※本記事は、株式会社JMDCの有価証券報告書(第13期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はIFRSです。
1. JMDCってどんな会社?
同社は、医療ビッグデータとICTを活用し、医療の高度化・効率化を支援するサービスを提供しています。
■(1) 会社概要
2002年1月に日本医療データセンターとして設立され、医療に関するリアルワールドデータの収集と提供を開始しました。2013年の吸収合併等を経て体制を強化し、2018年4月にドクターネットを子会社化して遠隔医療事業へ参入しました。同年7月に現在のJMDCへ商号変更し、2019年12月に上場しました。その後もM&A等を通じて事業領域を広げ、2023年10月にはオムロンが親会社となっています。
従業員数は連結で2,444名、単体で499名です。筆頭株主は親会社であり資本業務提携先である事業会社のオムロンで、第2位および第3位は資産管理業務を行う信託銀行です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| オムロン | 54.19% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 6.30% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.54% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性2名の計9名で構成され、女性役員比率は22.2%です。代表取締役社長 兼 CEOは野口亮氏が務めています。取締役会の社外取締役比率は55.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 野口 亮 | 代表取締役社長 兼 CEO | 2007年ボストンコンサルティンググループ入社。2016年ジーンテック代表取締役等を経て2020年同社執行役員。2023年6月より現職。ドクターネット等の取締役も兼務。 |
| 松島 陽介 | 取締役会長 | 2005年マッキンゼー入社等を経て2013年同社代表取締役社長。代表取締役社長 兼 CEOとして事業拡大を牽引。2023年代表取締役会長を経て2024年6月より現職。 |
| 山元 雄太 | 取締役 | 2007年ボストンコンサルティンググループ入社。2014年弁護士登録。ノーリツ鋼機等を経て2019年同社執行役員副社長 兼 CFO。2023年6月より現職。 |
| 竹田 誠治 | 取締役 | 1990年オムロン入社。同社グローバル戦略本部長等を経て、2022年同社社外取締役。オムロン執行役員専務CFO 兼 グローバル戦略本部長を務め、2023年10月より現職。 |
社外取締役は、李智賢氏(レイズパートナーズ 代表取締役)、霜田恒夫氏(ヘルスケア・データサイエンス研究所 理事)、林南平氏(NHパートナーズ 代表取締役代表パートナー)、藤岡大祐氏(ESネクスト有限責任監査法人 理事パートナー)、渡邊多永子氏(筑波大学医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野 准教授)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ヘルスビッグデータ」および「遠隔医療」事業を展開しています。
■(1) ヘルスビッグデータ
健康保険組合などの保険者、医療機関、製薬企業、生損保企業に対して、医療ビッグデータの抽出・分析サービスや、個人の健康管理プラットフォーム「Pep Up」、医療機関向けのコンサルティングおよび診療報酬ファクタリングなどを提供しています。
主に製薬企業や保険会社からのデータ販売・分析サービス料、医療機関からの手数料等から収益を得ています。本事業の運営は、同社のほか、メディカルデータベース、データインデックス、キャンサースキャンなど複数の子会社が行っています。
■(2) 遠隔医療
放射線診断専門医が不足している医療機関に対し、契約読影医を遠隔でつなぐ遠隔読影マッチングサービス「Tele-RAD」や、医療機関と専門医をクラウドでつなぐASPサービス「Virtual-RAD」を提供し、スピーディーかつ高品質な画像診断を支援しています。
医療機関からの遠隔画像診断の委託に対するマッチングサービス料や、クラウド型システムの利用料などを主な収益源としています。本事業の運営は、主に子会社のドクターネットが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間において、売上収益は毎期順調に増加しており、約2.3倍の規模へと拡大しています。税引前利益も売上の拡大に伴って力強い成長を続けており、利益率も概ね20%前後の高い水準で推移し、安定した高収益体質を維持しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 218億円 | 278億円 | 306億円 | 417億円 | 505億円 |
| 税引前利益 | 48億円 | 59億円 | 54億円 | 85億円 | 100億円 |
| 利益率(%) | 21.9% | 21.1% | 17.6% | 20.4% | 19.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 32億円 | 43億円 | 46億円 | 73億円 | 68億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益と売上総利益はともに順調に拡大しており、売上総利益率は50%台半ばの高水準を維持しています。営業利益率も20%台を保っており、持続的な売上成長と安定した利益創出のバランスが取れています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 417億円 | 505億円 |
| 売上総利益 | 238億円 | 277億円 |
| 売上総利益率(%) | 57.2% | 54.9% |
| 営業利益 | 87億円 | 105億円 |
| 営業利益率(%) | 20.9% | 20.8% |
販売費及び一般管理費(177億円)のうち、従業員給付費用が118億円(構成比67%)、支払手数料及び報酬が18億円(同10%)を占めています。売上原価(228億円)においては、従業員給付費用が79億円(構成比35%)、外注費が54億円(同24%)を占めています。
■(3) セグメント収益
ヘルスビッグデータ事業は、取引先健康保険組合の拡大や製薬企業向けサービスの伸長により、大幅な増収増益を達成しました。遠隔医療事業も、契約読影医と契約医療機関が順調に増加したことで、安定した収益成長を維持しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| ヘルスビッグデータ | 356億円 | 441億円 | 96億円 | 117億円 | 26.6% |
| 遠隔医療 | 61億円 | 64億円 | 22億円 | 24億円 | 37.7% |
| 連結(合計) | 417億円 | 505億円 | 109億円 | 132億円 | 26.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 147億円 | 86億円 |
| 投資CF | -35億円 | -106億円 |
| 財務CF | 65億円 | -13億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.4%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は60.2%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、企業理念として「健康で豊かな人生をすべての人に」を掲げています。医療費の増大や医療の地域格差、労働力不足といった社会課題に対し、データとICTの力で持続可能なヘルスケアシステムの実現を目指しています。日本で培った課題解決のノウハウを用いて、将来的にはアジア諸国などでの課題解決にも取り組む方針です。
■(2) 企業文化
同社は、「社会課題の解決に向け果敢にチャレンジする」という理念を共有し、事業シナジーを創出することを重視しています。また、従業員の挑戦と成果創出を持続的に支え、高度な専門人材が活躍し続けられる「起業家精神あふれる企業文化」を最大限尊重しながら、中長期的な企業価値の向上を図っています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、経営方針や経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標として、EBITDA(営業利益+減価償却費及び償却費±その他の収益・費用)を重視しています。EBITDAを用いてグループ全体の評価を行うとともに、各報告セグメントの利益に分解して業績を管理し、事業の成長性を評価しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、既存のデータ利活用サービスの高付加価値化(アップセル)とデータ種類の拡充(クロスセル)による取引額の最大化を成長戦略の柱としています。具体的な重点施策として、日本のヘルスケアデータの結集によるデータベースの量的・質的拡大、データ解析やコンサルティング等の付加価値の高いサービス提供、そして個人の健康管理プラットフォーム「Pep Up」の普及を通じた国民医療費の抑制への貢献を進めています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、医療・ヘルスケア分野の深い知見を持つ「ドメイン専門人材」、データ収集・分析を担う「データサイエンティスト・AIエンジニア」、ステークホルダーとの連携を推進する「ソリューション人材」の確保と育成を持続的成長の源泉と位置づけています。職務や成果に応じた評価・報酬制度を整備し、競争力のある給与水準を実現することで、高度専門人材が長期にわたり活躍できる環境の構築を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 39.4歳 | 4.5年 | 8,227,757円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 15.6% |
| 男性育児休業取得率 | 78.6% |
| 労働者の男女の賃金の差異(全労働者) | 68.3% |
| 労働者の男女の賃金の差異(正規雇用労働者) | 70.9% |
| 労働者の男女の賃金の差異(パート・有期労働者) | 227.4% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 他社との競合による優位性低下リスク
同社の競合他社が資本力や技術力、価格競争力において同社より優れている場合、販売競争で劣勢に立たされる可能性があります。競合が同等以上のサービスを低価格で提供した場合には、同社の優位性が低下し、期待通りに顧客の獲得や維持ができず、業績に影響を及ぼすリスクがあります。
■(2) 情報システムへの依存とシステムトラブル
同社はレセプトデータの分析や遠隔読影マッチングサービスの提供において、コンピュータシステムに大きく依存しています。セキュリティの強化やバックアップ体制等の対策を講じていますが、人為的過誤や自然災害、サイバー攻撃等によりシステムトラブルが発生した場合、サービスの低下や損害賠償が生じ、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 遠隔画像診断における誤診リスク
同社の遠隔医療事業は、医療機関に対して遠隔画像診断サービスを提供しており、契約読影医に大きく依存しています。独自の品質管理を実施していますが、契約読影医による予期せぬトラブルや誤診が生じ、同社に重大な過失が認められた場合には、損失補償や信用の悪化を招き、事業展開に影響を及ぼすリスクがあります。



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