アイリッジ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

アイリッジ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

アイリッジは東京証券取引所グロース市場に上場しており、スマートフォンアプリの企画・開発からマーケティング支援までを一貫して手掛ける企業です。直近の業績では、主力のアプリビジネス事業が牽引し増収を達成した一方で、採用強化や次世代基盤開発への先行投資などにより営業利益は減益となっています。


※本記事は、株式会社アイリッジの有価証券報告書(第18期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. アイリッジってどんな会社?


同社は、企業向けスマートフォンアプリの開発とマーケティング支援を主軸にビジネスを展開するIT企業です。

(1) 会社概要


同社は2008年にモバイル関連ビジネスを目的として設立され、翌年に情報配信サービスを開始しました。2015年に東京証券取引所マザーズ市場(現在はグロース市場)へ上場を果たしています。その後、マーケティングデザインやアプリビジネス関連の企業を子会社化し、事業領域と提供価値の拡大を続けています。

現在の従業員数は連結で273名、単体で219名です。筆頭株主は創業者の小田健太郎氏で、第2位は資本業務提携先であるディップ、第3位は個人投資家です。近年はパートナー企業との資本業務提携を通じて事業領域および顧客基盤の拡張を進めており、顧客企業の事業成長を総合的に支援する体制を構築しています。

氏名 持株比率
小田 健太郎 29.79%
ディップ 4.58%
五味 大輔 3.38%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性0名の計8名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長は小田健太郎氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
小田 健太郎 代表取締役社長兼アプリビジネス事業本部本部長 1999年エヌ・ティ・ティ・データに入社し、ボストンコンサルティンググループを経て2008年に同社を設立、代表取締役社長に就任しました。フィノバレーやQoilなどのグループ企業の役員も歴任し、現職。
渡辺 智也 取締役CHRO 2003年に楽天に入社し、2013年に同社へ入社しました。O2O事業部長やテクノロジーパートナー本部長、営業本部長などの要職を歴任し、2025年7月より現職。
森田 亮平 取締役CFO兼経営管理本部本部長 2009年に野村證券に入社し、DBJ投資アドバイザリーなどを経て2020年に同社へ入社しました。経営企画部長兼管理部副部長を務めたのち、同年に取締役CFO兼経営管理本部本部長に就任し、現職。
山下 紘史 取締役兼ビジネスプロデュース事業本部本部長兼アプリビジネス事業本部副本部長 2003年にダイエーに入社し、複数の企業を経て2022年に同社へ入社しました。ビジネスプロデュース事業本部本部長やグループ企業であるQoilの代表取締役社長などを務め、2026年4月より現職。


社外取締役は、藤原彰二(ディップ常務執行役員)、田村一幸(公認会計士事務所代表)、有賀貞一(AITコンサルティング代表取締役)、隈元慶幸(堀総合法律事務所)です。

2. 事業内容


同社グループは、「アプリビジネス事業」および「ビジネスプロデュース事業」などを展開しています。

アプリビジネス事業


スマートフォンアプリの企画・開発から運用支援に至るまでを一気通貫で提供しており、小売・金融・モビリティ業界を中心としたエンタープライズ企業が主な顧客です。アプリビジネスプラットフォーム「APPBOX」やアプリマーケティングツール「FANSHIP」などの自社ソリューションも展開しています。

収益は主に受託開発に伴うシステム開発収入や、ソリューションの毎月の利用ユーザー数に応じた従量課金ライセンス料、運用保守サービス料などから得ています。事業の運営は主に同社および子会社のプラグインが行っており、顧客のアプリビジネスの成長を支援する実装型パートナーとして事業を推進しています。

ビジネスプロデュース事業


メーカーなどのナショナルクライアントに対して、事業戦略やDX戦略の立案からサービス開発、グロースハックまでを総合的に支援しています。実店舗での店頭販促からウェブプロモーションの企画・実行に至るまで、顧客企業の新規事業開発やマーケティングに関する課題解決をワンストップで提供しています。

収益は主に、Webサイトなどの受託開発収入や、顧客と合意した期間にわたって提供される企画・運営・管理の受託収入から得ています。事業の運営は主に子会社のQoilが中心となって行っており、同社との連携を強化することでグループ全体での案件創出を図り、戦略から実行までの一気通貫の支援を実現しています。

フィンテック事業


主に地方自治体や金融機関に対して、地域で発行・利用可能な通貨や商品券を電子化して流通させるデジタル地域通貨プラットフォーム「MoneyEasy」の提供や関連するシステムの開発、運用保守サービスを展開していました。店舗側での初期投資や手間がかからず導入できる二次元コード読取方式を採用していました。

収益は主に、知的財産の使用権を提供するライセンス料や運用保守サービス料などから得ていました。事業の運営は子会社のフィノバレーが行っていましたが、2025年7月に同社の全株式をTISへ譲渡して連結の範囲から除外したことに伴い、同社グループはデジタル地域通貨を中心とした当事業から撤退しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


過去5年間の業績推移を見ると、売上高は順調に拡大傾向にあり、直近の2026年3月期には71億円に達しています。経常利益は2024年3月期に一時的な赤字を計上しましたが、その後は黒字に転換しています。直近の当期利益は、子会社株式の売却に伴う特別利益の計上などにより大幅な増益を記録しました。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 54億円 54億円 57億円 67億円 71億円
経常利益 3億円 4億円 -0.9億円 2億円 1億円
利益率(%) 6.3% 7.2% -1.5% 3.1% 1.9%
当期利益(親会社所有者帰属) 2億円 1億円 -15億円 -1億円 9億円

(2) 損益計算書


売上高は前期比で増加し71億円となりましたが、売上総利益率は微減となりました。また、将来の事業拡大を見据えた採用投資やソフトウェアの償却費などが増加した影響により、営業利益は前期の2億円から1億円へと減益となり、営業利益率も低下しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 67億円 71億円
売上総利益 21億円 22億円
売上総利益率(%) 32.0% 31.2%
営業利益 2億円 1億円
営業利益率(%) 3.3% 1.6%


販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が8億円(構成比36%)と最も大きく、次いで賞与引当金繰入額が1億円(同5%)を占めています。

(3) セグメント収益


主力のアプリビジネス事業は、既存顧客からの受注が堅調に推移したことに加え、共同事業等を通じた取引の拡大により増収を達成しました。一方、フィンテック事業は株式譲渡による連結除外の影響などにより大幅な減収となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
アプリビジネス事業 44億円 53億円
ビジネスプロデュース事業 17億円 17億円
フィンテック事業 6億円 0.9億円
調整額 -0.1億円 -0.2億円
連結(合計) 67億円 71億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


当期の営業CFはプラス、投資CFはマイナス、財務CFはマイナスとなっており、本業で稼いだ利益で借入金の返済を進めつつ、手元資金の範囲内で将来に向けた投資を行っている健全型のキャッシュ・フロー状況です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 0.5億円 9億円
投資CF -6億円 -4億円
財務CF 4億円 -3億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は23.2%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は53.2%であり、いずれも市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「Tech Tomorrow ~テクノロジーを活用して、わたしたちがつくった新しいサービスで、昨日よりも便利な生活を創る~」というミッションを掲げています。この使命のもと、開発力とビジネス創出力という強みを活かしたサービスを提供し、社会課題の解決と企業価値の継続的な向上を目指しています。

(2) 企業文化


同社グループは、従業員一人ひとりが担う役割の重要度や難易度、専門性に応じて処遇を決定する公正な評価を重視しています。専門性や成果に基づく評価を通じて、従業員の自律的な成長と挑戦を促すとともに、年齢や性別に関係なく能力を持った人材があるべき役職に任用される多様性のある組織環境の構築に取り組んでいます。

(3) 経営計画・目標


同社グループは、2027年3月期を最終年度とする3カ年の中期経営計画において、「開発力とビジネス創出力という強みを活かした顧客企業のTech & Innovation Partnerへ成長」というテーマを掲げ、オーガニック成長のみでの数値目標を定めています。
・売上高:82億円
・調整後営業利益:5億円以上

(4) 成長戦略と重点施策


顧客企業がエンドユーザーと接するデジタルサービスを起点とし、戦略立案から生成AIを活用したサービスの実装・運用までを一気通貫で支援する「実装型パートナー」への進化を目指しています。アプリビジネス事業の継続成長やビジネスプロデュース事業領域への進出、新規事業の創出・成長加速などの成長戦略に取り組んでいます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


知識集約型の事業を支える高度な専門人材の確保・育成・定着を人材戦略の基盤としています。各領域における専門人材の採用投資を継続し、生成AIを活用したAI駆動型の開発体制を構築する方針です。また、役割や成果を連動させた人事制度の運用や、多様な人材が能力を発揮できる職場環境の整備を通じて従業員の成長を促進します。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 41.3歳 4.0年 7,475,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 -
男性育児休業取得率 50.0%
男女賃金差異(全労働者) -
男女賃金差異(正規雇用労働者) -
男女賃金差異(非正規雇用労働者) -


※同社および連結子会社は公表義務の対象ではないため、女性管理職比率および男女賃金差異について有報には本項の記載がありません。

また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性管理職比率(25.0%)、男性労働者の育児休業取得率目標(100%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) インターネット関連市場の技術革新


同社グループが事業を展開するインターネット関連市場は、新技術の開発や新サービスの導入が相次ぎ、変化の激しい業界です。生成AIなどの新技術への対応が遅れた場合や、対応に伴う多大な支出が必要となった場合には、競争力の低下や業績に影響を与える可能性があります。

(2) アプリビジネス等の市場動向の変化


アプリビジネスおよびビジネスプロデュース関連市場は拡大が見込まれますが、他社との競争激化や新たなビジネスモデルの登場による市場構造の変化が生じるリスクがあります。また、顧客企業の予算削減などが生じた場合、事業計画の進捗に影響を及ぼす可能性があります。

(3) 開発案件におけるプロジェクト管理


受託開発案件において、当初適正な採算が見込まれた場合でも、プロジェクト管理の問題や顧客の要望による仕様変更などに伴い想定以上のコストが発生するリスクがあります。これに伴う引当金の計上や見積総原価の見直しが必要となった場合、業績に影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。