※本記事は、株式会社坪田ラボ の有価証券報告書(第13期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 坪田ラボってどんな会社?
近視、ドライアイ、老視、脳疾患を対象に、革新的な医薬品・医療機器等の研究開発を行う慶應義塾大学医学部発のベンチャー企業です。
■(1) 会社概要
2012年に株式会社ドライアイKTとして設立され、2015年に現社名へ商号変更しました。2019年にジンズホールディングスと近視予防医療機器の契約を締結し、2020年にはロート製薬と点眼薬に関する契約を締結しました。2022年6月に東京証券取引所グロース市場へ上場を果たしています。
同社(単体)の従業員数は17名です。筆頭株主は創業者の坪田一男氏で、第2位は同氏の資産管理会社である株式会社坪田、第3位は大高功氏となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 坪田 一男 | 47.00% |
| 株式会社坪田 | 12.48% |
| 大高 功 | 7.18% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性1名の計7名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役社長は坪田一男氏が務めています。社外取締役比率は25.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 坪田 一男 | 代表取締役社長 | 慶應義塾大学医学部眼科学教室教授などを経て、2012年に同社(現 坪田ラボ)を設立。2019年より現職。慶應義塾大学名誉教授。 |
| 久保田 恵里 | 取締役事業開発本部長 | メディプロデュース代表取締役社長などを経て、2023年より現職。 |
| 森島 健司 | 取締役研究開発本部長 | 参天製薬執行役員などを経て、2025年1月同社入社。同年6月より現職。 |
社外取締役は、小泉信一(元ラクオリア創薬専務)です。
2. 事業内容
同社グループは、「研究開発事業」を展開しています。
■(1) 近視領域
近視進行を抑制するためのバイオレットライト技術を用いたメガネ型医療機器「TLG-001」や、点眼薬「TLM-003」等の研究開発を行っています。世界的に増加する近視人口に対し、根本的な治療法や予防法を提供することを目的としています。
収益は、パートナー企業との契約に基づく契約一時金、開発進捗に応じたマイルストーン収入、上市後のロイヤリティ収入等から得ています。主なパートナーとして、医療機器では株式会社ジンズホールディングス、点眼薬ではロート製薬株式会社やLaboratoires Théa等と提携し、開発を進めています。
■(2) ドライアイ領域
ドライアイの主要因であるマイボーム腺機能不全を対象とした点眼薬「TLM-001」や、涙液分泌を促進するサプリメント等の開発を行っています。コロナ禍での在宅勤務増加等により急増するドライアイ患者に対し、新たな治療アプローチを提供します。
収益はパートナー企業からのライセンス収入等が中心です。治療薬「TLM-001」に関しては、マルホ株式会社と全世界における開発および商業化に関する契約を締結しており、開発段階に応じたマイルストーン収入やロイヤリティ収入を得るモデルとなっています。
■(3) 脳疾患領域およびその他
バイオレットライト技術を応用し、うつ病や認知症、パーキンソン病などの中枢神経系疾患を対象とした医療機器「TLG-005」の研究開発を進めています。また、老視領域での医薬品開発や、光を用いた月経不順治療などの新規領域も探索しています。
収益は共同研究契約や実施許諾契約に基づきます。脳疾患領域では住友ファーマ株式会社等との共同研究実績があります。運営は同社が行っており、基礎研究から初期臨床試験までを担い、パートナー企業へ導出することで収益化を図るBtoBモデルを採用しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高はプロジェクトの進捗や契約締結のタイミングにより変動がありますが、当期は大型契約の締結等により大きく伸長しました。利益面では、前期の赤字から一転し、高い利益率での黒字化を達成しています。研究開発型ベンチャーとして、先行投資を行いつつも収益化のフェーズに入ってきています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 6.9億円 | 6.4億円 | 9.5億円 | 6.7億円 | 13.6億円 |
| 経常利益 | 2.6億円 | 2.0億円 | 1.4億円 | -6.4億円 | 2.8億円 |
| 利益率(%) | 37.2% | 31.6% | 15.1% | -94.5% | 20.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 2.0億円 | 1.5億円 | 0.9億円 | -6.4億円 | 2.1億円 |
■(2) 損益計算書
当期は売上高が前期比約2倍に増加した一方、売上原価が大幅に減少したことで、売上総利益および利益率が劇的に改善しました。営業利益も黒字転換を果たしています。これは、原価率の低い契約一時金やマイルストーン収入が増加したことや、前期に計上した契約損失引当金の影響等が要因です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 6.7億円 | 13.6億円 |
| 売上総利益 | 0.2億円 | 11.8億円 |
| 売上総利益率(%) | 3.2% | 86.7% |
| 営業利益 | -6.5億円 | 2.4億円 |
| 営業利益率(%) | -96.4% | 17.4% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が2.5億円(構成比27.0%)、人件費(役員報酬及び給与手当)が2.3億円(同24.7%)を占めています。
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
パターン:末期型
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.9%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は63.4%で市場平均(製造業)とほぼ同水準です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -3.0億円 | -3.2億円 |
| 投資CF | -0.1億円 | -0.1億円 |
| 財務CF | 0.4億円 | -0.1億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「ビジョナリーイノベーションで未来をごきげんにする」をミッションに掲げています。近視、ドライアイ、老視、脳疾患などアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患領域において、大学発ベンチャーとして独自の「サイエンス」を「コマーシャリゼーション」し、社会に革新をもたらすことを使命としています。
■(2) 企業文化
社会課題の解決と企業の持続的成長の同時実現を目指す「CSV経営(Creating Shared Value)」を基本方針としています。短期的な利益追求ではなく、長期的な視点で社会課題解決に取り組み、パートナー企業との協働による「社会実装」を通じてイノベーションを創出することを重視しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、各パイプラインの事業化(上市)を目指すベンチャー企業であり、現段階ではROAやROEなどの経営指標を目標とはせず、各パイプラインの進捗状況を適時かつ正確に管理することを目標としています。
■(4) 成長戦略と重点施策
「深化」と「探索」の両軸から成るT型戦略を推進しています。研究予算の約70%を既存研究の深掘りや知財強化などの「深化」に、約30%を新領域の基礎研究などの「探索」に配分し、短期的成果と中長期的成長の両立を図ります。
* **基礎研究・知財の強化**: 独自の発明とパートナー企業との協働を掛け合わせ、導出力(ライセンシング・パワー)を高める。
* **事業開発の強化**: 国内外の有力企業との連携を拡大し、共同研究開発体制を強化する。
* **グローバル展開**: 各国の規制当局(FDA、EMA、NMPA等)への対応力を強化し、海外市場での承認取得と事業化を目指す。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
技術力や研究開発力に加え、経営・事業推進の視点を持つ多様な人材の確保を重視しています。上場企業としての信用力を活かし、国内外から優れたビジネス人材を登用することで、知財価値の最大化と戦略的な経営体制の構築を目指しています。また、「OKR(Objective and Key Results)」を導入し、ビジョンと個人の目標を連動させています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 47.8歳 | 1.6年 | 8,874,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」等の規定による公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 開発および収益獲得の不確実性
医薬品・医療機器の開発には長期間と多額の費用を要しますが、臨床試験で有効性が確認できない等の理由で開発が中止・延期される可能性があります。また、各国の規制当局からの承認が得られず、上市できないリスクもあります。これらは自社開発だけでなくパートナー企業への導出品にも当てはまり、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 共同研究型パイプラインのリスク
同社はパートナー企業との契約金やマイルストーン収入等を収益源としていますが、相手先の経営方針変更等により契約が期間満了前に終了する可能性があります。また、導出後の臨床試験や承認申請はパートナー企業が主体となるため、同社がコントロールできない要因で開発が遅延・中止され、マイルストーンやロイヤリティが得られなくなるリスクがあります。
■(3) 特定人物への依存
同社は慶應義塾大学医学部眼科学教室の教授を務めていた創業者・坪田一男氏の研究成果の事業化を目的に設立され、同氏が研究開発の中心を担っています。同氏は筆頭株主でもあり、同氏の関与が困難になった場合、研究開発活動や経営基盤に重大な影響が生じる可能性があります。



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