イシン 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

イシン 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

イシンは東京証券取引所グロース市場に上場し、官公庁と民間企業の共創支援、企業のイノベーション支援、成長企業向けメディアPR、HR事業を展開しています。直近の業績は、HR事業での人材紹介や採用代行などの高成長領域への積極的な先行投資等が寄与して売上高は増収となった一方、利益面は大幅な減益となっています。


※本記事は、イシン株式会社の有価証券報告書(第21期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. イシンってどんな会社?


イシンは、官公庁との共創支援や企業ブランディング、イノベーション支援、HR事業を多角的に展開しています。

(1) 会社概要


1999年にベンチャー業界メディアを創刊し、2005年に同社の前身となる幕末が設立されました。2014年にイシンへ社名変更し『自治体通信』を創刊したほか、2015年には米国法人を設立しました。2024年に東証グロース市場へ上場するとともにHR事業を開始し、2025年にはレプセルなどを子会社化しています。

同社グループは連結で90名、単体で88名の従業員を擁しています。筆頭株主は資産管理会社のBright Stoneで、第2位は創業者の明石智義氏、第3位は事業会社のEnjinです。

氏名 持株比率
Bright Stone 39.32%
明石智義 22.36%
Enjin 3.10%

(2) 経営陣


同社の役員は男性5名、女性1名の計6名で構成され、女性役員比率は16.0%です。代表取締役社長は西中大史氏が務めています。取締役6名のうち社外取締役は3名で、社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
西中大史 代表取締役社長 三井住友銀行に入行後、米国子会社Ishin USAを経て同社へ転籍。取締役等を経て2025年より現職。
明石智義 代表取締役会長 ベンチャー通信代表理事等を経て、2005年に同社の前身となる幕末を設立し社長に就任。2011年より現職。
吉川慶 取締役 日本オラクルやリクルートグループ各社を経て同社に入社。執行役員コーポレート統括本部長等を経て2025年より現職。


社外取締役は、田中真衣(公認会計士田中真衣事務所代表)、郭翔愛(トレンダーズ常勤監査役)、岩城英史(Blue Partners代表取締役)です。

2. 事業内容


同社グループは、「公民共創事業」「グローバルイノベーション事業」「メディアPR事業」「HR事業」を展開しています。

(1) 公民共創事業


自治体と民間企業をつなぐ事業として、自治体デジタルトランスフォーメーションを中心に、大手・中堅企業の自治体向けマーケティングや営業支援などを一気通貫で展開しています。雑誌『自治体通信』のほか、Webプラットフォームなどを提供しています。

民間企業の雑誌掲載に伴うスポット売上や、プラットフォームの月額利用料、営業代行やテレマーケティングの実務支援に応じた業務委託費用などを収益源としています。運営はイシンが行っています。

(2) グローバルイノベーション事業


日系大手企業と国内外のスタートアップをつなぎ、オープンイノベーションや企業変革を支援しています。成長産業に特化した情報ポータル「BLITZ Portal」や、海外現地スタートアップの調査レポート、イノベーション人材研修プログラムなどを提供しています。

情報ポータルのID数に応じた月額利用料による継続的な収益のほか、研修プログラムの提供や大型イベントの協賛・参加費などを収益源としています。運営はイシンおよび米国子会社のIshin USAが行っています。

(3) メディアPR事業


主に成長ベンチャー企業向けに、企業の魅力やビジョンを発信するブランディング支援やM&A仲介支援を行っています。ベンチャー業界メディア『ベンチャー通信』や、有料会員制の『ベストベンチャー100』の運営、経営者を集めた大型カンファレンスなどを手掛けています。

メディアへの記事広告掲載や月額会員費による収益に加え、カンファレンスのイベント協賛金、M&A成約時に発生する成功報酬などを収益源としています。運営はイシンが行っています。

(4) HR事業


企業の採用課題の解決に向けて、人材紹介や採用業務のアウトソーシングサービスなどを展開しています。ベンチャーから大手企業までを対象に、採用戦略の策定から採用業務の代行、自社採用サイトの制作、採用マーケティングまでを一気通貫で支援しています。

求職者の転職成立時に紹介先から受領する紹介手数料のほか、採用業務代行の月額委託費用、採用ページ制作システムの月額利用料や広告運用手数料などを収益源としています。運営はイシンおよび子会社のレプセルが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高は右肩上がりで成長し、10.2億円から14.3億円へと順調に拡大しています。一方、利益面では第20期まで安定して経常利益を伸ばしていましたが、第21期はHR事業等の高成長領域への先行投資を積極的に行った影響で、利益率が低下し大幅な減益となりました。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 10.2億円 11.5億円 12.8億円 13.9億円 14.3億円
経常利益 1.2億円 0.9億円 1.9億円 2.1億円 0.3億円
利益率(%) 11.4% 8.3% 14.9% 15.2% 1.8%
当期利益(親会社所有者帰属) 1.0億円 0.8億円 1.3億円 1.8億円 466万円

(2) 損益計算書


売上高は微増したものの、成長投資に伴う原価増や販売費及び一般管理費の大幅な増加により、営業利益は大きく減少しています。売上総利益率は高い水準を維持していますが、全体の利益率は低下傾向にあります。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 13.9億円 14.3億円
売上総利益 10.6億円 10.5億円
売上総利益率(%) 76.3% 73.2%
営業利益 2.5億円 0.5億円
営業利益率(%) 17.6% 3.5%


販売費及び一般管理費のうち、給料手当が3.3億円(構成比33%)、業務委託費が1.2億円(同12%)を占めています。売上原価(3.8億円)のうち、大部分は労務費や外注費などが占めています。

(3) セグメント収益


各事業セグメントともに安定した売上を計上しています。当期に新設されたHR事業が急成長し全体の売上増を牽引しましたが、同事業への積極的な人材採用やマーケティング投資が先行したため、同セグメントでは損失を計上しています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
公民共創事業 5.5億円 5.5億円 1.7億円 1.6億円 29.6%
グローバルイノベーション事業 4.1億円 3.8億円 1.6億円 1.2億円 30.5%
メディアPR事業 3.7億円 3.7億円 2.1億円 2.3億円 62.2%
HR事業 0.6億円 1.3億円 0.4億円 -0.7億円 -57.1%
連結(合計) 13.9億円 14.3億円 2.5億円 0.5億円 3.5%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社のキャッシュ・フローは、営業CFがマイナス、投資CFがマイナス、財務CFがマイナスとなっており、本業・投資・財務いずれもマイナスで資金繰りが危機的な「末期型」の傾向を示しています。

企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は0.4%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は57.7%で市場平均を上回っています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 1.0億円 -0.8億円
投資CF -0.9億円 -0.5億円
財務CF 0.6億円 -0.1億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、社是に「事業家創発」を置き、「世界的な視野を持った事業家たちが差別化された事業を通じて社会の進化に貢献する」という理念を掲げて経営を行っています。事業を通じて企業の採用や地方自治体の課題など、様々な社会課題を解決していくことを目指しています。

(2) 企業文化


同社は「世界的視野をもった事業家を創発する組織文化」を人材戦略の基本としており、事業推進力と組織運営力を担う人材の育成を重視しています。組織マネジメントにおいては、各組織責任者による日常的な対話や育成を重んじ、事業環境や組織状況を踏まえた柔軟な配置や評価を行う文化が根付いています。

(3) 経営計画・目標


同社は、2026年3月期を初年度とする中期経営計画を策定し、持続的な成長と企業価値の向上を目指しています。高成長領域への積極的な投資フェーズを経て、将来的な収益化を図る計画です。

* 2030年3月期の売上高:45.1億円
* 2030年3月期の営業利益:9.0億円

(4) 成長戦略と重点施策


同社は、HR事業を高成長領域と位置づけ、キャリアコンサルタントの採用やマーケティングへの積極的な成長投資を行い、事業拡大を推進しています。また、既存事業である公民共創やメディアPRなどの安定収益基盤を活用し、ソリューション領域の拡張を図るほか、M&Aや新規事業開発を通じた中長期的な事業成長を目指しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は「世界的視野をもった事業家を創発する組織文化」を基本方針とし、中長期的な事業成長を支える人材の採用・育成・配置・評価を行っています。採用では業務遂行能力に加えて価値観への共感を重視し、育成では実務経験を通じた能力開発を基本としています。事業環境の変化に応じた柔軟な人材配置や働き方の見直しも推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 34.8歳 3.9年 5,310,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 8.0%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) -
男女賃金差異(正規雇用労働者) -
男女賃金差異(非正規雇用労働者) -


※同社および連結子会社は公表義務の対象ではないため、有報には男女間賃金差異の記載がありません。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) インターネット関連市場の変化


同社は各種メディア運営などを主力としているため、インターネット利用環境の向上や市場拡大が事業成長に重要です。予期せぬ技術革新や顧客ニーズの急激な変化への対応が遅れた場合、サービスの競争力が低下するリスクがあります。

(2) 新規参入や競合他社の動向


HR事業や公民共創事業などにおいて、競合他社のサービス力向上や新規参入企業の増加によって価格競争が激化した場合、同社の競争力が相対的に低下し、収益性の悪化を招く可能性があります。

(3) システム障害や不具合の発生


同社の事業はインターネットを利用しており、クラウドベースの外部サービス等に依存しています。自然災害や不正アクセスによる大規模なシステム障害、またはサービスの致命的な不具合が発生した場合、事業運営に重大な影響を及ぼすリスクがあります。

(4) 個人情報等のセキュリティ管理


HR事業や公民共創事業において、求職者や自治体関係者の個人情報を取り扱っています。サイバー攻撃や不正アクセス、人的ミスにより個人情報や機密情報が流出した場合、損害賠償請求や信用低下を招くリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。