スリー・ディー・マトリックス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

スリー・ディー・マトリックス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証グロース上場。自己組織化ペプチド技術を基盤とした医療製品(止血材等)の研究開発・製造・販売を行うバイオベンチャーです。第21期の事業収益は前期比+51.1%と大幅な増収となりましたが、営業損失は縮小しつつも継続しており、為替差損の影響等により経常損失および当期純損失は拡大しました。


※本記事は、株式会社スリー・ディー・マトリックス の有価証券報告書(第21期、自 2024年5月1日 至 2025年4月30日、2025年7月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. スリー・ディー・マトリックスってどんな会社?


自己組織化ペプチド技術を基盤とした医療製品の研究開発・製造・販売を行うバイオベンチャーです。

(1) 会社概要


2001年5月、MIT発のバイオベンチャーとして米国にて設立されました。2003年4月にMITとライセンス契約を締結し、2004年5月に日本法人が設立されました。2011年10月にJASDAQ(現グロース)へ上場を果たし、2020年7月には日本における吸収性局所止血材の製造販売承認を取得しています。

連結従業員数は114名(単体19名)です。筆頭株主は楽天証券で、第2位は個人株主の山田祥美氏、第3位は創業者で現取締役会長の永野恵嗣氏となっています。

氏名 持株比率
楽天証券 4.18%
山田 祥美 3.17%
永野 恵嗣 1.68%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性1名の計9名で構成され、女性役員比率は11.0%です。代表取締役社長は岡田 淳氏です。社外取締役比率は16.7%です。

氏名 役職 主な経歴
岡田 淳 代表取締役社長 1998年ベイン・アンド・カンパニー入所。2005年同社入社、経営企画部マネージャー等を経て、2012年取締役副社長就任。2016年3月より現職。
永野 恵嗣 取締役会長 1986年ベイン・アンド・カンパニー入所、同所パートナー等を歴任。2004年5月同社設立に伴い代表取締役会長就任。2016年3月より現職。
小林 智 取締役 2005年フレゼニウスメディカルケアジャパン入社。2007年同社入社、事業開発部マネージャー、執行役員事業開発部長を経て、2021年7月より現職。
天沼 利彦 取締役 2000年ベイン・アンド・カンパニー入所。ソニー等を経て、2019年同社執行役員北米事業統括部長就任。2021年7月より現職。
茂木 龍平 取締役 1994年弁護士登録。柳田野村赤井法律事務所、大江橋法律事務所等を経て、2022年同社入社ジェネラルカウンセル就任。2023年7月より現職。


社外取締役は、菅野みずき(弁護士法人大江橋法律事務所パートナー)です。

2. 事業内容


同社グループは、「医療製品事業」および「その他」事業を展開しています。

(1) 医療製品開発・販売(外科領域)


同社グループは、MITより独占的実施権の許諾を受けた自己組織化ペプチド技術を基盤とし、外科手術等で使用される吸収性局所止血材、粘膜隆起材、後出血予防材、癒着防止材等の研究開発を行っています。特に止血材は、日米欧豪で製品化されており、生物由来材料を含まない安全性の高さが特徴です。

収益は主に製品販売によるもので、医療機関や代理店等から対価を得ています。運営は、日本国内ではスリー・ディー・マトリックス、海外では3-D Matrix, Inc.(米国)、3-D Matrix Europe SAS.(欧州)などの連結子会社が地域ごとの販売や提携先を通じた展開を行っています。

(2) 医療製品開発・販売(組織再生・DDS領域)


組織再生領域では、自己組織化ペプチドのゲル化特性を活かし、創傷治癒材や歯槽骨再建材の開発を進めています。DDS(ドラッグ・デリバリー・システム)領域では、核酸医薬等のための担体としての応用を目指し、製薬会社等への技術供与によるライセンス収入の獲得を方針としています。

収益源は、将来的な製品販売に加え、DDS領域などでは製薬会社等からのライセンス収入(契約一時金、マイルストーン、ロイヤリティ)を想定しています。研究開発はスリー・ディー・マトリックスおよび各子会社が連携し、外部機関とも共同研究を行いながら推進しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上収益(事業収益)は増加傾向にあり、特に第20期から第21期にかけて大きく伸長しています。一方、利益面では先行投資型企業としての特性上、研究開発費や販管費の負担が重く、経常損失および当期純損失の計上が続いています。第20期は一時的に経常利益が黒字化しましたが、第21期は再び損失となっています。

項目 2021年4月期 2022年4月期 2023年4月期 2024年4月期 2025年4月期
事業収益 10億円 15億円 23億円 46億円 69億円
経常利益 -19億円 -18億円 -24億円 1億円 -25億円
利益率(%) - - - 3.1% -
当期純損失(親会社株主に帰属) -20億円 -19億円 -24億円 -3億円 -25億円

(2) 損益計算書


事業収益は前期比で大幅に増加し、売上総利益も拡大しています。しかし、販売費及び一般管理費が増加しており、営業損失が継続しています。第21期は営業外費用として為替差損等が計上された影響で、経常損益が悪化しました。

項目 2024年4月期 2025年4月期
売上高 46億円 69億円
売上総利益 31億円 44億円
売上総利益率(%) 67.3% 63.8%
営業利益 -21億円 -12億円
営業利益率(%) - -


販売費及び一般管理費のうち、給料手当が23億円(構成比45%)、支払報酬が6億円(同11%)、旅費交通費が4億円(同7%)を占めています。

(3) セグメント収益


米国における製品販売が前期比倍増となり、全体の成長を牽引しています。欧州、日本、オーストラリアも堅調に推移し、全地域で増収となりました。特に消化器内視鏡領域での販売拡大が寄与しています。

区分 売上(2024年4月期) 売上(2025年4月期)
米国 15億円 32億円
欧州 17億円 21億円
日本 9億円 12億円
オーストラリア 4億円 5億円
その他 0.2億円 0.2億円
連結(合計) 46億円 69億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は「勝負型」(本業は赤字だが、将来成長のため借入で投資を継続)です。

項目 2024年4月期 2025年4月期
営業CF -19億円 -17億円
投資CF -0.3億円 -0.3億円
財務CF 21億円 20億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は当期純損失計上のためマイナスとなり市場平均を下回っています。財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は26.8%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「バイオマテリアルによって医療の進展に貢献する」を企業理念として掲げています。外科領域、組織再生領域等において製品開発を継続し、グローバルな競争力を獲得することを目指しています。

(2) 企業文化


同社は、小規模・少人数の組織体制で医療製品開発を効率的に進めるため、外部機関を有効に活用して事業を遂行しています。また、グローバルに拠点を展開しており、法令遵守やコンプライアンス体制の強化、高度な専門知識・経験を有する人材の確保や育成に努める姿勢を持っています。

(3) 経営計画・目標


同社グループは、事業収益と研究開発費を重要な経営指標に位置付けています。具体的には、2026年4月期の製品販売による事業収益の計画を9,283百万円、同研究開発費の計画を951百万円と設定しています。パイプライン群の早期製品化と製品販売での収益確保を目指しています。

(4) 成長戦略と重点施策


製造販売承認を取得予定の製品について、安定供給体制・販売体制の構築およびグローバル展開を目指し、経営資源を配置します。特に、消化器内視鏡領域での事業収益拡大とコスト削減による収益確保を最優先とし、次世代止血材や粘膜炎の創傷治癒等の注力分野を除き新規開発を一時中断するなど、選択と集中を進めます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


持続的な成長や企業価値向上のためには人材が最も重要な経営資源であると認識しており、性別や国籍、人種等の区別なく優秀な人材を確保することを目指しています。また、社員への学びの機会の提供、新たなチャレンジを後押しする体制の整備、家庭環境等を考慮した働き方をサポートする体制づくり等を進める方針です。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年4月期 46.0歳 3.1年 9,567,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は従業員規模が300人以下のため、有報には本項の記載がありません。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 収益の不確実性


同社の止血材は外科手術等で使用され安定した需要が見込まれますが、医療製品業界は競争が激しく技術進歩も速い環境にあります。技術の大幅な変化や、同社製品を上回る性能を持つ競合製品の登場により、売上が減少し、財政状態や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

(2) 資金繰りに関するリスク


パイプライン開発費用が先行して発生するため、事業計画通りに進展しない場合は資金不足となり事業継続に影響を与える可能性があります。また、資金調達に係る契約には財務制限条項や早期償還条項が付されているものがあり、抵触した場合は期限の利益喪失等により財政状態に重大な影響を与える可能性があります。

(3) 継続企業の前提に関する事象


継続して営業損失および営業キャッシュ・フローのマイナスを計上しており、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる状況が存在しています。対応策を講じていますが、現時点では重要な不確実性が認められており、これに伴い今後の資金調達がより困難になる可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。