サイバートラスト 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

サイバートラスト 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所グロース市場に上場するサイバートラストは、公開鍵基盤を用いた電子認証やLinuxプラットフォームを提供するデジタルトラスト事業を展開しています。DX進展に伴うセキュリティ需要の拡大を背景に、直近の業績は売上・利益ともに好調に推移し増収増益を達成しました。


※本記事は、サイバートラストの有価証券報告書(第26期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. サイバートラストってどんな会社?


デジタルトラスト事業を展開し、電子認証サービスやLinuxプラットフォームを提供するセキュリティ企業です。

(1) 会社概要


2000年にミラクル・リナックスとして設立され、企業向けLinuxサーバーOS事業を開始しました。2014年にソフトバンク・テクノロジー(現ソフトバンク)の連結子会社となり、2017年に旧サイバートラストを吸収合併して現社名へ変更しました。2021年に上場を果たし、デジタルトラスト事業を推進しています。

従業員数は連結286名、単体245名です。筆頭株主は事業会社のSBテクノロジーで、第2位はオービックビジネスコンサルタント、第3位は個人の五味大輔氏です。

氏名 持株比率
SBテクノロジー 56.44%
オービックビジネスコンサルタント 5.42%
五味大輔 1.88%

(2) 経営陣


同社の役員は男性7名、女性3名の計10名で構成され、女性役員比率は30.0%です。代表取締役社長 執行役員兼CEOは北村裕司氏が務めています。社外取締役比率は42.9%です。

氏名 役職 主な経歴
眞柄泰利 代表取締役会長 日本ソフトバンク、マイクロソフト等を経て、2011年に旧サイバートラスト入社。同社社長等を経て、2025年4月より現職。
北村裕司 代表取締役社長 執行役員兼CEO 旧サイバートラスト入社後、CTO等を歴任。ソフトバンク・テクノロジー出向等を経て、2023年6月より現職。
清水哲也 取締役常務執行役員 兼 CFO あさひ銀行、ソフトバンクBB等を経て、ソフトバンク・テクノロジー経営企画本部長等を歴任。2024年4月より現職。
香山春明 取締役 マイクロソフト執行役などを経て、ソフトバンク・テクノロジーのグローバルビジネス・アドバイザーに就任。2018年6月より現職。


社外取締役は、広瀬容子(ラピッヅワイド社長)、田島弓子(ブラマンテ社長)、石田佳久(元東芝クライアントソリューション会長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「デジタルトラスト事業」を展開しています。

(1) トラストサービス


公開鍵基盤(PKI)技術を活用し、オンライン本人確認サービス、電子署名用証明書、デバイス証明書管理サービス「サイバートラスト デバイスID」、Webサイトの実在性を証明するSSL/TLS証明書などを提供しています。

電子認証サービスなどのリカーリングサービス(継続課金)を主力としつつ、プロフェッショナルサービスやライセンス提供も行っています。運営は同社が行っています。

(2) プラットフォームサービス


企業向けLinuxサーバーOS「MIRACLE LINUX」や、IoT・組込み機器向けLinux OS「EMLinux」を提供しています。ITインフラのシステム監視や長期サポートを通じ、安心・安全な利用を支援します。

OSのサポートサービス等のリカーリングサービスや、カスタマイズ・導入支援などのプロフェッショナルサービス、自社製品のライセンス販売で収益を得ます。運営は同社およびリネオソリューションズが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績は、デジタルトラスト需要の拡大により売上高が順調に成長しています。経常利益も右肩上がりで推移しており、堅調な利益率を維持しながら事業規模の拡大と収益性の向上を両立させています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 57億円 62億円 65億円 74億円 84億円
経常利益 9億円 11億円 11億円 14億円 17億円
利益率(%) 15.2% 17.3% 17.3% 19.5% 19.8%
当期利益(親会社所有者帰属) 5億円 7億円 5億円 10億円 10億円

(2) 損益計算書


売上総利益率は47%台で安定推移しており、営業利益率も19%台と高い水準を保っています。増収に伴い売上総利益が拡大し、収益性の高さを裏付けています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 74億円 84億円
売上総利益 36億円 39億円
売上総利益率(%) 48.2% 47.1%
営業利益 14億円 16億円
営業利益率(%) 19.1% 19.7%


販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が7億円(構成比31%)、賞与引当金繰入額が1億円(同6%)を占めています。

(3) セグメント収益


トラストサービスはオンライン本人確認や電子契約サービスの利用拡大により売上が大きく伸長しました。プラットフォームサービスも組込みLinuxOSの採用拡大などにより増収となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
トラストサービス 41億円 48億円
プラットフォームサービス 33億円 36億円
連結(合計) 74億円 84億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFがプラス、投資CFと財務CFがマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 20億円 16億円
投資CF -9億円 -15億円
財務CF -4億円 -2億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は14.1%で、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は69.5%で、いずれも市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


「信頼とともに」という経営理念の下、「安心・安全なデジタル社会の実現」をパーパス(社会における存在意義)に掲げています。さまざまなモノがインターネットに繋がりあらゆるプロセスがデジタル化される社会において、「ヒト」「モノ」「コト」の正当性・完全性・真正性などを証明し、デジタル社会の信頼を支えるサービスを提供することを目指しています。

(2) 企業文化


マテリアリティ(重要な社会課題)として「レジリエントな組織づくりによる企業成長の実現」を掲げています。多様な人材が活躍し「挑戦を後押しする風土」の醸成と働き方改革を推進するとともに、ウェルビーイングな職場環境の構築に取り組んでおり、変化に俊敏に適応する柔軟な組織文化の形成を重視しています。

(3) 経営計画・目標


持続的な成長を実現するため、事業進捗および収益性を計る指標として「売上高」「営業利益および営業利益率」に加え、設備投資を要する事業であることから疑似的なキャッシュ・フロー指標である「EBITDA」を重要指標としています。また、高収益率の事業を目指し、継続的な契約数を増加させる「リカーリング売上および全体の売上に占める割合(リカーリング売上比率)」の向上を目標に掲げています。

(4) 成長戦略と重点施策


既存事業の利用拡大に加え、C2PA等の技術によるAI生成データの信頼性確保ニーズへの対応や、重要インフラ市場における国際安全基準を満たすOSの提供を推進します。さらに、資本提携やM&Aを通じた「AI・半導体」「デジタル・サイバーセキュリティ」「量子」の3分野など新たな成長領域への投資や、海外パートナーと連携したグローバル展開を重点施策としています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


個人が持つ能力や才能を最大限に生かす人的資本経営を重視し、継続的な人的資本強化を図る方針です。リーダーシップ研修や資格取得支援などの人材育成を行うとともに、挑戦に報いる新たな報酬制度の運用や、多様な人材が活躍できる柔軟な組織づくり、エンゲージメント施策を通じた組織の活性化など、ウェルビーイングな職場環境の構築に向けた人的資本投資を積極的に行っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 41.0歳 10.4年 7,376,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 11.5%
男性育児休業取得率 75.0%
男女賃金差異(全労働者) 75.0%
男女賃金差異(正規雇用) 79.5%
男女賃金差異(非正規雇用) 46.5%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性比率(23.3%)、エンゲージメント評価・ESサーベイスコア(68点)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 情報セキュリティに関するリスク

電子証明書サービス等を提供する特性上、厳重な情報管理体制を構築していますが、予期せぬ情報漏洩やサイバー攻撃、あるいは自然災害等による大規模なシステム障害が発生した場合、社会的信用の失墜や損害賠償などにより、同社の業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

(2) 特定取引先や重要契約への依存

売上の一部を親会社グループに依存しているほか、証明書発行等において外部企業のルート認証局を利用する契約を結んでいます。取引方針の変更や契約関係の悪化が生じた場合、サービスの提供が制約を受け、事業展開や業績に影響するリスクがあります。

(3) OSSライセンスと技術革新への対応

事業で利用するオープンソースソフトウェア(OSS)のライセンス内容の大幅な変更や、第三者の権利侵害が発覚した場合、事業の継続に支障をきたす恐れがあります。また、技術革新のスピードに適切に対応できずサービスが陳腐化した場合も、競争力低下につながる可能性があります。

(4) 減損および株式の希薄化に関するリスク

買収に伴うのれんや自社開発ソフトウェア等の無形固定資産について、事業計画との乖離により十分な将来キャッシュ・フローが見込めない場合、減損損失を計上するリスクがあります。また、インセンティブ目的のストックオプションが行使された場合、1株当たりの株式価値が希薄化する可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。