坪田ラボ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

坪田ラボ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

坪田ラボは東証グロース市場に上場する慶應義塾大学医学部発のベンチャーです。近視やドライアイ、老視、脳疾患などアンメット・メディカル・ニーズの高い領域で医薬品や医療機器の研究開発を展開しています。直近の業績は、前事業年度の大型契約一時金の反動と継続的な研究開発投資により、減収および赤字となっています。


※本記事は、株式会社坪田ラボの有価証券報告書(第14期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 坪田ラボってどんな会社?


同社は慶應義塾大学医学部発ベンチャーとして、眼科や脳疾患領域における新たな治療法の創出を目指す企業です。

(1) 会社概要


2012年5月、ドライアイKTとして設立されました。2015年に近視研究所等を吸収合併し、現在の坪田ラボへ商号を変更しています。2019年に坪田一男氏が代表取締役社長に就任して探索治験を開始し、2022年6月に東証グロース市場への上場を果たしました。国内外の企業への導出を通じ、事業化を推進しています。

従業員数は単体で22名です。筆頭株主は創業者で代表取締役社長の坪田一男氏であり、第2位は資産管理業務を行う坪田、第3位は大高功氏となっています。パートナー企業や外部研究者との連携を通じ、少人数ながら高度かつ柔軟な研究開発体制を構築していることが特徴です。

氏名 持株比率
坪田 一男 46.23%
坪田 12.41%
大高 功 7.13%

(2) 経営陣


同社の役員は男性6名、女性1名の計7名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役社長は坪田一男氏が務めています。社外取締役比率は14.3%です。

氏名 役職 主な経歴
坪田 一男 代表取締役社長 慶應義塾大学医学部眼科学教室教授などを経て、2012年に同社を設立。2019年より現職。
久保田 恵里 取締役事業開発本部長 全国朝日放送情報局やメディプロデュース社長などを経て、2023年より現職。
森島 健司 取締役研究開発本部長 参天製薬にて執行役員グローバル製品研究統括部長などを歴任し、2025年より現職。


社外取締役は、小泉信一(元ファイザー生物化学研究統括部統括部長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「研究開発事業」の単一セグメントですが、主に以下の疾患領域で事業を展開しています。

(1) 近視領域


近視進行を抑制するデバイス「TLG-001」や点眼薬「TLM-003」等の開発を行っています。特に波長360〜400nmの可視光「バイオレットライト」を活用し、現代の生活環境で不足しがちな光を補うことで子どもたちの近視進行を防ぐという、独自の革新的なアプローチを推進しています。

ジンズホールディングス、ロート製薬、Laboratoires Théa等のパートナー企業と契約を結び、契約一時金やマイルストーン、製品上市後のロイヤリティを受領する収益モデルです。運営は同社が行い、治験等の最終的な開発はパートナー企業が担います。

(2) ドライアイ領域


ドライアイに伴う不快感や視機能低下を改善するため、マイボーム腺機能不全を対象とした治療薬「TLM-001」や、眼表面を修復する新しい点眼薬「TLM-017」の研究開発を進めています。単なる対症療法ではなく、眼表面の恒常性回復を目指す治療戦略を採用しています。

マルホ等と全世界における開発および商業化に関する実施許諾契約を締結しています。臨床試験の進捗に伴うマイルストーン収入や上市後のロイヤリティを将来的な事業収益の柱としています。運営は同社が主体となって推進しています。

(3) 老視・脳疾患・その他領域


水晶体の老化メカニズムに着目した老視領域のほか、バイオレットライトが脳内血流に与える影響を活用し、うつ病や認知症など中枢神経系疾患に向けたデバイス開発を行っています。また、円錐角膜治療や月経不順治療など、光を応用した多彩な研究も展開しています。

基礎研究や特定臨床研究を通じて安全性を確認し、有効性データの蓄積を進めています。これらの成果をもとにパートナー企業との事業化に向けた提携交渉を行い、新たなライセンス収益の獲得を目指しています。運営は同社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


同社の業績は、ライセンス契約に基づく契約一時金やマイルストーン収入の計上時期により大きく変動する傾向があります。2025年3月期は大型導出契約に伴う一時金収入により大幅な増収増益となりましたが、2026年3月期はその反動に加え、継続的な研究開発投資を実施したことで大幅な減収および赤字となっています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 6億円 10億円 7億円 14億円 2億円
経常利益 2億円 1億円 -6億円 3億円 -8億円
利益率(%) 31.6% 15.1% -94.5% 20.7% -380.4%
当期利益(親会社所有者帰属) 2億円 1億円 -6億円 2億円 -8億円

(2) 損益計算書


売上高の大幅な減少に伴い、売上総利益も減少しています。一方で、今後の持続的成長に向けた事業拡大や研究開発強化に伴う人件費等の先行投資を継続して実施しているため、直近の利益水準は赤字へと大きく悪化する結果となりました。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 14億円 2億円
売上総利益 12億円 1億円
売上総利益率(%) 86.7% 65.8%
営業利益 2億円 -8億円
営業利益率(%) 17.4% -393.9%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が3億円(構成比30%)、給与手当が2億円(同18%)を占めています。売上原価については、大半が経費(構成比71%)と労務費(同30%)で構成されています。

(3) セグメント収益


同社は研究開発事業の単一セグメントです。国内および海外のパートナー企業に対するライセンス導出や共同研究に伴う契約一時金、マイルストーン収入が計上されています。当期は大型の契約一時金がなかったため大幅な減収となりました。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
研究開発事業 14億円 2億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFはマイナス、投資CFもマイナス、財務CFはプラスとなっており、本業は赤字ですが、将来成長のための借入や資金調達で投資を継続する勝負型の状態です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF -3億円 -6億円
投資CF -0.1億円 -0.1億円
財務CF -0.1億円 0.2億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.9%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は65.5%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「VISIONary INNOVATIONで未来をごきげんにする」をパーパスに掲げています。近視、ドライアイ、老視、脳疾患などアンメット・メディカル・ニーズ(有効な治療法がない疾患に対する医療ニーズ)の高い疾患領域において、革新的なソリューションの創出を目指し、社会課題の解決に真正面から取り組むことを使命としています。

(2) 企業文化


社会課題の解決と企業の持続的成長の同時実現を目指すCSV経営(共有価値の創造)の考え方を重視しています。また、「深化」と「探索」の両軸から成るT型戦略を実践し、専門性を深めつつ新たな分野への関心を広げる文化を醸成しています。さらに、「自分から、ごきげんを拡げる。」などを行動指針とし、挑戦と迅速な実行を促しています。

(3) 経営計画・目標


同社は各パイプラインの事業化(上市)を目指して共同研究や実施許諾を行う段階にあり、事業化後のロイヤリティ収入を安定的に計上するステージには至っていません。そのため、ROAやROEといった経営指標を短期的な目標とせず、各パイプラインの開発進捗や提携状況を適時かつ正確に管理し、中長期的な企業価値の向上を目標に事業を推進しています。

(4) 成長戦略と重点施策


今後は、独自の研究成果を知的財産として確立し、国内外のパートナー企業への導出を推進する循環型のイノベーションモデルを強化します。具体的には、基礎研究や知財発掘の強化に加え、国内外の有力企業との事業開発体制の拡充、各国の規制当局に対応できるレギュラトリーサイエンスの強化、そしてOKRを用いた組織運営の効率化に注力します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、研究開発型企業としての競争力の源泉を「人材」と位置付けています。画一的な年功的運用ではなく、個々の能力、成果、期待役割および市場価値を踏まえた処遇を基本としています。国内外から多様なバックグラウンドを持つ優れた専門人材を確保・登用し、OKRを活用した目標管理によって社員の主体的な挑戦と成長を促進する方針です。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 48.0歳 2.1年 8,178,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は女性の職業生活における活躍の推進に関する法律及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の規定による公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 開発と収益獲得の不確実性


医薬品および医療機器の開発には多額の投資と長期間を要します。臨床試験で有用な効果が証明できない、あるいは予期せぬ副作用が発現する等により、開発の延長や中止の判断を行う可能性があります。自社や導出先での製品上市が遅延または中止となった場合、同社の業績や財政状態に重大な影響を及ぼすリスクがあります。

(2) 共同研究とライセンス契約への依存


同社の収益は、国内外のパートナー企業との共同研究開発契約や実施許諾契約に基づく契約一時金やマイルストーン等に大きく依存しています。新規契約の締結が想定通りに進まない場合や、提携先の経営方針変更等により開発が中止・遅延した場合、収益計上時期が遅れ、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(3) 法的規制や制度変更への対応


医薬品および医療機器業界は、各国の薬機法や医療保険制度など多様な規制を受けています。研究開発期間中に規制が改定され承認が取得できなくなる、あるいは保険収載されない、計画通りの薬価が付かない等の事象が発生した場合、製品の事業化が困難となり、同社のビジネスモデルに重大な影響を与えるリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。