※本記事は、クオリプス株式会社 の有価証券報告書(第9期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月20日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. クオリプスってどんな会社?
iPS細胞由来の心筋細胞シートなど、再生医療製品の開発と商業化に取り組む大阪大学発のバイオ企業です。
■(1) 会社概要
同社は2017年に大阪大学発のベンチャーとして設立され、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの事業化を開始しました。同年、第一三共と共同研究開発契約を締結し、2020年には商業用細胞培養加工施設「CLiC-1」が稼働しました。2023年に東京証券取引所グロース市場へ上場を果たし、現在は米国子会社設立など海外展開も進めています。
連結従業員数は56名、単体従業員数は55名です。筆頭株主は事業パートナーである大手製薬会社の第一三共で、第2位は医療機器メーカーのテルモです。第3位は同社取締役かつ最高技術責任者であり、大阪大学名誉教授の澤芳樹氏が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 第一三共 | 12.36% |
| テルモ | 6.55% |
| 澤 芳樹 | 2.54% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性0名の計9名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長 最高経営責任者は草薙尊之氏です。社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 草薙 尊之 | 代表取締役社長 最高経営責任者 | 旧日本興業銀行入行、みずほ証券などを経てエントラスト経営企画部長等を歴任。2020年8月より現職。 |
| 谷村 忠幸 | 取締役副社長 | 厚生労働省、世界保健機関(WHO)本部勤務を経て、ロシュ・ダイアグノスティックス等で要職を歴任。2024年6月より現職。 |
| 澤 芳樹 | 取締役最高技術責任者 | 大阪大学医学部教授、同大学院医学系研究科長・医学部長等を歴任。日本再生医療学会理事長も務める。2021年8月より現職。 |
| 平尾 和義 | 取締役最高ビジネス責任者 | 富士写真フイルム入社。再生医療関連のグループ会社CEO等を歴任し、ジャパン・ティッシュエンジニアリング取締役等を経て、2025年6月より現職。 |
社外取締役は、鮫島正(元テルモ執行役員)、吉田憲一郎(元ゴールドマン・サックス証券マネージングディレクター)です。
2. 事業内容
同社グループは、「再生医療等製品事業」の単一セグメントで事業を展開しています。
■(1) 再生医療等製品事業(心筋細胞シート等)
大阪大学の技術を基盤としたヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの開発を行っています。重症心不全の患者を対象とし、心機能の改善や回復を目指す再生医療等製品です。現在、虚血性心疾患を対象とした製品の製造販売承認申請を行っており、並行して拡張型心疾患への適応拡大や、カテーテル治療、体内再生因子誘導剤などの研究開発も進めています。
この分野における収益は、将来的な製品販売による売上のほか、開発段階においては共同研究パートナーからのマイルストーン収入等が想定されます。現在は研究開発が先行しており、クオリプスが中心となって、第一三共や朝日インテックなどのパートナー企業、アカデミアと連携して事業を推進しています。
■(2) 再生医療等製品事業(CDMO事業)
自社で保有する商業用細胞培養加工施設「CLiC-1」と、iPS細胞の培養・製造ノウハウを活用し、製薬企業やバイオベンチャー向けに細胞製造やプロセス開発の受託サービスを提供しています。特定の顧客向けに、治験用製品の製造や製造プロセスの開発支援を行っています。
収益源は、顧客である製薬企業やベンチャー企業から受け取る受託製造・開発サービスの対価です。運営は主にクオリプスが行っており、独自の施設設計技術と運用ノウハウを活かして、安定的な収益獲得と財務基盤の強化を図っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は増加傾向にありますが、研究開発活動への積極的な投資が継続しているため、利益面では損失計上が続いています。第9期はCDMO事業の売上が寄与し、売上高が大きく伸長しました。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 0.2億円 | 1.8億円 |
| 経常利益 | -6.3億円 | -6.4億円 |
| 利益率(%) | -2718.1% | -366.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -6.3億円 | -6.4億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期比で大きく増加し、売上総利益も拡大しました。一方で、販売費及び一般管理費は増加しており、依然として営業損失の状態が続いています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 0.2億円 | 1.8億円 |
| 売上総利益 | 0.1億円 | 1.7億円 |
| 売上総利益率(%) | 41.7% | 96.0% |
| 営業利益 | -5.9億円 | -5.9億円 |
| 営業利益率(%) | -2547.3% | -336.9% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が3.3億円(構成比44.1%)、役員報酬が1.1億円(同14.7%)を占めています。なお、研究開発費は共同研究パートナーからの受入額を控除した金額です。
■(3) セグメント収益
同社は再生医療等製品事業の単一セグメントですが、CDMO事業の受注拡大により売上が大幅に伸長しました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) |
|---|---|---|
| 再生医療等製品事業 | 0.2億円 | 1.8億円 |
| 連結(合計) | 0.2億円 | 1.8億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業の研究開発費負担により営業CFはマイナスですが、手元資金は潤沢であり、新株予約権の行使等による財務活動で資金を確保しつつ、必要な設備投資を行っています。これは将来の成長に向けた先行投資を行う「勝負型」のキャッシュ・フロー状態と言えます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -4.5億円 | -8.1億円 |
| 投資CF | -0.3億円 | -1.2億円 |
| 財務CF | 31.3億円 | 1.5億円 |
企業の財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は96.1%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「こころ 動かそう いのち つなごう」を標語とし、技術とこころ、科学と人間をつなぎ、世界中の人々の健康と人生に貢献する新たな医療を創り出すことを経営理念としています。ヒトiPS細胞由来の細胞加工物の製造技術を確立し、安全で信頼性の高い再生医療等製品の実用化を目指しています。
■(2) 企業文化
大学発ベンチャーとして、アカデミア(大学等の研究機関)との連携を重視する文化があります。大阪大学に共同研究講座を設置し、最先端の研究成果を柔軟かつ迅速に取り入れる体制を構築しています。また、世界に誇る日本の技術を基盤とし、難治性疾患に対する新たな治療手段を提供することで社会に貢献しようとする姿勢が根付いています。
■(3) 経営計画・目標
同社は研究開発先行型の企業であり、短期的なROE等の財務指標よりも、各パイプラインにおける研究開発の進捗状況を重視しています。最大の目標は、虚血性心疾患を対象としたヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの製造販売承認の取得です。また、CDMO事業による収益獲得と共同研究費の受領を通じて、財務体質の強化を図ることも目指しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
国内におけるヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの製造販売承認取得と販売体制の整備を最優先課題としています。また、米国子会社を通じた海外展開や、拡張型心疾患への適応拡大、カテーテル治療などの新規パイプライン開発も推進します。さらに、独自の細胞培養施設を活用したCDMO事業を拡大し、収益基盤の安定化を図る戦略です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、研究開発および製造の現場を支える人材こそが競争力の源泉であると考えています。小規模な組織であるため、優秀な人材の確保と育成を重要課題とし、社内環境の整備や教育への投資を積極的に行う方針です。また、男性の育児休業取得促進や在宅勤務制度など、ワークライフバランスに配慮した働きやすい環境づくりにも注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 42.1歳 | 2.9年 | 6,103,923円 |
※平均年間給与は基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社および連結子会社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 再生医療等製品の法規制対応
再生医療等製品の開発・製造・販売は、医薬品医療機器等法や再生医療等安全性確保法など、国内外の厳格な法的規制を受けます。法規制への抵触による許可の取り消しや、法令の改廃・新規制定による事業継続困難や追加コストの発生は、同社の経営成績および財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 薬価制度と医療費抑制の影響
同社が開発する製品が承認された場合、国内の薬価制度の影響を受けます。医療費抑制政策による薬価の引き下げや後発医薬品の使用促進などが進む中、将来的に薬価が想定を下回る、あるいは大きく引き下げられた場合には、収益性が低下し、同社の経営成績に悪影響を与える可能性があります。
■(3) 製品の安全性と副作用
再生医療等製品の研究開発においては、安全性と有効性の確認が不可欠です。治験や承認後において、予期せぬ副作用や健康被害が発生する可能性は否定できません。万が一、製品に起因する健康被害が発生した場合、販売停止や損害賠償、社会的信用の失墜により、同社の事業存続に重大な影響を及ぼすリスクがあります。
■(4) 研究開発の不確実性と遅延
同社は現在、製品の売上高がなく、研究開発段階にあります。開発が計画通りに進まない、承認取得に時間がかかる、あるいは承認が得られない場合には、製品上市の遅れや開発中止に至る可能性があります。これにより将来の収益獲得が困難となり、同社の経営成績および財政状態に深刻な影響を与える可能性があります。



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