Institution for a Global Society 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

Institution for a Global Society 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証グロース上場のInstitution for a Global Societyは、AIを活用した人材評価システムや教育支援ツール、ブロックチェーン技術を用いたプラットフォーム事業を展開しています。2025年3月期は主力事業の苦戦や先行投資により売上高6.0億円、経常損失3.0億円と減収減益で赤字幅が拡大しました。


※本記事は、Institution for a Global Society株式会社 の有価証券報告書(第15期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. Institution for a Global Societyってどんな会社?


同社は、AIとビッグデータを活用した評価システムにより、企業の人材採用・育成や学校教育の質的向上を支援するHR・EdTech企業です。

(1) 会社概要


2010年に教育事業を目的として設立され、2016年に適性検査システム「GROW」、2017年にAI搭載の「GROW360」の提供を開始しました。その後、2019年には教育機関向け「Ai GROW」をリリースし、2021年に東証マザーズ(現グロース)へ上場しました。近年はWeb3領域にも進出し、2023年にブロックチェーン事業を行う子会社を設立するなど、事業領域を拡大しています。

現在の連結従業員数は48名です。筆頭株主は創業者の福原正大氏で、第2位は個人株主の岩永泰典氏、第3位は学習塾や予備校の運営を行うウィザスとなっています。

氏名 持株比率
福原 正大 12.53%
岩永 泰典 7.19%
ウィザス 6.43%

(2) 経営陣


同社の役員は男性5名、女性2名の計7名で構成され、女性役員比率は29.0%です。代表取締役会長CEOは福原正大氏、代表取締役社長COOは中里忍氏が務めています。社外取締役比率は25.0%(取締役4名中1名)です。

氏名 役職 主な経歴
福原 正大 代表取締役会長CEO 東京銀行(現三菱UFJ銀行)、ブラックロック・ジャパン取締役等を経て2010年同社設立。慶應義塾大学や一橋大学の特任教授も務める。2024年より現職。
中里 忍 代表取締役社長COO 千代田生命保険、アール&キャリア等を経てオールアバウト執行役員。2016年同社入社、取締役COO等を経て2024年より現職。
中江 史人 取締役 三菱銀行(現三菱UFJ銀行)、スタンダードチャータード銀行東京支店ホールセールバンキング共同代表等を経て、2022年より現職。


社外取締役は、幸田博人(みずほ証券元代表取締役副社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「HR事業」「教育事業」および「プラットフォーム/Web3事業」を展開しています。

(1) HR事業


企業の人材採用・育成・配置・組織開発を支援するため、AIを活用した人材評価システム「GROW360」や人的資本コンサルティング、DX研修などを提供しています。主な顧客は、人的資本経営や戦略人事を推進する大手企業等です。

収益は主に、評価システムの利用料やコンサルティング料、研修サービスの対価として顧客企業から受け取ります。運営はInstitution for a Global Societyが行っています。

(2) 教育事業


学校・教育機関向けに、AIを活用して生徒の能力や教育効果を可視化する評価システム「Ai GROW」や、動画コンテンツ「GROW Academy」、英語学習プラットフォーム「e-Spire」等を提供しています。主な顧客は小学校から高校までの学校法人や自治体です。

収益は主に、システムの利用料(サブスクリプション)や教材・プログラムの販売代金として学校や自治体から受け取ります。運営はInstitution for a Global Societyが行っています。

(3) プラットフォーム/Web3事業


ブロックチェーン技術を活用し、個人が自身のデータ(学習・職歴等)を安全に管理・活用できるプラットフォームの構築を目指しています。具体的には転職支援サービス「ONGAESHIプロジェクト」やWeb3関連のコンサルティングを展開しています。

収益は、Web3領域におけるコンサルティング料や、将来的にはプロジェクトのエコシステムからの収益を見込んでいます。運営は主に子会社のONGAESHI CorporationおよびInstitution for a Global Societyが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近2期間の業績を見ると、売上高は9.2億円から6.0億円へと大幅に減少しました。利益面では、経常損失が0.2億円から3.0億円へと赤字幅が拡大し、当期純損失も0.2億円から3.4億円へと悪化しています。売上の減少とコスト負担により、厳しい収益状況となっています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 9.2億円 6.0億円
経常利益 -0.2億円 -3.0億円
利益率(%) -2.3% -49.1%
当期利益(親会社所有者帰属) -0.0億円 -3.4億円

(2) 損益計算書


直近2期間の損益構成を比較します。売上高の大幅な減少に伴い、売上総利益率が62.4%から32.7%へと急激に低下しました。営業損失は前期の0.2億円から当期は3.0億円へと拡大しており、収益性の改善が課題となっています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 9.2億円 6.0億円
売上総利益 5.7億円 2.0億円
売上総利益率(%) 62.4% 32.7%
営業利益 -0.2億円 -3.0億円
営業利益率(%) -2.4% -50.3%


販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が1.3億円(構成比26%)、支払報酬が0.8億円(同16%)を占めています。売上原価においては、労務費が2.5億円(構成比60%)、経費が1.6億円(同40%)となっています。

(3) セグメント収益


各セグメントの状況を見ると、主力のHR事業は新プロダクトのトラブル等により減収となり赤字に転落しました。プラットフォーム/Web3事業も外部環境の変化等で大幅な減収となり損失が拡大しています。一方、教育事業は微増収となり、利益を確保していますが、全体を補うには至っていません。

区分 売上(24年3月期) 売上(25年3月期) 利益(24年3月期) 利益(25年3月期) 利益率
HR事業 3.4億円 2.4億円 1.3億円 -0.2億円 -9.2%
教育事業 2.9億円 3.1億円 1.0億円 1.0億円 31.7%
プラットフォーム/Web3事業 2.8億円 0.6億円 -0.4億円 -1.5億円 -262.5%
連結(合計) 9.2億円 6.0億円 -0.2億円 -3.0億円 -50.3%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は本業・投資・財務いずれもマイナスで資金繰りが危機的な「末期型」です。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF -2.6億円 -2.3億円
投資CF -0.3億円 -0.8億円
財務CF 0.0億円 -0.0億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)はマイナスで市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は88.2%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「分断なき持続可能な社会を実現するための手段を提供する」を企業パーパスとして掲げています。また、「人を幸せにする評価と教育で、幸せを作る人、をつくる。」というビジョンのもと、テクノロジーを活用した評価と教育、および個人がデータを主体的かつ安全に利活用できるプラットフォームを通じて、Society5.0時代の産業基盤となるサービスの提供を目指しています。

(2) 企業文化


同社は、企業価値を最大化するため、社内外のサステナビリティ推進に積極的に取り組む文化を持っています。SDGsの目標の中でも特に「質の高い教育」「ジェンダー平等」「働きがい」「不平等の是正」を優先課題としています。また、役職員が法令や定款を遵守し、企業倫理を尊重して行動するための「コンプライアンス規程」や「リスク管理規程」を整備し、健全かつ透明性の高い組織運営を重視しています。

(3) 経営計画・目標


同社は、持続的な成長と企業価値向上を目指し、以下の経営目標を掲げています。具体的には、2028年3月期までに以下の数値目標の実現を目指しています。

* 売上高成長率:30%台
* 営業利益率:25%以上
* HR領域「GROW360」継続利用大手上場企業数:100社
* 教育領域「Ai GROW」利用学校数:1,000校
* グループ海外売上比率:20%

(4) 成長戦略と重点施策


同社は「GROW」システムを基盤とし、2026年3月期は国内での基盤強化と黒字化を目指しています。具体的には、HR・教育事業での売上拡大とコスト構造の見直しを進めます。また、中長期的にはブロックチェーン技術を活用し、個人が情報をコントロールできるプラットフォームを提供することで、持続可能な社会に向けたコミュニティ構築とデータ流通の実現を目指します。そのために、ビッグデータ資産や独自アルゴリズム等の競争優位性を活用します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、採用・育成・活用を一体で推進する統合タレント戦略を採っています。外部採用は専門性が不可欠なポジションに絞り、既存社員のポテンシャル引き出しを成長エンジンと位置づけています。具体的には、スキルマップを用いたギャップの可視化とリスキリング投資、計画的な配置転換を行い、組織全体のスキル底上げを図っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 39.8歳 3.3年 6,196,000円


※平均年間給与は基準外賃金を含んでおります。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 44.4%
男性育児休業取得率 -
男女賃金差異(全労働者) -
男女賃金差異(正規) 87.2%
男女賃金差異(非正規) -


※同社は公表義務の対象ではないため、男性育児休業取得率は記載を省略、男女賃金差異は正規雇用労働者のみ算出しております。

また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメントスコア(66.8)、スキルレベル4以上の割合(42.9%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) HR・教育関連市場の変動


HR事業では人的資本開示の流れが追い風となる一方、制度変化や企業ニーズへの対応が遅れた場合、業績に影響する可能性があります。教育事業でもGIGAスクール構想等による市場拡大が見込まれますが、国の政策変更や教育現場の環境変化に適切に対応できない場合、成長が阻害されるリスクがあります。

(2) 暗号資産・Web3関連事業のリスク


Web3事業では、技術や法規制の変化が激しく、適切な対応や高度人材の確保ができない場合、事業成長が損なわれる可能性があります。また、暗号資産市場の価格変動やハッキング等のセキュリティリスクも存在し、これらが顕在化した場合、同社グループの事業および業績に影響を及ぼす可能性があります。

(3) 技術革新への対応


AI分野の技術革新は極めて速く、同社が技術革新のスピードや新たなビジネスモデルの出現に適時適切に対応できない場合、競争力が低下する恐れがあります。また、事業拡大に伴う設備・システム投資が増加した場合や、投資効果が得られない場合には、業績に悪影響を与える可能性があります。

(4) 継続企業の前提に関する事象


同社グループは大幅な減収と損失計上により、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる事象が存在しています。これに対し、プロダクトの安定供給、コスト構造の最適化、人的資本の強化、財務基盤の強化等の施策を進めていますが、これらが計画通りに進まない場合、事業継続に支障をきたす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。