利用促進の法律など、国や地方自治体の施策は同社のSE構法に対する需要増加の追い風となっています。しかし、将来的にこれらの施策や関連法規が変更・縮小された場合には、市場の成長が鈍化し、同社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 特定人物への依存及び人材確保に係るリスク


事業拡大に伴う優秀な専門人材の確保・育成が重要な課題です。また、代表取締役社長執行役員の業界における豊富な知見と経験に依存している面があります。特定の人物に過度に依存しない体制構築や人材採用・育成施策を進めていますが、人材の流出や確保困難が生じた場合、事業展開に影響を及ぼす可能性があります。

(3) システム開発とソフトウエアの資産計上


設計や構造計算、工場との連携など事業の基幹部分にシステムを活用しており、新システムの自社開発等には多額の投資が必要です。自社利用のソフトウエアは資産計上されていますが、各事業の収益が悪化した場合、減損会計の適用により減損処理が必要となり、業績や財政状態に悪影響を及ぼすリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。