PHCホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

PHCホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

PHCホールディングスは東京証券取引所プライム市場に上場し、糖尿病マネジメント、ヘルスケアソリューション、診断・ライフサイエンス事業をグローバルに展開しています。直近の業績では、売上収益が微増となった一方、為替差損の計上等により税引前利益及び親会社の所有者に帰属する当期利益は大幅な減益となりました。


※本記事は、PHCホールディングス株式会社の有価証券報告書(第13期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. PHCホールディングスってどんな会社?


糖尿病ケア製品や医療IT、ライフサイエンス機器をグローバルに展開するヘルスケア企業です。

(1) 会社概要


1969年の大新鉱業の商号変更及び合併による松下寿電子工業の設立を源流とし、1991年に血糖自己測定システム事業、1999年に電子カルテシステム事業を開始しました。2013年にKKR PHC Investment L.P.の出資により設立されたオリオンインベストメントが源流であり、2014年にパナソニックヘルスケアを完全子会社化しました。2016年にAscensiaグループを設立し、2019年にLSIメディエンスを子会社化、2021年に上場を果たしています。

従業員数は連結8,647名、単体145名です。筆頭株主はプライベートエクイティファンドのKKR PHC INVESTMENT L.P.で、第2位は事業会社の三井物産、第3位は事業会社の三菱ケミカルです。

氏名 持株比率
KKR PHC INVESTMENT L.P. 37.94%
三井物産 14.68%
三菱ケミカル 9.72%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性3名の計11名で構成され、女性役員比率は27.3%です。代表取締役社長CEOは出口恭子氏です。社外取締役比率は45.5%です。

氏名 役職 主な経歴
出口 恭子 代表取締役社長CEO 1989年ベイン・アンド・カンパニー入社。日本ストライカー代表取締役社長、アッヴィ社長等を経て2024年4月より現職。
佐藤 浩一郎 代表取締役副社長COO・CSO 1997年三井物産入社。三井物産ヘルスケア事業部アジア事業室長等を経て2024年7月より現職。
山口 快樹 取締役CFO 2002年三井住友銀行入行。三井物産を経て2019年同社入社。経営企画部長、CSO等を経て2025年6月より現職。


社外取締役は、平野博文(KKRジャパン代表取締役社長)、谷田川英治(KKRジャパンパートナー)、イヴァン・トルノス(Zimmer Biomet GroupのCEO)、デイビッド・スナイダー(三菱UFJフィナンシャル・グループ社外取締役)、山下美砂(ビジネスコーチ社外取締役)です。

2. 事業内容


同社グループは、糖尿病マネジメント、ヘルスケアソリューション、診断・ライフサイエンスの3つの報告セグメントで事業を展開しています。

糖尿病マネジメント


同セグメントでは、特許権を有するバイオセンシング技術を強みとし、高精度かつ簡便な血糖測定システムを中心とする糖尿病ケア製品の開発、製造、販売を行っています。世界90以上の国と地域の医療機関や薬局等へ製品を供給しています。

収益は、主にセンサなどの消耗品の継続販売によって創出されています。製品の開発と製造は主にPHCにおいて行われ、Ascensia Diabetes Care Holdings AGおよびその販売子会社を通じてグローバルに販売されています。

ヘルスケアソリューション


同セグメントは、LSIM事業、ヘルスケアITソリューション事業、CRO事業の3事業で構成されています。臨床検査や食品検査、レセプトコンピュータや電子カルテシステムの開発・販売、非臨床試験受託や創薬支援サービスを提供しています。

収益は、医療機関や製薬企業、保険薬局などからのサービス利用料やシステム導入費用から得ています。事業の運営は、LSIメディエンス、ウィーメックス、メディフォードなどの子会社が行っています。

診断・ライフサイエンス


同セグメントは、病理事業、バイオメディカ事業、診断薬事業の3事業で構成されています。病理用機器、超低温フリーザーや培養機器、自動錠剤包装機、体外診断機器、電動式医薬品注入器などの開発、製造、販売を展開しています。

収益は、医療機関や研究機関、製薬企業に対する機器の販売および保守サービス等から得ています。製品の開発・製造はPHCやEpredia傘下の子会社が行い、国内外の販売子会社や特約店を通じてグローバルな販売網を構築しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上収益は直近5年間で堅調に推移し、3,600億円台に到達しています。一方、税引前利益や親会社所有者帰属の当期利益は年度ごとの変動が大きく、直近では為替の影響等により減益となっています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上収益 3,405億円 3,564億円 3,539億円 3,616億円 3,644億円
税引前利益 30億円 2億円 -132億円 188億円 6億円
利益率(%) 0.9% 0.1% -3.7% 5.2% 0.2%
当期利益(親会社所有者帰属) -85億円 -32億円 -129億円 105億円 5億円

(2) 損益計算書


売上収益は微増の3,644億円となりました。売上総利益率および営業利益率は前年度と同水準を維持しており、安定した収益構造を保っています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上収益 3,616億円 3,644億円
売上総利益 1,662億円 1,653億円
売上総利益率(%) 46.0% 45.4%
営業利益 226億円 227億円
営業利益率(%) 6.2% 6.2%


販売費及び一般管理費のうち、人件費が748億円(構成比52%)、減価償却費及び償却費が168億円(同12%)を占めています。また、売上原価においては、材料費が787億円(構成比40%)、人件費が441億円(同22%)を占めています。

(3) セグメント収益


糖尿病マネジメントは堅調な販売により増収増益となりました。一方、診断・ライフサイエンスは米国を中心とした市況停滞等の影響で減収減益となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
糖尿病マネジメント 987億円 1,016億円 139億円 201億円 19.8%
ヘルスケアソリューション 1,283億円 1,284億円 93億円 62億円 4.9%
診断・ライフサイエンス 1,309億円 1,283億円 72億円 39億円 3.0%
その他及び調整・消去 37億円 61億円 -78億円 -75億円 -
連結(合計) 3,616億円 3,644億円 226億円 227億円 6.2%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 419億円 425億円
投資CF -85億円 -85億円
財務CF -391億円 -398億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は0.3%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も29.8%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「わたしたちは、たゆみない努力で健康を願うすべての人々に新たな価値を創造し、豊かな社会づくりに貢献します」という経営理念を掲げています。自社のモノづくりの強みを活かし、世界に広がる販路を活用することで、世界中の健康を願う人々のお役に立ち続ける企業を目指しています。

(2) 企業文化


同社グループは、国内外の多様な専門性を持つ従業員が「好奇心」「実行する勇気」「個の尊重と共創」「高い倫理観」という価値観を体現することを重視しています。多様な個性が共鳴し、変革が自律的に生まれる組織風土を醸成するため、従業員のウェルビーイング向上と組織の活性化を両立させています。

(3) 経営計画・目標


「中期経営計画2027」において、2030年を目標に「精緻な技術でヘルスケアの未来を切り拓くリーダーとなる」というビジョンを定めています。事業規模の拡大と収益性の向上を両立させることを重要視し、売上収益、営業利益、親会社の所有者に帰属する当期利益を重要な経営指標として位置づけています。

(4) 成長戦略と重点施策


同社はPhase1の「中期経営計画2027」を成長に向けた基盤構築と位置づけ、既存事業で創出した資本を成長領域への戦略投資に再配分します。「収益基盤強化のための構造改革」「ポートフォリオ管理強化」「診断・ライフサイエンス領域への注力」の3つを重点施策とし、中長期的な成長と資本効率の向上を図ります。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は人的資本を最大の経営資源と位置づけ、その最適化と最大化を推進しています。「Workday」を活用した戦略的人材マネジメント基盤の構築や、「PHCアカデミー」を通じた次世代リーダーおよび専門人材の育成を強化し、エンゲージメントスコアを活用して透明性の高い情報開示と組織改善を行っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 49.0歳 17.5年 9,834,195円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 25.8%
男性育児休業取得率 50.0%
労働者の男女の賃金の額の差異(全労働者) 79.8%
労働者の男女の賃金の額の差異(正規雇用労働者) 83.7%
労働者の男女の賃金の額の差異(パート・有期労働者) -


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、グループ間の海外赴任・出向者数(26名)、女性採用比率(48%)、エンゲージメントスコア(64ポイント)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 経済環境及び市場動向の変動


世界的な経済成長の減速や景気後退、為替・クレジット市場のボラティリティにより、事業運営や収益性が悪化するリスクがあります。また、顧客ニーズや技術革新への対応が遅れることで、競争優位性を喪失し製品・サービスの需要が低下する可能性があります。

(2) 医療制度・医療政策及び規制環境の変更


各国において医療費削減や制度改革が進められています。診療報酬や薬価等の保険点数の改定が行われた場合、医療製品や臨床検査事業の収益性が低下し、同社グループの経営成績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

(3) 事業ポートフォリオ及び成長戦略の遅延


市場競争の激化や技術革新の加速により、中期経営計画の目標達成が困難となるリスクがあります。特に、BGM事業への利益依存度が高い中、新製品開発や新興国市場での展開が計画通りに進まない場合、収益機会を喪失する可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。