セルム 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

セルム 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

セルムは東京証券取引所スタンダード市場に上場し、経営幹部・ミドルマネジメント層等の組織・人材開発事業と多言語対応のステークホルダーリレーション事業を展開しています。直近の業績は、顧客企業における人的資本投資拡大を背景に需要を確実に取り込み、増収増益という堅調なトレンドを維持しています。


※本記事は、株式会社セルムの有価証券報告書(第10期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. セルムってどんな会社?


経営幹部やミドルマネジメントを中心とした組織・人材開発事業とステークホルダーリレーション事業を展開しています。

(1) 会社概要


1995年に設立され、顧客のニーズを事業機会と捉え多様な事業に挑戦してきました。2006年に人材開発事業を承継する新設分割を行い、ファーストキャリアを設立しました。2016年にMBOによる完全子会社化と吸収合併を実施し、2021年に株式上場を果たしました。

同社グループの従業員数は連結で245名、単体で135名です。筆頭株主は代表取締役の資産管理会社であるアイランドプラスで、第2位は創業や経営に関わる加島禎二氏、第3位は加藤友希氏となっています。経営陣と関連会社が上位を占める安定した資本構成です。

氏名 持株比率
アイランドプラス 16.97%
加島 禎二 14.89%
加藤 友希 7.38%

(2) 経営陣


同社の役員は男性5名、女性1名の計6名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表取締役社長の加島禎二氏が経営を牽引しています。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
加島 禎二 代表取締役社長 1990年リクルート映像入社。1998年旧セルム入社、2000年取締役。2010年代表取締役社長を経て、2016年8月より現職。アイランドプラス代表取締役等を兼任。
井上 卓哉 代表取締役副社長 2000年ビジネスコンサルタント入社。PMIコンサルティング、ユーザベース等を経て2019年同社入社。2024年4月代表取締役副社長を経て、2026年4月より現職。
吉冨 敏雄 取締役 1994年あさひ銀行入行。ゴンゾ・デジメーション、フォトクリエイト等を経て2017年同社入社、同年6月取締役。2024年4月より現職。ファーストキャリア監査役等を兼務。


社外取締役は、渡邊龍男(ソレイルソウル代表取締役)、広野清志(広野総合会計事務所所長)、新谷美保子(TMI総合法律事務所パートナー)です。

2. 事業内容


同社グループは、「組織・人材開発事業」「ステークホルダーリレーション事業」および「その他」事業を展開しています。

組織・人材開発事業

経営理念や経営戦略に根差した組織づくりと人材育成に関する包括的な伴走支援を提供しています。経営幹部・ミドルマネジメント向けのテーラーメード型ソリューション、若手人材向けのファーストキャリア支援、および適性予測データの活用による組織戦略支援を顧客企業に対して行っています。

収益源は、顧客企業から得られるコンサルティングおよび人材開発プログラムの提供対価です。運営は同社に加え、子会社のファーストキャリア、ヒューマンストラテジーズジャパンのほか、中国やシンガポールの現地法人が担当し、外部のプロフェッショナルタレントと連携して事業を推進しています。

ステークホルダーリレーション事業

グローバル企業向けの多言語対応サービスを提供しています。外資系IT企業などの主要ステークホルダーとの関係深化を目指し、同時通訳、逐次通訳、翻訳サービスに加え、常時通訳・翻訳者派遣サービスなどを展開しています。

収益源は、顧客企業から受け取る通訳・翻訳のサービス提供料および人材派遣料です。運営は主に子会社のKYTが担当しており、外部の通訳・翻訳人材との協働を通じて幅広い専門性が求められる業界の課題解決を支援しています。

その他事業

オープンイノベーションの実践と収益機会の多様化に資する事業開発を目的として、コーポレートベンチャーキャピタル事業を展開しています。

運営は主に子会社のアリストテレスパートナーズが無限責任組合員として手掛けており、HRテック投資事業有限責任組合を通じてベンチャー投資などの活動を行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績は、売上高が順調に拡大し、利益面でも堅調な推移を見せています。企業の組織戦略に関する需要増により、売上高は右肩上がりの成長を継続し、経常利益も10億円前後の安定した水準を保っています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 64.7億円 72.7億円 75.0億円 81.8億円 103.1億円
経常利益 7.0億円 9.2億円 10.1億円 9.6億円 10.3億円
利益率(%) 10.8% 12.7% 13.4% 11.7% 10.0%
当期利益(親会社所有者帰属) 1.9億円 4.3億円 8.8億円 5.8億円 5.8億円

(2) 損益計算書


売上高の大幅な増加に伴い売上総利益も拡大していますが、事業拡大や組織基盤強化のための先行投資の影響等により、営業利益率はやや低下傾向にあります。それでも引き続き10%以上の高い営業利益水準を確保しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 81.8億円 103.1億円
売上総利益 42.3億円 51.4億円
売上総利益率(%) 51.6% 49.9%
営業利益 10.7億円 11.6億円
営業利益率(%) 13.1% 11.3%


販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が11.3億円(構成比28%)、支払手数料が5.3億円(同13%)を占めています。

(3) セグメント収益


両セグメントともに売上を伸ばしていますが、特に子会社化を通じたグループシナジーの創出等の効果が表れ、ステークホルダーリレーション事業の売上高が大きく躍進しています。これによって組織・人材開発事業の安定した成長に加え、新たな収益の柱として会社全体の成長を力強く後押ししています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
組織・人材開発事業 76.8億円 78.5億円
ステークホルダーリレーション事業 5.0億円 24.6億円
連結(合計) 81.8億円 103.1億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 10.6億円 10.3億円
投資CF -24.9億円 -0.2億円
財務CF 11.5億円 -8.8億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は20.6%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は42.0%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「ヒューマネスの力で、ビジネスをより“らしく”、より“いきいき”と。」というパーパスを掲げています。企業固有の経営課題に人と組織の側面からアプローチすることで、創造性溢れる豊かな社会の実現に向けた企業活動を推進し、顧客の永続的な成長に不可欠なリーダー人材開発と企業カルチャーの革新に伴走することを目指しています。

(2) 企業文化


同社グループは、多種多様な個人の専門性と価値観を掛け合わせたダイバーシティ型の組織構成を重視しています。自社内のリソースに固執せず、外部のプロフェッショナルタレントと共にディスカッションを通じて課題解決策を模索する文化があり、経営的な視座を持ってフロント人材が主体的に事業を推進できる環境を整備しています。

(3) 経営計画・目標


健全な収益水準を維持し、中長期的な企業価値の向上を目指しています。従業員一人当たりEBITDAを生産性指標として設定し、積極的な組織基盤投資を進めつつ、中長期的には資本規律の徹底を通じて高い資本効率の達成を目標に掲げています。
・2029年3月期営業利益:20億円
・中長期のROE:30%以上

(4) 成長戦略と重点施策


既存の大手企業顧客におけるシェア拡大と、人材開発投資に積極的な企業の新規開拓を推進します。また、本社人事部門だけでなく各事業部門や関連会社への取引拡大に注力し、継続的な信頼関係の構築から好循環サイクルを生み出すことを目指しています。複雑化する社会課題に応じたプロフェッショナルタレント基盤の拡充にも取り組んでいます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


事業競争力の源泉である社内人材の質的成長を経営アジェンダの中核に据え、テーラーメイド型のサービスを通じて社員に経営的視座を獲得する機会を提供しています。多種多様なキャリアを持つ中途採用を積極的に行い、立ち上がりの可視化や育成責任の明確化など、採用と育成を連動させたオンボーディング施策を展開して早期活躍を支援しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 38.1歳 7.0年 6,975,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 21.7%
男性育児休業取得率 50.0%
男女賃金差異(全労働者) 59.0%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 59.8%
男女賃金差異(パート・有期労働者) -


同社は臨時従業員(パートタイマー及び嘱託契約の従業員等)が従業員数の10分の1未満であり、パート・有期労働者の公表義務の対象ではないため、有報には本稿の記載がありません。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 景気動向による人材開発予算の削減

同社グループの業績は国内外の経済情勢に影響を受けます。景気減速により顧客企業の人材開発予算が削減された場合、組織・人材開発事業の業績に影響を及ぼす可能性があります。対策として、顧客ポートフォリオの多様化や個社予算状況の確認を行っています。

(2) 組織・人材開発市場での競合激化

組織・人材開発事業は、コンサルティングファームや人材育成サービス企業など多数の競合が存在します。人的資本経営への関心の高まりにより新規参入が増加し競争が激化した場合、同社のビジネスモデルの優位性が低下し、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(3) 情報セキュリティと個人情報漏洩

事業活動においてプログラム受講生の個人情報や顧客の機密情報を保有することがあります。情報漏洩を防止するために各種規程やセキュリティ対策を講じていますが、悪意や過失による情報の漏洩等が発生した場合、社会的信用の失墜などにより事業に影響を及ぼす可能性があります。

(4) 企業買収に伴うのれんの減損

同社グループは事業領域の拡大を目指してM&Aを推進しており、それに伴う多額ののれんを計上しています。対象事業の将来の収益性が低下し、回収可能価額が帳簿価額を下回った場合には、のれんの減損損失を計上することになり、業績や財務状況に影響を及ぼすリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。