カバー 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

カバー 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

カバーはVTuberプロダクション「ホロライブプロダクション」の運営やキャラクター開発、ライブ・マーチャンダイジング等の多面的なIP展開を主力事業とする企業です。東京証券取引所グロース市場に上場しており、直近の業績ではコマース展開が拡大し増収を達成した一方で、先行投資や資産の適正化等により減益となっています。


※本記事は、カバー株式会社の有価証券報告書(第10期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. カバーってどんな会社?


VTuberプロダクションの運営と関連IPの多面的な事業展開を行う企業の特徴を紹介します。

(1) 会社概要


同社は2016年に設立され、2017年にVTuberアイドルの活動を開始しました。2018年には女性VTuberグループ「hololive」を、2019年に男性グループを立ち上げました。海外展開も進め、2023年に東京証券取引所グロース市場へ上場を果たし、2024年に米国での営業を開始しています。

現在の従業員数は単体で735名です。筆頭株主は創業者の谷郷元昭氏で、第2位は同氏の資産管理会社であるバレー、第3位は役員の福田一行氏となっており、経営陣とその関連会社が上位を占めています。

氏名 持株比率
谷郷 元昭 31.74%
バレー 5.03%
福田 一行 4.37%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長は谷郷元昭氏が務めています。社外取締役は6名(比率60.0%)です。

氏名 役職 主な経歴
谷郷 元昭 代表取締役社長 1997年イマジニア入社。2008年サンゼロミニッツ設立等を経て、2016年同社設立、代表取締役社長CEOに就任。2023年よりCOVER USA,Inc.代表取締役。
福田 一行 取締役 CTO 2005年ソニー入社。2008年アジャイルメディア・ネットワークCTO等を経て、2016年同社入社、取締役執行役員CTOに就任。
植田 修平 取締役 1996年イマジニア入社。日本オンラインゲーム協会共同代表理事等を経て、2023年同社社外取締役に就任し、2025年より常勤取締役。
金子 陽亮 取締役CFO 2013年SMBC日興証券入社。2021年同社入社後、経営企画室長、同CFO等を経て、2025年同社取締役に就任。


社外取締役は、須田仁之(スダックス取締役等)、和田洋一(元スクウェア・エニックス社長等)、鈴木修(TOMORROW COMPANY INC.創業CEO等)、宮島功(元シンドバッド・インターナショナルCFO等)、小倉親子(小倉親子公認会計士事務所代表等)、新井健一郎(法律事務所フラッグ共同開設等)です。

2. 事業内容


同社グループは、VTuber事業の単一セグメント内で多様なサービスを展開しています。

配信/コンテンツおよびライブ/イベントサービス


同社は、所属VTuberによる動画配信プラットフォームでのライブ配信や音楽提供、さらに国内外でのライブコンサートやファンミーティングなどのイベントを企画・提供しています。視聴者に対して双方向性と没入感のある新しいエンターテインメント体験を届けています。

収益は、動画配信におけるメンバーシップ加入や広告収益、楽曲販売、イベントのチケットや映像ソフト販売などで構成されています。これらのサービスの運営は同社が行っており、国内外のファンコミュニティ拡大を牽引しています。

マーチャンダイジングおよびライセンス/タイアップサービス


同社IPを活用したキャラクターグッズやデジダルコンテンツ、トレーディングカードゲームの企画販売を行うほか、他社へのIP使用権利の提供や、VTuberによるプロモーション出演等を提供しています。ファンとの接触点を広げつつ、多角的な事業展開を進めています。

主な収益源は、自社ECサイトや小売店を通じた商品販売収益と、ライセンス提供の対価となるロイヤリティ収益、企業からのプロモーション・出演料です。これらは同社が主体となって事業を運営しており、ビジネスの収益多角化の中核を担っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は一貫して右肩上がりで成長を続けており、VTuber文化の浸透と多面的なIP展開の成功が伺えます。一方で経常利益や当期純利益は成長を続けてきたものの、直近の事業年度では先行投資やシステム関連の減損処理などの一時的な費用計上もあり、減益に転じて利益率も低下しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 137億円 205億円 302億円 434億円 493億円
経常利益 19億円 34億円 56億円 80億円 71億円
利益率(%) 13.6% 16.6% 18.6% 18.3% 14.3%
当期利益 12億円 25億円 41億円 56億円 30億円

(2) 損益計算書


売上高の拡大に伴い売上総利益は順調に増加していますが、売上総利益率はやや低下傾向にあります。これはコマース事業などの拡大に伴う原価増や事業拡大に向けた積極的な投資などが影響しており、販売費及び一般管理費も増加した結果、営業利益および営業利益率は前事業年度を下回る結果となっています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 434億円 493億円
売上総利益 218億円 235億円
売上総利益率(%) 50.2% 47.7%
営業利益 80億円 71億円
営業利益率(%) 18.4% 14.3%


販売費及び一般管理費のうち、給料手当が29億円(構成比18%)、荷造運賃が18億円(同11%)を占めています。売上原価については、商品原価が94億円(構成比36%)、演者報酬が59億円(同23%)、イベント費が39億円(同15%)となっており、グッズ販売やタレント活動の原価が中心となっています。

(3) セグメント収益


マーチャンダイジング分野はトレーディングカードゲームの好調などで大きく売上を伸ばし、ライブ/イベント分野やライセンス/タイアップ分野も国内外での展開が進み好調に推移しました。一方で、配信/コンテンツ分野はタレント構成の変化等により微減となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
配信/コンテンツ 93億円 91億円
ライブ/イベント 78億円 92億円
マーチャンダイジング 205億円 237億円
ライセンス/タイアップ 57億円 72億円
合計 434億円 493億円


同社のキャッシュ・フローは、営業活動で生み出した十分な資金をもとに、将来に向けた事業拡大のための投資を手元資金で賄っている健全型の状態を示しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 53億円 72億円
投資CF -27億円 -27億円
財務CF 2億円 0億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は16.3%で市場平均を上回っており、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も57.2%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「つくろう。世界が愛するカルチャーを。」を企業ミッションとして掲げています。日本発のエンターテインメント・カルチャーを作り出し、世界中のユーザーに広めていくことにより、日本のユニークな強みであるアニメやゲームといった文化に関わるクリエイターが活躍できる場を増やしていくことを目指しています。

(2) 企業文化


同社は多様な社員が持つ情熱を組織全体として統一し、共通のビジョンや目標に向かって活動することでイノベーションが創出されるという価値観を重視しています。社員に対しては「世界に向かって挑戦していく人材」であることを求めており、バリューに沿った人事評価やアワード制度等を通じて、組織としての統一感と個々の成長を促す文化を醸成しています。

(3) 経営計画・目標


同社は、持続的な成長と企業価値の向上を目指し、中長期的な経営戦略を推進しています。その一環として、2030年3月期に向けて以下の具体的な数値目標を掲げており、これらを達成するための投資配分や事業ポートフォリオの適切な見直しを図っていく方針です。

* 売上高:1,000億円
* 営業利益:250億円

(4) 成長戦略と重点施策


目標達成に向けて、同社は「共創によるコンテンツ供給の強化」「グローバル収益基盤の確立」「新規事業領域の収益拡大」「人的資本の高度活用」という4つの成長ドライバーを軸に戦略を推進しています。特に、国内外でのマーチャンダイジングやゲーム領域への展開に加え、組織を支える人材の確保・育成といった基盤強化に注力しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、組織として世界に向かって挑戦し成長し続けるため、「組織としての統一感の醸成」と「スキル・適性能力の成長」に注力しています。さらに、社員の社外活動の推奨や海外人材を意識した環境整備、多様な働き方を支援する適切なワークライフバランスの提供を通じて、社員の高いエンゲージメントを醸成し、長期的な定着を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 34.8歳 2.8年 6,700,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 21.1%
男性育児休業取得率 75.0%
男女賃金差異(全労働者) 89.8%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 87.2%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 113.8%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、入社1年後定着率(91.3%)、従業員エンゲージメントスコア(64点)、外国籍社員の比率(14.3%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 外部の動画配信プラットフォームへの依存


同社はYouTube等のプラットフォームを通じてコンテンツを提供しています。これらのプラットフォームの動向や戦略の変更によって配信の継続が困難になった場合や経済条件が大幅に変更された場合、事業や業績に影響を及ぼす可能性があります。同社は収益源や配信プラットフォームの多様化でリスク軽減を図っています。

(2) 所属VTuberの活動に係るリスク


同社の業績は、所属VTuberの人気やコンテンツ供給頻度に一定程度依存しています。不適切な配信、スキャンダルや誹謗中傷、健康上の理由等により、コンテンツ・クリエイターの活動頻度が低下したり継続が困難になったりした場合、ブランド価値が低下し、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

(3) 情報セキュリティとコンプライアンス


事業活動を通じて顧客や取引先の個人情報、機密情報を扱っているため、情報の漏洩や誤用が発生した場合、社会的信用を喪失するリスクがあります。また、各種法令やガイドラインに適合しない事業運営が行われた場合、行政指導等により事業活動が制限される可能性もあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。