ispace 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

ispace 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

ispaceは東証グロース市場に上場し、月面ランダーやローバーを用いたペイロード輸送および月面データ取得を中核とする月面開発事業を展開する次世代民間宇宙企業です。直近の業績は、次回ミッションに向けた開発期間中であるため減収となり、先行投資により営業赤字が拡大するトレンドとなっています。


※本記事は、株式会社ispace の有価証券報告書(第16期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. ispaceってどんな会社?


月面ランダー等を用いたペイロード輸送やデータ取得など、月面開発事業を展開する民間宇宙企業です。

(1) 会社概要


同社は2010年9月に合同会社ホワイトレーベルスペース・ジャパンとして設立され、2013年5月にispaceへ組織変更しました。2016年4月に月面着陸船(ランダー)の開発に着手し、2022年12月に初の民間月面探査ミッション1の打上げを実施しました。2023年4月に東証グロース市場へ上場しています。

現在の従業員数は連結で333名、単体で183名体制です。大株主の構成を見ると、筆頭株主は創業者の袴田武史氏で、第2位は事業会社である高砂熱学工業、第3位は投資ファンドであるJICVGIオポチュニティファンド1号投資事業有限責任組合となっています。

氏名 持株比率
袴田武史 8.21%
高砂熱学工業 4.79%
JICVGIオポチュニティファンド1号投資事業有限責任組合 4.38%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性2名の計10名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役CEOは袴田武史氏が務めています。取締役7名のうち5名が社外取締役です。

氏名 役職 主な経歴
袴田武史 代表取締役CEO 2006年マサイ・ジャパン入社。2010年合同会社ホワイトレーベルスペース・ジャパン設立、代表社員。2013年5月より現職。
野﨑順平 取締役CFO 兼 事業統括エグゼクティブ 2005年メリルリンチ日本証券入社。2017年ispace入社、EVP, Finance Control。2018年より現職。


社外取締役は、赤浦徹(インキュベイトファンド代表取締役)、川名浩一(元日揮代表取締役社長)、中田華寿子(アクチュアリ代表取締役)、畑田康二郎(将来宇宙輸送システム代表取締役)、牧野隆(元IHIエアロスペース代表取締役社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「月面開発事業」の単一セグメントで事業を展開しています。

(1) 月面開発事業(ペイロードサービス)


主に各国政府の宇宙機関や民間企業などを顧客とし、顧客の荷物(ペイロード)を同社のランダーやローバーに搭載して月まで輸送するサービスを提供しています。ロケットの打上げから月面への輸送、技術的な調整、さらには月面到着後のデータ通信等にかかるサービスまでを含みます。

収益源としては、顧客からペイロードの重量等に応じた料金(1kg当たり1.5百万米ドルなど)を輸送対価として受け取ります。事業の運営はispaceおよび米国、欧州などの海外子会社がグローバル体制で行っています。

(2) 月面開発事業(データサービス・パートナーシップサービス)


民間企業や研究機関に対し、月面ミッションを通じたデータ取得サービスや、将来的な大規模月面データベースへのアクセス提供を行うデータサービスを展開しています。また、協業企業にロゴマークの露出や映像データ利用権等を提供するパートナーシップサービスも手掛けています。

データサービスではデータの販売やサブスクリプションモデルによる課金を見込み、パートナーシップサービスでは契約期間に応じた対価を受け取ります。これらの事業運営も主にispaceが中心となって推進しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高はミッションの進捗に伴い変動しており、ミッション2の打上げ等を背景に直近は減収となっています。先行する研究開発費などの負担により経常赤字が継続していますが、月面開発事業の確立に向けた積極的な投資フェーズにあります。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 6.7億円 9.9億円 23.6億円 47.4億円 33.1億円
経常利益 -40.4億円 -113.8億円 -61.0億円 -113.3億円 -81.4億円
利益率(%) -599.2% -1150.2% -258.7% -239.0% -246.2%
当期利益(親会社所有者帰属) -42.1億円 -113.2億円 -23.4億円 -135.4億円 -128.8億円

(2) 損益計算書


売上高はミッション実施状況により変動し、当期は減収となりました。ミッション2およびミッション3の並行開発による原価の増加等により売上総利益が赤字に転じ、営業赤字幅が拡大しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 47.4億円 33.1億円
売上総利益 22.4億円 -28.5億円
売上総利益率(%) 47.3% -86.3%
営業利益 -98.0億円 -115.8億円
営業利益率(%) -206.5% -350.2%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が39.3億円(構成比45.0%)、給料及び手当が18.4億円(同21.1%)を占めています。

(3) セグメント収益


同社は月面開発事業の単一セグメントですが、サービス別の売上高で比較すると、次回ミッションまでの期間であったためペイロードサービスやパートナーシップサービスが減収となりました。一方で新たに受託研究による売上が計上されています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
ペイロードサービス 40.4億円 23.3億円
パートナーシップサービス 4.5億円 3.7億円
受託研究 - 3.5億円
その他 2.6億円 2.5億円
連結(合計) 47.4億円 33.1億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


本業は赤字ですが、将来成長のための開発投資を借入や株式発行によって継続する「勝負型」のキャッシュ・フロー状況です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF -120.5億円 -135.7億円
投資CF -26.7億円 -18.3億円
財務CF 104.2億円 314.5億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は当期純損失のため算出されていませんが、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は31.6%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


「Expand our planet. Expand our future.」をビジョンに掲げ、月を人類が宇宙内で活動する上でのエネルギー補給基地として活用し、地球と月がひとつのエコシステムとなる経済圏を創出することを目指しています。人類の生活圏を宇宙に広げ、持続的な世界を実現することが同社の使命です。

(2) 企業文化


「ダイバーシティ・インテグリティ・リスペクト」をバリューとして掲げています。日本や世界中の大学研究室との連携やリファラル採用等を通じ、国籍や性別を問わず多様な人材を集めています。この多様性こそが、先駆者の少ない宇宙開発事業における技術革新の原動力となっています。

(3) 経営計画・目標


2040年代に1,000人が月に暮らし、年間1万人が地球との間を往来することを想定した月面上の都市「Moon Valley 2040」の構想を掲げています。中期的には、2028年のミッション3、2029年のミッション4、2030年のミッション5といった段階的な打上げスケジュールの実現を目標としています。

(4) 成長戦略と重点施策


民間企業ならではの実用性が高く迅速な開発プロセスによる「品質向上サイクル」の実現と、ランダーの量産化によるコスト低減を推進しています。また、リスクに備えた保険の検討や、継続的なミッション遂行のための機動的な資金調達を重点施策としています。将来的には取得したデータを活用したサブスクリプションモデルの構築を目指します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


人材を最大の価値創造の源泉と位置づけ、「All for the GROWTH of the company and the crews」を人材戦略のテーマに掲げています。競争力のある報酬制度の確立や、自己研鑽補助制度、360度フィードバック等を導入し、従業員一人ひとりが能力を発揮できる組織づくりと働きがいのある環境整備を推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 40.2歳 2.8年 10,758,484円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社および連結子会社は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」等の規定による公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。

また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、単体における外国籍社員の比率(45%)、ビジョンへの共感度を示すエンゲージメントスコア(81%)、多様性を図るインクルージョンスコア(76%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 月面着陸ミッションの未達リスク


地球外天体への着陸は技術的難易度が高く、過去のミッションでも通信途絶等による未達を経験しています。予期せぬトラブルにより今後のミッションが未達となった場合、技術的信用力の低下や追加コストの発生につながる恐れがあります。

(2) 外部パートナーや打上業者への依存


推進系システムや着陸制御システムの開発、ロケットの打上げにおいて、外部企業に大きく依存しています。サプライヤーの遅延や打上業者のスケジュール変更が生じた場合、ミッション全体の進行や収益認識に悪影響を及ぼす可能性があります。

(3) 月面開発市場の不確実性と競合激化


ペイロードサービスやデータサービスは市場草創期であり、世界的な経済情勢や各国の宇宙政策によって需要が変動するリスクがあります。また、先行実績を持つ海外企業等の新規参入により競争が激化し、価格競争に巻き込まれる可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。