ispace 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

ispace 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証グロース市場に上場するispaceは、月面開発の事業化に取り組む民間宇宙企業です。月着陸船(ランダー)および月面探査車(ローバー)を用いたペイロードサービスなどを展開しています。2025年3月期は、売上高が前期比で倍増し増収となりましたが、積極的な先行投資により赤字幅は拡大しました。


※本記事は、株式会社ispace の有価証券報告書(第15期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. ispaceってどんな会社?


ispaceは、月面開発の事業化に取り組む次世代の民間宇宙企業です。月着陸船等の開発を行い、高頻度な月面輸送の実現を目指しています。

(1) 会社概要


2010年に合同会社ホワイトレーベルスペース・ジャパンとして設立され、民間月面探査チーム「HAKUTO」の運営を開始しました。2013年に現社名へ組織変更し、2016年より月着陸船(ランダー)の開発に着手しました。2022年12月にはミッション1の打ち上げを実施し、2023年4月に東京証券取引所グロース市場へ上場を果たしました。

同社の連結従業員数は317名、単体では176名です。筆頭株主は創業者で代表取締役CEOの袴田武史氏で、第2位はベンチャーキャピタルのインキュベイトファンドが組成した投資事業組合、第3位は政府系金融機関である日本政策投資銀行です。

氏名 持株比率
袴田 武史 8.52%
インキュベイトファンド3号投資事業有限責任組合 5.67%
日本政策投資銀行 3.31%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性2名の計10名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役CEOは袴田武史氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
袴田 武史 代表取締役CEO 2010年9月、合同会社ホワイトレーベルスペース・ジャパン(現同社)を設立し代表社員に就任。2013年5月より現職。米国および欧州子会社の取締役、ispace Japanの代表取締役も兼任。
野﨑 順平 取締役CFO メリルリンチ日本証券(現BofA証券)投資銀行部門を経て、2017年4月に入社。EVP等を歴任し、2018年12月より現職。欧州・米国・日本各子会社の取締役も務め、2024年11月より事業統括エグゼクティブを兼任。


社外取締役は、赤浦徹(インキュベイトファンド代表取締役)、川名浩一(元日揮代表取締役社長)、中田華寿子(元ライフネット生命常務)、畑田康二郎(元デジタルハーツプラス代表)、牧野隆(元IHIエアロスペース社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「月面開発事業」の単一セグメントで事業を展開しており、具体的には以下の3つのサービスを提供しています。

(1) ペイロードサービス


顧客の荷物(ペイロード)を同社グループのランダー(月着陸船)やローバー(月面探査車)に搭載し、月まで輸送するサービスです。ロケットの打ち上げから月面への輸送に加え、搭載に向けた技術的なアドバイスや調整、月面到着後の実験やデータ通信なども含まれます。

収益は、主に政府宇宙機関や民間企業などの顧客から、ペイロードの重量に応じた輸送対価として受け取ります。運営は、同社および連結子会社のispace EUROPE S.A.、ispace technologies U.S., inc.、ispace Japanの計4社で構成されるグループ全体で行っています。

(2) データサービス


顧客が同社のペイロードを利用して収集したデータや、同社自身が取得した月面のデータを顧客に提供するサービスです。将来的には、高頻度なミッションを通じて蓄積した情報を基に「大規模な月のデータベース」を構築し、顧客が必要な情報にアクセスできるプラットフォームの提供を目指しています。

収益は、ミッションを通じたデータ取得サービスへの対価や、将来的なデータベース利用料(サブスクリプションモデル等を想定)として顧客から受け取ることを計画しています。運営は同社グループが行い、カナダやスウェーデンの民間企業と既に契約を締結しています。

(3) パートナーシップサービス


同社グループの活動をコンテンツとして利用する権利、広告媒体上でのロゴマーク露出、データ利用権などをパッケージ化して販売するプログラムです。技術開発や事業開発での協業も行い、月面探査プログラム「HAKUTO-R」においても複数の民間企業とパートナーシップ関係を構築しています。

収益は、パートナー企業から協賛金として受け取ります。このサービスを通じた関係構築は、将来のペイロードサービスやデータサービスの潜在的な顧客ニーズを創出するための重要な布石と位置付けられています。販売窓口として電通と業務提携を行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


2021年3月期から2025年3月期までの業績推移を見ると、売上高は着実に増加傾向にあり、特に直近の2025年3月期は前期比で倍増しています。一方で、先行投資が必要な事業モデルであるため、経常損失および当期純損失は継続して計上されており、開発進展に伴い損失幅は拡大傾向にあります。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 5.1億円 6.7億円 9.9億円 23.6億円 47.4億円
経常利益 -26.1億円 -40.4億円 -113.8億円 -61.0億円 -113.3億円
利益率(%) -515.0% -599.2% -1150.2% -258.7% -239.0%
当期利益(親会社所有者帰属) -26.1億円 -40.6億円 -114.0億円 -23.7億円 -119.5億円

(2) 損益計算書


直近2期間の損益を見ると、売上高は約23.6億円から約47.4億円へと大幅に増加しました。これに伴い売上総利益も増加していますが、研究開発費などの販売費及び一般管理費が大きく増加したため、営業損失は拡大しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 24億円 47億円
売上総利益 9億円 22億円
売上総利益率(%) 39.4% 47.3%
営業利益 -55億円 -98億円
営業利益率(%) -233.4% -206.5%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が77億円(構成比64%)、その他が28億円(同23%)を占めています。売上原価については、内訳の記載はありませんが、ミッション2および3の開発並行による増加が見られます。

(3) セグメント収益


同社は「月面開発事業」の単一セグメントですが、売上高は前期比で倍増しました。これは主にペイロードサービスの顧客獲得が進んだことや、ミッション2の打ち上げ成功を契機とした収益認識基準の変更によるものです。一方、開発費用の増加によりセグメント損失(営業損失)は拡大しています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
月面開発事業 24億円 47億円 -55億円 -98億円 -206.5%
連結(合計) 24億円 47億円 -55億円 -98億円 -206.5%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

同社は月面開発事業を単一セグメントとして展開しています。

営業活動では、主に税金等調整前当期純損失等により資金を使用しました。投資活動では、有形固定資産の取得による支出が主な要因で資金を使用しました。財務活動では、株式の発行による収入等により資金を獲得しましたが、前期と比較すると獲得額は減少しました。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF -50億円 -120億円
投資CF -21億円 -27億円
財務CF 204億円 104億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「Expand our planet. Expand our future.」をビジョンに掲げ、地球と月がひとつのエコシステムとなる世界を築き、月に新たな経済圏を創出することを目指しています。人類の生活圏を宇宙に広げ、持続的な世界を実現するため、月面開発の事業化に取り組んでいます。

(2) 企業文化


同社グループは、バリューとして「ダイバーシティ(多様性)・インテグリティ(誠実さ)・リスペクト(敬意)」を掲げています。様々なバックグラウンドを持つグローバルな人材が集まり、それぞれの知識と技能を活かして技術革新を推進することを重視しており、多様性が事業の原動力となっています。

(3) 経営計画・目標


同社は「Moon Valley 2040」構想を掲げ、2040年以降に1,000人が月に暮らし、年間1万人が地球との間を往来する月面都市の実現を目指しています。具体的な数値目標としては、2040年代に宇宙市場規模がグローバルで1兆米ドル以上に成長するとの予測を背景に、事業の拡大を図っています。

(4) 成長戦略と重点施策


同社は、高頻度かつ低コストな月面輸送プラットフォームの構築を最優先事項としています。具体的には、2027年に予定されるミッション3以降で使用する大型ランダー「APEX 1.0」や、ミッション4以降の「シリーズⅢランダー(仮称)」の開発を推進し、ペイロード容量の拡大を目指します。また、民間企業ならではの迅速な開発プロセスと、リスクコントロール可能な範囲での失敗を許容する品質向上サイクルを回すことで、技術の確立とコスト競争力の強化を図っています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、国籍や性別を問わず世界中から優秀な人材を採用し、多様性を確保することを戦略の根幹としています。日本・米国・欧州の3拠点体制を活かし、各地域の宇宙機関との連携を深めつつ、グローバルな開発体制を構築しています。また、報酬制度や育成制度の充実を図り、従業員のエンゲージメント向上に努めています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 42.3歳 2.8年 9,784,776円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社および連結子会社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。

また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、日本以外の国籍を持つ人材比率(グループ全体で69%、単体で43%)、エンゲージメントスコア(「働くことを誇りに思う」への肯定的回答率85%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 市場形成の不確実性


同社が属する宇宙産業、特に月面開発市場は草創期にあり、市場規模の拡大には多くの不確実性が伴います。政府機関の予算縮小や経済情勢の変化により需要が想定通り喚起されない可能性があり、また、同社がターゲットとする小型ペイロード市場やデータサービス市場が計画通りに成長しない場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(2) ミッション未達のリスク


月面着陸は技術的難易度が高く、同社には未だ成功実績がありません。ミッション1および2では着陸には至っておらず、今後のミッションにおいてもロケット打ち上げ、航行、着陸などの各フェーズで予期せぬトラブルが発生する可能性があります。ミッションの失敗や遅延は、追加費用の発生、顧客からの信頼低下、将来の受注減少につながる恐れがあります。

(3) 継続的な資金調達


同社は先行投資型の事業モデルであり、継続的な営業損失と営業キャッシュ・フローのマイナスを計上しています。ランダー開発やミッション遂行には多額の資金が必要であり、今後もエクイティファイナンスや借入による資金調達が不可欠です。金融環境の変化等により必要な資金を適切な条件で調達できない場合、事業計画の遅延や縮小を余儀なくされる可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。