※本記事は、株式会社スリー・ディー・マトリックスの有価証券報告書(第22期、自 2025年5月1日 至 2026年4月30日、2026年7月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. スリー・ディー・マトリックスってどんな会社?
自己組織化ペプチド技術を活かし、外科や組織再生領域で革新的な医療製品を開発・販売するバイオベンチャーです。
■(1) 会社概要
2001年に米国でマサチューセッツ工科大学(MIT)発のベンチャーとして3-D Matrix,Inc.が設立され、その日本での事業化を目的に2004年に同社が設立されました。2007年に米国法人を子会社化し、2011年にJASDAQ(現グロース)へ上場しました。その後、国内外で主力製品である吸収性局所止血材等の製造販売承認を取得し、グローバルに事業を拡大しています。
従業員数は連結で129名、単体で19名です。筆頭株主は金融機関であるJPモルガン証券で、第2位はBNY GCM CLIENT ACCOUNT JPRD AC ISG、第3位には同社の創業者の永野恵嗣氏が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| JPモルガン証券 | 2.02% |
| BNY GCM CLIENT ACCOUNT JPRD AC ISG | 1.76% |
| 永野恵嗣 | 1.45% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性1名の計8名で構成され、女性役員比率は13%です。代表取締役社長は天沼利彦氏が務めており、社外取締役の比率は20%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 天沼利彦 | 代表取締役社長 | ベイン・アンド・カンパニー東京事務所、ソニー等を経て、2019年同社執行役員。2026年より現職。 |
| 永野恵嗣 | 取締役会長 | エクソン化学、ベイン・アンド・カンパニー東京事務所パートナー等を経て、2004年同社設立。2016年より現職。 |
| 小林智 | 取締役 | フレゼニウスメディカルケアジャパンを経て、2007年同社入社。2017年執行役員事業開発部長、2021年より現職。 |
| 茂木龍平 | 取締役 | 弁護士として複数の法律事務所等を経て、2022年同社入社、ジェネラルカウンセル。2023年より現職。 |
社外取締役は、菅野みずき氏(弁護士法人大江橋法律事務所パートナー)です。
2. 事業内容
同社グループは、「医療製品事業」の単一セグメントを展開しています。
マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者によって発明された自己組織化ペプチド技術を基盤とし、外科領域・組織再生領域・DDS(ドラッグデリバリーシステム)領域において、医療機器や医薬品の研究開発・製造・販売を行っています。生体内のアミノ酸を化学的に合成して作られる主力製品の吸収性局所止血材は安全性が高く、外科手術や消化器内視鏡治療などで広く使用されています。
自社で開発・製造販売承認を取得した製品の販売や、製薬会社等への技術供与によるライセンス収入が主な収益源です。医療機関等への直接販売に加え、販売パートナーを通じた展開も行っており、欧州ではFUJIFILM Europe B.V.と独占販売契約を結んでいます。事業の運営は同社および3-D Matrix,Inc.などの子会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績を見ると、製品販売の拡大に伴い売上高は右肩上がりで成長を続けています。先行投資による費用がかさみ経常赤字が続く期間もありましたが、直近期には米国での販売が大きく伸びたことで黒字転換を果たし、急激な利益改善を実現して成長フェーズへと移行しています。
| 項目 | 2022年4月期 | 2023年4月期 | 2024年4月期 | 2025年4月期 | 2026年4月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 15.1億円 | 23.1億円 | 45.9億円 | 69.3億円 | 108.9億円 |
| 経常利益 | -18.1億円 | -23.6億円 | 1.4億円 | -24.8億円 | 39.7億円 |
| 利益率(%) | -119.9% | -102.2% | 3.1% | -35.8% | 36.5% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -23.0億円 | -32.4億円 | -24.1億円 | -15.9億円 | 13.6億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の大幅な成長に伴い、売上総利益も前年から大きく増加しています。利益率の高い製品の売上が伸びたことで、営業利益もマイナスから一気にプラスへと転じ、高い収益性を確保できる構造へと改善が進んでいます。
| 項目 | 2025年4月期 | 2026年4月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 69.3億円 | 108.9億円 |
| 売上総利益 | 44.2億円 | 85.7億円 |
| 売上総利益率(%) | 63.8% | 78.7% |
| 営業利益 | -11.6億円 | 13.4億円 |
| 営業利益率(%) | -16.7% | 12.3% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当が29.2億円(構成比44.3%)、支払報酬が7.6億円(同11.5%)を占めています。一方、売上原価については、材料費が14.1億円(構成比57.5%)、外注費などの経費が10.4億円(同42.5%)となっています。
■(3) セグメント収益
同社は医療製品事業の単一セグメントですが、地域別に見ると米国市場が売上の半分以上を占め、前年から倍増して成長を力強く牽引しています。オランダやその他の地域も堅調に伸びており、グローバルでの事業拡大が収益の柱となっています。
| 区分 | 売上(2025年4月期) | 売上(2026年4月期) |
|---|---|---|
| 日本 | 12.3億円 | 12.6億円 |
| オランダ | 12.7億円 | 14.6億円 |
| 米国 | 31.5億円 | 63.2億円 |
| その他 | 12.8億円 | 18.5億円 |
| 連結(合計) | 69.3億円 | 108.9億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがプラスとなっており、営業で生み出した資金に加えて借入や株式発行で資金を調達し、事業の将来を見据えて積極的な投資を行っている積極型と言えます。
| 項目 | 2025年4月期 | 2026年4月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -17.1億円 | 4.0億円 |
| 投資CF | -0.3億円 | -0.4億円 |
| 財務CF | 20.1億円 | 7.9億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は100.4%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も66.7%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「バイオマテリアルによって医療の進展に貢献する」を企業理念として掲げています。独自の自己組織化ペプチド技術をベースに、外科領域や組織再生領域において革新的な医療製品の開発と提供を継続し、グローバルな競争力を獲得することで、医療現場の課題解決と医療技術の発展に寄与することを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は小規模・少人数の組織体制でありながら、グローバルに拠点を展開する少数精鋭の企業文化を有しています。大学や研究機関等の外部機関と積極的に提携・共同研究を行うなど、オープンイノベーションを通じて効率的に事業を推進しており、専門知識や経験を持つ多様な人材が活躍できる環境を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
医療機器や医薬品の研究開発を行う先行投資型企業として、パイプライン群を早期に製品化し安定的な収益を確保するため、事業収益と研究開発費を重要な経営指標に設定しています。
* 製品販売による事業収益:134億円(2027年4月期目標)
* 研究開発費:11.4億円(2027年4月期目標)
■(4) 成長戦略と重点施策
主力製品である止血材の優位性が高く、確実な売上成長が見込まれる消化器内視鏡領域を引き続き重点領域とし、継続的な成長と収益確保の両立を図ります。研究開発においては、臨床試験を必要としない、または最小規模で実施できる領域に注力し、世界最大の米国市場をターゲットにコストと時間の最小化を進めます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
中長期的な事業成長を担う人材の確保と育成を不可欠と考え、性別や国籍、人種の区別なく優秀な人材の採用を強化しています。フィードバック面談や時短勤務などの働き方を支援する社内制度を整え、エンゲージメントの向上や離職防止に努めるとともに、研修等を通じて多様な人材が活躍できる風土づくりを推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年4月期 | 47.4歳 | 3.5年 | 9,417,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は従業員規模が300人以下のため、有報には本稿の記載がありません。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 薬事関連規制の変更や承認取消
医療機器や医薬品の開発・販売には各国の厳しい薬事規制が存在します。法令や行政指導の変更があった場合や、万が一承認申請した製品の効能が認められず製造販売承認が取り消された場合には、製品の販売ができなくなり、同社グループの業績や財務状況に重大な影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 技術の進歩と競合製品の登場
医療製品業界は国内外の巨大企業や研究機関による開発競争が激しく、技術が常に進歩しています。外科手術や消化器内視鏡領域における技術の大幅な変化や、同社の製品を上回る優れた性能を持つ競合製品が市場に登場した場合、主力製品である止血材の売上が減少し、収益が悪化するリスクがあります。
■(3) 知的財産権の保護と特許権の侵害
基盤技術である自己組織化ペプチド技術はMITからの独占的実施権等に依存しており、競合他社との特許の調整が必要になる可能性や、出願中の特許が登録に至らないリスクがあります。また、第三者から知的財産権の侵害で訴訟を提起された場合、多大な対応費用が発生し、事業戦略に影響を与えるおそれがあります。
■(4) 原材料の調達と委託製造の遅延
製品の主要原材料であるペプチドは外部企業に製造を委託しています。安定供給に向けて複数の製造拠点でのバックアップ体制を構築していますが、想定外の事故などにより原材料や構成部品の供給不足、委託製造の遅れが生じた場合、製品の販売計画に支障をきたし、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。



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