日本インシュレーション 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日本インシュレーション 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日本インシュレーションは東京証券取引所スタンダード市場に上場し、保温・断熱材、耐火・耐熱材の製造販売から施工までを一貫して手掛ける企業です。建築やプラント関連の分野で独自のけい酸カルシウム材技術に強みを持ちます。直近の連結業績では、両事業での需要増に支えられ、大幅な増収増益を達成しています。


※本記事は、日本インシュレーション株式会社の有価証券報告書(第81期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 日本インシュレーションってどんな会社?


同社は、建築やプラント向けの高性能な保温・断熱材、耐火被覆材の製造・販売および施工を行う専門メーカーです。

(1) 会社概要


同社は1914年に個人事業の大阪パッキング製造所として創立され、1923年より保温・保冷工事の設計施工を開始しました。1960年には岐阜工場を建設し、けい酸カルシウム保温材の生産に着手しています。その後、1989年に現在の日本インシュレーションへ社名を変更し、2020年には東京証券取引所第二部への上場を果たしました(現在はスタンダード市場に移行)。

現在の従業員数は連結で352名、単体で299名です。筆頭株主は中小企業支援等を行う投資会社の大阪中小企業投資育成で、第2位は創業家関連と推測される個人投資家の大橋ゆふみ氏、第3位は政府系金融機関の日本政策投資銀行となっています。

氏名 持株比率
大阪中小企業投資育成 10.07%
大橋ゆふみ 7.85%
日本政策投資銀行 5.77%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役会長執行役員を吉井智彦氏、代表取締役社長執行役員を中野強氏が務めています。社外取締役は3名選任されています。

氏名 役職 主な経歴
吉井智彦 代表取締役会長執行役員 1979年同社入社。営業本部本部長、プラント事業部事業部長、代表取締役社長等を経て2026年4月より現職。
中野強 代表取締役社長執行役員 1987年住友化学工業入社。情報電子化学品研究所等を経て2020年同社入社。技術本部本部長等を経て2026年4月より現職。
小野寺一也 取締役執行役員建築事業部事業部長 1983年同社入社。建築事業部副事業部長兼関東支社長、同事業部長などを経て2022年6月より現職。
岡秀幸 取締役執行役員管理本部長 1991年同社入社。生産技術研究所部長、生産事業部事業部長などを経て2025年10月より現職。


社外取締役は、村中俊哉(大阪大学先導的学際研究機構特任教授)、内村涼子(日比谷晴海通り法律事務所代表弁護士)、横井悟(元千代田化工建設専務執行役員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「建築関連」および「プラント関連」事業を展開しています。

建築関連


ゾノトライト系けい酸カルシウム材を基材とした耐火被覆材や不燃の内装建材の製造・販売のほか、耐火被覆工事やアスベスト除去工事などの施工を請け負っています。鉄骨等の構造部材を火炎から護る耐火材などを、オフィスビルや物流施設などの建設市場向けに広く提供しています。

建材の販売代金や、施工請負に伴う工事代金を顧客から受け取る収益モデルです。製造と施工を一貫して手掛け、自社工事の場合は責任施工として高い品質を担保しています。運営は主に日本インシュレーションが担当しています。

プラント関連


プラント施設向けの1000℃の耐熱性を持つ保温材や工業炉の断熱材の製造・販売、ならびに保温保冷工事の施工を請け負っています。電力・石油・化学などのプラント設備における熱の保持や省エネ、安全性の確保に貢献しています。

保温材・断熱材の販売代金や、保温保冷工事の請負代金を主な収益源としています。国内の運営は日本インシュレーションが担当するほか、東南アジアを中心とした海外需要に対しては、ベトナムの子会社ジェイ アイ シー ベトナムが製造・供給を担っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


過去5年間の業績推移を見ると、売上高は120億円から140億円台のレンジで推移しています。直近の期では、プラント関連でのメンテナンス工事や建設工事の好調に加え、建築関連でも耐火被覆工事の受注が拡大し、売上高、利益ともに大幅な増加を達成しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 141億円 123億円 125億円 122億円 144億円
経常利益 19億円 11億円 15億円 10億円 16億円
利益率(%) 13.4% 9.3% 11.7% 8.4% 11.1%
当期利益(親会社所有者帰属) 9億円 7億円 10億円 8億円 12億円

(2) 損益計算書


売上高の大幅な増加に伴い、売上総利益も拡大しています。また、利益率の改善も見られ、営業利益は前期から大きく伸長して16億円を確保し、堅調な収益体質を示しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 122億円 144億円
売上総利益 33億円 41億円
売上総利益率(%) 27.0% 28.4%
営業利益 10億円 16億円
営業利益率(%) 8.4% 11.2%


販売費及び一般管理費のうち、給料手当が7億円(構成比28%)、賞与引当金繰入額と試験研究費がそれぞれ3億円(同12%)を占めています。また、売上原価は103億円となり、完成工事原価においては外注費が最も高い割合を占めています。

(3) セグメント収益


建築関連は、物流施設やオフィス向け耐火被覆工事の大型案件受注に加え、住宅向け建材の販売も好調で増収増益となりました。プラント関連も、鉄鋼や化学分野向けのメンテナンス及び建設工事が想定を上回る水準で推移し、増収増益に貢献しています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
建築関連 45億円 51億円 8億円 11億円 21.5%
プラント関連 78億円 93億円 13億円 17億円 18.0%
調整額 - - △10億円 △12億円 -
連結(合計) 122億円 144億円 10億円 16億円 11.2%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社のキャッシュ・フローは、営業活動で安定的に資金を生み出し、その資金を設備投資や借入金の返済、株主還元に充てる「健全型」のパターンを示しており、優良な財務状況にあるといえます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 9億円 6億円
投資CF △3億円 △4億円
財務CF △4億円 △3億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.3%で、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は78.6%であり、いずれも市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は社是として「信頼を高め 付加価値を創造し 人間を豊かにする」を掲げています。独自の技術をもって新たな付加価値を持つ製品を提供し、広く社会に貢献することを目指しています。事業活動を通じてサステナブルな社会の実現に寄与することが、同社の存在意義であると位置づけています。

(2) 企業文化


「高付加価値経営への転換を目指し、プロ革命を推進する」という指導理念のもと、全社の隅々までコンプライアンス意識の徹底を図ることを重視しています。また、「JIC版働きがい改革」を推進し、社員一人ひとりが自律的に成長し、互いに支え合う風土の醸成を目指しています。

(3) 経営計画・目標


中期経営計画(2024~2026年度)において、「サステナビリティ経営の推進」を基本テーマに掲げています。2030年の長期的なありたい姿として、以下の数値目標の達成を目指しています。

・ROE 10%以上
・PBR 1.0倍以上
・2030年までの7年間で約70億円の成長投資を実施

(4) 成長戦略と重点施策


環境分野における事業拡大や防災まちづくりへの貢献を中核に据えています。国内外の販売・工事体制を強化し、耐火被覆材や保温材の新用途開発を進めるほか、生産拠点の再編や老朽設備の更新により省エネと生産性の向上を図ります。また、DXの推進や人的資本経営の強化を通じた成長基盤の構築にも注力しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「企業の成長は人」を基軸とし、経営戦略と連動した人的資本経営を推進しています。「成長意欲にあふれる自立した人材の育成」を目標に掲げ、専門資格の取得支援や階層別の研修制度を充実させています。あわせて、健康経営の推進やワークライフバランスの改善を通じ、社員が安心して長く働き続けられる環境整備に取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 42.1歳 13.9年 6,270,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 3.9%
男性育児休業取得率 75.0%
労働者の男女の賃金の差異(全労働者) 76.0%
労働者の男女の賃金の差異(正規雇用労働者) 80.0%
労働者の男女の賃金の差異(パート・有期労働者) 57.0%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇取得率(72%)、健康診断受診率(100%)、ストレスチェック受検率(96%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 設備投資・建設需要の変動による影響

同社の主要製品である保温材はプラントの設備投資動向、耐火被覆材はオフィスビルや物流施設の建設需要に依存しています。そのため、国内外の景気変動や、建設費用の高騰に伴う他素材との価格競争の激化が生じた場合、受注環境が悪化し、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 原材料・エネルギー価格の高騰と調達難

製品の製造には石灰石や珪石などの原材料、熱源としての天然ガス等を使用しています。資源価格の上昇や地政学リスクによる需給逼迫、物流費の高騰などにより製造コストが上昇した場合、収益性が低下する恐れがあります。また、高い純度が求められるため調達先が限定されるリスクも存在します。

(3) 建設現場等における専門人材の不足

建設現場では主任技術者の配置が必須であり、有資格者を含む優秀な人材の確保が事業基盤の維持・拡大に不可欠です。少子高齢化等による採用難が続く中、必要な人材を十分に確保できない場合や、採用・育成コストが急増した場合には、事業の継続や業績に影響を及ぼす可能性があります。

(4) アスベスト健康被害に係る補償等の負担

過去の建設現場での石綿(アスベスト)曝露に起因する健康被害に関して、同社を含む建材メーカーが損害賠償請求訴訟を受けています。明確な因果関係が認められ敗訴した場合や、社内規定に基づく被害者への補償金支払いが継続的に発生する場合には、同社の財政状態や業績に影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。