※本記事は、日本インシュレーション株式会社 の有価証券報告書(第80期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 日本インシュレーションってどんな会社?
けい酸カルシウムを基材とした耐火・断熱材の製造と施工を一貫して行うメーカー兼工事会社です。
■(1) 会社概要
同社は1914年に個人事業「大阪パッキング製造所」として創業し、1960年にけい酸カルシウム保温材の生産を目的に岐阜工場を建設しました。1989年に現在の社名へ変更し、2014年にはベトナムに子会社を設立して海外展開を開始しました。2020年に東京証券取引所市場第二部(現スタンダード市場)へ上場を果たしています。
現在の連結従業員数は359名(単体302名)です。筆頭株主は中小企業の育成を目的とする投資会社である大阪中小企業投資育成で、第2位は個人株主の大橋ゆふみ氏、第3位は事業会社の光通信となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 大阪中小企業投資育成 | 10.08% |
| 大橋 ゆふみ | 7.87% |
| 光通信 | 7.51% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性1名の計13名で構成され、女性役員比率は8.0%です。代表取締役社長執行役員は吉井智彦氏が務めています。社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 吉井 智彦 | 代表取締役社長執行役員 | 1979年入社。営業本部本部長、プラント事業部事業部長、専務取締役などを経て、2017年より現職。 |
| 中野 強 | 常務取締役執行役員管理本部本部長 | 住友化学入社。同社情報電子化学品研究所上席研究員などを経て、2020年日本インシュレーション入社。技術本部本部長などを務め、2024年より現職。 |
| 大橋 健一 | 取締役 | 1974年入社。営業本部本部長、代表取締役社長、代表取締役会長などを歴任し、2023年より現職。 |
| 小野寺 一也 | 取締役執行役員建築事業部事業部長 | 1983年入社。建築事業部副事業部長兼関東支社長などを経て、2017年より現職。 |
| 岡 秀幸 | 取締役執行役員生産事業部事業部長 | 1991年入社。生産技術研究所部長などを経て、2022年より現職。ジェイ アイ シー ベトナム有限会社管掌も兼務。 |
| 小畑 健雄 | 取締役 | 日本開発銀行(現日本政策投資銀行)出身。2013年入社後、管理本部本部長代行兼総務部部長などを経て、2025年より現職。 |
社外取締役は、村中俊哉(大阪大学特任教授)、上田保治(元多摩川開発社長)、内村涼子(弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「建築関連」「プラント関連」の2つの報告セグメントで事業を展開しています。
■(1) 建築関連
耐火被覆材や不燃内装建材などの製造・販売、および耐火被覆工事やアスベスト除去工事の設計・施工を行っています。主力製品のけい酸カルシウム板は、高層建築物などで火災時に鉄骨等の構造部材を熱から守る役割を果たしています。また、調湿建材や加工しやすさを活かした工芸用ボードなども提供しています。
収益は、建材製品の販売代金および工事の請負代金から得ています。耐火被覆材の販売だけでなく、自社社員による施工管理を含む責任施工体制をとっている点が特徴です。運営は主に日本インシュレーションが行っています。
■(2) プラント関連
発電所や石油化学プラント等の熱設備向けに、1000℃の耐熱性を持つ保温材や工業用断熱材を提供しています。また、これらの材料を用いた保温保冷工事、プラント耐火被覆工事、アスベスト除去工事なども手掛けています。ベトナム子会社では、もみ殻を原燃料としたバイオマス保温材を製造しています。
収益は、保温材等の製品販売代金および各種工事の請負代金から得ています。製品の製造から施工までを一貫して行うことで、品質管理や省エネ効果の提案を行っています。運営は日本インシュレーションおよび子会社のジェイ アイ シー ベトナム有限会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は120億円から140億円の範囲で推移しており、直近では建設工事案件の一服などにより微減傾向にあります。利益面では、経常利益が10億円から22億円の間で変動しており、原材料価格やエネルギーコストの上昇等の影響を受けて利益率は低下傾向にありますが、毎期安定して黒字を確保しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 143億円 | 141億円 | 123億円 | 125億円 | 122億円 |
| 経常利益 | 22億円 | 19億円 | 11億円 | 15億円 | 10億円 |
| 利益率(%) | 15.5% | 13.4% | 9.3% | 11.7% | 8.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 11億円 | 9億円 | 7億円 | 10億円 | 8億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の比較では、売上高は微減となりました。売上原価率は微増しており、工事外部原価の上昇等が影響して売上総利益率は低下しています。販売費及び一般管理費は増加しており、営業利益率は低下しました。全体として減収減益の決算となっています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 125億円 | 122億円 |
| 売上総利益 | 36億円 | 33億円 |
| 売上総利益率(%) | 29.0% | 27.0% |
| 営業利益 | 15億円 | 10億円 |
| 営業利益率(%) | 11.6% | 8.4% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当が7億円(構成比29%)、製品発送費が3億円(同11%)を占めています。
■(3) セグメント収益
建築関連事業は、物流施設等の耐火被覆工事が堅調でしたが、販売部門の大型案件遅延等が響き減収減益となりました。プラント関連事業は、メンテナンス工事が堅調だったものの建設工事案件が一服し、減収減益となりました。両セグメントともに売上高利益率は低下しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 建築関連 | 46億円 | 45億円 | 9億円 | 8億円 | 17.9% |
| プラント関連 | 79億円 | 78億円 | 15億円 | 13億円 | 16.2% |
| 調整額 | - | - | -10億円 | -10億円 | - |
| 連結(合計) | 125億円 | 122億円 | 15億円 | 10億円 | 8.4% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、本業で稼いだ利益で借入金の返済を行い、投資も手元資金の範囲内で実施している「健全型」のキャッシュ・フロー状態にあります。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 19億円 | 9億円 |
| 投資CF | -4億円 | -3億円 |
| 財務CF | -3億円 | -4億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.8%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は76.9%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「信頼を高め 付加価値を創造し 人間を豊かにする」を社是としています。1914年の創業以来、保温・断熱、耐火・耐熱分野での製品開発と用途開拓を通じて、サステナブルな社会の実現に貢献することを存在意義として掲げています。
■(2) 企業文化
同社は、独自の技術であるゾノトライト系けい酸カルシウム材の製造技術を核として、新たな付加価値を持つ製品を提供することにより広く社会に貢献することを目指しています。また、すべてのステークホルダーに信頼される企業となるため、「コンプライアンス意識の徹底」やサステナビリティへの取り組みを重視する文化があります。
■(3) 経営計画・目標
同社は2024年度から2026年度までの中期経営計画を推進しており、2030年のありたい姿としてPBR1.0倍以上、ROE10%程度を掲げています。中期経営計画の最終年度となる2026年度の数値目標は以下の通りです。
* 売上高:150億円
* 営業利益:17億円
* ROE:8%
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は「サステナビリティ経営の推進」を基本テーマに、環境分野での新事業拡大や、需要家のカーボンニュートラル化への対応(保温工事等の受注)を図る方針です。また、防災まちづくりへの貢献として耐火建材の機能向上や新用途開拓を進めるほか、自社工場のCO2削減やリサイクル推進にも取り組みます。成長基盤の構築として、生産設備の更新や人的資本経営の推進にも注力します。
* 2030年までの7年間で約70億円の投資枠を設定
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「JIC版働きがい改革」を推進しており、経営トップの意識改革や人事戦略の策定、社員との対話を通じて従業員エンゲージメントの向上を図っています。「人的資本経営」の考えに基づき人への投資を進め、社員教育の強化や有能な人材の確保、ダイバーシティの推進、健康経営の実践に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 42.1歳 | 14.4年 | 5,991,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 3.8% |
| 男性育児休業取得率 | 25.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 75.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 81.0% |
| 男女賃金差異(非正規) | 51.0% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇取得率(73%)、健康診断受診率(100%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 原材料・エネルギー等価格の変動及び調達に関するリスク
製品の主な原材料である石灰石や珪石、製造工程で使用する天然ガスなどの価格が上昇した場合、または地政学リスク等により供給が逼迫し安定調達が困難になった場合、製造コストが上昇し経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、原材料に高い純度を求めているため仕入先が限定されており、調達先の確保が困難になるリスクもあります。
■(2) 人材の確保・育成に係るリスク
建設事業においては有資格者の確保が必須であり、今後の業容拡大には専門知識を持つ人材の採用と育成が重要です。急激な業容拡大等により必要な人材の確保が追いつかない場合や、採用コストが上昇した場合には、事業運営や経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) アスベストによる健康被害者への補償のリスク
過去に建設現場等で石綿に曝露したことによる健康被害に関し、同社も建材メーカーとして損害賠償請求訴訟の対象となっており、敗訴した場合や個別に提訴された場合に財政状態等に影響を及ぼす可能性があります。また、元従業員等への補償費用負担が継続する可能性があります。
■(4) 経営成績の季節変動性に関するリスク
製品販売には大きな季節変動はありませんが、工事事業については完工時期が年度末に集中するため、売上が下期に偏重する傾向があります。大規模案件の工事完了が何らかの事情で遅れた場合、売上計上が翌期にずれるなど、期間損益に影響を与える可能性があります。



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