※本記事は、株式会社セルム の有価証券報告書(第9期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. セルムってどんな会社?
大企業向けに経営幹部育成や組織開発支援を行う企業です。外部の専門家人材と連携する独自のビジネスモデルが特徴です。
■(1) 会社概要
1995年に設立され、人材開発事業を開始しました。2016年に経営陣によるMBO(マネジメント・バイ・アウト)を実施し、現体制での再スタートを切りました。2021年にJASDAQ(現スタンダード)市場へ上場を果たしました。2024年にヒューマンストラテジーズジャパン、および通訳・翻訳事業を行うKYTを完全子会社化し、事業領域を拡大しています。
2025年3月31日時点の従業員数は連結249名、単体141名です。筆頭株主は代表取締役社長の資産管理会社であるアイランドプラスで、第2位は代表取締役社長の加島禎二氏、第3位は個人株主となっています。経営陣による持株比率が高く、オーナーシップの強い資本構成です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| アイランドプラス | 17.12% |
| 加島 禎二 | 15.00% |
| 加藤 友希 | 7.46% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性1名の計7名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役社長は加島禎二氏です。社外取締役比率は42.9%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 加島 禎二 | 代表取締役社長 | リクルート映像を経て旧セルム入社。2010年より社長を務め、2016年のMBO以降も現職。 |
| 井上 卓哉 | 代表取締役副社長 | ビジネスコンサルタント等を経て2019年入社。ファーストキャリア代表取締役等を兼務し2024年より現職。 |
| 吉冨 敏雄 | 取締役 | あさひ銀行等を経て2017年入社。同年より取締役として事業支援部・財務経理部・人事部を担当し現職。 |
| 古我 知史 | 取締役 | マッキンゼー等を経てウィルキャピタルマネジメント代表取締役。2016年より非常勤取締役として現職。 |
社外取締役は、渡邊龍男(元住友生命保険入社)、広野清志(公認会計士・税理士)、新谷美保子(弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「組織・人材開発事業」「ステークホルダーリレーション事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 組織・人材開発事業
経営幹部やミドルマネジメント層を対象に、個社固有の経営課題に対応する組織・人材開発を支援します。また、内定者から若手社員を対象とした育成支援や、適性データを活用した組織戦略支援も提供しています。
収益は、顧客企業から受け取るコンサルティングフィーや研修プログラムの受講料等から構成されています。運営は、セルム、ファーストキャリア、ヒューマンストラテジーズジャパン等が主に行っています。
■(2) ステークホルダーリレーション事業
グローバル企業向けに、同時通訳・逐次通訳・翻訳サービスや、通訳・翻訳者の派遣サービスを提供しています。主要ステークホルダーとの関係深化や企業価値向上を図るためのコミュニケーションを支援します。
収益は、顧客企業から受け取る通訳・翻訳料や派遣料等から構成されています。運営は主にKYTが行っています。
■(3) その他事業
コーポレートベンチャーキャピタル事業として、オープンイノベーションの実践と収益機会の多様化に資する事業開発を行っています。
収益は、投資先からのリターン等が該当します。運営はアリストテレスパートナーズ等が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は順調に拡大傾向にあり、直近5期間で継続的な増収を達成しています。利益面では、高い利益率を維持していましたが、直近では費用増加等により経常利益および当期利益が減少に転じています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 46億円 | 65億円 | 73億円 | 75億円 | 82億円 |
| 経常利益 | 3.4億円 | 7.0億円 | 9.2億円 | 10.1億円 | 9.6億円 |
| 利益率(%) | 7.5% | 10.8% | 12.7% | 13.4% | 11.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 1.5億円 | 3.7億円 | 4.3億円 | 6.3億円 | 5.5億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は増加しましたが、売上原価および販管費の増加により営業利益の伸びは小幅にとどまりました。売上総利益率は50%を超えており、高い収益性を維持しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 75億円 | 82億円 |
| 売上総利益 | 39億円 | 42億円 |
| 売上総利益率(%) | 51.4% | 51.6% |
| 営業利益 | 10.4億円 | 10.7億円 |
| 営業利益率(%) | 13.8% | 13.1% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が10億円(構成比31%)、支払手数料が4億円(同14%)を占めています。売上原価については、大部分が外部プロフェッショナルタレントへの支払金額となっています。
■(3) セグメント収益
主力の組織・人材開発事業は、ファーストキャリア領域や適性予測領域が牽引し増収増益となりました。新たに加わったステークホルダーリレーション事業は連結業績に寄与しましたが、セグメント損失を計上しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 組織・人材開発事業 | 75億円 | 77億円 | 15.2億円 | 15.9億円 | 20.7% |
| ステークホルダーリレーション事業 | - | 5.0億円 | - | -0.1億円 | -1.4% |
| その他 | - | - | -0.1億円 | -0.1億円 | - |
| 調整額 | - | - | -4.7億円 | -5.0億円 | - |
| 連結(合計) | 75億円 | 82億円 | 10.4億円 | 10.7億円 | 13.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業活動で得た資金に加え、資金調達を行って投資(M&A等)を進めています(積極型)。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 7.1億円 | 10.6億円 |
| 投資CF | -3.7億円 | -24.9億円 |
| 財務CF | -2.1億円 | 11.5億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は19.3%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は36.9%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「ヒューマネスの力でビジネスをより“らしく”、より“いきいき”と。」というパーパスのもと、企業固有の経営課題に「人と組織」の側面からアプローチすることにより、創造性溢れる豊かな社会の実現に向け、企業活動を推進しています。
■(2) 企業文化
顧客企業の永続的な成長に不可欠である「リーダー人材開発」と「企業カルチャーの革新」を主軸に伴走することを重視しています。社会にとって存在価値の高い企業を目指し、自社リソースだけでなく外部の知見も活用しながら課題解決に取り組む姿勢を持っています。
■(3) 経営計画・目標
持続的な成長を図るため、健全な収益水準を意識し、「連結EBITDA」を重要な経営指標としています。適切な収益性を投資家と共有し、中長期的な企業価値の向上を目指しています。また、生産性を高めることにより、2026年3月末時点の従業員一人当たりEBITDAとして、5.6百万円~5.8百万円への到達を定量目標として掲げています。
■(4) 成長戦略と重点施策
顧客基盤の拡充を目指し、既存顧客層でのシェア拡大や投資意欲の高い企業への開拓を進めます。また、既存顧客内の人事以外の部門やグループ会社との取引拡大に注力し、パートナーシップを強化します。さらに、経営課題の変化に対応したプロフェッショナルタレント基盤の拡充や、M&Aの推進による事業領域の拡大およびグループシナジーの最大化を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
外部プロフェッショナルタレントと共に顧客企業の課題解決に取り組むことで、従業員に経営視点を養う成長機会を提供しています。また、多様なバックグラウンドを持つ中途採用を積極的に進めると同時に、オンボーディング施策と連動させた育成体制を整備し、人材の早期戦力化と定着を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 38.3歳 | 6.5年 | 6,236,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 22.6% |
| 男性育児休業取得率 | 50.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 62.3% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 62.8% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 50.6% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 競合
組織・人材開発事業は、経営コンサルティングファームや人材育成サービス企業など多数の競合が存在します。人的資本経営への関心の高まりにより参入企業が増え、競争が激化する可能性があります。顧客企業やプロフェッショナルタレントとのパートナーシップという競争力の源泉が低下した場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 事業の季節変動
新人向けプログラムが実施される4-5月や、経営層向け・ミドルマネジメント向け施策が集中する秋季に売上が偏る傾向があります。また、主要顧客である外資系企業の決算期前の秋季に受注が増加することもあり、第2・第3四半期の売上・利益が高く、第1・第4四半期が低くなる季節変動性があります。
■(3) のれんの減損リスク
MBOや子会社の株式取得により、多額ののれんを計上しています。これらののれんは将来の収益力に基づき計上されていますが、対象事業の収益性が低下し、将来キャッシュ・フローが見積額を下回った場合、減損損失が発生し、業績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。



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