※本記事は、株式会社ステムセル研究所の有価証券報告書(第26期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ステムセル研究所ってどんな会社?
さい帯血等の細胞バンク事業を主力とし、再生医療の基盤を支える企業です。親会社は日本トリムです。
■(1) 会社概要
1999年に設立され、民間さい帯血バンクとして事業を開始しました。2013年に日本トリムの連結子会社となり、経営基盤を強化しました。2021年に東証マザーズへ上場し、同年に「さい帯組織保管サービス」を開始しました。2022年の市場区分見直しに伴い東証グロース市場へ移行し、2024年にはシンガポール現地法人を設立しています。
同社(単体)の従業員数は117名です。大株主については、筆頭株主は同社の親会社である事業会社で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位は企業の育成投資を行う投資会社となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本トリム | 70.53% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 7.89% |
| 名古屋中小企業投資育成 | 1.65% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性5名、女性2名の計7名で構成され、女性役員比率は28.0%です。代表取締役社長は清水崇文氏が務めています。社外取締役比率は42.9%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 清水崇文 | 代表取締役社長 | 日本トリム入社後、経営企画部長や執行役員を経て、2013年に同社取締役就任。2016年より現職。 |
社外取締役は、山田智男(元三菱商事中国支社長)、安藤公秀(元三菱商事パキスタン総代表)、大久保由美(弁護士・島田法律事務所パートナー)です。
2. 事業内容
同社グループは、「細胞バンク事業」の単一セグメントで事業を展開しています。
■(1) 細胞バンク事業
主に妊婦を顧客とし、出産時に採取される「さい帯血」や「さい帯(へその緒)」等の周産期組織由来の細胞を分離・保管するサービスを提供しています。これらの細胞は、脳性麻痺や自閉症スペクトラム障害などの再生医療・細胞治療に利用される可能性があります。また、保管細胞を用いた新たな治療法の開発や、関連領域での事業開発も行っています。
収益源は、顧客から受領する「技術料」(細胞分離、検査、登録料など)と「保管料」(細胞保管料)です。技術料は細胞処理完了時に、保管料は契約期間にわたり計上されます。運営は主にステムセル研究所が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績は、売上高、利益ともに右肩上がりの成長を続けています。売上高は14億円から27億円へと約1.9倍に拡大しました。経常利益も1億円弱から4億円台へと順調に推移し、利益率も16%前後と高い水準を維持しています。保管検体数の積み上げによるストック収益の増加が業績拡大に寄与しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 14.1億円 | 17.8億円 | 20.9億円 | 24.8億円 | 26.8億円 |
| 経常利益 | 0.9億円 | 2.1億円 | 3.0億円 | 4.2億円 | 4.3億円 |
| 利益率 | 6.6% | 11.9% | 14.4% | 16.8% | 16.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 0.6億円 | 1.3億円 | 2.0億円 | 3.1億円 | 3.9億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を見ると、増収に伴い売上総利益も増加しています。売上総利益率は63%台と高い水準を維持しています。営業利益率は前期間と同水準の15.6%を確保しており、効率的な事業運営が継続されています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 25億円 | 27億円 |
| 売上総利益 | 16億円 | 17億円 |
| 売上総利益率 | 63.5% | 63.2% |
| 営業利益 | 4.1億円 | 4.2億円 |
| 営業利益率 | 16.7% | 15.6% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が3億円(構成比22%)、広告宣伝費が2億円(同17%)を占めています。売上原価においては、経費(減価償却費や支払技術料など)が約6億円(構成比56%)と大半を占めています。
■(3) セグメント収益
同社は「細胞バンク事業」の単一セグメントですが、売上高は堅調に推移しています。新プランの導入やマーケティング施策の強化により、さい帯血およびさい帯の保管検体数が増加し、増収となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) |
|---|---|---|
| 細胞バンク事業 | 25億円 | 27億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、細胞バンク事業を主軸に、売上債権の増加や前受金の増加が営業活動によるキャッシュ・フローを押し上げました。投資活動では、定期預金の払戻しがあった一方で、有形固定資産や投資有価証券の取得により資金を使用しました。財務活動では、長期借入れにより資金調達を行ったものの、配当金の支払い等により資金が流出しました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 3.3億円 | 4.7億円 |
| 投資CF | -8.1億円 | -2.6億円 |
| 財務CF | -0.0億円 | 1.5億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「あたらしい命に、あたらしい医療の選択肢を。」をコーポレートスローガンに掲げています。産婦人科施設とのネットワークを活用し、周産期組織由来の細胞バンク事業およびそれらを利用した新たな治療法や製品の開発を行っています。この事業基盤をベースに、再生医療やフェムテック領域での事業開発等を通じ、サスティナブルな成長と社会貢献を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、ESG(環境・社会・ガバナンス)を「E×S×G=サスティナブル(Sx)」と捉え、特に人材の多様性や女性活躍、職場環境改善などの「S」、ガバナンス強化の「G」に注力しています。高い倫理観を持ち、持続的な信頼を得ることを重要視する文化があります。
■(3) 経営計画・目標
同社は、「細胞バンク事業」の年間保管(売上)検体数をベンチマークとし、事業規模拡大を目指しています。また、内部留保の充実による自己資本比率の向上も掲げています。
* 年間保管数20,000検体(国内出生数に対する保管率約3%)
* シンガポール国内での年間売上高約10億円(今後3~5年以内)
* 東南アジア全体で年間30~50億円
■(4) 成長戦略と重点施策
年間保管数の目標達成に向け、新保管プラン「HOPECELL」の浸透や、リアルとオンラインを融合したマーケティングを強化します。また、シンガポール現地法人を拠点とした東南アジア市場への展開、さい帯血を用いた臨床研究の深化と新たな投与スキームの検討、関連領域への事業投資やM&Aを推進します。これらにより、国内外での事業基盤の確立と収益拡大を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は人材の増強と組織強化を重要な経営課題と位置づけています。人材育成では研修の充実を図り、社内環境整備ではデジタル化やリモートワーク推進に取り組んでいます。また、女性役員や女性管理職比率の向上など多様性の確保も重視しており、専門知識を持つ優秀な人材の採用・育成を通じて組織力を高める方針です。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 36.4歳 | 5.0年 | 5,076,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 30.0% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | - |
| 男女賃金差異(正規) | - |
| 男女賃金差異(非正規) | - |
※男女の賃金の差異については、有価証券報告書等の公表データにおいて明確な区分(全・正規・非正規)ごとの数値が確認できなかったため「-」としています。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性比率(79%)、報酬額の男女比率(1:0.79)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 治療効果に関するリスク
顧客は将来の再生医療への利用を想定してさい帯血を保管していますが、臨床研究段階であり有効性が十分に検証されていません。研究が想定通り進捗しない場合や、他の有効な治療法が出現した場合には、保管者が減少し、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 法的規制に関するリスク
事業は「臍帯血取扱事業の届出」や「再生医療等安全性確保法」等の規制を受けています。これらの法規制の改正や強化、あるいは遵守できない事態が生じた場合、事業への制約が生じ業績に影響を与える可能性があります。また、特定細胞加工物製造許可の取消等があった場合、主要な事業活動に支障をきたす恐れがあります。
■(3) 少子化の影響
出生数の減少は市場環境に影響を与えます。2024年の出生数は70万人を下回っており、今後も減少が推計されています。想定を上回る出生数の減少は、将来のさい帯血保管数の減少につながり、業績に影響を与える可能性があります。
■(4) 親会社との関係
親会社である日本トリムは同社の議決権の70%超を保有しています。独自の経営判断を行っていますが、親会社の方針等が同社の意思決定や事業活動に影響を与える可能性があります。また、親会社グループとの取引や関係性において制約が生じる可能性もあります。



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