インスペック 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

インスペック 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

インスペックは東京証券取引所スタンダード市場に上場し、半導体や精密プリント基板向け外観検査装置の開発・製造・販売を主力としています。直近の業績トレンドでは、大型受注の着実な遂行により過去最高売上高を更新し増収を達成したものの、先行開発に伴うコスト増加等が影響して減益となっています。


インスペック転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

※本記事は、インスペックの有価証券報告書(第38期、自 2025年5月1日 至 2026年4月30日、2026年7月17日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. インスペックってどんな会社?

(1) 会社概要


1984年に太洋製作所として創業し、1988年に会社を設立しました。2001年に現在のインスペックに商号を変更し、2006年に東証マザーズ市場への上場を果たしました。その後、台湾現地法人の設立や次世代向け高性能検査装置の投入により事業を拡大し、2022年に東証スタンダード市場へ移行しています。

従業員数は単体で85名です。筆頭株主は個人の緒方顯吉氏で、第2位は創業者の菅原雅史氏、第3位も個人の塩谷亮子氏となっています。同社はメーカーとして極めて小規模な組織体制をとりつつ、アウトソーシングを積極的に活用してグローバルマーケットに向けた事業を展開しています。

氏名 持株比率
緒方 顯吉 5.58%
菅原 雅史 3.78%
塩谷 亮子 2.37%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性2名の計10名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役社長兼代表執行役員は菅原雅史氏が務めています。社外取締役は3名選任されています。

氏名 役職 主な経歴
菅原 雅史 代表取締役社長兼代表執行役員 1974年森永乳業入社。1984年インスペックを創業し、1988年設立に伴い代表取締役に就任。2008年代表取締役社長兼代表執行役員などを経て、2020年より現職。
冨岡 喜榮子 常務取締役 1973年三菱電機入社。1984年インスペックに入社し、1997年取締役に就任。執行役員管理本部長等を経て、2022年より現職。
渡辺 晃彦 取締役兼執行役員営業部長 1985年丸紅マシナリー入社。2003年インスペックに入社し、営業部長や執行役員営業統括部長等を歴任。2022年より現職。
菅原 亮太 取締役社長室長兼台湾英視股份有限公司董事長兼総経理 2006年東北パイオニア入社。2012年インスペックに入社し、社長室長兼DI開発部長等を経て、2025年より現職。


社外取締役は、小林英明(小林英明税理士事務所所長)、土門孝彰(秋田銀行法人コンサルティング部チーフアドバイザー)、陶山さなえ(元SOMPOコミュニケーションズ社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「基板検査装置関連事業」を展開しています。

半導体パッケージ基板や精密プリント基板などの最終外観検査装置およびリペア装置を開発・製造・販売しています。生成AIの普及によりデータセンター向けの高性能CPU・GPUに使用される最先端の半導体パッケージ基板の需要が拡大しており、微細化する配線パターンの欠陥を高速かつ高精度に検査・修復する製品を提供しています。

収益は、国内外の半導体パッケージ基板メーカー等の顧客に対する製品の販売代金や保守サービス料から得ています。製品の企画から販売、サポートまでを一貫してインスペックが行っており、台湾や中国などの海外市場向けには、現地代理店および子会社の台湾英視を通じて営業活動と実機デモンストレーションを展開しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績推移を見ると、半導体パッケージ基板市場の需要変動に伴い売上高は増減を繰り返していますが、当期はAI向け投資の拡大を背景に大型受注を獲得し、過去最高の売上を記録しています。一方で利益面は、新製品開発に伴うコスト増加や原材料費の高騰などが影響し、赤字となる期があるなど収益性の安定化が課題となっています。

項目 2022年4月期 2023年4月期 2024年4月期 2025年4月期 2026年4月期
売上高 18億円 23億円 17億円 22億円 25億円
経常利益 1億円 0.8億円 -3億円 1億円 0.8億円
利益率(%) 7.5% 3.6% -15.8% 5.2% 3.2%
当期純利益 2億円 0.8億円 -4億円 -1億円 0.8億円

(2) 損益計算書


売上高が順調に伸長しているものの、売上総利益は微減となっています。これは、AI対応データセンター向けの最先端パッケージ基板検査装置の新規開発において、想定を上回るコストが発生したことが主な要因であり、収益性の確保に向けた原価管理の強化が進められています。

項目 2025年4月期 2026年4月期
売上高 22億円 25億円
売上総利益 9億円 9億円
売上総利益率(%) 40.4% 34.6%
営業利益 1億円 1億円
営業利益率(%) 4.9% 4.4%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が3億円(構成比34.2%)、給料及び手当が1億円(同16.3%)を占めています。また、売上原価の当期総製造費用においては、材料費が13億円(構成比60.4%)、労務費が5億円(同22.7%)となっています。

(3) セグメント収益


主力製品であるフラットベッド型検査装置の売上高が大幅に増加し、全体の成長を牽引しています。またインライン検査装置やその他の事業領域も堅調に推移しました。一方で、電気自動車向け需要の伸び悩みなどにより、ロールtoロール型検査装置の売上は減少しています。

区分 売上(2025年4月期) 売上(2026年4月期)
フラットベッド型検査装置 9億円 14億円
ロールtoロール型検査装置 11億円 4億円
インライン検査装置 0.5億円 1億円
その他 2億円 5億円
連結(合計) 22億円 25億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CF・投資CF・財務CFの推移から、本業のキャッシュ流出を投資回収や借入等で補填している「救済型」のキャッシュ・フロー状況です。

項目 2025年4月期 2026年4月期
営業CF 5億円 -5億円
投資CF -0.7億円 0.3億円
財務CF -7億円 5億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.8%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は22.1%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、「確かな技術とあくなき挑戦で、創造社会を切り拓く」というパーパス(存在意義)を掲げています。ここでいう創造社会とは「誰もが輝き心豊かに生きることが出来る社会」と定義しており、事業活動を通じた社会の課題解決や社員の幸福、持続可能な社会の実現に真摯に取り組む姿勢を明確にしています。

(2) 企業文化


メーカーとしては極めて小規模な組織体制であることを強みとして捉え、スリムでシンプルな経営体制を重視する文化があります。コア技術は社内で確立する一方で、アウトソーシングを積極的に活用し、国内外の最適なパートナーと協力しながらグローバルマーケットに挑戦する柔軟な姿勢が根付いています。

(3) 経営計画・目標


2028年4月期をゴールとした中期経営計画を策定し、資本コストや株価を意識した経営の実現を目指して企業価値の拡大を図っています。中長期的な数値目標として以下を掲げています。

* 営業利益率:15%以上
* ROE(自己資本利益率):15%以上

(4) 成長戦略と重点施策


AIの進歩に伴う高機能AI半導体の市場拡大を捉え、微細化・高密度化する最先端パッケージ基板向け検査装置の開発を加速させています。また、検査から修復までの一体化ソリューションや生産現場の省人化ニーズに応えるシステム統合を推進し、競争力を強化します。あわせて、適正な価格転嫁やサプライチェーンの見直しを通じた収益体質の強化、台湾・中国・東南アジアを中心とした海外市場での販売拡大を重点的に進めています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


持続的成長を支えるための最重要課題として人的資本への投資を位置付けています。市場環境の変化に柔軟に対応するため、従業員一人ひとりが能力を最大限に発揮できる環境整備を推進し、人事評価制度の定着や階層別・専門スキル研修の充実を図っています。また、給与水準の引き上げを通じた働きがいの向上や、時間単位の有給休暇・病気休暇制度の導入など、多様な働き方を支援しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年4月期 43.5歳 11.7年 6,174,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 4.3%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 61.5%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 61.5%
男女賃金差異(パート・有期労働者) -

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 設備投資需要の変動


同社の事業は、景気変動による顧客企業の設備投資の増減に大きな影響を受けます。日本および主要事業国である台湾や中国において、半導体やデジタル家電分野の設備投資需要が落ち込んだ場合、売上の減少につながり業績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 他社との競合と新製品開発


競争力の源泉は自社開発のコア技術にありますが、競合他社が同社の製品を上回るシステムを開発した場合、競争力を失うリスクがあります。また、技術革新のスピードが早いデジタル分野において、顧客の微細化・高密度化ニーズを的確に予測し、タイムリーに新製品を市場投入できなければ、先行投資が回収できず業績に影響する可能性があります。

(3) 検収時期の変動による影響


同社の検査装置は受注から検収まで約4〜6ヶ月を要し、製品単価も比較的高額です。顧客の設備投資計画の変更や事業方針の見直しによって仕様の変更や納期の遅れが生じ、検収タイミングが事業年度をまたぐ結果となれば、期間収益が大きく変動するリスクがあります。

(4) 経営陣への依存度


創業メンバーであり代表取締役社長兼代表執行役員である菅原雅史氏が、経営戦略の決定や主要な取引先へのトップセールスなど、事業運営において極めて重要な役割を果たしています。同社への依存度を下げる体制作りを進めていますが、不測の事態で同氏が業務を遂行できなくなった場合、事業活動に重大な影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。