AI inside 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

AI inside 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証グロース市場に上場。AI技術を活用した文字認識サービス「DX Suite」やAIエージェント「Heylix」等の人工知能事業を展開。2025年3月期は、売上高が前期比で増加したものの、のれんの減損損失計上等の影響により最終赤字となりました。(128文字)


※本記事は、AI inside 株式会社 の有価証券報告書(第10期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. AI insideってどんな会社?


AI-OCRサービス「DX Suite」を主力に、AI技術の研究開発と社会実装を行うテック企業です。

(1) 会社概要


2015年に設立され、AIによる手書き文字認識サービスの提供を開始しました。2017年には主力となるAI-OCRサービス「DX Suite」をリリースし、2019年にエッジコンピューティング用ハードウェア「AI inside Cube」の提供を開始するとともに、東証マザーズ(現グロース)へ上場しました。

従業員数は単体123名です。筆頭株主は創業者の渡久地択氏で、第2位はネット証券大手の楽天証券、第3位は資産管理業務を行う日本カストディ銀行です。

氏名 持株比率
渡久地 択 47.23%
楽天証券 3.26%
日本カストディ銀行(信託口) 2.99%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性0名の計8名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長CEOは渡久地択氏です。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
渡久地 択 代表取締役社長CEO 2010年より複数の会社設立・代表取締役を歴任。2015年8月に同社を設立し、代表取締役社長CEOに就任。2015年より現職。
前刀 禎明 取締役 ライブドア社長、Apple米国本社副社長、日本法人代表等を歴任。リアルディア代表取締役を務める。2025年4月より現職。
鈴木 協一郎 取締役 日本マイクロソフト執行役、米国本社GM等を経て、レフトライト代表取締役社長を務める。2025年4月より現職。
岡田 和敏 取締役 日本ヒューレット・パッカード執行役員、日本アイ・ビー・エム執行役員等を経て、同社執行役員CRO等を歴任。2025年4月より現職。


社外取締役は、星健一(元アマゾンジャパン ディレクター)、佐藤孝幸(佐藤経営法律事務所代表)、加川亘(元NTTドコモ取締役常務執行役員)、蔵元左近(蔵元国際法律事務所代表)です。

2. 事業内容


同社グループは、「人工知能事業」の単一セグメントで事業を展開しています。

「DX Suite」

ディープラーニングを活用したAI-OCRサービスです。手書き文字認識技術をベースとし、レイアウトが統一された定型帳票や、請求書・領収書などの非定型帳票を読み取り、デジタルデータ化する機能を提供しています。また、書類の仕分けを行う機能も有しています。

収益は、ユーザー企業における帳票のデータ化リクエスト数(読取り回数)に基づく月額従量費用や、オプション機能の月額固定費用といったリカーリング型モデルと、初期費用等のセリング型モデルから構成されます。運営は同社が行っています。

「AI inside Cube」

クラウドにアクセスすることなくユーザーの元でAI処理を行う、エッジコンピューティング用ハードウェアです。官公庁や地方公共団体など、プライバシー保護が重視される環境での利用ニーズに対応しています。

収益は、月額定額のリカーリング型モデルで提供されています。電源とLANケーブルを接続するだけで使用可能な設計となっており、運営は同社が行っています。

「AnyData」・「Heylix」

「AnyData」は画像・予測AI技術を統合し、AIが自律的に学習してモデルを生成するソリューションです。「Heylix」は生成AI等を掛け合わせ、チャット指示で業務を自律的に遂行するAIエージェントです。

企業活動全体の効率化を担う複合AIソリューションとしてパートナーとともに提供され、AIソリューションの利用拡大を目指しています。運営は同社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


第7期に売上高が一時減少しましたが、その後は増加傾向にあり、第10期は44億円規模まで拡大しています。利益面では、経常利益は黒字を維持しているものの、当期純利益は第8期と第10期に赤字を計上しており、変動が見られます。特に第10期は減損損失の影響により当期純損失となりました。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 46.0億円 33.1億円 38.0億円 41.9億円 44.0億円
経常利益 23.4億円 5.6億円 2.8億円 4.3億円 4.1億円
利益率(%) 50.9% 17.0% 7.3% 10.2% 9.2%
当期純利益(親会社所有者帰属) 16.6億円 4.1億円 -5.2億円 5.4億円 -5.0億円

(2) 損益計算書


売上高は増加し、売上総利益率も80%台の高い水準で推移していますが、販売費及び一般管理費の増加により営業利益は減少しました。当期はのれんの減損損失などの特別損失を計上したため、最終損益は赤字となっています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 41.9億円 44.0億円
売上総利益 33.3億円 35.8億円
売上総利益率(%) 79.4% 81.3%
営業利益 4.5億円 3.9億円
営業利益率(%) 10.7% 8.8%


販売費及び一般管理費のうち、給料手当が9.0億円(構成比28.0%)、通信費が4.1億円(同12.8%)、業務委託費が4.0億円(同12.6%)を占めています。売上原価では、経費が6.6億円(構成比80.7%)、労務費が1.6億円(同19.3%)となっています。

(3) セグメント収益


同社は人工知能事業の単一セグメントですが、収益モデル別の内訳を開示しています。継続的な収益が見込めるリカーリング型モデルの売上高が増加し、全体の成長を支えています。一方、初期費用等を含むセリング型モデルの売上高は減少しました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期)
リカーリング型モデル 38.5億円 41.9億円
セリング型モデル 3.5億円 2.1億円
合計 41.9億円 44.0億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業活動によるキャッシュ・フローはプラスで、投資および財務活動によるキャッシュ・フローはマイナスとなっており、本業で得た現金を借入返済や投資に回しつつ、手元資金も確保できている「健全型」の状態と言えます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 7.4億円 7.8億円
投資CF 6.0億円 -2.0億円
財務CF -0.0億円 -0.5億円


財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は65.2%で市場平均を上回っています。ROE(自己資本利益率)は当期純損失計上のため算出されていません。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「AIで、人類の進化と人々の幸福に貢献する」というパーパスを掲げています。また、「AI inside X」というビジョンのもと、様々な環境(X)に溶け込むAIが実装され、誰もが意識することなくAIの恩恵を受けられる豊かな社会の実現を目指しています。

(2) 企業文化


同社は、AIテクノロジーの妥協なき追求により「非常識を常識に変え続ける」ことをミッションとしています。このミッションに基づき、これまでの常識にとらわれない技術開発や事業展開に取り組む姿勢を重視しています。

(3) 経営計画・目標


同社はリカーリング型売上の成長を最重要指標と定めています。その成長要因として、以下の指標を重視しています。

* 契約件数
* 契約の解約率(チャーンレート)
* AIファンクションのリクエスト数

(4) 成長戦略と重点施策


同社はAIの急速な社会普及を見据え、以下の領域に注力しています。

* 研究開発の強化:抜本的な技術開発のため、応用研究だけでなく基礎研究も継続します。
* 製品開発の強化:ユーザーの利用データに基づくフィードバックにより、AIの精度向上を図る好循環サイクルを強化します。
* 顧客基盤の強化:パートナー連携を推進し、複合AIソリューションの提供により幅広い顧客基盤を構築します。
* 情報管理体制の強化:機密情報や個人情報の保護体制を強化します。
* 優秀な人材の確保:採用力の向上と離職率の低減に努めます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、急速に進化するAI技術と市場環境に対応するため、プロ人材の採用・育成と組織能力の強化を重視しています。国籍や性別を問わない多様な人材の採用、管理職のマネジメント力向上に取り組むほか、「Work with Buddy」(AI活用ワークスタイル)や「Work from Anywhere」(ハイブリッドワーク)などの環境整備を進め、多様な人材が自ら挑戦・活躍できる文化の醸成を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 39.9歳 3.0年 9,872,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 17.7%
男性育児休業取得率 0.0%
男女賃金差異(正規) 70.5%
男女賃金差異(全労働者) -
男女賃金差異(非正規) -


※男女賃金差異(全労働者・非正規)については、有価証券報告書に記載がありません。

また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、離職率(18.42%)、年休取得率(78.30%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 個人情報を含むデータを学習に用いるリスク

製品やサービス提供にあたり、顧客から取得した個人情報を含むデータを用いてAIの学習を行うことがあります。法令遵守や顧客の承諾取得を行っていますが、消費者からの理解が得られず批判にさらされる可能性があり、その場合、事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 販売代理店への依存リスク

顧客基盤拡大のために代理店を通じた販売を重視しており、今後売上高に占める代理店販売の比率が高まることが想定されます。契約更新の不調、取引条件の変更、代理店経由の販売の落ち込み、OEM先の販売施策による影響などが生じた場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(3) M&Aによる影響

事業拡大の手段としてM&Aを検討する方針ですが、買収後に偶発債務や未認識債務が判明したり、事業展開が計画通り進まない可能性があります。また、M&Aにより計上したのれんの経済価値が低下し、減損処理に至った場合、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

(4) ソフトウェアの資産計上に伴う費用化による影響

ソフトウェア開発に係る費用の一部を資産計上しており、2025年3月末時点のソフトウェア合計額は約1.9億円です。今後、研究開発の結果として資産計上されるソフトウェアが増加した場合、それに伴う減価償却費も増加し、将来の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。