※本記事は、株式会社北里コーポレーションの有価証券報告書(第19期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 北里コーポレーションってどんな会社?
不妊治療等の高度生殖医療に特化した医療機器・試薬の開発からグローバル展開までを手掛ける企業です。
■(1) 会社概要
同社は2005年に不妊治療関連製品を扱う企業として創業し、2007年に前身となる会社を設立しました。2013年に持株会社体制へ移行後、2017年にグループ会社を吸収合併して現在の北里コーポレーションへ商号を変更しています。2025年6月には東京証券取引所プライム市場への上場を果たしました。
同社グループは連結で83名、単体で75名の従業員を擁しています。筆頭株主は創業社長の資産管理会社である北里商事で、第2位および第3位は信託業務を行う金融機関が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 北里商事 | 55.75% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 6.87% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.11% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性4名の計12名で構成され、女性役員比率は33.3%です。代表取締役社長は井上太綬氏が務め、社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 井上 太綬 | 代表取締役社長 | 1996年北里サプライに入社。2005年に北里バイオファルマ代表取締役を経て、2007年より同社代表取締役社長に就任。複数の子会社代表取締役も兼任。 |
| 和泉 杏子 | 常務取締役品質保証部長 | 1998年ビッグショットトレーディング等を経て2021年に同社入社し、品質保証部長に就任。2022年に取締役、2023年より常務取締役品質保証担当兼品質保証部長。 |
| 小川 真希 | 取締役マーケティング部長兼営業部長 | 2008年トリート等を経て2010年に同社へ入社。2021年にマーケティング部長となり、2022年に取締役に就任。2024年より取締役マーケティング部長兼営業部長。 |
| 柴田 和美 | 取締役製造部長 | 1998年興和等を経て2013年に同社へ入社。2021年に製造部長となり、2022年に取締役に就任。2023年より取締役製造担当兼製造部長。 |
| 鈴木 祐尚 | 取締役経営企画部長 | 1997年エッチ・ケー・エスや駿河生産プラットフォーム等の管理部門を経て2024年に同社入社。同年2月に取締役に就任し、現在は取締役管理部門担当兼経営企画部長。 |
社外取締役は、新谷誠氏(元ニコン執行役員ヘルスケア事業部長)、イグナシオ・バメホ氏(Biomedical Supply, S.L. CEO)、山口重則氏(元静岡県健康福祉部長)、佐藤明夫氏(佐藤総合法律事務所代表・弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「医療機器事業」の単一セグメントで事業を展開しています。
高度生殖医療(体外受精・顕微授精)や細胞凍結保存において使用される試薬、凍結保存製品、各種カテーテルなどの医療機器を国内外の病院やクリニックへ提供しています。採卵から移植、凍結保存に至る全工程をカバーする包括的な製品ラインナップと、カスタム製品の製造も可能な高い技術力が強みです。
医療機関や販売代理店への自社製品および消耗品の販売代金を収益源としています。事業は主に北里コーポレーションが製品の製造・販売を担い、子会社の北里バイオサイエンスが医療機器部品の製造を、北里ヘルスケアなどが関連領域における販売を担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績推移を見ると、国内外での生殖医療に対する需要の高まりを背景に、売上高は一貫して右肩上がりで成長を続けています。利益面でも高い収益性を維持しており、安定した黒字基盤のもとで事業規模を順調に拡大させていることがうかがえます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 81億円 | 93億円 | 101億円 | 103億円 | 109億円 |
| 経常利益 | 45億円 | 51億円 | 60億円 | 58億円 | 59億円 |
| 利益率(%) | 55.0% | 54.7% | 59.5% | 56.0% | 53.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 30億円 | 32億円 | 39億円 | 38億円 | 39億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の成長に伴い、売上総利益および営業利益ともに堅調な増加を示しています。製品ミックスの変化や各種先行投資等により利益率は若干低下しているものの、依然として50%以上の極めて高い営業利益率を維持しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 103億円 | 109億円 |
| 売上総利益 | 70億円 | 72億円 |
| 売上総利益率(%) | 67.7% | 65.9% |
| 営業利益 | 58億円 | 59億円 |
| 営業利益率(%) | 56.1% | 53.5% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給料及び手当が2.4億円(構成比18%)、役員報酬が2.4億円(同18%)、支払報酬が1.4億円(同10%)を占めています。
■(3) セグメント収益
同社は医療機器事業の単一セグメントですが、製品区分別の売上を見ると、凍結保存関連の試薬であるMediaや採卵等に用いる医療機器が売上を牽引しています。一部製品で一時的な需要変動はあったものの、全体として各製品群が堅調に推移しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| Media | 36億円 | 40億円 |
| Cryodevice | 32億円 | 31億円 |
| 医療機器 | 23億円 | 25億円 |
| Micro Tools | 10億円 | 11億円 |
| その他 | 2億円 | 2億円 |
| 連結(合計) | 103億円 | 109億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は20.1%で市場平均を上回っており、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も93.2%で市場平均を上回っています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 35億円 | 39億円 |
| 投資CF | -9億円 | -2億円 |
| 財務CF | -17億円 | -17億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「Happiness, for the Next Generations — 笑顔を新しい世代に」を企業理念に掲げています。不妊治療という医療を通じて多くの喜びが次の世代に継続することを願い、患者が一人でも多く笑顔に変わる日を目指して、より良い製品を提供し続けることを使命としています。
■(2) 企業文化
同社は経営指針として5つの項目を定め、顧客と共に挑戦し期待に応える姿勢や、誠実で迅速な対応を重んじています。「母親には安心を、未来の子供たちには安全を贈る」という考えのもと技術と品質向上に努め、感謝の気持ちを忘れずに社会へ貢献し、日本企業としての誇りを持ってグローバルに活動する文化が根付いています。
■(3) 経営計画・目標
同社は持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図るため、資本コストを意識しながら資本の効率的な活用と収益力の向上に取り組んでいます。これらの達成状況を客観的に判断するための重要な経営指標として、以下の項目を掲げています。
* 売上高および売上高成長率
* 海外売上高比率
* 営業利益率
* 自己資本比率
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は生殖医療分野を中核事業と位置づけ、採卵から移植までの各工程を支える製品群の研究開発や品質向上を進め、海外市場を中心としたグローバルでの事業基盤強化に注力しています。また、検査事業やヘルスケア事業といった既存の周辺領域を拡充させるとともに、AIや医薬品などの新たな技術領域を探索し、中長期的な成長機会の創出を目指しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は生殖医療分野における専門性と技術力を競争力の源泉と捉え、高度な専門人財の確保と育成を重視しています。多様な人財が能力を最大限に発揮できるよう働きやすい職場環境の整備を進めるとともに、未来の業界を牽引する人材を育成するための海外留学奨学金制度や、グローバルな事業展開を見据えた外国籍従業員の採用を積極的に推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.3歳 | 4.8年 | 4,760,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 58.8% |
| 男性育児休業取得率 | - |
| 男女賃金差異(全労働者) | - |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | - |
| 男女賃金差異(非正規雇用労働者) | - |
※同社は公表義務の対象ではないため、有報には男女の賃金差異に関する記載がありません。また、当期の男性育児休業取得対象者が不在等の理由により、男性育児休業取得率は「-」となっています。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
(1) 医療機器の品質問題に伴う各種損害の発生
同社製品の安全性や品質に起因するクレームが発生した場合、補修や損害賠償の負担だけでなく、顧客の喪失や患者への被害につながるおそれがあります。手順書の遵守や教育訓練体制の整備等を行っていますが、予期せぬ事象により対策が機能しなかった場合、社会的信頼を毀損し業績に影響を及ぼす可能性があります。
(2) 特定の販売先への依存と代理店取引の停止
同社は上位の主要な販売先に対して高い売上依存度を持っています。代理店等との関係は良好に推移していますが、将来何らかの理由で関係が悪化したり、競合他社による代理店の買収などによって取引が停止したりした場合、事業基盤が弱まり同社の財政状態に影響を与える可能性があります。
(3) 各国の法的規制や医療政策の変更に関する影響
同社は国内外において医療機器に関する法規制を受けており、製品販売には各国の認証取得が必要です。法規制の変更や厳格化への対応に時間を要した場合や、予期せぬ行政処分、少子高齢化に伴う医療保険制度の改革などが実施された場合には、同社の事業継続や業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。



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