長栄 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

長栄 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

長栄は、スタンダード市場に上場する京都地盤の不動産会社です。不動産管理事業と不動産賃貸事業を両輪として展開しています。2025年3月期は、管理戸数の増加や自社物件の取得が進み売上高は増収となりました。利益面では、経常利益は微減益となったものの、固定資産売却益の計上により当期純利益は大幅な増益を達成しています。


※本記事は、株式会社長栄 の有価証券報告書(第37期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月20日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 長栄ってどんな会社?


長栄は、京都府を中心に近畿・東海・関東・九州エリアで賃貸マンションの管理および賃貸事業を展開する企業です。

(1) 会社概要


同社は1980年に創業し、1988年に設立されました。当初は不動産管理業からスタートし、1991年には不動産賃貸業を開始しています。2003年には「Bellevie(ベルヴィ)」ブランドを立ち上げ、管理センターの名称を変更しました。2021年に東京証券取引所市場第二部へ上場し、2022年の市場区分見直しに伴いスタンダード市場へ移行しています。

同社(単体)の従業員数は254名です。大株主構成を見ると、筆頭株主は創業者の長田修氏(34.92%)、第2位は長田久美子氏(16.99%)、第3位は資産管理会社と思われるOSAフィールド(8.27%)となっており、創業者とその関係者が過半数を保有するオーナー系企業の特徴を持っています。

氏名 持株比率
長田修 34.92%
長田久美子 16.99%
OSAフィールド 8.27%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長執行役員は長田修氏が務めています。社外取締役比率は20.0%です。

氏名 役職 主な経歴
長田修 代表取締役社長執行役員 1980年に同社創業。1988年設立とともに社長就任。日本賃貸住宅管理協会副会長などを兼任し、2023年より現職。
舩井渉 取締役専務執行役員 1997年同社入社。管理部長、グリーン保証社長、長栄ビルサービス社長などを歴任し、2022年より現職。
中澤和宏 取締役上席執行役員 1998年同社入社。アセットマネジメント本部長として自社物件の収益最大化等を担当し、2023年より現職。
田中直樹 取締役上席執行役員 1993年同社入社。統括本部長として本社部門等を管掌し、2024年より現職。
山本光伸 取締役顧問 1994年同社入社。総務部長、専務取締役などを経て、アリーズ一般社団法人代表理事を兼務し、2024年より現職。


社外取締役は、田中伸(弁護士・田中伸法律事務所所長)、石畑成人(元ニッセンホールディングス執行役員CFO)です。

2. 事業内容


同社グループは、「不動産管理事業」および「不動産賃貸事業」を展開しています。

(1) 不動産管理事業


不動産オーナー向けに賃貸経営に必要なサービスを提供するほか、入居者向けに快適な住環境を提供しています。具体的には、入居者管理、ビルメンテナンス、リフォーム工事、賃貸仲介(リーシング)などが含まれます。24時間365日対応の管理センター「ベルヴィ」を運営し、入居者満足度向上のためのイベント等も実施しています。

収益は主に不動産オーナーから受け取る管理料、ビルメンテナンス料、リフォーム工事代金、および仲介手数料等から構成されています。運営は主に長栄が行っており、入居者様向け会員組織「Bellevie Club」の運営や留学生向けサービスなども展開しています。

(2) 不動産賃貸事業


自社で所有する賃貸マンション等の物件を直接入居者に貸し出す事業です。資産効率が高く比較的築年数が経過した優良物件を取得し、管理事業で培ったノウハウを活かしたリニューアルを行うことで高い入居率を維持する戦略をとっています。また、一部サブリース物件の賃貸も行っています。

収益は入居者から受け取る家賃収入が主となります。自社物件の取得は、新たな地域へ進出する際に管理戸数のボリュームを確保する手段としても活用されており、管理事業との相乗効果を図っています。運営は長栄が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は80億円台から100億円規模へと着実に成長しています。経常利益は15億円から20億円の水準で推移しており、高い利益率を維持しています。特に2023年3月期には利益率が20%を超えましたが、直近では14%台となっています。当期純利益は安定して黒字を計上しており、財務基盤の強化が進んでいる様子がうかがえます。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 80億円 85億円 92億円 94億円 100億円
経常利益 14億円 16億円 20億円 15億円 15億円
利益率(%) 17.9% 19.1% 21.9% 16.1% 14.6%
当期利益(親会社所有者帰属) 10億円 16億円 14億円 13億円 21億円

(2) 損益計算書


直近2期間の損益構成を比較します。売上高は94億円から100億円へと増加しましたが、売上原価の増加により売上総利益は若干減少しました。営業利益も微減となりましたが、依然として18%という高い営業利益率を維持しています。コスト増の要因を吸収しつつ、安定した収益性を保っていることが分かります。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 94億円 100億円
売上総利益 35億円 34億円
売上総利益率(%) 37.5% 33.5%
営業利益 18億円 18億円
営業利益率(%) 19.5% 18.0%


販売費及び一般管理費のうち、租税公課が5億円(構成比34%)、役員報酬が2億円(同14%)を占めています。売上原価においては、経費が38億円(構成比57%)、外注費が14億円(同21%)を占めています。

(3) セグメント収益


各セグメントの増減要因を分析します。不動産管理事業は、管理戸数の増加や仲介・工事売上の増加により増収増益となりました。不動産賃貸事業は、新規物件取得による通年稼働で増収となった一方、取得に伴う一時費用や計画修繕の実施により減益となりました。全社としては増収ながら、賃貸事業の費用増が利益を圧迫しました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
不動産管理事業 41億円 41億円 5億円 7億円 16.8%
不動産賃貸事業 56億円 59億円 14億円 11億円 18.8%
連結(合計) 94億円 100億円 18億円 18億円 18.0%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

長栄は、不動産賃貸事業において、資産効率の高い物件取得と効率的な費用投下によるリニューアルで収益性を高めています。

営業活動によるキャッシュ・フローは、固定資産売却益や法人税等の支払い、未払消費税等の減少があったものの、税引前当期純利益や減価償却費の計上により増加しました。投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得による支出が、有形固定資産の売却収入を上回ったため減少しました。財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入金の返済や配当金の支払いがあったものの、長期借入れによる収入がそれを上回ったため増加しました。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 32億円 19億円
投資CF -20億円 -42億円
財務CF 15億円 41億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、「企業を通じて社会に役立つ「人」を育てる」という企業理念を掲げ、人材育成を重視しています。また、「人道を重んじ正義を持って経営を行う」ことを経営理念とし、「管理業を通じて社会に貢献する」「創意と工夫で業界の発展と社会的地位の向上に努める」「仕事は厳しく、人に優しく人間性豊かな企業を目指す」という経営方針のもと、ステークホルダーの信頼に応えることを基本としています。

(2) 企業文化


同社では、自社物件の借入金返済原資が入居者からの家賃であるという考えに基づき、「入居者ファースト」を徹底する文化が形成されています。また、人材育成においては「自ら創意工夫することができる人材」を育てることを重視しており、性別や国籍に関わらず多様な人材が活躍できる環境づくりに注力しています。コミュニケーション促進や自己成長支援などを通じ、働きがいのある組織風土の醸成を図っています。

(3) 経営計画・目標


同社は、堅実な経営基盤を維持しつつ営業基盤を拡大するため、管理物件戸数(自社物件を含む)の増加を重視しています。具体的な数値目標としてKPIなどは有報本文に明記されていませんが、入居者満足度の向上がオーナーの経営安定化につながると考え、入居者サービスの拡充を通じて信頼を得ることで、新たな管理受託につなげる方針です。これにより経営効率の改善と財務体質の強化を目指しています。

(4) 成長戦略と重点施策


同社は、管理戸数および自社物件戸数の増加と周辺事業の拡大を成長戦略の柱としています。既存エリアでは高い入居率維持による解約抑制と紹介獲得を目指し、自社物件取得を足掛かりとした新規エリア進出も加速させます。また、京都周辺以外でもリフォームや売買仲介等の周辺業務を提供し、収益機会を拡大します。金利上昇リスクに対しては、適正な価格転嫁やリスクヘッジを検討し対応します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、「企業を通じて社会に役立つ「人」を育てる」という理念の実現に向け、人材育成に注力しています。「安心」「安全」「快適」な暮らしを提供するため、自ら創意工夫できる人材の育成に取り組むとともに、性別・国籍・採用区分に関わらず多様な人材が活躍できる環境を提供することを目指しています。また、コミュニケーション促進、自己成長支援、子育て支援、健康管理などの社内環境整備を進めています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 35.5歳 8.0年 4,752,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 -
男性育児休業取得率 60.0%
男女賃金差異(全労働者) 73.6%
男女賃金差異(正規雇用) 65.6%
男女賃金差異(非正規雇用) 80.6%


※女性管理職比率については、同社は公表項目として選択していないため、有報には本項の記載がありません。

また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、不動産事業に関する国家資格保持者(98人)、育児休暇復帰率(100%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 金利上昇リスク


同社は自社物件購入の原資を主に長期借入金で調達しており、その多くが変動金利です。そのため、金利が急激に上昇した場合、支払利息が増加し経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、資金調達環境の変化により、計画通りの物件取得が困難になるリスクもあります。

(2) 少子高齢化リスク


同社が保有・管理する不動産は単身者向けが多く、特に学生人口の多い京都府に集中しています。少子高齢化による18歳人口の減少に伴い学生数が減少した場合、需給バランスが悪化し、空室率の上昇や家賃の値下げ圧力が発生することで、収益が減少する可能性があります。

(3) 地域偏在に係るリスク


同社の管理・保有物件の多くは京都府に所在しています。そのため、京都市の景観条例などの規制強化による対応費用の発生や、同地域での大規模な自然災害、地域経済の悪化などが生じた場合、管理収入や家賃収入の減少など、業績に大きな影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。