※本記事は、ANYCOLOR株式会社の有価証券報告書(第9期、自 2025年5月1日 至 2026年4月30日、2026年7月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ANYCOLORってどんな会社?
VTuberグループ「にじさんじ」を運営し、新時代のエンターテイメントを提供する企業です。
■(1) 会社概要
2017年5月にいちからとして設立されました。2018年に「にじさんじ」が活動を開始し、その後中国や英語圏など海外へVTuberビジネスを展開しています。2021年5月に現在のANYCOLORへ商号変更し、2022年6月に東証グロース市場へ上場、2023年6月に東証プライム市場へ市場区分を変更しました。
従業員数は単体で677名です。筆頭株主は創業者の田角陸氏で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位には事業提携先であるソニー・ミュージックエンタテインメントが名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 田角 陸 | 43.53% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 7.85% |
| ソニー・ミュージックエンタテインメント | 5.58% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性5名、女性1名の計6名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表取締役CEOの田角陸氏が経営を牽引しており、社外取締役比率は66.7%となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 田角 陸 | 代表取締役CEO | 2017年5月の設立時に代表取締役CEOに就任。2021年5月より執行役員を兼任し現在に至る。 |
| 釣井 慎也 | 取締役CFO | 税理士法人や証券会社を経て2019年に執行役員CFOとして入社。同年7月に取締役CFOに就任し現在に至る。 |
社外取締役は、有富丈之(潮見坂綜合法律事務所パートナー)、前川俊策(元住友商事ケミカル常勤監査役)、山岡佑(山岡佑公認会計士事務所代表社員)、丸山祐子(グレイスグループ取締役社長)です。
2. 事業内容
同社は「動画コンテンツ関連事業」の単一セグメントで事業を展開しており、領域別に多様なサービスを提供しています。
■(1) ライブストリーミング領域
運営するVTuberグループ「にじさんじ」に所属するライバーの活動をサポートする事業です。YouTubeなどの動画配信プラットフォームを通じて、VTuberとファンとの双方向コミュニケーションの場を提供しています。
収益源は、視聴者からのSuper Chat(投げ銭)、YouTubeメンバーシップ月額料金、広告閲覧に伴うGoogle AdSense収益です。運営は同社が行い、プラットフォームへの手数料控除後またはネット金額を収益計上しています。
■(2) コマース領域
VTuberのオリジナルグッズや録音音声などのデジタル商品を販売する事業です。公式オンラインストア「にじさんじオフィシャルストア」やイベント会場での販売のほか、公式ファンクラブの有料サービスも提供しています。
収益源は、常設・季節限定・受注生産などの各種コンテンツ販売代金や、ファンクラブの会費です。運営は同社が主体となり、企画立案からデザイン、制作発注までを行い、所属ライバーには収益の一部を支払う仕組みを採用しています。
■(3) イベント・プロモーション領域
所属VTuberが出演する音楽ライブ等の主催や、企業案件の獲得を行う事業です。国内外での大型イベント開催によるファン獲得に加え、企業の商品プロモーションやIPライセンス許諾、メディア出演等の機会を提供しています。
イベント領域ではチケット収入などを、プロモーション領域ではタイアップ広告料、IP使用料、メディア出演料を顧客企業から受け取ります。運営は同社が担い、外部制作会社と協業しながら案件のサポートを実施しています。
3. 業績・財務状況
同社の単体業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績は、VTuber市場の拡大と所属ライバーの活躍により、一貫して大幅な増収増益基調を維持しています。特に売上高は急拡大を続けており、利益水準も順調に成長していることが確認できます。
| 項目 | 2022年4月期 | 2023年4月期 | 2024年4月期 | 2025年4月期 | 2026年4月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 142億円 | 253億円 | 320億円 | 429億円 | 557億円 |
| 経常利益 | 41億円 | 94億円 | 123億円 | 162億円 | 202億円 |
| 利益率(%) | 29.3% | 37.3% | 38.6% | 37.8% | 36.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 28億円 | 67億円 | 87億円 | 115億円 | 141億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の成長に伴い売上総利益と営業利益が順調に拡大しています。事業拡大により原価や販管費が増加したものの、高い利益水準を維持しており、強固な収益構造を構築しています。
| 項目 | 2025年4月期 | 2026年4月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 429億円 | 557億円 |
| 売上総利益 | 201億円 | 249億円 |
| 売上総利益率(%) | 46.9% | 44.7% |
| 営業利益 | 163億円 | 202億円 |
| 営業利益率(%) | 38.0% | 36.2% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が15億円(構成比31%)、広告宣伝費が3億円(同7%)を占めています。売上原価においては、外注費が92億円(構成比30%)、経費が81億円(同26%)を占めています。
■(3) セグメント収益
各事業領域の売上高を見ると、特にコマース領域とプロモーション領域が全体を大きく牽引しており、ライブストリーミング領域とイベント領域も着実な成長を遂げています。
| 区分 | 売上(2025年4月期) | 売上(2026年4月期) |
|---|---|---|
| ライブストリーミング領域 | 51億円 | 56億円 |
| コマース領域 | 278億円 | 381億円 |
| イベント領域 | 28億円 | 41億円 |
| プロモーション領域 | 71億円 | 79億円 |
| その他領域 | 1.0億円 | 0.3億円 |
| 連結(合計) | 429億円 | 557億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業であると判定できます。
| 項目 | 2025年4月期 | 2026年4月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 112億円 | 157億円 |
| 投資CF | -23億円 | -3億円 |
| 財務CF | -94億円 | -92億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は57.6%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は73.9%であり、いずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「魔法のような、新体験を。」というコーポレート・ミッションを掲げており、今までにない新しいエンターテイメントの体験を世の中に提供することを目的に事業を展開しています。さらに、「VTuberを『文化』にする」というビジョンを実現し、中長期的な企業価値向上を推進することを重要な使命と位置付けています。
■(2) 企業文化
独自のバリューとして「思いやりで、向き合う。」を掲げています。多様なバックグラウンドを持つすべての人材が互いに敬意を払い、それぞれの能力と熱意を引き出しながら活躍できる組織づくりを目指しています。社会的に重視される多様性の受容と従業員のウェルビーイング向上を支える風土が醸成されています。
■(3) 経営計画・目標
持続的な成長と企業価値向上を表す指標として、売上高、各領域別売上高、営業利益、営業利益率を経営上の重要な目標指標に位置付けています。また、将来における安定的な企業成長を確保しつつ、剰余金の配当については配当性向30%以上を目安に安定的かつ継続的に実施することを目指しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
VTuberを普遍的な文化へと発展させるため、短期的な利益追求にとどまらず事業基盤の盤石化を推進します。具体的には、多様な用途で活用可能なスタジオ機能への設備投資を通じてコンテンツ供給体制を強化し、既存IPのユニット展開やメディアへの露出強化によるファン層の拡大、さらには海外市場の開拓を進めていく方針です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人材を中心とする組織への投資」を重点課題と位置づけ、次世代マネジメント基盤の構築や、専門スキルを持つ特化人材の採用・統合を強化しています。従業員が自律的かつ長期的に活躍できる働きやすい環境整備を推進し、明確な等級制度や研修制度を通じた公正な評価と成長支援を行っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年4月期 | 31.9歳 | 2.5年 | 5,402,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 13.5% |
| 男性育児休業取得率 | 71.4% |
| 男女間賃金格差(全労働者) | 80.2% |
| 男女間賃金格差(正規雇用) | 83.0% |
| 男女間賃金格差(パート・有期) | 89.2% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、中途採用比率(85.8%)、年次有給休暇の取得率(72.5%)、従業員エンゲージメントサーベイ回答率(80.4%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 動画配信プラットフォームへの依存
ライブストリーミング領域は他社が運営する動画配信プラットフォームを利用しています。規約違反等によりサービス提供が困難になった場合や、プラットフォームの媒体価値が低下した場合には、事業展開や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 人気VTuberへの依存
事業の特性上、人気VTuberへの依存や新規人気ライバーを生み出せないリスクが存在します。ライバーの活動休止、スキャンダル、契約更新の不調などが発生した場合、同社やグループ全体のレピュテーションや収益に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) コンテンツの健全性とレピュテーションリスク
所属ライバーに対し、公序良俗違反や知的財産権侵害を防ぐためのコンプライアンス研修や動画内容のモニタリングを実施しています。しかし、不適切な動画配信等の事案に対して対応が不十分だった場合、社会的信用の失墜や紛争につながる恐れがあります。
■(4) 海外展開や新規ビジネスの不確実性
英語圏や中国など海外市場でのVTuberビジネス展開や、新規エンターテイメント領域への参入を進めています。文化の違いや各種規制、競合環境などのリスクに対処できない場合や計画通りに進捗しない場合、投資資金が回収できず業績に影響する可能性があります。



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