※本記事は、クオリプス株式会社の有価証券報告書(第10期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. クオリプスってどんな会社?
ヒトiPS細胞由来の再生医療等製品の開発および製造受託を行う創薬バイオベンチャーです。
■(1) 会社概要
同社は2017年に国立大学法人大阪大学の発明を事業化する目的で設立されました。2020年に商業用細胞培養加工施設を稼働させ、2023年に東京証券取引所グロース市場へ上場しました。2026年には、主力パイプラインである心筋細胞シート「リハート」について、条件及び期限付き製造販売承認を取得しています。
同社グループは連結で51名、単体で51名の従業員を擁しています。筆頭株主は事業会社の第一三共で、第2位も事業会社のテルモ、第3位は同社創業メンバーで取締役の澤芳樹氏です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 第一三共 | 12.11% |
| テルモ | 6.42% |
| 澤芳樹 | 1.49% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性0名の計9名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長 最高経営責任者は草薙尊之氏が務めています。社外取締役比率は33.3%(6名中2名)です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 草薙尊之 | 代表取締役社長最高経営責任者 | みずほ銀行等を経て、みずほ証券営業部長等を歴任。2020年より現職。 |
| 谷村忠幸 | 取締役副社長 | 厚生労働省、世界保健機関(WHO)、ロシュ・ダイアグノスティックスを経て2024年より現職。 |
| 澤芳樹 | 取締役最高技術責任者 | 大阪大学大学院医学系研究科で主任教授・研究科長等を歴任。日本再生医療学会理事長等を経て2021年より現職。 |
| 平尾和義 | 取締役最高ビジネス責任者 | 富士フイルム等で再生医療事業に従事し、ジャパン・ティッシュエンジニアリング等を経て2025年より現職。 |
社外取締役は、鮫島正(元テルモ執行役員)、吉田憲一郎(元いちごアセットマネジメント副社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「再生医療等製品事業」を展開しています。
■再生医療等製品の研究開発及び販売
ヒトiPS細胞由来の再生医療等製品の研究開発を行っています。主力製品の心筋細胞シート「リハート」は、重症心不全の患者を対象とした治療法であり、iPS細胞を大量の心筋細胞に分化誘導し、未分化の細胞を除去して高純度に精製する独自の技術を活用しています。
収益源は、大学や大手製薬企業等との共同研究開発等を通じて得られる成果や、製造販売承認取得後の製品販売による売上です。事業の運営は同社および米国の子会社等が担っています。
■CDMO事業
同社が保有する細胞培養技術や製造・精製技術の知見を活かし、他の企業や研究機関等の顧客に対する細胞製品の製造プロセス開発の支援や、受託製造による各種細胞の提供を行っています。
大企業が対象としない少量製造にも対応可能であり、バイオベンチャー等からの受託製造を通じて収益を獲得しています。事業の運営は同社が担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は着実に成長しているものの、研究開発先行型のビジネスモデルのため経常損失を計上しています。当期は研究開発の進展に伴い赤字幅が拡大しました。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1.8億円 | 2.1億円 |
| 経常利益 | -6.4億円 | -10.3億円 |
| 利益率(%) | -366.4% | -484.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -6.4億円 | -10.2億円 |
■(2) 損益計算書
売上総利益は黒字を確保していますが、販売費及び一般管理費が大幅に増加したことにより営業損失が拡大しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1.8億円 | 2.1億円 |
| 売上総利益 | 1.7億円 | 1.3億円 |
| 売上総利益率(%) | 96.0% | 61.4% |
| 営業利益 | -5.9億円 | -10.8億円 |
| 営業利益率(%) | -336.9% | -509.2% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が6.3億円(構成比52%)、役員報酬が1.8億円(同14%)を占めています。
■(3) セグメント収益
同社は再生医療等製品事業の単一セグメントですが、主にCDMO・コンサルティングサービスから収益を獲得しており、前期から増収となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 再生医療等製品事業 | 1.8億円 | 2.1億円 |
| 連結(合計) | 1.8億円 | 2.1億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は勝負型です。本業は赤字ですが、将来成長のために資金調達を行い、投資を継続している局面です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -8.1億円 | -10.6億円 |
| 投資CF | -1.2億円 | -0.3億円 |
| 財務CF | 1.5億円 | 2.0億円 |
財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は91.6%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「こころ 動かそう いのち つなごう」を標語としています。ひとびとが命ある限り、健康で幸せな生活を送るために、技術とこころ、科学と人間をつなぎ、世界中のひとびとの健康と人生に貢献する新たな医療を作り出すことを経営理念として掲げています。
■(2) 企業文化
同社は従来の研究開発を中心としたバイオベンチャーとは異なり、商業用細胞培養加工施設と技術を活用し、アカデミア、製薬企業、医療機器メーカー等をつなぎ合わせています。探索研究から商用生産までワンストップで提供し、次世代の治療モダリティや関連するソリューションを創造し迅速に提供することを目指す文化を持っています。
■(3) 経営計画・目標
同社グループは研究開発費が先行するタイプの企業であるため、ROEやROA等の財務指標は当面の経営指標として馴染まないと考えています。そのため、各パイプラインにおける研究開発の進捗状況を、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標として設定しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
心筋細胞シートによる収益拡大や生産体制強化による原価低減、次なる成長ドライバーとなるカテーテル治療や体内再生因子誘導剤の製品開発加速化を目指しています。また、将来的な細胞治療の需要拡大を捉え、大量培養技術の確立による収益力の向上を推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、企業価値向上に向けた次世代の治療技術開発において、従業員に様々なキャリアプランを提供できる点を強みとしています。競争力の源泉は研究者や製造担当者にあると考え、人材の育成及び社内環境整備を優先課題とし、人的資本に対する投資を積極的に行う方針を掲げています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 43.1歳 | 3.4年 | 6,218,586円 |
※平均年間給与は基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社および連結子会社は規定による公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇取得日数(平均10.1日)、男性の育児休業取得率(100%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 再生医療関連の法的規制
同社は再生医療等製品の開発・製造等において多数の国内外の法的規制を受けています。関連法令等の改廃や新規規制が制定された場合、事業の継続が困難になる、あるいは多額の追加コストが発生するなど、同社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 薬価制度と医療費抑制政策
日本においては医療費抑制のため定期的な薬価の引き下げ等が進んでいます。同社の主力製品である「リハート」等が日本国内で保険適用を受け製造販売される際、将来的に薬価が大きく引き下げられる場合には、収益性の低下により同社の業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 研究開発の不確実性
同社の事業は製品の研究開発に不確実性を伴います。開発活動が想定通り進まない、あるいは承認の取得に想定以上の時間を要することで上市時期に遅れが生じた場合や、想定通りの承認を取得できない場合には、売上高を獲得できず同社の業績に影響を及ぼす可能性があります。



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