※本記事は、株式会社柿安本店 の有価証券報告書(第57期、自 2024年5月1日 至 2025年4月30日、2025年7月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 柿安本店ってどんな会社?
同社は明治4年創業の老舗食品企業で、松阪牛などの精肉事業を祖業とし、惣菜、和菓子、レストラン等を幅広く展開しています。
■(1) 会社概要
同社は1871年に牛鍋店として創業し、1968年に設立されました。1998年に洋惣菜「柿安ダイニング」、2005年に和菓子「口福堂」の展開を開始し、事業を多角化しています。2019年には東証一部(現プライム市場)への上場を果たしました。近年では2021年にレストラン事業を子会社化するなど、組織再編を進めています。
連結従業員数は888名、単体では839名です。筆頭株主は日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第3位には代表取締役社長の赤塚保正氏が名を連ねており、創業家が経営に深く関与していることがうかがえます。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 7.50% |
| 百五銀行 | 3.90% |
| 赤塚保正 | 3.50% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性1名、計8名で構成され、女性役員比率は12.5%です。代表取締役社長は赤塚保正氏が務めています。社外取締役比率は37.5%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 赤塚 保正 | 代表取締役社長 | 1989年入社。レストラン事業本部長、精肉事業本部長等を歴任し、2006年より社長を務める。2017年より営業本部長も兼務し、現職。 |
| 岡本 卓也 | 取締役(事業本部長) | 2004年入社。惣菜営業部長を経て、2021年に子会社KHフードサービス社長に就任。2024年より取締役事業本部長として現職。 |
社外取締役は、上垣清澄(元モスフードサービス専務取締役)、木立真直(中央大学商学部教授)、大上有衣子(JLX PARTNERS法律事務所弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「精肉事業」「惣菜事業」「和菓子事業」「レストラン事業」「食品事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 精肉事業
松阪牛や自社ブランド「三重 柿安牛」を中心とした精肉、肉加工品、惣菜類を販売しています。百貨店内の専門店や複合型店舗を展開し、契約牧場からの仕入れから加工まで社内一貫体制を構築しています。
収益は、一般消費者への精肉や加工品の販売代金から得ています。運営は主に柿安本店が行っています。
■(2) 惣菜事業
百貨店を中心に洋惣菜「柿安ダイニング」、中華惣菜「柿安上海DELI」、牛めし専門店などを展開しています。店内厨房での調理にこだわり、出来立ての創作惣菜を提供しています。
収益は、店頭での惣菜・弁当等の販売代金から得ています。運営は主に柿安本店が行っています。
■(3) 和菓子事業
ショッピングセンターや駅ビル等で「口福堂」を展開し、おはぎ、団子、大福などの和菓子を製造販売しています。また、高速道路SA向けに「柿次郎」も展開しています。
収益は、店舗での和菓子等の販売代金から得ています。運営は主に柿安本店が行っています。
■(4) レストラン事業
松阪牛のすき焼・しゃぶしゃぶを提供する料亭「柿安」、ハンバーグ等のグリルレストラン、フードコート、中華ビュッフェなどを展開しています。
収益は、店舗での飲食サービスの提供対価から得ています。運営は主に子会社の株式会社KHフードサービスが行っています。
■(5) 食品事業
看板商品「料亭しぐれ煮」や「KAKIYASU PREMIUM」シリーズなどのしぐれ煮、レトルト食品、瓶詰め商品を製造販売しています。百貨店や量販店向けに展開しています。
収益は、百貨店やスーパーマーケット等への卸売および直販による販売代金から得ています。運営は主に柿安本店が行っています。
■(6) その他
上記報告セグメントに含まれない事業として、その他の収益を得る事業活動を行っています。
収益は、当該事業に関連する対価から得ています。運営は主に柿安本店が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近の業績を見ると、売上高は360〜440億円規模で推移していますが、直近2期は減収傾向にあります。利益面では、2023年4月期(変則決算で14ヶ月)をピークに、経常利益、当期純利益ともに減少が続いています。2025年4月期は原材料高騰等の影響を受け、利益率が低下しました。
| 項目 | 2022年2月期 | 2023年4月期 | 2024年4月期 | 2025年4月期 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 380億円 | 439億円 | 371億円 | 361億円 |
| 経常利益 | 33億円 | 36億円 | 22億円 | 15億円 |
| 利益率(%) | 8.7% | 8.1% | 6.0% | 4.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 17億円 | 22億円 | 14億円 | 7億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期比で減少しており、売上原価率の上昇は見られませんが、販管費の負担が相対的に増したことで営業利益率は低下しました。売上総利益率は約54%と高い水準を維持していますが、営業利益は前期の22億円から15億円へと減少しています。
| 項目 | 2024年4月期 | 2025年4月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 371億円 | 361億円 |
| 売上総利益 | 200億円 | 196億円 |
| 売上総利益率(%) | 54.0% | 54.2% |
| 営業利益 | 22億円 | 15億円 |
| 営業利益率(%) | 5.9% | 4.2% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が87億円(構成比48%)、店舗家賃が34億円(同19%)を占めており、人件費と地代家賃が主なコスト要因となっています。
■(3) セグメント収益
全セグメントで減収または横ばいとなりました。特に主力の精肉事業とレストラン事業の減収幅が大きく、利益面でも精肉事業の減益が目立ちます。一方、和菓子事業は売上が微増しましたが減益となりました。レストラン事業は赤字に転落しています。
| 区分 | 売上(2024年4月期) | 売上(2025年4月期) | 利益(2024年4月期) | 利益(2025年4月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 精肉事業 | 141億円 | 138億円 | 12億円 | 8億円 | 5.6% |
| 惣菜事業 | 132億円 | 128億円 | 12億円 | 12億円 | 9.1% |
| 和菓子事業 | 66億円 | 66億円 | 5億円 | 4億円 | 5.9% |
| レストラン事業 | 15億円 | 13億円 | 1億円 | -0億円 | -0.1% |
| 食品事業 | 16億円 | 15億円 | 2億円 | 1億円 | 9.6% |
| その他 | - | 0億円 | - | - | 133.3% |
| 調整額 | - | 0億円 | -9億円 | -10億円 | - |
| 連結(合計) | 371億円 | 361億円 | 22億円 | 15億円 | 4.2% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
| 項目 | 2024年4月期 | 2025年4月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 14億円 | 17億円 |
| 投資CF | -12億円 | -30億円 |
| 財務CF | -9億円 | -9億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.3%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は78.4%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、『おいしいものをお値打ちに提供する』を経営理念としています。この理念に基づき、徹底したおいしさの追求を行うとともに、新業態や新商品の開発を通じて潜在ニーズを掘り起こし、事業の新陳代謝を図っていく方針です。
■(2) 企業文化
同社は、おいしさの追求を原点とし、これを企業メッセージ『おいしさ、育む。』と表現しています。「素材へのこだわり」「職人の技と発想」「おもてなしの心」を重視し、伝統を守りつつも新たな価値創造に挑戦する姿勢を大切にしています。
■(3) 経営計画・目標
同社グループは、持続的な事業成長と強固な経営基盤の構築を目指し、収益性の重要指標として「売上高営業利益率」を掲げています。
* 2025年4月期実績:売上高営業利益率 4.2%
■(4) 成長戦略と重点施策
原材料やエネルギー価格の高騰、人件費上昇などの厳しい環境下において、伝統ある「柿安のこだわり」を実践し、高付加価値な商品・サービスの提供を継続する方針です。また、業務効率化によるコスト削減を徹底し、利益確保を目指します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材を最大の資産と位置づけ、挑戦し続ける自走型の人材と組織づくりを目指しています。多様性と専門性の両軸で人材獲得・育成を進め、女性管理職比率や障がい者雇用率等の向上を目標としています。また、マネジメント力強化や柔軟な働き方の推進にも取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年4月期 | 43.3歳 | 11.6年 | 5,080,898円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 13.0% |
| 男性育児休業取得率 | 78.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 44.5% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 81.2% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 86.7% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、障がい者雇用率(3.9%)、60歳以上雇用比率(16.1%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 原材料の価格変動リスク
畜産物や農産物の市場価格は、感染症による輸入停止、自然災害、世界情勢等により大きく変動する可能性があります。これらを原材料とする同社グループにおいて、調達価格や生産原価の上昇は、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 自然災害および生産拠点集中リスク
地震、台風、感染症拡大等により、生産・物流・販売拠点が被害を受ける可能性があります。特に国内生産拠点は三重県桑名市に集中しており、同地域での大規模災害発生時には、生産停止や供給遅延により、経営成績および財政状態に甚大な影響が出る恐れがあります。
■(3) 食品の安全性と風評被害リスク
BSEや鳥インフルエンザ等の発生、または異物混入や食中毒等の事故が発生した場合、消費者の不安増大による買い控えや、回収費用・訴訟対応等のコスト発生により、収益やブランド信用に大きな影響を及ぼす可能性があります。



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