※本記事は、三菱商事株式会社の有価証券報告書(自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月18日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 三菱商事ってどんな会社?
多角的な事業領域とグローバルネットワークを活かし、幅広い産業で価値創造を牽引する総合商社です。
■(1) 会社概要
1950年に光和実業として設立され、1952年に三菱商事へ商号を変更しました。1954年に東京証券取引所へ上場し、現在の総合商社として発足しています。その後も2003年のメタルワン設立や2020年のEneco子会社化など事業領域を拡大し、2022年には東証プライム市場へ移行しました。
現在の従業員数は連結で63,037名、単体で4,456名規模の体制です。大株主の状況を見ると、筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位には外資系金融機関のSTATE STREET BANK AND TRUST COMPANYが名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 16.65% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505104 | 10.91% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.28% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性4名の計15名で構成され、女性役員比率は26.7%です。代表取締役社長は中西勝也氏が務めています。社外取締役比率は46.7%(15名中7名)です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 中西 勝也 | 代表取締役社長 | 1985年入社。新エネルギー・電力事業本部長、電力ソリューショングループCEO等を経て2022年より現職。 |
| 野内 雄三 | 代表取締役 | 1987年入社。主計部長、コーポレート担当役員(CFO)等を経て2026年より現職。 |
| 野島 嘉之 | 代表取締役常務執行役員General Counselコーポレート担当役員(総務、法務)チーフ・コンプライアンス・オフィサー緊急危機対策本部長 | 1988年入社。法務部長、総務部長、緊急危機対策本部長等を歴任し2026年より現職。 |
| 垣内 威彦 | 取締役会長 | 1979年入社。農水産本部長、生活産業グループCEO、社長等を経て2022年より現職。 |
| 塚本 光太郎 | 取締役 | 1985年入社。金属資源本部長、総合素材グループCEO等を経て2026年より現職。 |
| 柏木 豊 | 取締役 | 1986年入社。環境事業本部長、コーポレート担当役員(人事、地域、IT)等を経て2026年より現職。 |
| 鴨脚 光眞 | 取締役常勤監査等委員 | 1982年入社。複合都市開発グループCEO、常勤監査役等を経て2024年より現職。 |
| 村越 晃 | 取締役常勤監査等委員 | 1982年入社。コーポレート担当役員(CDO、CAO、広報、サステナビリティ・CSR)等を経て2024年より現職。 |
社外取締役は、宮永俊一(元三菱重工業会長)、秋山咲恵(元サキコーポレーション社長)、鷺谷万里(元SAPジャパン常務執行役員)、小木曾麻里(元SDGインパクトジャパン社長)、立岡恒良(元経済産業事務次官)、佐藤りえ子(石井法律事務所パートナー)、中尾健(元あずさ監査法人)です。
2. 事業内容
同社グループは、8つの報告セグメントおよび「その他」事業を展開しています。
■地球環境エネルギー
天然ガスや液化天然ガス(LNG)の開発・生産事業、LPG・石油製品事業などを展開しつつ、次世代エネルギー事業の開発にも取り組んでいます。世界各地のエネルギー需要に応えるための安定供給を担っています。
国内外の顧客へのエネルギー資源の販売を通じて収益を得ています。事業の運営は同社のほか、三菱商事エネルギーやアストモスエネルギーなどのグループ企業が行っています。
■マテリアルソリューション
資源素材、鉄鋼製品、機能素材、石油化学、基礎化学などの多岐にわたる素材関連分野において、トレーディング、事業投資、事業開発などを幅広く展開しています。
素材の販売取引や事業投資先からの収益が主な柱です。運営は同社を中心に、メタルワンや三菱商事プラスチックなどの関連企業が担っています。
■金属資源
銅、原料炭、鉄鉱石、アルミなどの金属資源への投資・開発事業に取り組むとともに、グローバルネットワークを活かした鉄鋼原料や非鉄原料・製品の供給体制を強化しています。
資源の権益投資に伴うリターンや、金属資源の販売による収益がモデルです。同社および三菱商事RtMジャパンなどのグループ企業が事業を推進しています。
■社会インフラ
国内外での都市開発や不動産開発・運用、データセンター、船舶、宇宙航空機、産業機械、エネルギーインフラ事業など、インフラ関連の幅広いプロジェクトを手掛けています。
不動産の開発・運用益や各種インフラ・機械の販売・リース料などを収益源としています。同社ならびに千代田化工建設や三菱商事都市開発などが運営を行っています。
■モビリティ
自動車の生産・販売・販売金融・アフターサービスなどのバリューチェーン事業や、移動課題を解決するモビリティサービス、EV・バッテリーを起点とした関連事業を行っています。
自動車の販売代金や金融サービス手数料などが主な収益源です。事業の運営は同社をはじめ、三菱自動車工業等のパートナー企業とともに展開しています。
■食品産業
食料、生鮮品、生活消費財、食品素材などの「食」に関わる分野で、原料の生産・調達から製品製造に至るまでの幅広い領域において、販売取引や事業投資を行っています。
食品や関連素材の販売代金が主な収益となります。運営は同社や三菱食品などのグループ企業が中心となって担っています。
■S.L.C.
各地域の社会課題や生活者ニーズに応じたC2B事業を立ち上げ、金融・デジタル・物流などのB2B事業と有機的に連携させることで、豊かな社会と生活者のよりよいくらしの創造に取り組んでいます。
商品やサービスの提供を通じた消費者・企業からの対価が収益源です。同社およびローソン、ライフコーポレーションなどの企業群で推進しています。
■電力ソリューション
国内外の産業の基盤である電力関連事業において、発電事業、電力トレーディング、電力小売事業に加え、送電事業や水素エネルギー開発などの幅広い分野に取り組んでいます。
電力の販売やトレーディング益を主な収益源としています。同社を中心に、欧州の総合エネルギー事業会社であるEnecoなどの子会社が運営を行っています。
■その他
上記セグメントに含まれない全社共通の業務として、財務、経理、人事、総務、IT、保険等のコーポレート機能やサービスを展開・提供しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績推移を見ると、売上収益は市況の変動を受けつつも約17兆円から21兆円の間で推移しています。当期利益についても安定的に高い水準を維持しており、一時的な市況下落や持分法適用会社化による反動減は見られますが、全体として底堅い収益基盤を構築していることが伺えます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 17兆2648億円 | 21兆5720億円 | 19兆5676億円 | 18兆6176億円 | 18兆9160億円 |
| 税引前利益 | - | - | - | 1兆3934億円 | 1兆961億円 |
| 利益率(%) | - | - | - | 7.5% | 5.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 9375億円 | 1兆1807億円 | 9640億円 | 9507億円 | 8005億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の収益構造を見ると、売上高は増加傾向にあるものの、売上総利益の構成比率は横ばいで推移しています。事業ポートフォリオの入れ替えや市況変動が利益構造に影響を与えており、継続的な収益基盤の強化が図られています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 18兆6176億円 | 18兆9160億円 |
| 売上総利益 | 930億円 | 707億円 |
| 売上総利益率(%) | 0.5% | 0.4% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員賞与が549億円(構成比21%)、従業員給与が495億円(同19%)、業務委託費が470億円(同18%)を占めています。
■(3) セグメント収益
セグメント別に見ると、社会インフラや電力ソリューションでは採算改善等により増益を達成しました。一方で、マテリアルソリューションやモビリティなどは市況下落や持分法投資の減損が響き減益となっています。事業ごとの環境変化に対し、柔軟なポートフォリオの入れ替えが進められています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 地球環境エネルギー | 3兆506億円 | 3兆2673億円 | 1986億円 | 1609億円 | 4.9% |
| マテリアルソリューション | 4兆89億円 | 3兆6312億円 | 683億円 | 263億円 | 0.7% |
| 金属資源 | 3兆2231億円 | 4兆833億円 | 2278億円 | 2045億円 | 5.0% |
| 社会インフラ | 8978億円 | 9306億円 | 398億円 | 851億円 | 9.1% |
| モビリティ | 7512億円 | 8374億円 | 1124億円 | 576億円 | 6.9% |
| 食品産業 | 2兆2435億円 | 2兆3245億円 | 924億円 | 833億円 | 3.6% |
| S.L.C. | 3兆686億円 | 2兆5141億円 | 1850億円 | 910億円 | 3.6% |
| 電力ソリューション | 1兆3675億円 | 1兆3190億円 | -156億円 | 434億円 | 3.3% |
| その他・調整 | 63億円 | 85億円 | 420億円 | 483億円 | 568.2% |
| 連結(合計) | 18兆6176億円 | 18兆9160億円 | 9507億円 | 8005億円 | 4.2% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFはプラス、投資CFおよび財務CFはマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業型のキャッシュ・フローを描いています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1兆6583億円 | 1兆4900億円 |
| 投資CF | -2739億円 | -4486億円 |
| 財務CF | -1兆5307億円 | -8047億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は38.8%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「三綱領」を企業理念として掲げています。これは、公明正大を旨とする企業活動を通じて、継続的な企業価値の向上を図るとともに、物心共に豊かな社会の実現に貢献することを意味しています。事業を通じた社会課題の解決により、すべてのステークホルダーの期待に応えることを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、多様性に裏打ちされた「総合力」を事業環境に応じて発揮する組織文化を重視しています。多彩・多才な人材がビジネスの現場に深く関与することで、強固な信用と信頼を築き上げています。幅広い産業知見と深い洞察力を蓄積し、時代の変化を先取りして柔軟に戦略を進化させる風土が根付いています。
■(3) 経営計画・目標
同社は「経営戦略2027」において、成長性と資本効率の同時実現を目指す定量目標を掲げています。財務健全性を維持しながら、継続的な企業価値の向上を図る方針です。
* 営業収益CF:平均成長率10%以上
* ROE:2027年度に12%以上
* Net Debt Equity Ratio:0.6倍を上限目処
■(4) 成長戦略と重点施策
成長戦略として、従来の循環型成長モデルを「磨く」「変革する」「創る」に再定義し、同社の競争優位性である総合力と掛け合わせることで中長期的な成長を目指しています。また、エネルギートランジション期の多様なニーズに応えるため、事業グループを再編し最適なソリューションの提供を推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は人材を最大の資産と位置づけ、10年後を見据えた人事ビジョン「DEAR(多彩・多才な人材を活かし、育て、報いる)」を推進しています。多様な人材が繋がりながら、やりがいと誇りを持って社会課題に挑める組織を目指し、ダイバーシティの推進や自律的なキャリア形成、成長支援を強力に展開しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.3歳 | 17.6年 | 21,125,472円 |
※平均年間給与は超過勤務手当及び賞与を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 13.1% |
| 男性育児休業取得率 | 171.7% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 64.7% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 65.2% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 61.5% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、外国人管理職比率(17.3%)、有給休暇取得率(73.1%)、障がい者雇用率(2.65%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) グローバルなマクロ経済・地政学リスク
同社は多様な産業領域でグローバルに事業を展開しているため、米中対立や中東情勢などの地政学リスク、各国の通商・金融政策の動向が経営成績に大きな影響を与えます。関税政策やインフレなどのマクロ経済環境の変化により、取扱商品の価格やコストが変動するリスクを抱えています。
■(2) エネルギー・金属などの商品市況リスク
天然ガスや銅、原料炭などの資源分野における売買や権益ビジネスにおいて、商品価格の変動が業績に直結します。中東情勢に伴う原油・LNG価格の高騰や、中国の需要動向に影響される金属市況の変動により、保有資産の減損や収益の悪化を招く可能性があります。
■(3) 多角的な事業投資に伴うリスク
資源開発から小売、インフラまで広範な事業投資を行っており、投下資金の回収不能や撤退時の追加損失リスクを負っています。事業環境の急激な変化等により期待した利益が得られない場合、出資先の業績悪化や減損損失を通じて、同社の財務状況にマイナスの影響を及ぼす可能性があります。



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