※本記事は、淺沼組の有価証券報告書(第91期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月18日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。
1. 淺沼組ってどんな会社?
建築と土木を中心とした総合建設業を展開し、国内外で幅広いインフラ整備や施設建設を手掛ける企業です。
■(1) 会社概要
1892年に淺沼幸吉が創業し、土木建築工事の請負を開始したのが同社の起源です。1937年に会社設立後、1969年には東京証券取引所市場第一部へ上場しました。2004年にPFI事業目的の関係会社を設立したほか、2018年や2022年にはシンガポールの建設・メンテナンス企業を子会社化し、事業を拡大しています。
現在の従業員数は連結で1,806名、単体で1,264名体制です。大株主の構成を見ると、筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位は淺沼組弥生会持株会、第3位は平和となっています。持株会などを通じた安定的な株主構成が特徴です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 12.16% |
| 淺沼組弥生会持株会 | 5.32% |
| 平和 | 3.96% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性2名の計12名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表取締役社長執行役員は浅沼誠氏が務めています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 浅沼誠 | 代表取締役社長執行役員 | 1996年同社入社。社長室次長兼総務部長、執行役員リニューアル統括部長、副社長執行役員建築事業本部長などを歴任。2018年より現職。 |
| 豊田彰啓 | 代表取締役専務執行役員戦略企画本部長戦略事業推進部長 | 1981年同社入社。大阪本店副本店長、常務執行役員などを歴任。2020年取締役就任。2024年専務執行役員、戦略企画本部長に就任し現職。 |
| 藤沢正宏 | 取締役専務執行役員建築事業本部長 | 1982年同社入社。東京本店副本店長、常務執行役員などを経て2020年取締役就任。2023年建築事業本部長、2024年より現職。 |
| 寺井到 | 取締役常務執行役員土木事業本部長 | 1982年同社入社。土木事業本部営業部東日本部長、執行役員土木事業本部副本部長兼安全品質環境本部副本部長などを経て、2024年より現職。 |
| 八木良道 | 取締役常務執行役員管理本部長 | 1984年同社入社。経理部長、執行役員社長室次長兼コーポレート・コミュニケーション部長などを経て、2024年より現職。 |
社外取締役は、森川卓也(元コクヨS&T代表取締役社長)、木下誠也(元近畿地方整備局長)、里内友貴子(弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「建築」「土木」および「その他」事業を展開しています。
■建築
建築部門では、官公庁から民間企業まで幅広い顧客に対して、商業施設、物流施設、教育施設や住宅などの建築工事を請負い、設計・施工・管理を一貫して提供しています。近年は環境配慮や長寿命化に寄与するリニューアル事業にも注力し、国内外で独自技術を用いた高品質な建築物の提供を進めています。
収益は、発注者である顧客から受け取る工事請負代金が主な柱となります。事業の運営は主に淺沼組が行うほか、シンガポールなどの東南アジア地域においては、子会社のSINGAPORE PAINTS & CONTRACTORやEVERGREEN ENGINEERING & CONSTRUCTIONなどが担っています。
■土木
土木部門では、道路、橋梁、トンネル、上下水道などの社会インフラ整備を中心とした土木工事を官公庁および民間向けに提供しています。防災・減災や国土強靭化のニーズに応えるほか、タイ王国における高速道路や橋梁のメンテナンス事業など、海外でのインフラ維持管理領域にも事業を展開しています。
収益源は、インフラの建設や維持管理に対して国や自治体、民間企業などから支払われる工事代金やメンテナンス費用です。国内の事業運営は淺沼組が中心となり、海外での事業については子会社のTHAI ASANUMA CONSTRUCTIONなどが各地域に密着した運営を行っています。
■その他
その他事業では、建設以外の領域として不動産関連事業やPFI事業を通じた公共施設の運営管理を展開しています。具体的には、不動産の保有・運用、損害保険の代理業務、さらには学校給食センターや斎場、一般廃棄物最終処分場などの施設整備および維持管理といった幅広いサービスを提供しています。
収益モデルは、不動産の賃貸収入や売却益、PFI事業における公共施設の運営・維持管理委託料、保険代理手数料などで構成されています。事業運営は淺沼組のほか、淺沼建物、宇都宮郷の森斎場、桜井給食ファシリティーズ、小田原斎場PFIなどの子会社および関連会社がそれぞれの専門領域を担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績を見ると、売上高は安定して右肩上がりの成長を継続しています。利益面では一時的な落ち込みがあったものの、その後は回復軌道に乗り、当期にかけては順調な増収増益を達成しました。建設投資の堅調な推移や、大型民間案件の受注獲得などが成長を牽引しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1355億円 | 1444億円 | 1527億円 | 1670億円 | 1753億円 |
| 経常利益 | 49億円 | 59億円 | 43億円 | 65億円 | 70億円 |
| 利益率(%) | 3.6% | 4.1% | 2.8% | 3.9% | 4.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 39億円 | 36億円 | 36億円 | 39億円 | 49億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の拡大に伴い、売上総利益および営業利益ともに前期を上回る実績を確保しています。資材価格の高騰など厳しい環境下において、選別受注による利益率の確保などを進めた結果、売上総利益率も改善傾向にあり、本業の収益性が着実に高まっていることが分かります。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1670億円 | 1753億円 |
| 売上総利益 | 171億円 | 185億円 |
| 売上総利益率(%) | 10.2% | 10.6% |
| 営業利益 | 69億円 | 72億円 |
| 営業利益率(%) | 4.1% | 4.1% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給料手当が57億円(構成比46.0%)、賃借料が13億円(同10.7%)を占めています。
■(3) セグメント収益
全セグメントにおいて増収を達成しています。主力の建築部門は国内の民間大型物件の完成などが寄与して堅調に推移しました。また、土木部門は民間工事での大型受注が相次ぎ工事が順調に進捗したことで、前期比で大幅な増収を記録し、全体の業績拡大を強く牽引しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 建築 | 1414億円 | 1423億円 |
| 土木 | 223億円 | 293億円 |
| その他 | 33億円 | 38億円 |
| 連結(合計) | 1670億円 | 1753億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスとなる「健全型」です。本業で稼いだ営業利益をもとに、設備投資を行いながら借入金の返済や株主への配当支払いを進めており、安定した資金繰りを行う優良企業の状態にあると言えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 52億円 | 184億円 |
| 投資CF | -8億円 | -8億円 |
| 財務CF | -9億円 | -110億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は10.9%で市場平均を上回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は42.1%で非製造業の市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
創業理念は「和の精神」「誠意・熱意・創意」であり、創業者・淺沼幸吉の「仕事が仕事を生む」という信念を受け継いでいます。経営方針として「誠実なモノづくりに専心し、社会の安全・安心・快適の増進に貢献する」ことなどを掲げています。また長期ビジョンでは、全てのステークホルダーに満足されるとともに、地球・社会のより良い未来を創る企業を目指しています。
■(2) 企業文化
「現場・現物・現人主義」を貫く姿勢や、「堅実経営に徹する」ことを経営方針に明記しており、現場第一の堅実な組織文化が根付いています。また、「淺沼組で良かった」とあらゆるステークホルダーに思ってもらえる事業活動を重視しており、技術力・知力・感性を磨きながら誠実なモノづくりに取り組む風土があります。
■(3) 経営計画・目標
2024年度からスタートした「中期3ヵ年計画」では、最終年度である2026年度に以下の数値目標を掲げています。また、株主還元として連結配当性向70%以上を維持する方針を示しています。
* 売上高:1,755億円
* 営業利益:77億円
■(4) 成長戦略と重点施策
中期3ヵ年計画において「6つのテーマ」を設定し、国内コア事業やリニューアル事業の強化を推進しています。特に環境配慮や人の健康促進に資する独自技術を用いたリニューアルブランド「ReQuality」の展開に注力し、高付加価値な設計提案で差別化を図ります。また、DXによる業務効率化や人材育成にも取り組み、収益性の向上と持続的な成長基盤の構築を目指します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材は中長期的な価値創造の源泉であるとし、事業戦略と一体となった人材戦略を推進しています。建設業の担い手不足や働き方改革に対応するため、「人材の獲得・確保・育成」を重点テーマに設定し、多様な人材の採用、働きやすい労働環境の整備、処遇改善、DX人材の育成などを通じて、エンゲージメントの向上と組織活力の最大化を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 44.9歳 | 21.8年 | 9,350,232円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.5% |
| 男性育児休業取得率 | 82.6% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 58.9% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 63.7% |
| 男女賃金差異(非正規雇用労働者) | 62.2% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメントスコア(72.8点)、女性総合職に占める女性の管理職の割合(8.6%)、中途採用者に占める中途採用者の管理職の割合(46.5%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 外部経営環境の急激な変化
同社の建設需要は、各国の政治動向や経済環境、天災、地政学的リスクなどに大きく左右されます。特に、中東情勢の緊迫化等による資材供給網の混乱や、取引先の信用不安が生じた場合、受注高の減少や工事の遅延が生じる可能性があります。また、他社との競争激化も経営に影響を及ぼす懸念があります。
■(2) 資材調達価格の高騰と為替変動
建設工事には多数の協力会社や資材が関わっており、武力紛争などに起因する主要資材価格や労務費の高騰は、工事原価を押し上げるリスクとなります。さらに、海外での事業展開も行っているため、為替相場の変動によって収益の目減りや資金調達コストが上昇するリスクも抱えています。
■(3) 施工時の安全・品質に関わる事故
建設現場での安全確保には日々努めていますが、万が一施工中に重大な事故が発生した場合、社会的信用の失墜や死傷者への補償対応を迫られ、業績に深刻な打撃を与える恐れがあります。また、引き渡し後の物件で契約不適合などの品質問題が生じた場合も同様に、追加費用や損害賠償負担による悪影響が懸念されます。



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